医療・福祉関係者のみなさま

2010年8月2日

被爆体験聞き取り研修 広島医療生協 “幼い心に焼きついた地獄”…に声もなく…

 広島・長崎に米軍による原爆が落とされて六五年目。被爆者の思いを引き継ごう、と今年も広島医療生協では二年目職員の研修として被爆体験を聴き取り、証言集『ピカに灼(や)かれて』にまとめています。(小林裕子記者)

 今年の「被爆体験聴き取り研修」参加者は三六人。二~四人の班で被爆者の話を聴きました。
 『ピカに灼かれて』は一九七七年から、広島医療生協の組合員の「原爆被爆者の会」が刊行していましたが、会員の高齢化で発行が困難になり、二〇〇五年に 同医療生協の教育委員会が引き継ぎました。五回を重ね、平和を考える研修の一つになっています。

大ヤケドを負った母

 六月一六日、田中威(たけし)さん(71)の証言を、広島共立病院の看護師、栗栖加奈さんと大本彩子さんが聴き取りました。冷たいお茶とおしぼりを持参し、座を和らげる二人。「口べただから…」と笑っていた田中さんの表情も、語るうちに厳しくなりました。
 田中さんは被爆当時六歳。国民学校一年生でした。爆心地から一・六キロのところに住んでいて、近所にあるそろばん塾に二歳上の兄とともに通っていまし た。八月六日、始業前の朝八時過ぎ、室内で警戒警報の大きなサイレンを聞き、思わず表に出たのです。青空の彼方にクッキリと二機の銀色に光る飛行機を見つ け、子ども心に「キレイだな」と思った感覚が記憶にあります。それが真上に来たとき、ピカーッと光り、気づくと、太い柱の下敷きになり、屋根がおおいかぶ さっていました。そばでいっしょに飛行機を見ていた双子の女の子は、その後聞いたところによると即死したとのことでした。兄が懸命に引っ張り出してくれ、 逃げました。「兄ちゃん、そろばんを忘れとるよ」と言った記憶があります。
 自宅は崩れ、母が背中に大ヤケドを負っていました。母をリヤカーに乗せ、父が引いて疎開先に向かう途中、田中さんは気持ちが悪くなって黄色い液を多量に吐きました。道端は死者や負傷者でいっぱいでした。
 七人きょうだいの長兄(当時一七歳)はガラスの破片が多数背中に刺さり、八〇歳を超えた今もそのままです。二番目の姉(当時一四歳)は学徒動員先で死亡、骨も見つかりません。
 「母の背中のヤケドにはウジ虫が湧き、まるで腐った肉という状態で、今でも頭に焼きついて忘れることのできない一つです。当時は薬もなく、父は食用油を 塗っては介抱していました。おかげで母は八二歳まで生きましたが…」。

いつも疲れやすい身体…

 「私はモルモットだったんです」と言葉を継ぐ田中さん。中学生時代、授業中にアメリカ軍のジープが迎えに来て、ABCC(原爆傷害調査委員会)に連れて行かれ、身体を調べられました。
 「アメリカ軍は自ら原爆を落として、それが人間にどう影響するか研究していた。被爆五〇年、六〇年経った現在でも、定期検査に同意してほしいといまだに 連絡がくる」。口調に憤りがこもります。ずっと身体が弱く、疲れやすさを感じながら働いてきました。
 田中さんにとって「あまり思い出したくない」記憶。これまで子どもや孫にも、あえて語る機会は意識的につくらなかったそうですが、今回は自分が役に立て るならと、思い切って被爆体験談を引き受けたとのことです。孫と同世代の二人へ、「がんばって良い看護師になってください」と締めくくりました。

職員の自覚と成長の糧に

 「被爆体験を対面でお聴きしたのは初めてです。感動しました」とお礼をのべる二人。ともに広島県生 まれです。小学校では夏休み中の八月六日は登校日で、講堂に集まって被爆体験を聴きました。栗栖さんは「それ以来です。何と言ったらよいか、ジーンとして 表現できない」と言葉少な。大本さんも「ひたすら聞くだけでした。(話の深刻さに)頭ん中が真っ白になってしまって…」。
 被爆者は高齢化し減っています。被爆の記憶が鮮明なのは田中さんたちの世代が最後です。今回も患者や組合員、その知り合いなど一二人が語り部を引き受けてくれましたが、ほとんどが八〇歳以上です。
 研修の責任者・石田哲明さん(広島医療生協・事務局次長)は言います。「いま被爆体験を聴いて、記録に残すことが大切。辛いけれど話しておかねば、と初 めて語る人もいます。それを受け止める体験は、民医連職員としての成長と、医療人として命と平和を守るという自覚に、必ず結びつくと思う」。研修をきっか けに、広島平和記念資料館や平和公園をあらためて訪ねたり、平和ガイドの話を聞く青年職員の動きに注目しています。
 医療生協では組合員とともに文集完成交流集会を七月一五日に行い、普及をすすめています。

(民医連新聞 第1481号 2010年8月2日)

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