いつでも元気

2014年3月1日

特集1 米軍に支配される日本の空 日本平和委員会・事務局長 千坂 純

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昨年12月16日、神奈川県三浦市に不時着した米軍ヘリ。全国どこでも同様の事故は起こりうる(写真=野田雅也)

 島根県浜田市にある旭町は、中国山地に囲まれた人口三三〇〇人の小さな集落だ。渓流沿いにこじんまりとした旭温泉の宿が三軒ほどあり、静かなひと時を過ごすにはもってこいの場所。
 ところが、特に二〇一〇年ごろから月に数日間、米軍機の激しい爆音が襲ってくるようになった。私が宿泊した「しろつの荘」のおかみさんは「すぐ頭の上の こんな低いところを、次々と襲うように飛んでくるの。機体の継ぎ目が見えるくらいよ」と、一気に語った。
 市の職員として、米軍機の飛行実態を調査する中心となっている白川敬さん(浜田市旭支所自治振興課)は、支所の建物のそばにある高さ一五〇メートルほどの小山を指して、こう言った。
 「あの陰から突然、機体が現れ、急上昇して飛んで行き、またしばらくして別のところから飛来して去っていくこともある」

恒常化する米軍機の騒音 泣き叫ぶ子どもたち

衝撃音におびえる子どもたち

 この集落には刑務所とその職員住宅があり、子育て世代の人口も多い。住民らは、米軍機が刑務所や「あさひ子ども園」、旭支所を標的にして飛んで来るように感じている。
 しかも米軍機の飛来はたいてい、数十分にわたって何度も繰り返される。たとえば、市が独自に設置した騒音測定器の記録では、昨年九月二八日一二時一五 分~一三時にかけて二〇回、一〇月二九日一八時五〇分~一九時三〇分にかけて一八回。つまり二分に一回の間隔で、米軍機が飛び回っている。
 昨年一月一五日には、米軍機による衝撃波が集落を襲い、民家の窓ガラスが破損した。その衝撃はすさまじく、「バグゥオオ~ン」という巨大な衝撃音とともに旭支所も揺れた。
 「墜落したのか」「何かが爆発したのか」と、住民を不安と動揺が襲った。「あさひ子ども園」では園児が泣き叫び、「園を壊さないで」と、子どもたちが職員にすがりついてきたと言う。
 「多くの子どもたちが耳をふさぎ、うずくまって泣いている」「怖くて家から出たくない。今日は飛行機が飛ばないといいなと話している」「中には精神的に 不安定になっている子どももいる」「夜遅くまで飛行音が聞こえ、生活にも支障をきたしている」「保護者から、『ここ数日はひどすぎる。何とかしてほしい』 と目を赤くしながら話をされた」
 騒音のたびに「子ども園」から、切実な訴えが寄せられる。(旭支所の記録)。
 米軍機による深刻な被害が恒常化するなか、浜田市は職員二六人を米軍機被害の情報収集員に任命し、実態の告発に努めている。また同様の被害を受けている 益田市、江津市、邑南町、川本町の首長や県知事と「米軍機騒音等対策協議会」をつくり、日本政府に米軍機飛行訓練の中止を繰り返し要請している。

米軍の許可がないと飛べない

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 戦後六九年経った「独立国」日本で、なぜこんな事態がまかり通るのか。
 それは日米安保条約と、そのもとに結ばれた日米地位協定にもとづいて、米軍が日本の空を支配しているからだ。
 浜田市を含む島根県西部と広島県北部の山間地で実施されている米軍機訓練は、この上空に設定されている自衛隊の訓練空域(高高度訓練空域「エリアQ」と 低高度訓練空域「エリア7」が重なり合っている空域)でおこなわれている。
 しかもこの空域は山口県の米軍岩国基地が航空管制をおこない、米軍機を優先させる「岩国進入管制空域」(岩国エリア・図1=黄色の部分)とも重なっている。
 岩国エリアは日米地位協定にもとづいて設定され、島根県沖から愛媛県までの広大な空域を支配している。民間機はこれを避けて飛行しなければならない。松 山空港(愛媛県)はこの岩国エリア内にあるので、同空港への離発着は米軍の許可がなければできない。
 米軍は岩国エリア内にある自衛隊訓練空域を独占して、傍若無人な戦闘訓練をおこなっているのだ。
 同様の米軍機訓練がおこなわれている場所がもう一つある。群馬県の前橋市・渋川市・高崎市など、県中央部に広がる自衛隊高高度訓練空域「H」、低高度訓 練空域「エリア3」だ。ここも米軍横田基地が管制する広大な「横田進入管制空域」(横田エリア・図2=同じく黄色)に重なっている。
 羽田空港や成田空港を離発着する民間機はこの広大な空域を避けることを迫られ、きわめて過密で危険な飛行を強いられている。この横田エリアに重なる自衛 隊訓練空域を、横須賀基地(神奈川県)に配備されている空母艦載機を中心に米軍が使用し、市街地上空での戦闘訓練をくりひろげている。
 前橋市の人口三三万人、高崎市は三七万人、渋川市は八万人。このような人口密集地上空で戦闘訓練をくりひろげることの異常さは、説明を要しないだろう。
 被害も深刻で、防衛省の記録でも、米軍機の飛行に関する苦情件数一八六二件(沖縄を除く三四都道府県、二〇〇七年~二〇一三年)のうち、七割(一三一三件)が群馬県に集中している。
 「こういう事態を放置するわけにはいかない」と、群馬県や前橋市などの自治体も市街地上空における米軍機飛行訓練の中止を求めている。しかし日本政府は、中止させる意志を示していない。

空を取り戻すために安保破棄を

米軍基地を日本のどこにでも置ける

 一九五二年四月二八日に発効した軍事同盟である日米安保条約は、「我々が望む兵力を、(日本国内の)望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保すること」(米側の条約交渉担当者・ダレス国務省顧問。一九五一年一月二六日)を最大の目的に結ばれた。
 そのために日本のどこへでも米軍基地・演習区域を置くことができる「全土基地方式」を取った。アメリカが占領中に日本全国に置いた米軍基地を、そのまま 使い続けられるようにしたのだ。それが今日も人口密集地のど真ん中で爆音と墜落の恐怖をまき散らす普天間基地(沖縄)や横田基地(東京)などが存在する理 由だ。
 しかも米軍は、占領軍のような治外法権的特権を今もあたえられている。たとえば米軍機は、日米地位協定にもとづく航空法特例法によって、民間機には適用されているさまざまな義務を免除される。
 免除されるものには、最低安全高度の順守、飲酒・麻薬使用者・心身障害者の操縦禁止、出発前の安全確認義務、危難の場合の報告義務、飛行禁止区域の順 守、速度制限の順守、衝突予防義務、編隊飛行の禁止、粗暴操縦の禁止、爆発物の輸送禁止、物件の曳航・投下、落下傘降下の禁止、曲技飛行の禁止など、さま ざまなものが含まれる。

演習空域外でも訓練が

 ところで日本政府は現在、演習区域外でも米軍機が訓練することを認めている。もともとは日本政府も「演習は演習区域内に限る」としていたのに、だ。
 一九六〇年五月一一日、衆院日米安保条約特別委員会において、赤城宗徳防衛庁長官は「米軍は上空に対しても、その区域内で演習する。こういう取り決めとなっている」と発言している。
 丸山佶調達庁長官も「空軍の演習の場合には、演習区域というものを指定している。したがって、その演習は、その上空においてのみおこなわれることになる」と言っていた。
 それが、次のように変わってきた。
 「空対地射撃などを伴わない単なる飛行訓練は、…我が国領空においては施設・区域上空でしか行い得ない活動ではない」(外務省「日米地位協定の考え方」増補版、一九八三年一二月)
 「日米地位協定に特段の規定がなくても、軍隊の通常の活動に属すると思われる行動については、米軍が駐留を認められている結果として当然認められるべき ものである」(一九八八年二月二三日、衆院予算委員会、斎藤外務省条約局長)
 「戦闘即応態勢を維持するために必要とされる技能の一つが低空飛行訓練であり、これは日本で活動する米軍の不可欠な訓練所要を構成する」(外務省「在日米軍による低空飛行訓練について」一九 九九年一月一四日)
 こうして日本政府は、米軍による演習場外での低空飛行訓練を公然と認めるようになった。各地で日本の航空法に定められた市街地上空三〇〇メートルという 最低安全高度が破られているが、政府は「米政府も守ると言っているから守っているはず」の一点張りで、是正させようとはしない。

オスプレイが全国にやってくる

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 さらに低空飛行訓練をおこなうルートは、米軍が勝手に決めている。
 沖縄の普天間基地に新型輸送機オスプレイが配備される際、米軍は初めて六つの低空飛行ルートがあることを認めた(図3)。しかしあくまでも「基本」で、それ以外でも訓練するというのが米軍の立場だ。全国どこでもオスプレイなどの米軍機訓練がおこなわれる可能性がある。
 オスプレイは開発以来、すでに九回墜落し、三八人もの乗員の命が失われた「空飛ぶ棺桶」とさえ呼ばれる欠陥機だ。回転翼機の場合、エンジンが止まった際 でも揚力を使って翼を回転させ続け、不時着する機能(オートローテーション機能)を持つことが義務づけられている。
 オスプレイにはこの機能がない。エンジンが停止すればまっさかさまに墜落してしまうため、本来、日本の航空法では飛行が認められない。だからこそ、沖縄県民はこぞって全機撤去を求めている。
 現在、沖縄に配備されたオスプレイ二四機の訓練が「沖縄の負担軽減」の名で、全国に拡大されようとしている。
 だが、これは「沖縄の負担軽減」のためではない。本土での訓練は、配備当初から計画されていたことだ。米軍の文書「環境レビュー」にも、「遠征地におけ る海上または陸上拠点からの運用、強襲支援及び航空退避のための戦闘能力をつけるために必要だ」と、演習の全国展開の重要性が明記されている。
 森本敏元防衛大臣も、著書『オスプレイの謎。その真実』(海竜社)で、オスプレイが、アフガニスタンやイラクへの侵攻のような海外侵攻作戦のために開発 されたと認めている。海外で戦争するための訓練によって、日本国民の暮らしや健康、命を脅かすなど許されない。
 日本の空を米軍が支配する異常な構造をなくすためには、その根源である日米安保条約を廃棄しなければならない。

いつでも元気 2014.3 No.269

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