医療・看護

2011年12月5日

窓口負担払えない就労者 民医連SW委員会 「医療費相談調査」から見えた実態

 医療費を払えない相談が増え、内容も深刻さを増しています。民医連で無料低額診療事業を積極的に行うようになってから、ソーシャ ルワーカー(SW)は貧困の実態を痛切に感じることが多くなりました。特に最近目立つのが、仕事を持ち、被用者保険に加入していても窓口負担が払えない ケース。全日本民医連SW委員会は昨年度、実感を統計的に明らかにしようと、全国のSWに呼びかけ「医療費・介護費相談調査」を行いました。約三〇〇〇件 のデータから見えてきたものは…。(矢作史考記者)

被用者保険も10%超

医療費調査の概要

 【年齢】相談者の年齢別では六〇代が最多の二八%。四〇~六〇代で約六〇%を占めました(図1)。七〇代以上も三〇%あり、「壮年期に厳しく、老いてもなお厳しい」状況が続いています。九〇代、一〇〇歳以上といったケースもありました。

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 【保険証】保険種別で見ると、国保が過半数を占め、後期高齢者医療が二〇%を超えました(図2)。また、被用者保険も一〇%を超えています。無保険は一〇%でした。

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 【世帯】世帯構成別では独居が四〇%を占めました。一方、二世代同居以上が三〇%あり、世代をわたる貧困も見られます。就業者がいる世帯は約四〇%。そのうち、複数の就業者がいる世帯は三〇%を超えていました。
 【収入】月収一五万円未満が八〇%、一〇万円未満でも六〇%を超えています(表1)。また、世帯収入と生活保護基準を比較すると、生活保護基準に収入が届かない世帯(一〇〇%未満)が一一二四人で三八%。生活保護基準一三〇パーセント未満の世帯に広げると半数を超えています(表2)。

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 【困窮の原因】 医療費の相談に至った主な理由は、「低所得」「支出の増加」「失業」の三点。就労している人からの相談は八四八件にのぼり、全体の三〇%近くを占めまし た。特にリーマンショック以降、失業や低賃金になることが多く、困窮する世帯が多くなっています。また、問題解決のために利用した制度は、生活保護が一番 多く約三〇%でした。

色濃い稼働層の貧困

浮かび上がった実態

 調査で浮上した特徴は、稼働層(就労世代)における低所得世帯が多くなっていることです。調査票の自由記載欄には、常勤で働いても収入が生活保護基準を下回り、医療費負担が重くのしかかるケースが多く見受けられました。
 稼働層の貧困の背景には、雇用や賃金形態の劣化があると考えられます。一見、そう低くない収入の常勤雇用でも、賃金構造が、「基本給は安く、歩合や手 当、出来高払い、残業代などでかさ上げされている」ため、病気や事故をきっかけに、生活が成り立たなくなり、医療費が払えない状況に陥ります。派遣や非常 勤職員も増加し、被用者保険の加入者でも安定した生活ができていません。
 もう一つ特徴的だったのは、「国民健康保険料は滞納していないのに、窓口負担が高くて払えない」という人の多さです。これまでの医療費相談では、国保料 を滞納しているケースが大半でした。しかし調査をすると、国保料を払っていながら、医療が受けられないという実態が見えてきました。窓口負担の軽減が急務 の課題になっています。
 調査で明らかになったのは、既存の社会保障制度を最大限使っても相談者たちが抱えている問題を根本的に解決できない、という実態でした。社会情勢の変化 の中で、医療を受けられない人の増大という事態が起きているのです。

「健康に生きる権利が奪われている実態を訴えなければ」

SW委員会委員長 庄司美沙さんのコメント

 今回の調査では、私たちが相談の現場でおおむね実感していたとおりの数字が出ました。困窮の度合いは深刻化し、保険証を持っていても、窓口負担の重さから医療を受けられないケースが一定数を占めていたのです。
 しかし予想外だったのは、それが稼働世帯に多かったということです。収入が安定しているかに見える人でも、病状が重篤になってから医療費の相談に来るケースもあります。
 「無料低額診療」を利用したケースは一二〇〇件にのぼりました。そこで見えてきた大きな課題は、無低が使えない保険薬局での薬代の負担です。SWが保険 薬局に対して、支払いを猶予してほしいと依頼することもあります。
 これらの実態は「国民皆保険」が機能していない現れだと感じています。
 また、機能していないのは医療保険だけではなく、社会保障制度全般です。特に病気の悪化を防ぐ「予防」の観点が欠落しています。たとえば、透析の患者さ んには身体障害者手帳が交付され、障害者施策が適用されますが、透析予備軍の糖尿病の方は該当しません。症状が進行した挙げ句の「障害」にならないと公費 医療の対象とはならないのです。
 税制改革の中で、大きく変わった低所得者向けの負担軽減基準の影響も出ています。たとえば基礎控除だけだと、月収が一〇万円弱でも非課税になりません。 都心など生活保護支給額の高い一級地に住んでいる場合、生活保護基準以下の収入でも課税されています。この問題に焦点が当てられることはまだ少ないのです が、課税世帯であるために、必要な医療や介護から遠ざけられている現状もあります。
 論議の途上にある、高額療養費制度の見直しについては、もっと弾力的な制度にしないと意味をなさないと考えます。まして、負担能力によって提供される医 療に差が生じるような枠組みは、憲法二五条を根底から覆すものです。
 医療にかかれないということは、健康に生きる権利(健康権)を奪われているということ。もっと現場から訴えなければなりません。SW委員会では、この調 査結果をもとに、社会保障のあり方を広く発信していきたいと考えています。

(民医連新聞 第1513号 2011年12月5日)

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