民医連新聞

2007年7月2日

地域で医療を守る(12) 市立病院は「いのち綱」 立ちあがった住民たち 北海道・根室

 北海道の東端にある根室市。人口は三万一〇〇〇人、北方四島を目の前にする農・漁業のまちです。昨年三月末、隣保院(りんぽいん)病院が閉 院、療養型病床がゼロに。唯一、急性期病床をもつ市立根室病院(一九九床)もこの数年、医師確保が困難になり、病棟稼働が五〇床減、診療科を縮小。救急、 お産、手術がピンチになりました。不安のなか、住民や医療関係者が協力し「地域の医療を守ろう」と行動を起こしています。道東勤医協ねむろ医院と友の会根 室支部もその先頭にいます。

 「早急に対策を。特段の配慮を」。六月一三日、山口庄一郎さんは厚労省の担当官を前に力説しま した。「根室の地域医療を守る連絡会」の代表世話人です。一〇人の仲間と、要請のために上京。国会議員および総務省・内閣府を回り、記者会見で訴えまし た。「連絡会」は隣保院病院の閉院後、元職員とともに、「行き場がない」など住民の切実な声を集約してきました。市立病院は、あとがない「いのち綱」なの です。
 同病院は、〇五年に常勤一七人・非常勤五人だった医師が、〇七年には常勤六人・非常勤一〇人に激減。医大の医師引き上げが主要因です。北海道や国立病院 機構の支援を受けてこの状況です。同院には北方四島に住むロシア人も受診します。優れた医療を期待してですが、今年は他市の病院へ紹介されました。

地元で産めない不安

 二月には、六〇キロ離れた別海町の産科に行く途中、車の中で出産する事態が起きました。区間には人家すらありません。
 浅野サチ子さん(友の会根室支部)も訴えました。「地元でお産ができない女性の不安は大きい。別海町の病院は予約でいっぱい。釧路までは一三〇キロあ る。どこも出産直前しか受け入れない。車中の出産は『まだ』と言われ、一旦帰宅した人だった。陣痛促進剤の使用も増え、事故も恐い」。
 持参した署名五八一七筆は、住民や老人会、漁協・農協の協力で、三週間で集めたものです。「市民の総意です」、ねむろ医院の事務長・高橋香織さんは強調 しました。職員の梅津理恵さんも「私も子どもは根室で産みたい。市民にとって大切な問題」と思いながら、「努力したい」という担当官の返答をしっかり聞き ました。

「市民もサポーターに」

 要請に先立つ六月二日の夜。市立病院について「市民もできることを考えよう」と、シンポジウムを開きました。市立病院事務局、研究者、医師の深刻な発言に、市民約一二〇人が耳を傾けました。
 医師不足が病院経営にも影響し、一日に三〇〇万円の赤字が出ています。自治体の財政上も放置できません。
 実行委員長をつとめた田辺利男医師(ねむろ医院院長)は、医師会員(根室医師団)の三人の開業医とともに市立病院の日直(休日)を担っています。ねむろ 医院は、市内で唯一、往診と訪問看護、通所介護を担う事業所。患者や家族の苦労がズシリと伝わってきます。
 田辺医師はシンポジウムで「市民も医師確保に力を貸してほしい。医師を育てるサポーターになって」と呼びかけました。(小林裕子記者

(民医連新聞 第1407号 2007年7月2日)

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