民医連新聞

2007年9月17日

後期高齢者医療制度 保険料高額になる恐れ 滞納で保険証とり上げ 医療差別も! 中止して!

 後期高齢者医療制度の運営主体になる都道府県ごとの広域連合は、いま議会や協議会を開き、一一月に保険料を決定する動きです。各 県の民医連や社会保障推進協議会は傍聴や懇談をすすめ、質問・要望書を提出するなど働きかけを強めています。その中で制度の問題点がいっそう明らかになり ました。
 高額な保険料、滞納者に対する制裁措置で、低所得者が医療を受けられなくなる危険性が大です。しかも、市区町村がいま運用している施策が継続できず、意 見も通りにくくなる恐れも。全日本民医連はあらためて、厚生労働省に対し諸問題を指摘し「白紙撤回」を求めていく方針です。

白紙撤回すべき

保険料は国の数値で

 厚生労働省は「後期高齢者医療広域連合事務局長会議(八月六日)」で、保険料の算出法を明らか にしました。保険料は、国が示す都道府県間の所得格差を数値化した「所得係数」「調整交付金」で自動的に決定します。この数値と各広域連合ごとの医療給付 費を代入すれば、所得割と均等割の額が決まります。
 厚労省は九月、仮数値と政省令を公布し、一一月の広域連合議会で保険料を設定させる方針です。
 さらに、保険料について「所得割:均等割=50:50」は成り立たないとも説明。住民所得が低い県では均等割の比率が増えます。保険料は「平均」年額七万五〇〇〇円より高くなる恐れが大です。

医療から排除も

 年金月額が一万五〇〇〇円未満で保険料が普通徴収になる高齢者、無年金の人は約四〇〇万人といわれます。介護保険料の滞納が普通徴収の場合に多いことから見ても、負担が限度を超えることは明らかです。
 四カ月滞納で「短期保険証」。一年間滞納で「資格証明書」になり、窓口全額負担。「低所得者の医療からの排除」そのものです。
 現行の国民健康保険では、老人保健法の対象者(七五歳以上)には、滞納があっても、保険証を交付する決まりになっています。後期高齢者医療制度では、そ の後退が大問題。「高齢期における適切な医療の確保を図る(法律第一条)」ことはできません。

減免の余地は?

 厚労省はパブリックコメントを受けて、後期高齢者医療制度の財源に「その他」という項目を設け、「都道府県や市町村が補助金を投入することは可能」。
 また、条例で国保と同じく低所得者に減免を行うことは可能で、厚労省も「広域連合で議決されれば条例減免は妨げない」と説明しています。
 全日本民医連は、(1)広域連合ごとに保険料を試算して住民に知らせる、(2)高い保険料と滞納の制裁など不当性を宣伝し、(3)制度の中止を国に強く 要請し、都道府県には意見書を出すよう働きかける、などを提起しました。

広域連合の裁量権は弱い

 各県民医連、社保協は広域連合との懇談などで地域の被保険者数や健診のやり方などを把握する一方、保険料を低くし、滞納制裁を止めるよう要請しています。

青森 市町村の判断は?

 青森民医連は六月、二八項目の質問・意見書を提出し、七月に回答を得ました。
 資格書を出す基準について「権限は広域連合にあり、市町村独自の判断で出すことは(出さないことも)できません。統一した基準を作成し、市町村に被保険 者の実情調査を依頼し、内容を確認の上で最終的な決定を行う予定」という回答。
 市町村独自の一部負担金の減免は「広域連合に権限があるため、市町村が独自に実施することはできないことになっている」。
 説明では「住民の実情を知っているのは市町村。柔軟に対応する」という考えも示しました。県連では「実務を行う市町村の判断が重要」と見て、働きかけを強める方針です。

埼玉 請願三つを否決

 埼玉民医連は、七月の広域連合議会に三つの請願を提出し、審議を傍聴しました。「資格書を発行 しないこと」「高齢者の生活実態に即した保険料と独自の減免制度創設を」「高齢者はじめ県民の声を反映すること」を求めた請願です。三つとも賛成一人、反 対多数で否決されました。
 審議では、埼玉県が一円も補助金を出さないことが明らかに。広域連合議会の開催が年に二回。請願には反対しながらも、「保険料は(市民の)関心が高く、命に関わる問題」と指摘した議員もいました。
 県連では「広域連合は要請が通りにくいが、市町村と要求は一致する」と働きかけを続ける予定です。

新潟 公費医療は資格書対象外

 県社保協は一三の質問と一〇項目の要望を提出。
 生活困窮者と公費医療対象者には資格書を発行するなの要求に「納付相談等で事情を聴きながら慎重に対応する。公費医療対象者については、従来通り対象者 から除外となる予定」という回答。ほか「政省令を待っての検討」が多数でした。
 八月に広域連合事務局と懇談。高齢者の実情を伝え、負担軽減を求めました。県社保協は各自治体への働きかけを強める方針です。

長野 独自判断できぬ

 県社保協は七月二四日、広域連合事務局と懇談しました。保険料について、議論の保障、県民の意見反映、逆進的でない料率を求めました。
 広域連合は「政省令で定められ、独自の判断ができない」。資格書の発行も「機械的に判断するものではない」の回答どまり。
 県社保協は毎年、全自治体に国保アンケートを実施し、資格書の発行を抑制してきました。その実績を尊重させることが課題です。
 また、政省令案をもとに試算したところ、国保加入者でも大幅な負担増となる農山村の自治体があることもわかりました。県社保協では全市町村の担当者にも 資料を送り、厚労省が国保以上に均等割の比率を上げる保険料率を広域連合に押しつけることは、「地方自治の重大な侵害」との認識で運動を強めています。

岡山 請願を趣旨採択

 岡山民医連・県社保協は七月、広域連合事務局と懇談した後、議会へ請願を提出しました。内容は「保険料減免の実施」「滞納者から保険証を取りあげない」など九項です。
 これに対し、議会は「請願の内容には異論がない。十分考慮して運営すべき」と、一括趣旨採択しました。
 また議論の中で「独自の減免制度をつくるべきだ」の意見が出て、それに対し、事務局長が「検討したい」と答弁しました。

奈良 65歳から天引き

 県社保協は七月、広域連合事務局と懇談。質問・要求二四の回答は「これからの検討事項」ばかり。重ねて要請しました。
 「高齢者の医療の確保に関する法律」と同時に「国保法」が改訂され、国保に加入する六五~七四歳の前期高齢者について、保険料を年金から天引きすること も決まっています。奈良では四月から実施する自治体が一五、一〇月実施が一七、当面しないが七です。「そんなん聞いてへん」という人も多く、抗議の声をあ げていく方針です。 

山梨 公費医療で前進

 山梨には、県の単独事業で、身体障害者手帳一~三級等の人を対象にする「重度障害者医療費助成制度」があります。このほど県社保協や民医連などの運動が実り、同制度の対象者について、窓口無料化が来年四月から実施されることになりました。
 後期高齢者医療制度に関連するため、県に問い合わせたところ、制度は「七五歳以上の人にも適用する」との回答を得ました。対象者は約一万人います。

東京 保険料の試算 最高の平均で15万円超も
 (東京広域連合議会議員で日本共産党三鷹市議の岩田康男さんの談話)

 八月三一日の広域連合議会後の議員懇談会(非公開)に保険料の試算が示されました。
 最も高いケースでは、平均年額は一五万五〇〇〇円。最も低いケースでも年額九万六〇〇〇円です。いずれも、厚労省が示した全国平均七万四四〇〇円をかなり上回ります。
 高いケースは国からの調整交付金が三〇%だった場合で計算したもの。低いケースは一〇〇%で計算したものです。所得が全国平均よりも高いと目される東京では一〇〇%にはならないと考えられます。
 また、厚労省がいう七万四四〇〇円は、特定健診を実施せず、葬祭料の給付も行わない場合の試算です。四六都道府県がこれらの事業を実施すると表明しているので、現実的ではありません。
 広域連合議員から、「こんなに高い金額では納得できない」「住民に説明できない」「せめて国保なみの保険料でなくては」などの声があがりました。
 東京の市町村長会と区長会でも広域連合に要望し、広域連合として国へ要望書を出す準備をしていますが、制度の根本的な見直しとともに、国や都道府県が財政負担をするよう求めることが必要です。

(民医連新聞 第1412号 2007年9月17日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ