民医連新聞

2007年2月19日

いくらなんでもヒドすぎる 労働法制「改正」の中身 ウソ!―なんて言いたくナイ!

 いくら働いても残業代ゼロ!? 厚生労働省が提案した「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」。日本中から大ブーイングが巻き 起こり、国会に「出す」「出さない」と二転三転したあげく、提出は見送られることになりました。しかし、政府はあきらめてはいません。今回出さない、とい うだけで、参議院選挙後の国会に提出を狙っているといいます。こんなにも政府が強力にすすめる労働法制「改正」の中身とは?(木下直子記者)

 一月二六日に厚労省が発表した、「労働基準法の一部改正」「労働契約法要綱」案…(別項)。先行実施が考えられているのは、労基法の「残業代の割増率引き上げ」部分と、新たにつくる「労働契約法」です。
 今回、見送ったエグゼンプションや裁量労働制の緩和についても、政府与党は参議院選挙後、提出する意向です。「説明不足だった、理解を求めてゆく」と、柳沢厚生労働大臣。
 国民の反対の声が大きいのに、ここまで強く執着する背景には、経団連やアメリカからの要求が色濃く反映しています。

こんな内容なぜ? 財界とアメリカ政府の要求が…厚労省が出した法案を強く後押しするのは、日本の財界やアメリカ政府の要求だ。〇六年六月に出された、日本経団連「規制改革要望」と、アメリカ政府「日米投資イニシアチブ報告書」には、「労働者派遣法の規制緩和」、「ホワイトカラーエグゼンプション制度の導入」、「解雇の金銭解決制度の導入」が提言されていた。

こんな内容なぜ? 財界とアメリカ政府の要求が…厚労省が出した法案を強く後押しするのは、日本の財界やアメリカ政府の要求だ。〇六年六月に出された、日本経団連「規制改革要望」と、アメリカ政府「日米投資イニシアチブ報告書」には、「労働者派遣法の規制緩和」、「ホワイトカラーエグゼンプション制度の導入」、「解雇の金銭解決制度の導入」が提言されていた。

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 はたらくもののいのちと健康を守る全国センター・今中正夫事務局長は指摘します。「問題は、多くの労働者が異常なほどの長時間過密労働を強いられている 現状に、解決の手を打とうとしていないこと。労働時間の上限規制を強めることや、残業割増の引き上げ、有給休暇の取得率のアップなど、一刻も早く手をうつ べきなのに、長時間労働やサービス残業などの『違法』を、労働法制を変え、『合法』にしてしまおうという、とんでもない方向です」。
 厚生労働省が、労働法改正の目的として掲げたのは、「過労死防止や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制をはかること」でした。しかし、出された法案 は、働きすぎやサービス残業の問題を深刻にするものばかり。「自律的な働き方ができるからいい」と、政府はいいますが、自分で自分の労働時間をコントロー ルできる労働者がどれだけいるでしょう?「これでは『過労死促進法』だ」という声もあがるほど。

過労死予備軍260万人?!
「働きすぎ」の現実を変えなきゃ

 日本の労働者はどれほど長時間働いているのでしょうか。(図1)は、ILO(国際労働機構)の統計です。労働時間が週五〇時間以上の人が、労働者全体の何割を占めているか…日本がダントツで一位です。
 総務省の「労働力調査」によると、週六〇時間以上働き、月八〇時間以上残業をしている労働者は、約六二〇万人(男性五四〇万人、女性八〇万人)。月八〇 時間を超す時間外労働は、過労死しても不思議ではありません。過労死・過労自殺の労災申請と認定は年ごとに増え続けています(表1)。健診での異常も増え ています(図2)。
 三〇~四〇代前半の長時間労働が目立ちます(表2)。また、メンタル疾患の罹患者も六割が三〇代に集中、という報告がされています(「産業人メンタル白書2006」)。
 まさにホワイトカラー・エグゼンプションの対象になる世代。厚労省が考えている法改正は、現在でもいちばん心配な働き方をしている層を「保護しない」というものです。

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 もともと労働法制は、『労働者は、資本家に対して弱い存在だから、法律で守られなければならない』と保障した、憲法二七条、二八条が大前提でつくられたもの。
 「政府はここでも、憲法をないがしろにしています」と今中さん。「医師・看護師の過重労働を解決する上でも、訴えの根拠になる労働法制が改悪されては困 ります。改悪を断念させるたたかいは、『働き過ぎの時代を変えよう』という視点でとりくむことが欠かせません」。

ホワイトカラーエグゼンプション

 企業は11兆6000億円の得!?…日本経団連は年収400万円以上の労働者への導入を提案。労働総研の試算では、1030万人が対象で、労働者1人あたり114万円・総額11兆6000億円の残業代が、企業に転がり込む。
 05年、残業代を支払わなかった企業が労基署に指導されて是正支払いした残業代は233億円。財界は、横行する違法なサービス残業を合法にしたいのか?

会社の無法とたたかえるのは労基法があるからです

 労働者の実感はどうでしょう。不安定雇用の青年を対象に「ひとりでも、誰でも どんな働き方でも入れる労働組合」として活躍している首都圏青年ユニオン
の川添誠書記長と山田真吾書記次長に聞きました。

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 「派遣社員がインフルエンザで仕事を休んだとたん、クビになった」とか、「社会保険に入れてもらえず、国保料を滞納して、病気になっても病院に行けな い」、「解雇されて会社の寮を追い出され、住む場所がない」―こんな話は、珍しくありません。派遣労働者の扱いは人件費でさえなく、材料費なので、簡単に 首切りされます。本人には死刑宣告です。
 本当は、労働者には雇い主と対等の権利が保障されています。若い労働者は、教科書で「労働三権」を学ぶことはあっても、大部分が組合に接する経験はあり ません。そんな中、二八〇人の小さな組合が牛丼チェーン「すき家」のアルバイト従業員一万人以上に法律どおりに残業代を払うよう是正させました。小さな組 合でも大企業を動かすことだってできるんです。(山田さん)
 偽装請負や、派遣労働者の問題は、雇用の規制緩和でここまで深刻になりました。政府や財界は「派遣労働者として安定すれば、いいじゃないか」と言います が、それはでたらめです。組合員には偽装で働いていた人や派遣もいて、実感として、そういう政府の主張を「嘘だ」と思っています。
 今回の労働法制「改正」の方向は、僕らを苦しめている規制緩和をさらに強め、もう一方で、憲法や労働組合法にある労働者の権利を徹底的に弱めるものだと 思います。日本の貧困の度合いをさらに深めるような、無茶をするものとしか思えません。
 いま起こっているのは、狭い意味での労働問題でなく、いま日本にいるすべての人にとって、たいへんな問題なんです。労働の実態を告発してゆくことが大切だ、と考えています。
 労働法制改悪や労働ビッグバンの流れをせき止める動きに、合流したいと思います。力を集めて阻止しないと。(川添さん)

(民医連新聞 第1398号 2007年2月19日)

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