医療・福祉関係者のみなさま

2010年8月2日

診察室から 仲間

昨年六月から、当法人も、無料低額診療事業を開始した。現在約五〇人が利用している。この事業を開始してから、困難な人たちに寄り添う意識がいっそう育 まれてきたと思う。また、一昨年末の派遣村を契機に、「岐阜派遣労働者サポートセンター 結(ゆい)」の活動が始まった。
 今まで以上に、困難を抱える人たちとの接点が増えた。と同時に、私の心のなかに、「この事業が始まれば、ひと安心」という気持ちが芽生えてもいた。しかし、それは私たちの困難のプロローグにすぎなかった。
 Aさんは六〇代男性。ホームレスだった。地域の方の紹介で受診し、生活保護を申請、アパートに住んだ。しかし、酒が止まらない。お金が入ると、ホームレ ス仲間に奢ることを繰り返す。大量飲酒のたび尿が出なくなり入院する。結局、アルコール性脳障害で精神科の病院へ紹介となった。
 四〇代男性のBさんは「結」の紹介で受診。派遣切りに遭い、岐阜にたどり着いた。生活保護を申請して居を構え、うつや不眠の治療を行った。「昼間やるこ とがない、寂しい」が口癖だった。毎週の受診をすすめたが、中断。たびたびスタッフが自宅を訪問したが不在が多く、最後は孤独死した。
 これらの事例から、困難な人をささえるには、制度の利用だけではどうにもならない場合があることを痛感した。
 最近、門脇厚司氏の著書『社会力を育てる』で、「サンマ(三間)」のことを初めて知った。それは、空間・時間・仲間。生活保護を受けて、居住空間や休め る時間はできた。お金の心配もなくなった。でも、まわりに仲間がいない。孤独感に苛(さいな)まれていたのでは、との思いに至った。
 小泉構造改革以降、自己責任論がうるさく言われ、人びとを分断してしまった。困難を抱える人の相談と制度利用をすすめるには、誰かとつながっているの か、仲間はいるのかを注意深く意識せねばならない。そしてこの視点で、友の会や地域の方と、安心して住み続けられるまちづくりをすすめていきたい。
 最後に、東奔西走するSWに深謝。
(岐阜・みどり病院、松井一樹)

(民医連新聞 第1481号 2010年8月2日)

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