民医連新聞

2007年9月3日

「一人一事例」で患者さまがより身近に 大阪・西成医療生協

 大阪市西成区は、「あいりん地域」で知られ、かつて二万人以上の日雇い労働者が集まる労働市場がありました。彼らは高齢になると 職につけず、病気になっても保険がないなど、いっそう困難に。同区は高齢化率も高く、七世帯に一世帯が生活保護を受給しています。西成医療生協は「一職場 一事例」ならぬ「一人一事例一福祉」運動にとりくむ中で、独居や地域と患者さんに向き合っています。地域に出た職員の変化、見えてきたものは何でしょう か。(横山 健記者)

地域に出て学んだ民医連医療の原点

 猛暑の八月一六日、毎日来るはずのAさん(76)が来ませんでした。気になった瀬口久恵さん(看護師)と和具田史織さん(事務)が訪問すると、Aさんは玄関で倒れて亡くなっていました。
 なかなか他人を受け入れず、家にも入れなかったAさんに、外来で声をかけ、何回も訪問して、訪問看護・介護を受け入れてもらいました。「大家さんの『何 かあったら外に出てきいや。誰かに見つけてもらえるから』という言葉を思い出して、必死に出ようとしたんかな」と、山本寿子さん(事務)や和具田さんたち は肩を落としました。

豊富な事例活かして

 「一職場一事例? もの足らへんでしょ」と、専務理事の奥章さん。「天下茶屋民主診療所では、 患者さまの約二割が生活保護、独居の高齢者も多く、気になる事例には事欠きません。『一人』が『一事例』やっても間に合わへん。それに福祉につなげない と。発表会で経験を共有し、今後にいかそう」と、提起しました。
 「発表とかしたことないから…正直イヤやった」という職員もいました。しかし、青年職員を中心に積極的に担当した患者さまのカルテを調べたり、ベテラン職員ではあらためて結核などを勉強し直した人もいます。

患者とのかかわり深く

 六月一四日、報告交流会を開きました。二回目です。短期保険証や福祉用具レンタルなど、全員が一人の患者さまのために考え、行動した内容を発表しました。
 その後、看護師長の今西初代さんは職員の変化を感じました。「用事で外に出た時、ちょっと気になる患者さま宅に寄ることが増えました。一五分ほどの申し 送りに事務職員も入り、看護師も診療点数を考え始めました。ヘルパーや訪問看護師が、そんな苦労をしているのかと、驚きました」。
 「患者さまの服装を見て、お風呂に入れているのかな」など考えられるようになり、「患者さまのわがままをわがままと思う時もあるけど、理解できるようになった」と話す職員も。患者とのかかわりが深くなったのです。

「目と構え」が養われ

 事例にとりくむ中で、問題が見えてきました。長い間、孤独に暮らしてきた人は、訪問介護が必要でも「自分でできる、家が汚いから」と、受け入れてくれません。
 山本さんは「制度の知識も必要やけど、利用してもらえるように話す技術も学ばないと」。瀬口さんは「クーラーのない家も多いし、あっても電気代が気にな り使わない。お風呂もなく銭湯代もない人もいる。入浴サービスができへんかな」。和具田さんも「住まいも四畳半一間ぐらい。家が暑く、診療所に涼みに来る 人もいる。地域に集まれる場所がない。診療所を気軽に寄れる地域の憩いの場にしたい」。
 奥さんは発表を聞いて、「あの患者さんはどうしているやろう?」という気づき、民医連職員の「目と構え」が養われていると実感。「学習会や大阪民医連・ 熱中症調査にも意欲的になった。『小法人やからできる』かもしれへんけど、やってよかった。患者さまが亡くなるなど残念なケースもあるけど、それも経験。 第三回は、事例を深める意見交流をしたい。事例を解決するために組合員さんの力も借りていきたい」と語りました。
 組織活動部の田宮陽太さんは、「地域に出ることが、やっぱり民医連医療の原点だと思います」と活動をふり返りました。
 今後は、民生委員や町内会、社会医療センターとも連携を深め、Aさんのような事例を防ぐことが求められています。

(民医連新聞 第1411号 2007年9月3日)

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