民医連新聞

2007年3月19日

地域で医療を守る(7)特大版 自治体を変えて いのち くらし 優先に

 「地域で医療を守る」特大版・二度目のテーマは、自治体を変えて命・くらし優先に。医療負担の増大、払えないほど負担の重い国民健康保険料、保護しない生活保護…国がすすめる悪政の波から、住民を守る「防波堤」になろうとしている地方自治体からの発信です。

松本市

国保は「命のパスポート」資格書発行ゼロに

 「市政が変わって、国保資格書発行がゼロに」。二月の一職場一事例交流集会で、松本協立病院の 中村靖さんが行った報告に、会場がどよめきました。長野県松本市では、三年前に、菅谷市長が誕生し、暮らしや教育、医療など市民生活に重点をおく市政に転 換しました。医師で前の県衛生部長でもある市長が市政の柱に掲げたのは「3K(=健康づくり、危機管理、子育て支援)」です。
  

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どんな変化があったか。まずは、国保行政です。○~六歳の乳幼児がいる世帯、母子家庭、全 員が六五歳以上世帯には資格書・短期証は発行しない、また「資格書は二年連続で発行しない」と基準ができました。結果、昨年一一月で資格書発行はゼロに、 短期証発行数が前年の一〇分の一以下に(○五年一一月一八〇二世帯↓翌年一一六世帯)。前市長時代は県内最多だった保険証とりあげが激減しました。また、 国保財政に一般会計から補てんし、国保料の値上げ幅を半分に抑制しました。
 また、こんなエピソードも。失業して国保料を滞納した人が、市の窓口に保険証を返しにいくと、窓口は「そんなたいへんな時に、病気になっては困るでしょ う。保険証は持っていてください」と、受け取りませんでした。「涙が出るほど嬉しかった」と当事者。国民健康保険が「命のパスポート」として扱われるよう になりました。
 就学前までを対象にした、乳幼児医療費無料制度の所得制限も廃止されました。
 住民の暮らしをささえる面では、生活保護の申請意思のある人は「追い返さない」と明言。くらしの資金の一時借り入れ額も拡大されました。

  

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現場の実感はどうでしょう。「対市懇談などで市側が答えた内容で、現場が対応しているかと言うと、まだまだ不満…生活保護の申請に行ったが返されたというケースもあります」と、松本協立病院・SWの赤坂律子さん。
 「それでも、市側に市民と対話する姿勢があることを評価しているんです」と、湯浅ちなみ事務次長。
 「前の市長は介護改善の要請の場で『こんなところに来るより、老人施設の草むしりをした方が役に立つ』など、ひどいことを言う人でした。いま、福祉部長 は懇談を『市民のニーズをつかむのに、良い機会』だと言います。そこが以前とは決定的に違うでしょう?」。
 同院は、市長選挙で政策や主張を見極めて、現市長を応援しました。そして、地域や患者さんの実態を伝える努力を続けています。年に一~二度、市との懇談 も行っています。要請書の土台は、各職場の社保委員が職員から集めた、自治体への要望です。医療や介護現場の要望を伝え、結実した施策もあります。介護 ベッドの独自助成や、福祉医療費の還付の遡及請求期間の延長などです。
 「現場の困りごとを伝えて、市政に反映しよう、と思えます。仲間に『実現した』と報告できるやりがいがあります」と、中村さん。医事課の日高大地さんも 「福祉医療費の還付の遡及は、僕ら医事課が発信して実現した」。政治を変えれば暮らしが変わることを実感した彼ら、いま、統一地方選挙に向けても、要望を まとめ、「いのちやくらしが大切にされる地方政治を守りたい」と話し合っていました。
(木下直子記者)

松本市こんなことが変わった

夜間急病センターの設置
3K(健康、子育て支援、危機管理)プラン
国保会計への一般会計からの補てん 5億200万円
国保減免制度、資格書・短期証発行基準の是正
介護サービス利用料負担軽減
障害者自立支援法 利用料負担軽減、事業所への補助・対策
生活保護行政 ホームレス対策の充実 くらしの資金改善
保育料の引き下げ
学童保育の公設公営
地元の仕事確保
乳幼児医療費を所得制限なしで無料化 就学前まで
保健師の増員
福祉医療の負担軽減 廃止された入院時の食事療養費助成2分の1助成が復活
30人規模学級の6年生までの拡大
同和行政廃止(07年度から団体補助金の完全廃止)

 

尼崎市

財政再建とくらし・福祉の充実
住民の声きき、すすめる

 昨年一一月の兵庫県尼崎市長選挙で白井文市長が再選され、五年目を迎えました。
 四年前は、それまでの大型公共事業優先、不公正な同和行政等で、財政再建団体になる寸前まで市の財政事情が悪化していました。
 白井市長は一期目の四年間、清潔・公正の立場をつらぬき通し、情報の開示を積極的にすすめて住民の意見を聞くしくみをつくり、不公正な同和行政を見直し ました。また、市民の立場でリーダーシップを発揮し、国・県に対しても率直に意見・要望をのべ、県下で小学校一年生からの三五人学級を実現、県の福祉医療 制度切り捨て計画に最後まで反対するなど、市民の立場を貫きました。
 財政状況が厳しいなかでも住民負担の軽減と健康保持につとめ、国民健康保険の赤字分を一般財源の繰り入れで処理、介護保険料についても国基準の六段階制 でなく八段階制にして基準額を引き下げました。障害者自立支援制度では、障害者の移動支援事業で新たな負担を求めない独自の施策をとり、また、平均寿命が 県下で最悪といわれる市民の健康を守るために、一次予防事業としてヘルスアップ事業にとりくむなど、市民の要求に沿った積極的な市政運営をすすめてきまし た。
 白井市長は昨年の市長選挙で「住民福祉と財政再建は、ともすれば相反することではありますが、情報の共有化と住民自治力、市民のための市役所づくりに よって何としても両方を成し遂げていかねばならない」としたうえで、「『健康』をまちづくりにおいて最も重要なことに位置づけ、健康づくりにとりくみま す」と公約。〇七年度予算案でヘルスアップ事業の継続と、乳歯がはえそろう二歳児とその保護者を対象にした「二歳児親子歯科健診」、肥満度三〇%以上の児 童の受診料を公費で負担して受診率向上をはかる「小児肥満対策事業」などを提案しています。
(粕川實則・尼崎医療生協)

福 岡

福岡市―国保料値上げ凍結
生保行政見直しを表明―北九州市

 このほど、福岡市と北九州市で、大型開発をすすめてきた現職市長や後継候補が敗れ、福祉優先を公約した候補が当選しました。
 福岡市は、全国の政令市で国保料が最も高く、これまでの大型投資で公債比率が国と同じ二五%にもなっています。しかしさらに、前市長は九七〇億円も福岡 市が負担するオリンピック招致を計画。市民に支持されず、「大型開発より福祉優先」を掲げた新市長が誕生しました。
 新市長はさっそく二〇〇〇年度から続いていた国保料値上げを来年度は凍結。また今年八月から、就学前までの医療費を無料化。三五人以下の少人数学級の対 象を小学一、二年生から、三年生まで広げることも決めました。オリンピック誘致反対の一二万人近い直接請求署名運動などが、大きな変化を生みました。
 北九州市でも、公約に「子育てと暮らしを大事にする」を掲げた候補が一〇万票近い差で圧勝。前回よりも一八ポイントも投票率が上がり、前回投票しなかった市民はほとんど新市長に投票した構図です。
 北九州市の生活保護行政は厳しく、申請相談に来た市民を追い返してきました。他の政令市では生活保護の申請者や受給者が増加していますが、同市ではまっ たく増えていません。昨年五月には申請を二度拒否された人が餓死する事件まで起こってしまいました。昨年一〇月、この生活保護行政に全国調査が入り、ひど い実態が明らかになりました。
 新市長は、就任二日目に餓死事件現場に献花し、生活保護行政の見直しを表明、三月七日の市議会で、第三者機関を設置して餓死事件の真相を明らかにする、と正式表明しました。
 住民が福祉や暮らしに真剣に目をむけ、首長が変わったところでは大きな変化が起こっています。
(北園敏光・県連事務局)

(民医連新聞 第1400号 2007年3月19日)

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