民医連新聞

2007年7月2日

「貧困・格差」なくす社会保障を

 収入が生活保護基準以下の世帯が一〇軒に一軒、四〇〇万世帯。国保料(税)の滞納世帯が四八〇万世帯。「ワーキング・プア」、失業、ホーム レスが増える一方、大企業は空前の利益を上げ、ブランド品や億ションの売れ行きが好調とか。「貧困と格差」は「小泉構造改革」で急速に広がりました。この 原因と対策をどう考えたらよいか? 民医連が実施した「高齢者の生活実態調査」に企画協力した専修大学の唐鎌直義教授は、その詳しい分析をもとに、「社会 保障の抜本的な立て直し」の必要を語っています。今回のテーマは「貧困と格差」。各党の政策も比較してみましょう。

インタビュー 唐鎌直義さん(専修大学教授)
「借家層」の健康状態は悪い

 みなさんが昨年実施した「高齢者の生活調査」の分析で、あらたに注目すべき点がわかりました。
 住宅の所有状況、つまり「持ち家」か「借家」かで、健康状態と生活上の支障を比較すると、明らかな差が出たのです。「借家」の人は、健康状態が悪く(図 1)、様ざまな面で、生活上の支障を抱えていました(図2)。また、要介護者の出現率も高くなっています。これは何を意味するのでしょうか。
 政府は戦後一貫して「持ち家政策」を取ってきました。これは「誰もが住宅を持てる政策」ではありません。住宅の確保を「自己責任」にし、一部の住宅ロー ン減税で誘導しただけです。国は公営住宅の建設補助金も、八〇年代に打ち切り、自治体まかせにしてしまいました。
 高齢者に二割いる「借家層」は、住宅を「持たない」選択をしたのではありません。職業が不安定だったり低賃金で「住宅を持てなかった」層です。老齢にな るまでの豊かでなかった人生を反映しています。事実、この層には生活保護世帯が多く含まれています。
 もう一つは「年金で家賃を払うことの困難さ」を意味します。年金額が少なく、家賃や医療・介護の費用を払うと、生活のレベルや質が保てないのです。
 こういう人たちの生活を破綻させない方法はあります。まず、医療・介護を無料にする。そして家賃を補助するか、無料か低額の公営住宅を保障することです。それなら、八万円程度の年金でも何とか暮らせます。
 実際に、先進国たとえばイギリスでは、低所得者に対して、支払っている家賃の八~九割を補助し、家があって貧しい人には固定資産税を免除しています。 「住宅給付」という制度で、二〇~二五%の世帯が受けています。所得保障の一部です。医療も無料ですし、日本とは大きな違いです。
 低所得層、職業が不安定な層は、日本ではどの程度いるでしょうか。ある研究では、一九五五年が三九%。七五年までは減少して三一%。その後はほとんど横 ばいで、二〇〇〇年に二九%でした。その後の「痛みを伴う政治」で、不安定雇用は増え続けています。

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税金の使い方を変えること

 放置しておくと、今の壮年・若年層の老年期は、もっと大変なことになります。生活崩壊を防ぐた めに、社会保障の拡充は絶対に必要です。今のまま貧困やホームレス、自殺者が増えてゆくと、とんでもない社会になってしまいます。青年層が希望を持てなく なります。そうなる前に対策を取る方が、本来ならば、政府にとっても得策のはずです。
 しかし政府は、社会保障の責任から逃がれています。
 日本では、生活保護がきちんと機能していません。保護世帯は一〇四万世帯、実人数一四七万人(〇五年度)に増えました。でも、受給率は一・二%に届きま せん。受給できない低所得世帯がその八・五倍ほど存在します。必要な人に受けさせず、生活保護費が安く済んでいるから、政府は社会保障の拡充に踏み切らな いのです。
 英国の生活保護受給率は二四・七%です。ヨーロッパ諸国では、生活保護費の増加に悩み、「何とかしなければ」ということで、他の社会保障制度を充実させ てきた経過があります。たとえば「失業」で生活保護がふくらんだため、雇用対策をとりました。住宅給付や医療・介護・年金などの諸制度を拡充し、生活保護 にならないためのクッションにしました。そのため、日本とは桁違いに社会保障にお金を使っています。それは近代国家の使命だからです。
 ですから日本でも、生活保護を受けやすくする。医療扶助、住宅扶助も使いやすくする。これが社会保障を充実させるカギだと考えています。最低生活の保障がきちんとすれば、他の諸制度もシャンとします。
 日本は社会保障に使うお金が少なすぎます。国家の責任がとても薄い。政府のお金の使い方とスタンスの問題だと思います。

(民医連新聞 第1407号 2007年7月2日)

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