民医連新聞

2007年7月2日

連載 安全・安心の医療をもとめて(54) 宮城・長町病院 回復期リハビリテーション病棟での転倒・骨折事故予防 第2回 転倒・骨折事故予防対策(水尻強志リハビリテーション科医師)

 第三回医療安全交流集会(三月三~四日・福岡)の分科会「転倒転落事故の予防」で基調講演した、宮城・長町病院院長、リハビリテーション科医師・水尻強志さんの寄稿の二回目です。

病院での予防対策の分類

 Oliverら(二〇〇〇年)は、病院での転倒予防に関する一〇研究のまとめを行いました。全研究を統合すると、相対危険度は〇・七九(〇・六九―〇・八九)となり、病院での転倒予防プログラムに効果がある可能性を示唆しています。
 Oliverらは、介入の種類として、リスク評価、教育プログラム、設備チェック、ハイリスク患者へのラベリング、アラーム設置、抑制、個別の看護プロ グラムの七つをあげています。なお、教育プログラムとは、スタッフ教育のことを示しています。
 当院では、ハイリスク患者へのラベリング、個別の看護プログラム、そして、スタッフ教育に力を入れています。

ハイリスク患者へのラベリング

 転倒の多くは、ベッドサイドで生じます。また、車椅子移乗能力が一部介助~監視にとどまっている群に最も転倒が多くなっています。
 起居移動動作能力を評価し、現状をベッドサイドに掲示します。介助は赤、監視なら黄のテープを各項目の上に貼ります。自立の場合、テープは貼りません。 自立度が上がると、テープの色が次第に変わっていきます。全てが赤という患者と歩行まで全て自立という患者では、転倒リスクは低いと判断します。一方、二 色のテープが混在している場合には、注意が必要です。リハビリテーションの進行具合を一目で示すこともでき、患者の励みにもなります。

患者の状況に応じた対策

 次に、当院転倒予防対策の概要を模式図で示します。起居動作能力、認知能力により、四種の類型に大別します。
 まず、起居介助群です。ずり落ち防止のために、四方をベッド柵等で囲むことが有効です。ただし、不穏があり、かつ、ベッド柵を越える能力がある場合に は、高所からの転落に伴い骨折の危険性が高まります。この場合には、四点柵はむしろ禁忌となります。最近は、マットレスを含め床からの高さが三五㎝程度ま で下がる低床型の電動ベッドがあります。衝撃吸収マットとの併用で、たとえ転落しても骨折事故を起こさないように工夫します。排泄誘導を行い、尿意を訴え 動こうとする前に対応することも必要となります。
 次に、起居自立・移乗介助+認知機能低下なし群です。この群は自己管理が可能です。したがって、移乗用てすり設置、ナースコールの徹底など、ベッドサイドでの安全性確保が対策の中心となります。
 三番目は、起居自立・移乗介助+認知機能低下あり群です。最も転倒リスクが高く、複数回転倒者が多数含まれます。総合的に評価し、個別対策を行います。 認知症がある場合にはナースコールは押せませんので、各種アラームが有効です。当院ではセンサーマットを使用しています。注意すべきは、中途半端に認知機 能が保たれていると、センサーマットを避けて動こうとして、転倒を誘発することがあることです。効果がないと判断した場合には、撤去した方が安全です。排 泄に関する対策も重要です。長野中央病院の中野友貴リハビリテーション科医師は、ベッドサイド排泄空間整備を徹底して行い、転倒予防に効果をあげていま す。
 最後が、移乗自立・歩行介助群です。この群は、基本的には車椅子使用で病棟内生活が自立しています。ベッドサイド環境整備が対策の中心となります。ま た、介助・監視下で病棟内歩行訓練を積極的に行い、早期に歩行自立させることで転倒リスクも低下します。

スタッフ教育

 当院では、毎週、転倒カンファレンスを行い、転倒予防対策の適否について検討しています。また、毎週行っているリハビリテーション関係職種学習会でもリスクマネジメントを重視しています。転倒に関する教育は毎年必ず行っています。
 次回は、転倒と身体抑制・精神神経系薬剤の関係について説明します。

(民医連新聞 第1407号 2007年7月2日)

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