民医連新聞

2007年11月19日

水道料金が下がる(08年度から)住民あげての運動実る 北海道・帯広市 水を止めないで!

 水道がない生活が考えられますか? 暮らしに不可欠で、命にも関わる水。ところが経済的事情から滞納し、停水処分を受ける人 が…。福岡県・北九州市や石川県・輪島市などで相次いだ餓死事件、最初のサインは水道料金滞納でした。停水処分が激増した北海道・帯広市では、①水道料金 滞納者に対する停水措置の中止、②上・下水道料金の減免制度の創設、を求めて住民が運動。このほど市長が「善処」を約束。値下げが実現しました。
 水、電気、ガスなどは「ライフライン」と呼ばれ、人が「最低生活」をいとなむ保障の一つです。「貧困・格差」が広がる社会で、「公平」とか「受益」を理由に、簡単に水を止めてしまう行政のあり方に、一石を投じました。

 北海道・帯広市では、二〇〇五年度に給水停止を受けた世帯が一七八六件におよびました。前年度の 一・六倍、二〇〇〇年度と比べると六・八倍に(図1)。なぜ急増したのでしょうか? 運動の中心を担う十勝社会保障推進協議会(社保協:十勝勤医協、友の 会も加入)は、次のように分析しています。
 同市の水道料金はそもそも割高。一律、月一九一〇円(口径二〇㎜)。そのうえ、〇五年度から「不公平感の是正」と、停水までの滞納期間を約一年から半年 に縮めました。約四割の世帯が、基本使用量(一〇m3)以下しか使っていないのに一律料金を課す「不公平」を、市は問題にしません。わずかな収入で暮らす 市民が大きな打撃を受けました。

公園で水を汲む

 帯広市のAさん(六〇代・女性)は、少ないパート収入で、蓄えを崩してようやく生活しています。水道料金を一年滞納し、昨年五月下旬から給水を停止されました。ひと目のない早朝と夜に、自宅から五〇〇m離れた公園の水飲み場から、ポリ容器に水を汲んで生活していました。
 滞納金のうち、ようやく一部を工面して、市の窓口に支払いに行きましたが、「全額払わないと給水しない」と。「入浴はがまんできますが、トイレが一番大 変。払いたくても払えないのを分かってほしい」。Aさんは顔を曇らせました。
 社保協が、同市に明らかにさせた資料では、停水に至った理由の約二割が生活苦です。一万人当たりの水道停止率と生活保護率を、道内の他都市と比べると、 帯広市は水道停止率が高いうえに、生活保護率は逆に低いことも分かりました(表1)。

老人クラブ動く

 〇六年の六月市議会で、日本共産党の稲葉典昭さん(十勝勤医協理事)が「北九州市で水も電気も止め られて餓死者が出た。水道代が払えないから止めるのではなく、払えないほどの低所得者には減免制度を設けて救うべきだ」と主張。地元紙と『十勝勤医協友の 会ニュース』が報道し、問題が市民に知られました。
 一二月、社保協が呼びかけ、帯広市内の友の会一九支部を含む三三団体で「上下水道料金の減免制度の創設と停水措置の停止を求める陳情書」を帯広市長に提 出。①減免制度の創設、②停水措置の中止、③基本料金の引き下げと料金体系見直しを求めました。〇七年一月には、新たに老人クラブが四六、町内会が二つ加 わり、五一団体で再陳情。のべ八四団体の総意が力になりました。
 懇談で市長は、帯広近郊の水道料金の高さを認め、基本料金の値下げと料金体系の見直しを言及。滞納料金については「一括で納付をお願いしたい」から、「個別に相談に乗って対応」に変化しました。

値下げが実現

 九月、帯広市公営企業経営審査会は、〇八年から五年間の新水道料金体系案を発表しました。基本料金を現行より八一〇円下げ、一一〇〇円に。一〇m3までは、一m3ごとに八一円ずつ加算という案です。少量使用世帯が値下げになります。
 市民の負担は、年に約一億八三〇〇万円、五年で約九億円も軽減します。減収は水道部の内部留保金(約一〇億二五〇〇万円)で補填する方向です。
 社保協と友の会連絡協議会の代表である高野幸雄さんは「これで停水世帯も減少するのでは」と語ります。市民や団体の一年がかりの活動が実を結びました。
 社保協では、停水の中止や減免制度の創設にむけて、活動を続けていくつもりです。

石川輪島市
高い水道料金が問題 生きる権利ひろげたい
鐙(あぶみ)邦夫さん(奥能登健康友の会会長・市議)

 元漆器職人の男性(55)が餓死、一週間後に発見されました(〇六年一二月)。五月から料金を滞納、一〇月に水道が停止。水道課は督促状を郵送し、担当者が訪問、「不在」と判断して止めたといいます。
 私は議会でも問題にし、このようなことが二度と起きないよう、市役所の中で普段から情報を交換し、市民の窮状に手を差し伸べるべきだと主張しました。市 当局は「担当部局が協議した」と報告しましたが、形式的ではだめです。貧困世帯は増えています。そもそも、水道料金が高いのも問題です。まじめな担当者も いるのだから、その気になれば組織的に様ざまな手だてがとれるはずです。
 友の会も、生活保護の申請を援助したり、「何でも相談」をしています。市民の側でも、人間らしく生きる権利をもっと主張し、力を合わせていきたいものです。

福岡北九州市
通報されても「保護しない」 根強い差別意識変えねば
来田(きた)時子さん(戸畑けんわ病院・SW)

 〇六年五月に門司区でミイラ化していた男性(56)の場合、数カ月前に水道局職員が衰弱した状態に 気づき、保護課に通報、ケースワーカーが訪問しました。この後、男性は二回、保護課に「生活保護を受けたい」と訴えましたが、二回とも「子どもに扶養して もらえ」と、追い返されました。保護課は三回のチャンスをつぶし、命を奪いました。
 市内には水道・電気・ガスを止められている人が約一六〇〇人いるといわれています。水道局職員は水道を止める時、保護課に通報しています。問題は保護課 の対応です。今年七月、小倉北区で餓死し発見された男性(52)に対しても、最初から三カ月しか保護しないと決め、無理な就労指導で「辞退届」を出させ、 保護を打ち切りました。
 全国から寄せられた批判や福祉事務所長に対する刑事告発など世論の影響で、窓口対応に変化は見られます。しかし、行政の根底にある「保護を申請するのは 二級市民だ」という差別的な考え方が変わりません。「人の命を奪ったという痛み」が行政側から感じられないのです。
 いのちを差別する思想を変えない限り、問題は解決しません。民医連が社会保障運動をすすめていくことは、とても重要です。

生かされている?厚生労働省の通知

 01年3月30日付で、厚生労働省の社会・援護局保護課長が出した通知があります。
 「生活困窮から料金等を滞納し水道・電気等のライフラインが止められ死亡等に至る痛ましい事件が発生した」として、「連絡・連携体制についても強化を図 り、要保護者の把握、適正な保護の実施に努められるよう管内実施機関に周知されたい」。栃木県で起きた凍死事件をきっかけに各地で起きた運動によるもの。
 趣旨は、水道をいきなり止めることはせず、福祉部局に連絡するようにとの指導です。同省によると「通知に対する違反があれば、県に対する国の指導監査の対象になる」といいます。

(民医連新聞 第1416号 2007年11月19日)

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