医療・福祉関係者のみなさま

2011年2月7日

在宅介護の“困難”を代弁 行政に「要望書」出し続ける 東都保健医療福祉協議会 みさと地区のケアマネたち

 介 護保険法改定案が三月にも国会に出される予定です。改定の考え方として、生活援助を保険給付から外す、「自助・互助・共助」を重視する「地域包括ケア」な どが打ち出されています。施設の不足、支給限度額・認定制度の問題、重い一割負担などを解決しなければ、当初の理念「介護の社会化」は後退するばかり。現 場の実情を埼玉県三郷市の事業所で聞きました。職員たちは、困難を抱えた利用者の事例をもとに、六年連続で行政に要望書を提出しています。(小林裕子記 者)

 在宅介護支援センター「まちかどひろば介護保険相談室」は、まちかどひろばクリニック、三郷市地域包括支援センター「みさと南」と同じ建物にあります。
 ここの利用者は要介護3~5が六~七割、介護者のほとんどが高齢者や就労者で自宅介護です。同市には特養が三、老健が一施設で待機者数は八〇〇人以上 (重複・他地域分含む)。同相談室の管理者・森幸枝さん(ケアマネジャー)は「入所のハードルは高い」と。
 在宅介護は、経済的理由で必要なサービスをあきらめたり、認定が実情に合わない、など問題だらけ。森さんたちは、利用者の「困った」を「三郷市への予算 要望書(二〇一一年度)」にまとめています。これは、健和会の病院や診療所、介護事業所などでつくる、みさと地区協議会(東都協議会)がとりまとめ、〇五 年から毎年八月に提出しており、担当課と懇談もしています。

要望のもとに「事例」

 ケアマネは「利用者の代弁者」です。たとえば「機械浴・寝台浴が利用できる通 所施設を増やしてください」の要望。月村律代さん(みさと健和団地診療所)が担当する利用者に、気管切開した五〇代男性がいます。自宅では困難な入浴をデ イサービスでしたいのですが、機械浴のできる受け入れ先はゼロ。デイと別に入浴サービスを受け、利用料がかさんでいます。
 「配食サービスの利用制限を撤廃して」の要望は切実です。同市のサービスは週四食だけ。青山美子さん(まちかど相談室)が担当する慢性腎不全の独居男性 (七〇代)は、認知症がありヘルパーを拒否しています。食事は業者の腎臓病食にしていますが一食あたり七〇〇円。生活保護のため経済的に苦しく、一食四〇 〇円の市の配食が増えれば助かります。
  要望書の各項目が利用者の切実な要求にもとづいています。

「財源ない」と言わないで

 一月一九日、三郷市の担当課と二回目の話し合いで、「配食サービス」「紙おむつ支給」は市民の要望が強いこともわかりました。しかし、市は財源を理由に「無理」との回答。
 同市の紙おむつの支給対象は六五歳以上の介護度4・5の人。上限が六五〇〇円です。担当課は「介護度3まで広げたいが、試算したら現役世代の保険料が一 〇〇円上がる。上限額を減らして、対象者を広げるのはどうか?」と逆に質問してきました。ケアマネたちは「ペイ・アズ・ユー・ゴー(実施するために何かを 削る)を地でいくような話ね」とやりきれない表情。サービスが保険料に跳ね返る介護保険制度の壁です。

認定と限度額の廃止を

 ケアマネが一番言いたいのが「要介護認定と限度額の廃止」。森さんは「これに かかる手間とお金は膨大。その分を利用者サービスに回してほしい」と強調します。さらに認定調査が遅いという問題もあります。がんターミナルの患者で、市 の職員が認定調査に来たのが葬式の日という事例も。
 国は「申請したら前倒しで利用できる」としており、サービスは提供しますが、調査の時点で死亡していると給付の対象外。自費か、事業所が泣くか、矛盾の一つです。
 「要望書は、何より利用者の実情を行政担当者に伝えていく効果がある」と森さん。

介護保険利用のハードル

 「介護保険を使える人は優等生というのが実感ですね」と言うのは佐藤厚志さん(地域包括の所長・ケアマネ)。受診、調査、認定、契約、支払いなどのハードルを、全部クリアした人だけが使えるのが実態だというのです。
 たとえば、母は認知症、息子は統合失調症という世帯。食事が作れない、トイレが詰まったなど日常の支障に加え、家賃滞納、立ち退き、入院など次つぎと困 難に見舞われています。「こうした大変な相談者に共通なのは『病気・貧困・キーパーソンの不在』。介護保険の前に、支援制度を知らず、問題が整理されてい ない」と。
 「包括支援センターが地域包括ケアの拠点に」という政府方針については、「人員が足りず、予防プランに追われている状態で、さらに多くの人の相談を受け るのは無理では…。とにかく事例から情報を発信して、行政にビジョンをつくらせたい」と佐藤さん。

患者・利用者の状況敏感に

 まちかどひろばクリニックの所長・水井薫医師も「かかわっている患者・利用者には『よくここまで生きてきた』と思うような過酷な状態な人もいます。みなで話し合って要望書を出す活動は大事」と話します。
 互いの情報を共有することで患者・利用者の状況を敏感にとらえ行政にも発信する、地域に密着した事業所の姿がありました。

(民医連新聞 第1493号 2011年2月7日)

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