国民のみなさま

2014年3月3日

求めるのは「住民本位の復興」 息長く被災者に寄り添うために 座談会 宮城×福島×兵庫

  東日本大震災と福島第一原発の事故からまもなく3年。被災地の報道も、縮小傾向にあります。しかし被災地の現状は「住民本位の復興」とはほど遠いもの。ま してや、原発事故に関しては、収束にさえ届いていません。宮城と福島、そして来年で被災20年を迎える阪神淡路大震災の被災地・兵庫の3人が語り合いまし た。(木下直子記者)

出席者

岩田伸彦さん…阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議事務局長
鹿又(かのまた)達治さん…福島・桑野協立病院事務次長
花木かよ子さん…宮城・長町病院副事務長

被災地はいま 復興はまだ遠い

鹿又 僕はいまは事務職ですが、もとは放射線技師ですので、原発事故後は郡山医療生協がとりくむ核害対策に関わってきました。「核害」とはうちの坪井正夫院長が、「原発事故被害には水俣病などの公害と共通する構図がある」と、名付けた言葉です。
 福島の状況はご存じのように複雑で、ひと掴みではとらえきれません。今も一四万人が県外各地で避難生活を余儀なくされています。避難指示が出た地域の被 災者には補償が出ていますが、放置されている地域もあり、そのため住民同士の分断も生じています。「三年」というが振り返る余裕はなかった、というのが率 直なところです。
花木 三年はあっという間でしたね。長町病院(仙台市)も被災事業所なので、その対応と被災者支援を並行してとりくんできました。この三月二二日、壊れた附属クリニック跡地で新病院が開設になります。
 宮城でも、復興どころか復旧にも至っていません。いまも応急仮設住宅に三万七〇〇〇戸・九万人近くが入居しています(一月県統計)。復興公営住宅の建設 は遅れ、完成はわずか二%です。おまけに計画戸数が約一万五〇〇〇戸と全く足りていない。また被害の大きかった沿岸部ほど暮らしも生業も深刻で、「復興格 差」もあります。
 被災三県のうち、宮城県だけが被災者の医療・介護の窓口負担免除を昨年三月末で打ち切ったことは大問題でした。県が出せない予算ではなく、県議会でも打 ち切りノーの請願が全会一致で通ったのに「被災者が多い」という理由で知事が強行しました。数回の調査で、四割近くに受診抑制が起きていることも分かって います。これについては運動もあり、国が国民健康保険財政への交付金を拡充すると決めました。対象者を絞った上で、国保の医療費免除の再開を市長会が示し たところです。
岩田 阪神・淡路大震災は今年一月で一九年のメモリアルでした。私は兵庫民医連から復興県民会議に派遣されて今に至ります。当初は二〇年もこの運動を続けることになるとは思ってもみませんでした。お二人が「あっという間だ」と言うのは、よく分かります。
 神戸では、借り上げ公営住宅の追い出し問題が持ち上がっています。震災後、行政はURや民間の集合住宅などを借り上げて復興公営住宅にしたのですが、そ こを一昨年になって「二〇年で持ち主に返却するから」と、入居中の被災者に退去を要請してきたのです。
 年老いた被災者を住み慣れた土地から追い出すことは人道的にも問題です。その上、入居時に市の説明がなかった世帯もあると分かりました。復興県民会議は 住民でつくる借り上げ住宅協議会と共に継続入居の運動をし、自治体に継続条件を作らせるまできました。ところがその条件が管轄自治体ごとで違う。希望する 全員が入居継続できるよう求めていきます。
 他には、災害援護資金など被災者向けの各種融資の返済の問題も。東日本大震災の被災者向け融資には返済免除も設けられましたので、阪神・淡路でも実現させたいです。
 がれきに含まれたアスベスト曝露による健康被害も今後懸念されますし、震災で障害者になった人たちの存在も近年初めて調査し、浮かび上がってきています。

続く「住民無視」 命軽んじる政治

岩田 コンクリートに注ぐ税金を「人間復興」に振り向けてほしい。神戸市の長田区は副都心の位置づけで二七〇〇億円もかけて再開発しましたが、閑散としていて商店主たちも苦労しています。
花木 「ハード優先で命を軽んじる行政に怒りを感じる」 と、長町病院が健康相談会や気になる住民の訪問などで支援している仮設住宅の自治会長さんが最近もおっしゃっていました。仮設暮らしは過酷で、みなし仮設 と疾患別罹患率を比べると、生活習慣病が一・五倍だという調査もあります。
 宮城県は仮設住宅を地元業者に発注せず、プレハブ建築協会に丸投げしました。その結果、東北の冬への対策が不十分で、風呂の追い炊き機能や雨樋などの追 加工事をしなければなりませんでした。この追加工事に一戸あたり五〇〇万円。台所が車いすでは調理できない、浴槽が高くお年寄りが入れないなど直せない欠 陥もありましたが、結局一戸あたり計一〇〇〇万円もかけることになった。
鹿又 被災者に一〇〇〇万円渡す方がよほど有効だったので は? 「ゼネコンを入れて住民は無視」という構図は、阪神淡路の頃から変わっていないのですね。「大惨事につけこみ過激な市場原理主義改革がされる」と指 摘した『ショック・ドクトリン』(ナオミ・クライン著)が重なります。
 住民無視は、原発事故でも同じです。一月に全日本民医連が行った原発事故被害に関する省庁交渉に参加したのですが、われわれが生活再建への援助や健康不 安への対応、事故収束のために原発作業員の労働環境改善などを必死で訴えても、まったく噛み合わない答弁でした。
岩田 現状をどうやって社会問題にするか、ですよね。二〇 〇一年、日本政府では話にならんと、英語も話せない私がジュネーブの国連人権委員会に行き、阪神・淡路の被災者の困難を訴えたこともあります。その四カ月 後に国連社会権委員会から日本政府に「被災者支援策を拡充せよ」との勧告が出ました。
花木 日本政府の反応は?
岩田 「事実誤認だ」と主張した。ですから私たちは、勧告後の日本政府の対応も国連に報告しました。

復興は人権 「民医連ここにあり」と

岩田 震災直後は民医連が力を発揮する、これは行政も認めるところです。そして、被災者のその後に関わることが肝心です。宮城も、民医連が関わっていない被災者がどうか、気になるでしょう。
花木 気になります。大きなとりくみが必要だと。復興は、被災地だけの話でなく、国民の人権がどう扱われるかの問題ですから。
鹿又 「復興はいのちの問題だ」というスタンスでいきたい です。日本国憲法がないがしろにされつつある中ですから、なおさら。福島大学で復興を考えるゼミに参加しているのですが「住民に寄り添うことが大切」と話 し合っています。被曝への考え方の違いなど、住民同士の分断については「YESかNOか」で結論を持とうとせず、もっと倫理上の視点で語り合い、運動しよ うと。その点では半世紀かけて県民のたたかいをつくってきた沖縄に学ばなきゃ、とも思います。
 今後の見通しについては、核害対策室のアドバイザーの木村真三先生(獨協大学准教授)でさえ分からないと言う。ですが、全日本民医連の長瀬文雄事務局長 からは「アンテナ高く、起きたことに対応できる集団になろう」という提起をもらいました。後輩たちは素直で真面目なので、そういう職場をぜひつくって、核 害を受けたが、安心して住み続けられるまちづくりをめざしたいと思います。「郡山に民医連あり」と言われる活動をしたいです。この三年、全国の民医連から のささえで僕ら福島は踏ん張ってこられました。
岩田 二〇年先のことを考えているとくたびれますから、一 年一年やっていきましょう。私たち阪神・淡路の運動も東日本の被災地にも影響するという意識を強く持ってすすめています。実際、阪神・淡路の運動が、東日 本の被災者支援に結実したことも少なくありません。東日本の被災者には「ささえまっせ、いっしょにやりまひょ」と、思っています。
花木 ええ、力を合わせて。


 

資料)「震災関連死」 福島県で直接死上回る

 避難所生活の疲労や精神的ショックなどで亡くなる「震災関連死」が2月19日現在、福 島県で1656人になり、震災を直接の原因とする死者1607人を上回った。震災後の混乱で適切な治療が受けられず病状を悪化させたり、避難生活の中での 発病、自殺などを含む。約9割が66歳以上。阪神大震災(1995年)の関連死者数919人を大幅に上回る。原発事故の避難生活の厳しさが改めて浮き彫り に。
 東日本大震災の関連死は宮城県878人、岩手県428人(昨年11月末)。福島県では12年3月末現在で761人。同年8月に1000人、13年8月末現在で1500人を超えた。
 遺族が申請し市町村などが認定する。東日本大震災では福島県の場合、申請の約8割が認定された。

資料)阪神・淡路大震災

 1995年1月17日早朝に阪神および淡路島で発生した大地震。最大震度は7。
 死者6434人、行方不明者3人を出した。8割が家屋の下敷きになるなどの圧死。全半壊した住居は計24万9180棟約46万世帯。避難人数はピーク時 31万6678人。災害医療機関3カ所のうち孤立と全壊2カ所、医療機関の多くが機能停止する中、民医連事業所は全国の支援を受けながら不眠不休で患者を 受け入れた。
 この震災を機に、被災者援護に関わる施策も一定見直された。被災者生活再建支援法(98年成立、07年改正)や、福祉避難所の設置、仮設住宅への入居方 式、被災者援護資金返済方法の緩和など。阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議などの運動が大きな影響を与えている。
 「震災関連死」という概念もこの震災で初めてつくられた。復興公営住宅での孤独死も深刻で、2000年以降の総計は824人(1/12「毎日」)。

(民医連新聞 第1567号 2014年3月3日) 

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