民医連新聞

2007年3月17日

連載 安全・安心の医療をもとめて(58) 回復期リハビリテーション病棟での排泄と転倒・骨折防止(最終回) 適切な手すりとポータブルトイレで 長野中央病院中野友貴(リハビリテーション科医師)

 排泄が自立するためには、移乗動作が転倒などで中断せずに、できることが前提になります。ですから、自立のための条件づくりは安全のための条件づくりでもあります。
 特に、適切な手すりは、転倒しにくくし、転倒しても衝撃を軽減する働きがあり、重大事故を減らします。ポータブルトイレは安全な排泄空間を提供するだけでなく、排泄場所を求めて歩き出しての転倒を減らします。洋式トイレもより安全なトイレがあるはずです。
 また、毎日の排泄についての看護・介護カンファランスがそのまま「転倒カンファランス」になります。

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 当病棟の六年間の転倒・骨折数をまとめたものが(表)です。五二床ほぼ満床で運営したときの結果です。毎年、平均一七六件の転倒と一・三件の骨折があり ました。骨折数を転倒数で割った「骨折率」を出すと〇・七六%でした。ほかの回復期リハビリ病棟の骨折率をみると、転倒防止にしっかりとりくんでいるとこ ろでも、二%前後が多く、これはとても低い数字だと思います。この間の重大事故には硬膜下血腫などはなく、骨折だけだったので「骨折率」としましたが、硬 膜下血腫などの重大事故も含む「重大事故率」と読み替えてよいものです。
 (図)に転倒場所をまとめてみました。ベッドサイドが七〇%、トイレは四%でした。他院の報告でも、ベッドサイドの転倒が過半数を占めており、同じ傾向です。

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トイレでの転倒を減らす

 また、もう一つの排泄の場であるトイレでの転倒が四%と少ないことが当病棟の特徴です。全日本民医連調査でも八%、多くの学会報告でも一〇%を超しています。
 「介助で車イストイレを使わない」方針が、その少なさに反映していると思います。この方針では、排泄に介助の必要な患者さんはポータブルトイレを使用 し、トイレに連れて行きません。ですから、自立していない人が自分でトイレに行くことが極めて少なく、その結果、トイレでの転倒が少ないのです。
 (図)の下には、場所別の骨折数と骨折率を表示しています。転倒数の最も多いベッドサイドの骨折率は〇・四一%と低いです。
 ベッドサイドに適切な移乗用手すりを付け、必要に応じてポータブルトイレを置き、排泄・移乗しやすい条件を整えていることが理由と考えます。また、骨折 率の高いトイレでの転倒が少ないことも、全体の骨折率を減らしていると思われます。

指標をもとに対策を

 最後に、読者の皆さんへのお願いです。第一に、転倒対策として排泄のアプローチを検討し直してみてください。
 第二に、転倒と骨折のデーターを蓄積し、骨折率、場所別骨折率(骨折以外の重大事故を含む)を出してみてください。そして、その結果をお知らせいただき、研究に生かさせていただきたいと思っています。

(民医連新聞 第1418号 2007年12月17日)

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