民医連新聞

2007年12月17日

相談室日誌 連載253 手術できる病院が地域にあれば 大槻 亘

当院のある京都府北部は、産婦人科をはじめ、小児科、整形外科、脳外科、麻酔科などの医師不足が深刻です。救急医療にも影響がでて、住民の不安が広がっています。
 Aさん(五〇代・男性)は、風邪の症状で当院を受診しました。CTを撮影したところ、胸部大動脈瘤乖離が判明し、すぐに手術が必要でした。近隣の心臓外 科を紹介しましたが、「麻酔医が常勤していない」との返事で受け入れられず、一〇〇㎞ほど離れた都市部の大学病院に救急搬送しました。
 何とか無事に大学病院にたどり着いたものの、手術待機中にショック状態に。緊急手術で一命はとりとめましたが、低酸素脳症のため重い後遺症が残ってしま いました。寝たきりで食事は胃ろうから、意思疎通もほとんどできない状態で、一カ月後再び当院に転院しました。
 Aさんは妻と息子の三人暮らしですが、妻も難病を抱え、息子も仕事で帰りが夜遅いため、今後は施設を利用するしかないと思われていました。
 そんな時、妻から「夫に『家に帰りたいか』と聞くと、強くうなずくのです。住み慣れた家に連れて帰ってやりたいのですが、無理でしょうか」と相談があり ました。Aさんだけでなく、妻に大きな負担がかかることが予想されます。そこで、多職種とカンファレンスをしました。
 その結果、病棟で在宅生活に移ることを仮定してプログラムを組み、妻や息子に介護・処置指導をすることになりました。
 在宅生活に希望が持てたため、妻は自分でケアプランを考えるなど積極的になり、息子も夕方来院して、オムツ交換の指導を受ける日が続きました。そして発 症から一年半後、Aさんは念願の退院を果たしました。妻は「介護はたいへん。でも後ろを向いていても仕方がない。今できることを精一杯していこうと思って いる」と語りました。
 政府の医療制度改革が拍車となり、地域の医療体制が崩壊する事態が進行しています。Aさんも、手術がすぐにできる病院が地域にあれば、このような状態に ならなかったはずです。住む地域によって、命や健康が左右される国のあり方に疑問を感じています。

(民医連新聞 第1418号 2007年12月17日)

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