民医連新聞

2007年2月5日

相談室日誌 連載233 「保護受けたいなら救急車で病院へ行け」 庄司 修

「明日からやっと年末年始休暇。今日は業務整理と大掃除をしよう」と、思っていた年末の朝でした。救急外来より、住所不定の患者さんの対応をしてほしい、との連絡です。
 患者さんは下肢痛を訴えていますが、歩行も可能で、医師は「入院の必要はない」と判断しています。
 患者さんは五〇代の男性です。数年前、内縁の妻子と離別し、現在は路上と土木・建築の飯場で生活しています。一〇月ごろまでは近隣県の飯場で、住み込み で働いていましたが、重労働が体力的に困難となり、辞めてしまいました。この二週間ほどはA区の繁華街で寝泊まりしていました。
 手持ち金も尽き、毎日の寒さに身の危険を感じ、区の支援課(福祉事務所)に相談しました。しかし、あまり相談に乗ってもらえず、しまいには「とりあえず 調子悪くなったら、救急車で病院行ったら緊急保護してもらえるで」と言われました。結局、すがる思いで救急車を呼び、当院に搬送されました。
 この患者さんに対しては、市の更生相談所を紹介し、保護してもらうようアドバイスしました。一方、A区の対応については納得がいかないため、市本庁の生 活保護担当者に事情を聞いてみました。回答は、「この人の場合、保護申請の要件がそろっていない。救急車呼んで…というのは生保ケースワーカーの善意だっ たのでは」というものです。
 保護申請の三要件とは、(1)氏名、(2)現在の居所、(3)保護を受けたい理由のことです。そこで、「路上も『居所』と解釈できるので、要件は満たし ているのでは」、「生命の危機を感じて相談にきているのに、この対応は適正なのか」と、問いつめました。
 しかし担当者は、「そのあたりは見解の分かれるところ」、「職員の対応は不適正とは言えない」と。厚生労働省の見解(ホームレスに対する迅速な保護対 応)とは違いますが、「個々それぞれ事情は違う」と、お茶を濁す対応に終始しました。
 最近は生活基盤が崩壊している患者さんの相談が絶えません。生活保護がセーフティーネットとしての迅速な機能を果たさず、人生の仕切り直しができない社会になっていることを痛感します。

(民医連新聞 第1397号 2007年2月5日)

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