医療・福祉関係者のみなさま

2010年6月21日

国保行政ただし、住民守ろう 中央社保協が交流集会

 中央社会保障推進協議会は五月七~八日、二年ぶりに「国保改善運動全国交流集会」を大阪で開き、二一八人が参加しました。国保 税・料が高く、滞納すれば資格証明書(一〇割負担)や短期保険証、差し押さえの制裁。受診できず死亡する例も多発しています。国保行政の問題点を学び、大 阪府門真(かどま)市の実態調査を受け、各地の運動を交流しました。
(小林裕子記者)

滞納者が2割超の国保

 国保税・料の滞納は全国で四四五万世帯、加入世帯の二〇%を超えます。資格書が三四万世帯に発行され(図1)、国保の加入手続きをしない人を含め、「無保険」の人が増えています。いまや、保険証一枚で誰でも必要な医療が受けられるはずの「国民皆保険」は形骸化の一途。最大の問題は、収入の一割を超えるほどの国保税・料の高さです(表1)。
 失業、非正規雇用、低賃金・低年金が広がる中「国保税・料を払ったら、生活できない」事態です。背景には、国保財政に対する国庫負担金が引き下げられたことがあります(図2)。
 その典型例が大阪府門真市。実態調査にあたった長友薫輝さん(三重短期大学准教授)は「国保が貧困を拡大しているのではないか?」と疑問を投げかけました。

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国保が貧困を拡大

 門真市の国保税は高く(表1)、収納率は八〇%を割り込み、全国ワースト二位です(二〇〇七年度)。しかも滞納率が約七〇%(二〇〇九年)。一年間で保険税を一円でも滞納した世帯を総加入世帯数で割ったもので、払えない世帯の多さを示しています。
 調査は大阪社保協が二〇〇九年一〇月二四~二五日に実施し、五〇四人の調査員で八五五世帯を訪問調査したもの。「国保税が高い」という回答が六四%。 「国保税を納めるために食費などを削っている」「保険税が日々の暮らしを圧迫している」実態が明らかになりました。
 「収入に応じた保険料である」と答えた人は一七%。「収入に応じたものでない」が五〇%を超えました。「国保税を下げてほしい」六三%、「自己負担金を 下げてほしい」四一%。「お金がかかるため病院に行くのを先延ばししたことがある」のは六人に一人。うち五人に一人が「歯科・歯痛」をガマンしたと答えて いました。七%が治療を中断したことが「ある」と答えています。

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改善運動、各地で

 国保行政の改善運動に役立つ情報が各地から出され、交流しました。
 中小業者でつくる全商連の島岡千年さんは、国保税や各種税金の「滞納処分=差し押さえ」を告発。鳥取県は児童手当まで差し押さえました。千葉県の年金差 し押さえでは高齢者が衰弱死。東京・板橋区では督促状を苦に自殺者が出ました。国税法の「差し押さえてはならない財産」に照らしても違法です。全商連作成 のパンフ『つぶされてたまるか―納税緩和措置と納税者の権利』の活用で対抗しようと呼びかけました。
 大阪社保協が「保険証のない子ども」の問題を提起したことから、資格書の発行を「一五歳に達する日以後の最初の三月三一日までの間」は除外するよう法律 が変わりました。同社保協事務局長の寺内順子さんは「次は高齢者のたたかい」とのべ、『二〇一〇後期高齢者医療・国保ハンドブック』を紹介しました。
 朝日新聞が国保組合を攻撃した記事についても発言がありました。「無資格加入」など不祥事を起こした全国工事業国保組合は、全建総連の二二建設国保とは 無関係。意図的に混同して、国保組合に対する国庫補助金をやり玉にあげています。
 石川社保協の寺越博之さんは、国保法四四条の医療費減免に道を開いた経験を報告。Aさん(74)は二〇〇九年三月、羽咋(はくい)市で医療費の「一部負 担金減免」を申請しましたが、市は「減免要項がない」と不承認。五月、県国保審査会に審査請求し、二〇一〇年一〇月「不承認を取り消す」との決裁書が届き ました(決裁は一二月末。二カ月間放置)。
 Aさんは年金掛け金を二〇年間払ったのに対象外で無年金に。働き続けていましたが、がんが見つかり、離職。妻の年金月約八万円では医療費の月二万円が負担しきれず、「はくい派遣村」に相談しました。


国民健康保険を真の社会保障に

 中央社保協の相野谷安孝事務局長は、「国保を社会保障制度として再生させよう」と強調しました。
 一方で、行政担当者の理解不足による不適切な対応も発生しています。自治体キャラバンや交渉・懇談で、行政の担当者が「国保は相互扶助、助け合い制度 だ」「相互共済だ」と言ったり、「応益制度だ」と言う場合もあります。
 相野谷事務局長は「それは誤り。『相互扶助』とは戦前の昭和一三年に定められた勅令(旧法)に書かれていることで、現行法の精神に照らすと正しくない」 と指摘。現行の国民健康保険法第一条は、「社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」と書かれています。しかし、歪められているのが現実で す。
 相野谷事務局長は、「国保を改善するたたかいで『人権を守る思想』を社会に根づかせよう」と呼びかけ、国保改善を求める署名を提起しました。


活用できる!!

小池晃参院議員が引き出した成果

 資格書の問題では、重要な閣議決定があります。小池晃参議院議員(日本共産党)が提出した「子どもに限定せず保険証を交付すべき」との質問主意書に対し、政府は、「病気なら大人でも短期保険証を交付する」との答弁書を閣議決定しています(〇九年一月二〇日)。
 千葉県社保協と千葉市国保を考える会は、この答弁書をもとに千葉市に要請(同三〇日)。千葉健生病院に入院していた派遣労働者のBさんは、保険税を滞 納、資格書になりました。受診を我慢し感染症と脱水症状が悪化。市は「国の指示もきたので柔軟に対応する」と約束し、Bさんは保険証をとり戻せました。
 同年六月には、小池議員が参院の厚生労働委員会で、国保法四四条「減免」の適切な運用を求めました。厚労省は七月一日付で、「適切に制度が適用されるよ う」と通知。社保協の働きかけで、石川・羽咋市が九月に「一部負担金減免要項」を策定するなど、成果が広がっています。
 小池晃議員の国会活動が力になって厚労省からは活用可能な通達・連絡が出されています。交流会では、これらを活用し、住民の権利を守っていこうと提起さ れました。政府文書全文は、小池晃議員のホームページに掲載されています。(http://www.a-koike.gr.jp/prescribe/2010/05/post-87.html

(民医連新聞 第1478号 2010年6月21日)

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