民医連新聞

2007年6月4日

勤務医は疲れている 対労働条件の改善は急務 医師から国民に伝えよう

 「地域医療をまもる近畿の医師・医療者のつどい」(三月一一日・大阪)で、垰田(たおだ)和史・滋賀医科大学助教授(予防医学)が、勤務医の労働実態を分析し、「労働条件の改善なしに、勤務医不足は解決しない」とのべました。講演を紹介します。(川村淳二記者)

 日本の勤務医はどんな働き方をしているのか。長くこのデータがありませんでしたが、厚労省の「医師の需給に関する検討会」が〇六年に行った調査で、それが明らかになりました。

週労が70時間超

 どこまでを労働時間とみなすかでいろいろな解釈がありますが、少なくとも勤務医は、週六六時間は病院に拘束されています。これには七〇歳を超える医師も含まれているため、働き盛りの勤務医では週七七時間となります。
 建設労働者を対象にした調査では、月の時間外労働が二〇時間を超えると、家族の団らんなどの時間が急速に減ってきます。これはどんな職業でも同じと考え られます。医師が週に六〇~七〇時間病院に留まっていて、家族団らんの時間がつくれるはずはありません。

平均が過労死基準

  厚生労働省は、月八〇~一〇〇時間を超える時間外労働を、過労死の認定基準にしています。これは、睡眠時間が六時間を切ると、脳梗塞や心筋梗塞などによる 死亡率が有意に高くなるからです。六時間の睡眠時間を確保するためには、八時間労働では、一日四時間しか時間外労働はできません(図(1))。
 週七〇時間労働では、時間外労働は週三〇時間、一カ月で一二〇時間、過労死基準を上回ります。
 日本の勤務医は、平均的に過労死条件を満たすような働き方をしている。これが、厚労省の調査から明らかになりました。

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疲労と医療事故

 今回、大阪府保険医協会といっしょに、約五六〇人の勤務医を対象にアンケート調査しました。「イライラする」、「体の調子が悪い」など一三項目に点をつけ、疲労度を調査しました。
 その結果、勤務時間と疲労度に相関関係があること、疲労度が高い人ほど、ヒヤリ・ハットに類する体験が多いこと(図(2))が、統計的にも明らかになりました。
 アメリカでは研修医が過労で医療事故を起こし、患者さんが亡くなったのを契機に、研修医の労働は週八〇時間以下とし、二四時間連続勤務をさせてはいけな いという基準をつくりました。それを守らない研修病院は資格を取り消されます。
 しかし、日本では医師の時間外労働はまったくフリーの状態です。夜行バスの事故などでも、睡眠不足や過労が原因として、あたりまえに議論されます。医師 だけが例外で、「睡眠不足や過労でも医療は安全だ」とはなりません。

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開業する理由は

 また、将来の希望について、「開業する」「非常勤になる」と答えた勤務医(内科や外科など)のグループは、長時間労働をしている人の比率や(図(3))、疲労度が高く、「体の調子が悪い」と訴え(図(4))、医師としてのやりがいを失っていました。
 勤務医が開業するのは、一部の人がいうように、高い収入を求めてではありません。厳しすぎる労働条件で、心身がボロボロになり、医師としてのモチベー ションも維持できなくなって、家族と過ごす時間などを求めて開業するのです。
 だから、そうして開業した医師が、病院とネットワークをつくり、休日や時間外の診療を積極的に行うことは考えにくいです。
 勤務医の働く条件、人間的な生活ができる条件を保障しない限り、開業の流れを止めることはできません。

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医師の人権も

 患者さんの人権と医師の人権をともに保障する義務は国にあります。それは、医療の単価も、医師の養成数も、国がコントロールしているからです。
 医療の安全と安定した供給には、医師をはじめスタッフの適切な労働条件が不可欠です。精神論だけで医療の安全は確保できません。
 医師は国民に対し、自分たちの労働実態をきちんと伝えなければいけません。

(民医連新聞 第1405号 2007年6月4日)

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