民医連新聞

2007年4月16日

相談室日誌 連載237 就労支援の矛盾と現実 北原 真智子

長野県では、平成一六年度から高次脳機能障害(記憶障害・注意障害・社会的行動障害・遂行機能障害)への支援を開始。専門的な対応が可能な病院を拠点と し、県内四地域に相談窓口を設置しました。その一つに当院が指定され、四年目を迎えました。関係者を対象に研修会や、本人・家族の相談に応じ、患者会発足 の協力や、診断、神経・心理学的評価、治療のほか、就労に関してもアプローチをしています。
 Aさん(四○代・男性)は、クモ膜下出血術後に高次脳機能障害が出現しました。B急性期病院からC回復期リハビリ病院に移り、ADLは自立しましたが重 度の記憶障害で、「対応が困難」と当院に転院。転院当初は五分前のことも覚えていられない状況でした。
 記憶障害がある場合、代償手段としてメモをとる方法をリハビリで獲得していくのですが、Aさんは、自分が記憶障害であるという病識がないため、発症して 一年以上たっても代償手段の獲得ができません。Aさんの現在の能力では、単純なくり返しの仕事はできても、複雑な物事を覚え、臨機応変にする仕事はできま せん。
 Aさんは発症前、会社では特殊な免許を必要とする専門的な仕事を任され、有能な人材と認められていました。
 会社に、医師から「今すぐの復職は困難で、傷病手当金を受給しながら、Aさんが今の能力でできる仕事をリハビリとして一日数時間させてもらい、経過をみ て復職を考えてほしい」と、お願いしました。しかし、社会保険労務士から、「リハビリといっても勤務扱いとなり、会社は給料を支払わなければならず、傷病 手当金は打ち切られる」と返事がありました。結局、就労リハビリはできず退職となりました。
 高次脳機能障害専門医は「医療リハビリだけでなく、社会で仕事をすることが、よりリハビリになる」と言います。しかし現行の制度では、職場での就労リハ ビリが認められるケースは、労災保険などごく一部に限られます。現実には、障害を負って復職することはとても困難です。復職のチャンスが少しでも拡大する よう就労支援制度改善にむけて、私たちは声を上げていきたいと考えています。

(民医連新聞 第1402号 2007年4月16日)

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