医療・福祉関係者のみなさま

2011年1月3日

きらり看護・ほっと介護 髭剃りを通じて生活意欲を回復 秋田・大曲中通ショートステイ/荒川かおる(介護職)

隆さん(仮名・七〇代)は板金業を営む会社の元社長です。膀胱がん、前立腺がんを抱え、二〇〇八年に脳出血の後遺症で左片マヒになり、オムツ使用、ベッ ド上での生活になりました。〇九年五月に当院に転院してきた時は、食事は自立ですが食べこぼしが多く、全身の苦痛を訴え、体位交換や車イス乗車も拒否しが ちでした。あまり自分から動かず、手が届くものを取るにも看護師を呼ぶなど、依存心が強い状態でした。
 私たちは、隆さんが残っている力を生かし前向きに生活できるように、どのように支援するかを話し合いました。専門家の報告では「整容動作の習慣化が自立 への早道」「肯定的な声かけや評価が意欲を引き出す」とも指摘されています。
 私たちは直後から「自分で髭を剃る」という目標を設定し、働きかけることにしました。スタッフ間で情報を共有し、小さな変化にも注目しました。必要な動 作は、(1)鏡を見る、(2)シェーバーの蓋を外す、(3)スイッチを入れる、(4)シェーバーを持つ、(5)髭を剃るです。この五点について「全介助」 「一部介助」「声かけで行う」「自分から行う」を評価しました。
 朝、ホールに鏡・シェーバーを準備し、隆さんを車椅子で連れて行き、介助して姿勢を保持しました。最初の数日は全介助で髭を剃り、四日目に「自分で剃っ てみましょうか」と声をかけました。すると、シェーバーに手を触れ、介助を受けて剃りましたが、仕方なくやっている感じです。それでも「上手にできました ね」と声をかけました。
 六日目は、ひと通り方法を説明し、介護者はその場を離れました。しかし、何もせず待っており、一つひとつ声をかけられて剃り終えました。一三日目には、 自分で伏せてあった鏡を起こし、剃った顔を左右から眺めていました。その後も、ときどき面倒そうな態度がみられましたが、「男前になりましたよ」「上手い ですね」などと声をかけました。二〇日目には「髭剃りちょうだい」と催促するほどになりました。
 一カ月半後には、念入りに剃ることができ、スピードも上がりました。そのころには、ほかの生活面にも、自分からすすんでやろうとする意欲を見せました。
 肯定的な声かけと見守り、上手くできたら褒める、という働きかけが、自信と活動意欲を呼び起こしたと考えられます。ホールに出てほかの利用者さんと交流ができたことも効果的だったと思います。

(民医連新聞 第1491号 2011年1月3日)

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