医療・福祉関係者のみなさま

2011年1月3日

ホームレスの仕事をつくり 支援の輪をつなぐ THE BIG ISSUE ビッグイシュー日本版

 雑誌「ビッグイシュー日本版」。ホームレスが路上で販売し、一冊三〇〇円のうち一六〇円を収入として得ます。二〇〇三年九月の創 刊から一一〇〇人以上が販売者になり、一二〇人以上が路上からの脱出を果たしました。「ホームレスの仕事をつくり自立を応援する」雑誌、だからこそ「社会 問題をクリアに示したい」という編集者の思いもあって読み応えも確か。気軽に買うだけで、ホームレス支援に参加できます。(小林裕子記者)

発祥地はイギリス

 日本のホームレス数は公表・約一万三〇〇〇人(二〇一〇年)。目視でカウントした数値で す。ネットカフェなどにいる人は含みません。一方、ビッグイシューの発祥地イギリスでは、「自分で占有できる家がない、あっても入れない、近く家を失う恐 れのある人」がホームレスで、福祉住宅が用意され純粋の路上生活者は一〇〇〇人以下。ロンドンのビッグイシュー販売者五〇〇人は、みな国や自治体が用意し た屋根のある場所に住んでいるといいます。
 「イギリスと同基準で調査したら日本のホームレスは一〇倍では」と言うのは佐野章二さん。仲間とともに、(有)ビッグイシューとビッグイシュー基金を立 ち上げ、代表を務めています。当時、誰もが「無理」と断言した日本版の発行を、幾多の障壁を越えてスタートさせました。ロンドンの創始者ジョン・バード氏 を日本に招き、釜が崎や中之島公園を案内。ブルーシートや炊き出しの列を目にし、涙を浮かべたバード氏も応援してくれました。「経済大国のはずの日本で、 しかも高齢者がこんなに路上にいる…」。

「楽しみはサッカー」と青年

 東京・御茶ノ水駅前で販売する小田さん(仮名=三五)。建築関係の仕事を辞めた二年前、仕事がなく困っていたとき、ビッグイシューに誘われました。「食べる分は稼げるよ」と言います。
 いま、新宿駅近くの路上で寝泊まりし、雨天以外は朝から暗くなるまで路上で販売しています。身体の調子を悪くして一時的に生活保護を受けたこともありま したが、そのときに入った寮では上下関係が厳しく暴力的な行為も受け、身体の回復後すぐに出ました。
 本格的な就職には住所・電話・交通費が必要。それが難しいため「ハローワークから足が遠のいている」という小田さん。「販売は人に指図されず自分の考え でできる。売り上げは場所や表紙によって違います」と話します。一日の販売数は一〇~二〇冊。厳しい生活ですが、「販売者の仲間と雑談したり、サッカーが 楽しみ」とも。

ボランティア心に火

 そのサッカーは、ビッグイシュー基金の応援プログラム「販売者の心身・生活サポート」「再 就職に向けたアドバイス」「スポーツや文化活動のサポート」の一つです。ホームレス・ワールドカップもあり、日本チームも出場しています。社会人のチーム がボランティアで練習相手を務めてくれます。
 「ビッグイシューを読むと何かしたくなるのかも。読者からボランティアの申し出がたくさんある」と代表の佐野さん。ダンスやバンド演奏を教える人、販売 者の脇に立ってアピールする「道端留学」、「自分たちで決めた日時の電車の一車両に乗って、みんなで『ビッグイシュー』を静かに読む」宣伝など。そうした 自主的な活動の「場」とふれあいがホームレスの生きる力を引き出すのかもしれません。歌集『路上のうた』を出版した人もいます。

ホームレスはパートナー

 佐野さんは「都市計画プランナー」の仕事や、阪神・淡路大震災時の救援組織づくり、各地の NPO支援センター設立にも携わってきました。その発想はユニークです。「炊き出しや夜回りなど緊急の応援もすごく大事。がんばっている方がいらっしゃ る。私たちは働くチャンスを提供しています。違うタイプの事業をすれば、市民の支援の幅が広がるじゃないですか」。
 ホームレスは「問題の被害的当事者」、だから「問題解決の担い手」になってほしい、との思いがあります。販売者はビッグイシューの従業員ではなく、例え るなら販売代理店の店主。「ビジネスの、そして市民としてホームレス問題にとりくんでいくパートナー」です。

“ホープレス”社会変えたい

 佐野さんは自治体に「放置自転車の修理・販売をホームレスの仕事にしては?」と提案したこ とがありました。ところが困難な理由をあれこれ挙げて断られました。「そんなことしたら、ホームレスが集まってしまう」というのが本音のようでした。 「ホームレスを生んでいる原因も解決の責任も、主として政治や企業にあるわけですよ。でも、彼らを責めたり、待っていてもどうにもならない。まず、当事者 がとりくみ、それを市民がささえるしかない」と佐野さん。
 「低所得者に対する家賃補助制度も同じ構図」と言います。首都圏と京阪神圏に空家が三六〇万戸。三万円ほどの補助があれば、販売者だけでなく、ワーキン グプアになっている人の暮らしが楽になり、家主の助けにもなります。「ちょっと考えればいっぱい方法はあるのに…。行政は生活保護一本槍、オール・オア・ ナッシングで困っている人を放置する。もっとソフトな政策を考えるべきですね」。
 若い人、高齢者をホームレスにして路上に放置するような社会に未来はない、“ホープレス”な社会をなんとかしたい、という素朴な思いが込められたビッグ イシュー。佐野さんの夢は「ビッグイシューが要らない世の中」です。誰もが幸せを感じて生きられる日のために「さまざまな試みをしていこう」と呼びかけま す。


大阪に初の常設販売所

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佐野章二さんの著書
『ビッグイシューの挑戦』(講談社)

 初の常設販売所が昨年10月、大阪に誕生した。大阪市が大阪駅地下通路の2畳分の空き店舗 を提供、4人の販売者が交替で運営中だ。その1人が6年前から販売者になった松山さん(仮名=52)。西成のドヤに寝泊まりし、1日に20~25冊を売 る。「生活保護を受けないのは自分のこだわり」。

ビッグイシュー基金

 NPO法人ビッグイシュー基金は、ホームレスの再チャレンジに向けて市民応援会員(下表)を募集しています。
郵便振替口座 00960-6-141876
(会員種別と連絡先を明記)
Tel06(6345)1517
メール info@bigissue.or.jp
ホームページ http://www.bigissue.or.jp/

市民応援会員

あか抜け応援(学生)会員

年会費2,500円

ぐっすり応援会員(個人)

年会費5,000円

にっこり応援会員(個人)

年会費15,000円

ひとり立ち応援会員

年会費50,000円

巣立ち応援会員

年会費100,000円

(※ひとり立ち応援会員と巣立ち応援会員は企業・団体でも申し込み可能)

 


 ビッグネームが表紙を飾る のも特徴。無報酬だが、英国では他媒体より優先して応じる著名人も。最近は日本人も登場する。特集は「若者を襲う貧困」「市民による地域医療再生」「オ ノ・ヨーコのインタビュー」など多彩な内容。「バリアを越えて買いたくなる魅力的な雑誌にしたい」と、企画づくりには、とことんこだわる。

(民医連新聞 第1491号 2011年1月3日)

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