民医連新聞

2007年11月5日

特定健診 特定保健指導 08年に向けて たたかいと対応を急ごう

 健診制度が激変する〇八年四月を前に、たたかいと対応が急務です。特定健診・特定保健指導が保険者の義務になり、営利事業も参 入。健診の変質、疾病の自己責任化も進行します。たたかいの視点から新制度の問題点をどう見るか? 民医連の事業所が健診を継続して担い、住民の健康づく りをすすめるには? 学習会やモデル事業を取材しました。

「特定健診・特定保健指導」 たたかいと対応の視点

 中央社会保障推進協議会事務局次長 相野谷(あいのや)安孝さんに聞く 

目的は医療費削減

 新制度は、医療保険者に四〇歳~七四歳の特定健診・特定保健指導を義務づけます。健診をメタボ リックシンドローム(内臓脂肪症候群)に特化し、二〇一五年までに生活習慣病・予備群を二五%削減するとしています。二兆円の医療費を削るために、高齢化 の加速する八年間に、病気とその発生を四分の一減らすというのですから、考えればかなり無理な話です。
 このため各保険者に目標(健診受診率や削減目標値)の達成度を競わせ、高齢者医療への支援金(現役世代からの拠出)について、一〇%を上限・下限として 加算・減算するというペナルティーまで準備しています。つまり受診率や保健指導の効果が悪ければそれだけ、支援金を増やされるのです。
 一方、後期高齢者医療制度(七五歳以上)では、健診・保健指導は努力義務(やらなくてもいい)とされ、実施すれば費用が保険料に跳ね返ります。
 企業健診と住民健診の受診率をみても明らかなように、この競争は国民健康保険が圧倒的に不利。結果が国保料の増加になり、今でも健保と国保では二~三倍 の開きがあるのに、さらに格差が広がるでしょう。健保組合などでは、メタボの人を排除することになりかねません。
 また、健診の実施主体が市町村(自治体)から保険者に変わることも、大きな問題をはらみます。地方自治法がいう「住民の福祉の増進を図る」役割を大きく後退させ、変質させることにならないでしょうか。

病気の自己責任化

 しかも、健診の役割が「生活習慣病の予防」に矮小化され、疾患の早期発見がおろそかになりま す。国がすすめる「健(すこ)やか生活習慣国民運動」(仮称)のスローガンは「一に運動、二に食事、三に禁煙、最後に薬」です。疾病を自己責任化し、予防 も自助努力にし「医者にかかるな」というようなものです。
 すでに営利企業の参入争いが始まっています。健康志向をあおり、逆に医療資源のムダな消費も起きかねません。すると、今でも過度に抑制されている医療本 体への給付費がさらに引き下げられる危険性があります。抑制されてはみ出した医療は、混合診療の大幅拡大につながります。介護保険の二の舞です。

生活保障がカギ

 窓口負担のために食事を削って来院してくる患者さんもいます。高齢者生活実態調査でも、高齢者の低所得・貧困の広がりは明らかでした。働いても低賃金、長時間・過密労働で健康を考えるゆとりがない人も増えています。健康維持は、所得や生活の保障を抜きに考えられません。
 自治体に対して、従来の住民健診や基本健診の実施・充実を求めるとともに、政府に向けて、生活と健康の保障を合わせてたたかう運動が大切です。また、安 心して住みつづけられるまちづくり運動がますます重要になっています。それが、憲法に保障された生存権の実現、医療の確保にもつながると思います。


「地域まるごと健康づくり」に向け

奈良民医連 特定健診学習会

 奈良民医連は一〇月一六日、特定健診・保健指導の準備のための学習会を開き、各法人の担当者が集まりました。講師は、大阪・医療生協かわち野の吉田満さん。経験を紹介し、必要な準備について話しました。
 各法人がプロジェクトチームを立ち上げていますが、健診スタッフの確保や受託の準備など課題も抱えています。担当者たちは「診療所でどこまで可能か?」 など、時間いっぱい質問。そして「片手間でなく、専任スタッフ配置。民医連として情報共有し、四月に向け着実にすすめよう」と話し合いました。

できることから着実に (吉田満さんの話)

 新制度の目的は医療費削減で「地域の健康づくり」の視点が欠けています。このピンチをチャンスに変える鍵は「共同組織」。組合員を増やし、ともに健康づくりをすることです。
 医療生協かわち野では、できることから始めています。まず「五万人電話作戦」で健診を促(うなが)しています。初めての場合、決心がいるので繰り返し誘うことが大切。これが来年の受診につながるはずです。
 敷地内禁煙、結果報告書の改善、運動指導士の採用など受託条件づくりをすすめています。人間ドック受診者の保険者も調べ、情報提供を考えています (図)。特定保健指導のモデル事業で、脱落を防ぐコミュニケーション技術を磨いています。
今後は、元気な組合員には健康運動サポーターになってもらい、地域で学び合い、楽しく運動を続けられる環境づくりをすすめます。また、市町村に働きかけ、メタボ以外の住民健診を充実させることが必要です。
 私たちも走りながら考えている状態です。地域の健康づくりにつながる民医連らしい健診・指導に向けとりくみましょう。


08特定保健指導のモデル事業で見えたこと

医療生協かわち野

 特定保健指導のモデル事業は、まず東大阪生協病院で始めました。七月からAグループの七人がス タート。順次B~Dが続きました。六カ月コースで集団指導が四回、すべて夜六時から八時。料金は六〇〇〇円です。参加者は、四〇〇~五〇〇人のドック受診 者から服薬者を除外、医師が呼びかけました。

電話・手紙で励ます

 プログラムは検討を続け、「講義型より参加型」「食事と運動指導を中心に」「もっと対話を」「実物を見せよう」など少しずつ修正しています。
 スタッフは運動指導士の宮井篤さんはじめ、栄養士、外来看護師。参加者が自宅でもモチベーションを保持するよう電話や手紙で励まし、集団指導日には各ス タッフが個別に面談しています。看護師の中村佳子さんは「家庭での血圧・食事・歩数を書いてきます。行き詰まった場合のアドバイスや励まし方が、手探りで したが分かってきました。地域密着型の細かい対応ができれば」と話しました。
 一〇月一八日、Aグループの修了式。一人が脱落、一人は治療に移行、四人が改善、一人が不変、という結果でした。藤田昌明院長は「予想以上によく、私た ちも勇気づけられた。来年は本番だが、この経験を生かし病院としてよいプログラムをつくりたい」とのべました。
 スタッフは時間外勤務もいとわず、勉強しながら熱心にとりくんでいます。藤田院長は「今は実験なので、費用は病院の持ち出しだが、厚労省が考えている制 度でこれだけやるのは無理では?」と懸念します。また「(数値に出ないような)生活行動のよい変化をどう評価するかは研究課題」と話します。

地域に合った方法を

 夜の時間帯に設定したのは、メタボが多い働く男性に参加してもらいたいから。中田晶子(しょう こ)看護師長は「地域性も考えたプログラムが必要。厚労省のプログラムは画一的では?」と指摘します。中小企業のまちでは、夜でも機械を止めて来るのが難 しいのです。「メタボは職場の環境も変えないと治らない。職場に出張健診もして、職場丸ごと健康づくりがしたい。新しい健診制度は問題が多くてダメになる かもしれない。けれど、保健指導に光が当たったことはよい。行動変容を起こせる保健指導の実践を積んでおくことは将来に生かせると思う。それがスタッフの モチベーションになっている」と言います。
 これから特定保健指導を準備する事業所には? 中田さんは「一コースでよいから実施してみる。対象者と対話するなかで必要性が見えてくるのでは」。医事 課長の奥本竜夫さんは「参加してもらうことも並大抵でない。待つのではなく働きかける手だてを考えておくこと」。
 プロジェクトの事務局を担う奥本さん。「運動指導室に器具を揃え組合員に開放したい。コース修了者が立ち寄って自主的に運動を継続したり、交流会に使え るように。通る人に『やってるな』と見えるようにしたい」と、次の工夫も描いています。

(民医連新聞 第1415号 2007年11月5日)

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