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2014年5月1日

特集1 「激突」の情勢のもとで飛躍誓い合う 2/27~3/1・長野 全日本民医連第41回定期総会

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岸本啓介さん
 全日本民医連事務局長。1962年生まれ。安井病院(現・京都民医連第二中央病院)事務長、京都民医連中央病院事務長、京都民医連事務局長、全日本民医連事務局次長などを経て、現職。

 二月二七日~三月一日、全日本民医連第四一回定期総会が長野市で開かれまし た。代議員六〇三人が参加し、新しい福祉国家を展望する国内外の運動の「架け橋」になることや、民医連の「飛躍」を掲げた今後二年間の運動方針を採択しま した。ポイントを今総会で新事務局長に選出された岸本啓介さんに聞きました。 (編集部)

─総会では、今は「激突」の情勢だと強調されましたね。
 単なる「激動」ではなく、「激突」としたのは、理由があります。安倍政権は人権を制限し、「戦争する国づくり」に突き進んでいます。憲法改悪・消費税増 税・社会保障改悪・原発推進・TPP参加など、「暴走」は深刻ですが、昨年末、秘密保護法案に反対する人たちが国会を包囲したように、国民の反撃の輪も広 がっています。だからこそ今日の情勢を「激突」と強調しました。困難を引き受けてたたかう民医連の決意でもあります。
─名護市長選挙(今年一月)の勝利は記憶に新しいところです。
 名護市長選挙では、辺野古の新基地建設反対を掲げる稲嶺進さんが再選を果たしましたが、民医連もやんばる協同クリニック(名護市)の職員とともに、全国支援をおこない奮闘しました。
 実は二〇〇二年の名護市長選挙では、新基地建設反対派が容認派に大差で負けていました(グラフ)。しかし市長選ごとに差が縮まり、二〇一〇年に逆転し、今回の選挙で差はさらに広がりました。
 また、民医連は二〇〇四年以降、三一回の「辺野古支援・連帯行動」をおこなってきました。のべ一八〇〇人の職員が辺野古を訪れ、オジー・オバーの思いを 聞き、美しい自然を直接体感して「基地はつくらせない」との決意をかためた。このことが市長選の全国支援にも生きたと思います。
 安倍政権のめざす方向は、国民が望んでいる方向とは真逆です。国民が力を集めることができるならば、大きく前進する可能性を秘めた時代でもある。このことが代議員の確信になったと思います。

名護市長選での基地容認派・反対派得票数
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総会スローガン

●平和憲法のもと、戦争をしない国の歴史を守り抜き、新しい福祉国家を展望する国内外の運動をつなぐ架け橋となろう
●誰もが安心して住み続けられるまちづくりとあるべき「地域包括ケア」の実現めざし、すべての事業所と共同組織の中長期展望をつくりだそう
●新しい時代に対応し、民医連らしさにこだわり、健康権実現・生存権保障を担う医師をはじめとする職員育成を旺盛にすすめよう

権利としての社会保障を

─無料・低額診療事業(注1)の実践も広がりました。
 民医連は二〇〇六年以降、全事業所での無料・低額診療事業の取得に挑戦してきました。今では民医連における同事業の認可施設は三四〇に達し、日本全体の 六割を占め、のべ二三万六〇〇〇人が民医連の事業所で適用を受けています。
 同事業の適用患者さんが保険薬局で薬を処方された場合に減免対象とならない問題でも、薬の窓口負担を補助する条例が高知市、旭川市、青森市で実現し、今年四月からは苫小牧市で始まっています。
 今総会では、この無料・低額診療事業をさらに進めて、「受療権を守り、権利としての社会保障充実をめざすたたかいに位置づけよう」と提起しています。
 昨年、全日本民医連ソーシャルワーカー委員会が調べたところ、医療・介護費用の相談に乗った人たちの約半分が、生活保護基準以下で暮らしていたことがわ かりました。生活保護を受給できるはずの人が放置されているのです。
 国民健康保険法にも“特別の理由で、医療費の一部負担が困難な人に対して、市町村は減額もしくは免除できる”とする第四四条がありますが、減免条例を定 めている自治体は全体の約六割にすぎません。しかも条例があっても、ある市では▽保険料完納、▽前年比で収入三〇%以上減、▽かつ実収入が生活保護水準の 一三〇%以下となっているなど、ハードルが高すぎて困窮者を救える制度になっていません。
 これらの現状を打開するため、医療・介護費用の相談に訪れた方々の事例をもとに社会保障制度の問題点を告発し、改善につなげる。その運動に、無料・低額 診療事業を位置づけることが重要です。

運動方針学び、中長期の展望を

国内外の連帯を広げて

─前回の総会(二〇一二年)で提起された「日本の将来を決める運動の『架け橋』」になるとりくみも進みましたね。
 「架け橋」の一環として提起した「地域から『医・食・住・環境』の再生をめざすシンポジウム」も、長野県や沖縄県を皮切りに各地でとりくまれてきまし た。医師会などの医療関係者、農業協同組合、自然エネルギー普及業者、自治体職員、小中学校教員など、幅広い人々との共同で成功しています。特徴は協力を 呼びかけてみると「壁がない」ことです。
 今総会でも「架け橋」の方針は、「新しい福祉国家を展望する国内外の運動をつなぐ架け橋となろう」という方針に引き継がれています。国内はもちろん、国 外の人々とも手をつなぐ。昨年は脱原発にとりくむ韓国の人たちや、医療における格差とたたかうフランスの医師たちとも交流を深めました。
 全日本民医連は今、国連NGOの資格取得に向けてとりくんでいますが、これも営利優先の新自由主義に対抗し、人が人として大切にされる世界をめざす国際的な連帯を視野に入れた挑戦です。

4つの重点課題

─民医連の「飛躍」を掲げたねらいは。
 「飛躍が必要」と言うと、「今までダメだったのか」という意見もありましたが(笑)、そうではなく、これまでの民医連の実践を確信にしながら飛躍すると いうことです。特に次の四つを飛躍が求められる重点課題としました。
 第一に、民医連運動を担う医師の確保と養成です。今期(四一期)最大の課題として、県を越えた医師研修を含めた「オール民医連」の力でとりくみます。
 医師数の確保はもちろん、民医連らしい人権の守り手としての医師を育てることでこそ本当の飛躍がかちとられます。
 第二に「団塊の世代」が七五歳を迎える二〇二五年に向けた中長期計画を全法人・事業所で持つことです。たとえば政府が進める「地域包括ケア」(注2)は、自助・自立を基本に国の医療・介護に対する責任を縮小するものとなっています。民医連はこれと対峙し、必要な医療・介護が切れめなく保障される無差別・平等の「地域包括ケア」をめざします。
 社会保障改悪・消費税増税・少子高齢化・貧困の拡大などのもとで、地域で事業所がどのような役割を果たすべきなのか、共同組織とともにしっかりと分析して、先を見通した事業計画をつくります。
 第三に、共同組織の「飛躍」です。餓死・孤立死の報道も相次いでいるように、貧困・孤立は私たちの想像を超えて広がっていると思います。
 共同組織は、これまでも孤立を生まないための「居場所づくり」に旺盛にとりくんできました。その共同組織を質・量とも発展させ、職員も積極的に参加し て、今一度「安心して住み続けられるまちづくり」のために何が求められているのか、探求・実践しましょう。
 第四に、管理運営の水準を高めるとともに、幹部・中間管理職・職員などの担い手を育てることを掲げました。
 以上の四つを二〇二五年に向けて一体のものとしてとりくむということです。

【注2】住みなれた地域で暮らし続けられるように医療・介護・住まいなどを一体に提供すること。中学校区ごとに進められる。

民医連の教育力発揮を

─「人間的な発達ができる」職場づくりという方針にも注目が集まりました。
 ある事業所の研修で、二年目の事務職員がこんな感想を残してくれました。
 「自分は競争社会のなかで育ち、常に勝ち組か負け組かを意識して生きてきた。民医連に就職して、そういう感じの仕事が始まるのかと思ったら、人間を大切 にする職場だった。(中略)しかも地域のなかで本当に困っている人たちのために、口先だけではなく本気で活動している。民医連に入ってよかった」
 この感想は若者が低賃金で使い捨てにされる「ブラック企業」の現状を示すとともに、民医連の教育力を示しています。
 民医連は「無差別・平等の医療・福祉」を掲げ、すべての人たちが等しく尊重される社会を目標とする組織だからこそ、めざすものと職員や共同組織の仲間の 働きがい・やりがいを一致させることが可能な組織だと思います。先ほどの職員の感想も、民医連が大事にしてきた「もっとも困難な人々の視点」にもとづく実 践にふれ、成長したことを物語っている。
 「ブラック企業」が横行する今だからこそ、人としての成長・発達を可能とし、「働いていてよかった」と感じられるような職場づくりをすすめたいと思います。

全国で、地域で大飛躍を

─最後に、読者にメッセージを。
 今期は二〇二五年に向けたスタートを切る重要な二年です。職員と共同組織がともに運動方針を学び、自分たちに求められる課題をじっくりと話し合って実践してほしい。
 私も事務局長に選出され、身の引き締まる思いです。組織の力が一〇〇%発揮されるような運営を心がけ、職員・共同組織の仲間とともに、全国で、地域で、大飛躍をつくっていきたいと思います。

写真・五味 明憲

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『いのちの格差を是正する』

 人権としての医療・介護保障めざす提言(全日本民医連=著/新日本出版社1300円・税別)。この提言を力に、健康権・生存権保障を求める共同を広げることも総会で確認された。

民医連らしく平和と人権にこだわって

総会の発言から

民医連総会での代議員の発言を一部紹介します。

支援を得て市長選挙勝利

 沖縄・やんばる協同クリニックの看護師長・松田律子代議員は、辺野古の新基地建設反対を掲げた稲嶺進さんの名護市長選勝利(今年一月)を報告。
 二〇一一年の同クリニック誕生後、初めてとなる市長選挙で、職員四人・組織担当者一人の診療所で不安を抱えながらも、共同組織拡大強化月間で住民との地域懇談会などのとりくみに力を尽くしました。
 一二月以降、稲嶺候補を支援する活動では県外四一県連から応援も受け、地域の医療生協組合員からも「民医連ががんばった」との声が寄せられたことが紹介されました。

「架け橋」の実践広がる

 埼玉の川嶋芳男代議員は、共同を広げる「架け橋」の実践として、シンポジウム「健やかに育てよう埼玉の子」のとりくみを報告。埼玉民医連六〇周年 の記念事業として開催され、朝日新聞記者の中塚久美子氏の基調講演の後、小中学校の教諭や県社会福祉課の職員などを招いておこないました。
 埼玉県や教育委員会、医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、農業協同組合(JA)など三二団体が後援。川嶋さんは、突然の訪問にも快く応じて後援を検討してくれた団体が多かったことや、チラシ配布・宣伝に協力してくれた団体もあったことなどを語りました。

脱原発・エネルギー政策転換を

 島根原発を抱える島根の錦織美智枝代議員は、豊富な再生可能エネルギーを活用する「島根県エネルギー自立地域推進基本条例」(通称・みどりのエネルギー条例)の制定を求める運動を紹介しました。
 署名は昨年一〇月下旬から二カ月間とりくまれ、松江保健生協も実行委員会に加わって、県有権者の一六%にあたる九万筆が集まったことが報告されました (条例制定の請求に必要な署名数は二%)。そのうち、松江保健生協が集めた署名は一万筆。このとりくみは、東京新聞で報道されるなど反響を呼びました。
 岡山の太田仁士代議員は、「岡山県民医連福島原発事故被災者支援基金」を設け、同基金に申請した原発被災者は、自己負担一万円のところを五〇〇〇円で健 診を受けられるようにしたとりくみを発言。岡山協同病院や水島協同病院で健診をおこない、半年間で六四人が同基金を利用したことが報告されました。

被災地苦しめるアベノミクス

 宮城・阿南陽二代議員は、東日本大震災からの避難者が住む仮設住宅での健康相談会で、「受診するお金もない」からと血圧・血糖の測定を拒否する人がいることを紹介。
 宮城県では昨年三月に被災者の医療費免除を中止し、今年四月から復活させることが決まったものの、「被災者のなかでも低所得の人に対象を限定するなど、問題点も多い」と告発しました。
 また、漁業を営利企業に売り渡す「水産特区」や被災者の遺伝子データを集積するメディカルバンク構想などの問題点を指摘。「アベノミクスは被災地をさらに苦しめる」と語りました。

命を守り、寄り添う

 東京・谷川智行代議員は、中野共立病院・共立診療所職員有志の「街頭なんでも相談会」を紹介。二〇一〇年一〇月から月一回の相談会を中野駅前のロータリーで実施し、今では中野区の後援も受けています。
 毎回一〇~二〇人の職員が参加し、医療費や生活困窮などの相談にのるなかで、「病院では忙しくてイライラしているのに、ここでは『たくさんの人に相談に来てほしい』と思う。なぜだろうと考えさせられる」など、職員の成長の場にもなっていることが語られました。
 埼玉・鹿野睦子代議員は、無料・低額診療事業を始めた大井協同診療所のとりくみについて発言。七〇代女性への同事業適用がきっかけで、クーラー・電話・ 冷蔵庫・洗濯機のいずれもない生活の支援や、一五年以上音信不通だった次男に連絡をとるなどして奮闘。鹿野さんは「医療費の免除のみではなく、困難を抱え て生きている患者さんの心と体に寄り添って、困難をひとつひとつほぐしていくことが、希望を見いだすことにつながると実感できた」と語りました。
 北海道・小田原剛代議員は、十勝勤医協友の会の見守りネットワークの実践を報告。活動が認められ、帯広市の要請で地域の企業・団体が加入する「気づきネットワーク」にも参加しています。
 「地域から孤立者を生まないために」と一一五〇世帯を見守るネットワークづくりのなかで、アパートの大家をしている友の会員から「三日間ご飯を食べてい なくて、フラフラしている人がいる。診てほしい」との連絡が。部屋のガス・水道・電気などがすべて止められていることもわかり、生活保護につなげた事例な どが話されました。

集団で育ち合う

 香川・原田真吾代議員は、高松平和病院における若手医師の養成について報告。二年前より専門研修を再開して、民医連内外の病院に半年から一年単位での専門研修に出していることなどが語られました。
 「研修先では研修風景をつづった通信をつくり、研修に出る側も出す側も意識し合える雰囲気づくりに一役かっている」と原田さん。集団づくりにも力を入 れ、専門研修に出向している医師のもとに若手医師らがおしかける「若手医師旅行」などのユニークな実践も報告され、総会参加者の注目を集めました。

いつでも元気 2014.5 No.271

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