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2014年5月5日

相談室日誌 連載369 〈侵食される生存権〉 生保申請から決定まで10カ月 島邊洋平(岐阜)

他市に在住する女性から、同僚の相談員あてに連絡がありました。あいにく不在だったため、代わりに話を聞きました。同僚とは自治体交渉の場で顔見知りになり、相談をしていたようです。「弟の生活保護申請を、行政が受け付けてくれない」という話でした。
弟さんは七〇代で独居、借金を抱えて離婚していました。子どもたちとも疎遠で、今回の相談者であるお姉さんが何年も前から金銭援助をしていました。借金 も解決することができました。ところがお姉さんは年金暮らし、最近夫を亡くしたことでその援助が難しくなりました。やむなく生活保護の申請に昨年六月、弟 といっしょに市役所へ行きました。ところが、いつまでたっても市から返事は来ません。今年二月に市役所に問い合わせたところ、「まだ申請はされていない」 との返答。市役所へ詰め寄り、二月半ばになってようやく市職員が弟宅を訪問、生活保護申請に至りました。
相談(申請)に行ってから決定までになんと一〇カ月もかかったのです。話はこれだけにとどまりません。生活保護申請後も、お姉さんに「扶養義務照会」の 書類が届きました。生活保護法だけでなく、民法を根拠にした扶養義務の必要性が記載されていました。お姉さんは、それを見て心配でたまらないといった様子 でした。そもそも扶養義務者による扶養は保護の前提条件とはされていないはずです。
生活保護申請に行ったのに、行政は申請したかどうかさえ明確にせず、音沙汰も無く放置される―。この弟さんの場合は、しっかりしたお姉さんがいたため、 無事に生活保護申請にたどりつくことができました。しかし、頼れる人がいなかった場合、一体どうなっていたのだろう、と考えるケースでした。
今の日本の政治は、社会保障の「公的な責任」を放棄し、「自助」・「共助」へシフトしようとしています。それは結局、経済的負担や介護を家族や地域へ押 し付けることにほかなりません。本当に必要なのは、家族や地域との関係をより良くし、必要な時は適切に制度を活用できる政策です。

(民医連新聞 第1571号 2014年5月5日)

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