医療・福祉関係者のみなさま

2011年1月3日

きらり看護・ほっと介護 自炊なしでも食事療法OK 高齢糖尿病のコントロール 東京・大田病院/菊池瞳(看護師)

ヤスオさん(仮名・七〇代男性)は、家族など身内がおらず独居、生活保護を受けています。糖尿病ですが治療を中断しがちで、食事療法ができず、腎症の悪化の恐れもあります。当院には糖尿病の症状が悪化し、インスリン導入目的で入院しました。
 私たちは退院後のヤスオさんの生活が心配でした。自炊ができず、出来合いの惣菜などを買う食生活です。金銭的な理由から配食サービスは使っていません。
 まず栄養士が退院に向けて一回目の指導をしました。腎症のため厳しい食事制限があります。「牛乳、アルコール、生野菜は禁止」「蛋白質は一日六〇グラム 以内」…。食事指導の内容を聞いたヤスオさんは「できるかな」と弱気になりました。
 そこで、ヤスオさんのライフスタイルに合った方法を考える、肯定的な表現で指導しようと意思統一しました。ヤスオさんの好き嫌いや、人となりについて情 報を集め、特別の指導用パンフを作成して、二回目の食事指導を行いました。
 「食べてダメなものはないが、食べる量を変える」「発泡酒は五〇〇ccでなく三五〇ccなら良い」「惣菜は一度に全部食べず分ける」など、ヤスオさんの 闘病生活をねぎらい、肯定する言葉で説明しました。すると、ヤスオさんは「できそうな気がします」と言いました。
 こうして意欲が出てきたヤスオさんは退院。一カ月後、自宅を訪問したところ、血糖コントロールは良好に保たれていました。血糖測定とインスリン注射も欠 かさず実施できていて、低血糖のときの対処も理解していました。ただし、食品の代替えについての誤解があったので、その場で理解してもらいました。
 今回の経験から私たちも学ぶことができました。食生活の楽しみを最大限に生かすことが、食事療法を成功させるコツだという点です。生活保護で経済的にゆ とりがない、高齢のヤスオさんの立場から考えたこともよかったと言えます。
 また、看護師との信頼関係が築けたことが良い影響を及ぼしました。独居高齢者が「私は一人ではない」と感じられる看護が要だと思います。独居高齢者だか らといって、食事療法は難しいと決めつけず、多職種が力を合わせてサポートすれば、可能性は広がるとも感じました。
 患者が生活を楽しみ、心が満たされなければ、病状に合った食事で血糖コントロールができたとしても、治療のゴールとはいえないと今回のケースから学びました。

(民医連新聞 第1491号 2011年1月3日)

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