民医連新聞

2012年2月20日

過労死防止基本法とは 中原のり子さん(東京過労死を考える家族の会・代表)に聞く 日本の働き方を変えなければいけません

 過労死(KAROSHI)が国際語となって30年近くになります。現在「ストップ過労死! 過労死防止基本法の制定を求める実行 委員会」が100万人署名を集めています(全日本民医連も賛同)。なぜ今この運動なのか? 同実行委員会のメンバーで「東京過労死を考える家族の会」代表 の中原のり子さんに聞きました。(矢作史考記者)

守られていない労働者

 過労死防止基本法(案)は過労死弁護団全国連絡会議と過労死を考える家族の会で構成する実行委員会で作りました。
 日本の働き方を変えるように、次の三点について国に求めています。 
1、過労死はあってはならないことを、国が宣言すること
2、過労死をなくすための、国・自治体・事業主の責務を明確にすること
3、国は、過労死に関する調査・研究を行うとともに、総合的な対策を行うこと
 この法律を見て「労働基準法ではダメなのか?」という意見もあります。しかし、今の基準法は労働者を守れているのでしょうか?
 今の日本では、労働基準法が定める一日八時間、週四〇時間労働も十分に守られていません(図1)。
 「過労死」は、脳内出血や心筋梗塞などで、「働き過ぎが原因の死」と、精神的に追いつめられて自殺する「過労自死」があります(図2)。
 今、日本では一四年連続で三万人以上が自殺しています。その中にはきっと過労で自死している人も多くいるはずです。
 多くの人が長時間労働や劣悪な環境で仕事をしていても、声を上げられない状況にあります。また、過労死の場合、特定の疾患でなければ労災が認められないという問題もあります。
 「国が過労死をなくすような法律を作らないと、働く人のいのちと健康を守っていくことができない」と私たちは考えました。

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自死した小児科医の夫

 私の夫、中原利郎は都内の病院に勤務する小児科医でした。薬剤師の私と三人の子どもとの五人暮らし。
 仕事では自分には厳しいものの、患者さんに優しく「怒った顔を見たことがない」と言われていました。しかし医師不足の中、長時間労働で疲れ果て、病院で 自死しました。病院に当直に行く前夜、私たち家族に「仕事は辞める」と言っていました。
 事件後、患者さんからも励まされ、裁判で争うことになりました。民事裁判では労災が認定されたにもかかわらず、病院側の責任は「予見可能性が無かった」 として、問われませんでした。しかし、「まさか死ぬとは思わなかった」という言葉が、裁判でまかり通ることは許されません。
 医療従事者には、第二の中原利郎を増やしてほしくないと訴えたいです。 
 メディアは、医療ミスが起こると医療者側を責めるように報じますが、そこにある過重労働の実態には目を向けません。患者さんも、過労で倒れそうな医療者に、治療をしてほしいとは考えないと思います。
 患者さんのいのちを守る視点からも、医療者を増やし、今の働き方を見直す必要があります。この法律を通して、医療現場の改善にもつながっていけばと思います。

 私は、東京過労死を考える家族の会の代表をしながら、家族の思いを共有する場の提供や、労働組合を紹介したり、裁判支援をしてきました。
 しかし、私たちの会に入る人をこれ以上増やしたくありません。過労死が出てから支援するのでは遅すぎるのです。

(民医連新聞 第1518号 2012年2月20日)

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