月に１度、公園に仮設医務室 路上生活者の“命綱” 東京　隅田川医療相談会

　「最 も医療を必要としながら、最も医療から遠ざけられた人たちを支援したい」―。毎月一回、東京都台東区の隅田公園で路上生活者や日雇い労働者を対象に「隅田 川医療相談会」が開かれています。ホームレス支援団体や個人が集まって実施しているもので、一般の開業医や病院職員がボランティアで参加、民医連職員もい ます。医療や薬の相談のほか、鍼灸、散髪、共同炊事、生活相談を無料で提供するワンストップサービス型事業で、年越し派遣村のモデルになりました。寒さの 厳しくなる年末に向け、路上生活者の“命綱”の役割を果たしています。（新井健治記者）

　一一月二一日の相談会には約五〇〇人が訪れました。公園の一角に机を並べた薬の相談コー ナーには長い行列が。大学生ら若手スタッフが問診し、医師、薬剤師が症状に合わせて薬を手渡します。多いのは風邪薬、胃薬、目薬、湿布薬などで、肌が乾燥 するこの時期には軟膏も欠かせません。
　テントの四方をブルーシートで覆った仮設医務室もあります。この日は約一〇〇人が相談。医師や看護師が問診票をもとにテキパキと相談に応じ、緊急に検査 や入院が必要な患者には紹介状を書きました。問診で気になった患者には、血圧測定や尿検査、血糖値検査も実施します。
　相談会は二〇〇一年にスタート。当初、二〇人程度だった相談者は増え続け、昨秋のリーマンショック以降は三〇～四〇代の姿も目立ちます。共同炊事に並ん でいた三五歳の男性は「今年一月に愛知県のガラス工場の期間工を辞めた後は仕事がない。必死に職探しをしているが、住むところと携帯電話がないと見つから ない。いつもは公園のベンチに寝ており、これから寒くなるので心配」と話します。

民医連のポリシーと共通

　代々木病院内科医の今川篤子さんは「相談会は月に一度だけで投薬の種類や日数も限られてい ますが、少しでも症状がやわらいで元気になってほしいとの気持ちで診療しています。相談できる場があることは、辛い生活を送っている人にこそ必要ではない でしょうか」と言います。「大学病院の臨床医だったころは、患者の貧困問題を忘れかけていました。相談会に参加したことで、社会や政治の問題が見えてき た。皆が貧困と向き合いいっしょに問題を分かち合う姿は、人間に寄り添う医療を願う民医連のポリシーと通じます」と参加の動機を語ります。
　東京健生病院医療相談室の隈元朋枝さんは、相談会の紹介で自院に患者が入院したことから、今回初めて参加しました。「病院の相談事例からも、がまんの限 界にならないと受診しない人が増えたと感じます。もっと早い段階で受診できたらいいのに」と、大勢の相談者を前に驚いた様子でした。
　相談会では年に二回、民間の助成金を利用してレントゲン車を調達し結核検診を行っていますが、結核や肺がんを疑わせる影など異常所見が一般の人より多い との結果が出ています。過酷な生活環境から病気を悪化させる傾向が強く、相談会会場から救急車で搬送される人や、入院しても手遅れで亡くなる人もいます。

貧困は自分たちの問題

　重症患者には、相談会翌日にボランティアスタッフが医療機関まで同行、生活保護の申請も支 援します。スタッフの一人で、失業者の仕事をつくるためのリサイクルショップ「あうん」代表の中村光男さんは「かつては山谷にも日雇い労働があったが、今 は仕事そのものが少ない。社会の中で役割を奪われた人たちに、もう一度、社会と接点をつくってもらうことが相談会の目的です」と言います。
　相談会の開始当初から運営に携わる池亀小児科医院（千葉県松戸市）の池亀卯女院長は「診療所の診察室に座って患者を待っているだけでは、来院できない患 者のことまでわかりません。最近は職を失うと同時に住むところを失い、健康を悪化させる人が増えてきました。相談会で診察していると、普通に暮らしている 人と、相談会に来る人は紙一重の差しかないことを実感します」と指摘します。
　「多くのスタッフが相談会に参加してほしい。単に医療を提供するだけではなく、貧困を自分たちの問題としてとらえてほしい」と呼びかけます。

（民医連新聞　第1490号　2010年12月20日）