医療・福祉関係者のみなさま

2010年8月2日

駆け歩きレポート(41) ゴミ屋敷脱出を支援 家族がそれぞれの道へ 奮闘する 地域包括支援センター青戸(東京・葛飾区)

 東京・葛飾区にある地域包括支援センター青戸(すこやか福祉会)は、二〇〇八年四月から区の委託を受けて活動しています。通常 は、地域で暮らす高齢者の最初の相談窓口として総合的な支援に携わっています。最近、崩壊寸前の家族にかかわり、職員たちは地域の実情とセンターの役割を あらためて考えています。(村田洋一記者)

 二〇〇九年一〇月、区の高齢支援課から「入院中のAさんが退院するので、ベッドの導入と介護保険申 請の援助を」という依頼が入りました。同センターの看護師・主任ケアマネジャーの小林さんが入院先のケースワーカーに話を聞くと「家族のようすがおかし い。入浴していないようだ。妻の髪は固まっているし、みな臭う。娘二人は表情がない。家族全員に支援が必要と思う」と。
 翌日、Aさん宅(公団)を訪問。次女(四〇代)の「汚れているけど…」の言葉で中に入ると、3LDKの部屋は新聞紙、本、洋服、ぬいぐるみ、洗剤などの 物が、ゴミと新品の区別なく天井まで積まれ、寝る場所もないほどでした。聞けば長女は廊下、母親と次女は押入れに寝ていたそうです。飼ってはいけない犬も いました。座る場所を見つけ、介護保険申請書を作成。暫定プランを立て、ベッドを入れるための掃除とゴミ撤去を業者に依頼しました。

家族の落ち着き場所は…

 Aさん(七〇代)は糖尿病で両下肢を切断して退院。要介護3になりました。妻(七〇代)も糖尿病で重度認知症、要介護2の認定でした。娘二人は無職でし たが、Aさんの年金二一万、妻の年金一三万がありました。しかし、お金の管理ができず、家賃・光熱費を滞納、借金も。片づけができず、物を買ったり集めた りするため、家がゴミ屋敷化したのです。
 小林さんは、夫婦の担当ケアマネや保健所、区の高齢支援課、民生委員、公団職員に呼びかけ、地域ケア会議を開きました。数回かけて問題点と対策を協議。 Aさん夫婦はデイと訪問系サービスを利用、妻に成年後見制度を適用し、娘に精神科受診をすすめました。二人とも統合失調症で、長女は精神病院に入院になり ました。
 そして今年三月、Aさんが亡くなりました。経済的困難という問題が加わり、手元に現金がなく、高額の家賃も払えなくなりました。
 結局、六月に妻は区の紹介で遠方の高齢者賃貸住宅に入居。娘二人は生活保護を受け、長女は引き続き入院、次女はNPO法人の女性専用の施設に入居しました。
 そこに至る九カ月、同センターの職員たちはAさん一家にかかわり続けました。ゴミの片付け、掃除、娘の受診の付き添いなどは業務外のボランティア。見るに見かねてのことでした。
 「結果的に家族はバラバラになりましたが、それぞれにとって一番よい場所に落ち着きました」と小林さんは話しました。

“役割に見合う制度を求めたい”

 玄関の外まであふれたゴミ、車検切れの乗用車…。近所の人は「変わった家族」と見ていたようです。 しかし、これまでに行政や民生委員などが動くことはなく、Aさんが要介護状態になったことで支援が始まりました。小林さんには「もっと早く対応できなかっ たのか」という思いがあります。Aさん一家のように精神疾患が隠れていると、SOSが発信できないのです。
 同センターの所長・槙島昇さんは言います。「センターでは独自に情報がつかめないので、民生委員や行政からの連絡が頼りです。センターが住民の相談窓口 になるにしても、区域が広すぎます。(人口四五万人の)葛飾区にはセンターが七カ所あり、分担していますが、それでも足りません」。区内のセンター長会議 では、増設の要望を出しています。
 また、同センターは七月一日から分室(亀有地区)を設け、職員六人のうち半数を異動。窓口が増え、地域に目を配り、機敏に行動できる点は良くなりました が、職員数は十分でありません。いま六五歳以上の相談が主業務ですが、最近は、障害者や精神疾患、引きこもりなどの相談も増え、対応には、専門性と人員が 必要です。
 槙島さんは「包括支援センターのあり方を見直して、地域にとって本当の意味での総合相談窓口にすべき、という考えに賛成です。しかし、そのためには人員体制の確保と行政からの財政援助が不可欠です」と語りました。

(民医連新聞 第1481号 2010年8月2日)

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