民医連新聞

2011年12月5日

緊急連載 「社会保障・税一体改革」を読む (4)保育 「カネ次第」の新システム

 子育て世代が多く、女性の割合も高い医療現場。子どもの発達を保障し、安心して預けられる保育園は、心強い存在です。「社会保 障・税一体改革」は、保育のあり方を根本から変える「子ども・子育て新システム」(新システム)実施のための法整備を掲げています。新システムで「保育」 の現場はどう変わるのか―。(丸山聡子記者)

 今年四月、宮城県多賀城市でオープンした下馬みどり保育園(宮城厚生福祉会)。震災で建物 が被害を受け、仮設でスタートし、五月下旬に開所しました。「震災の影響で解雇されたり、自宅待機になった保護者もいましたが、今ではほとんどの保護者が 仕事を再開しました」と菅原和子園長。復興に奔走する保護者をささえています。
 新システムは、保育を「新たな産業」として市場に開放し、市町村の保育実施義務をなくすもの。「社会保障としての保育園の役割が果たせない」との懸念が噴出しています。

▼子どもを区別

 新システムでは、自治体が子どもの「要保育度」を認定し、保育料は利用時間によって決めます。認定の保育時間を超えた分は全額自己負担。要保育度により、一日保育園を利用できる、一日数時間しか利用できない、という具合です。介護保険制度と同様です。
 菅原園長は、「今は短時間労働の保護者の子でも午前九時から午後四時まで預かり、集団的な保育をしています。子どもごとに利用時間が異なると、給食を食 べる子と食べない子が出たり、散歩の途中で帰ったり、継続した保育は困難」と話します。

▼待機児は解消するの?

 多様な事業主体の参入促進や、小規模、家庭保育などの拡充で、「待機児童を解消する」とされている点にも問題が。
 設置は、面積や保育士の配置などを定めた最低基準を緩和した形となり、園庭もないビルの一角や、運動会や遠足など発達や季節に応じた行事ができないな ど、子どもの発達保障を担い切れない保育園の増加が懸念されます。待機児童がもっとも深刻な〇~二歳児の枠が増える保障はありません。
 新システムは、保育園経営にも影響します。利用実績に応じて保育料が払われる仕組みになるため、月ごとに収入が変わり、安定的な運営が難しくなります。
 保育料を負担できない保護者は、保育時間を短くせざるを得ません。「保育もカネ次第」です。利益優先となり、困難を抱えた家庭の子や障害や難病のある子が断られる心配も。
 菅原園長は、「すべての子どもたちにすこやかに成長する権利があります。親の収入や通う保育園によって、発達に差がついてはならない」と強調します。

▼院内保育所では

 東京・立川相互病院付属すこやか保育園は、ゼロ歳児から小学校三年生まで二四時間対応で職 員の子どもを見ています。「カンファレンスの間だけなので…」。午後五時半過ぎ、一歳の男の子を連れた父親が来ました。「長時間や夜間の利用もあるため、 より家庭的にきめ細かく保育しています」と、主任の萩原尚子さん。
 院内保育所として、公立や認可保育園がカバーできない時間の保育を受け持ち、不規則勤務で働く保護者をささえてきました。新システムで直接契約になれ ば、「使い勝手のよい保育園として利用されるようになるのでは?」と、案じています。「国や自治体が保育を市場に任せることは、子どもの発達保障の放棄。 保育は公的に守ってほしい」と訴えます。

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(民医連新聞 第1513号 2011年12月5日)

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