介護・福祉

2014年6月2日

学ぼう!総会方針 (5)地域包括ケア 誰もが安心して暮らせる“あるべき地域包括ケア”とは

  全日本民医連は第四一回総会スローガンで「誰もが安心して住み続けられるまちづくりと、あるべき地域包括ケアの実現をめざし、すべての事業所と共同組織の 中長期展望をつくりだそう」と掲げました。地域包括ケアについて、全日本民医連介護・福祉部の林泰則次長の解説です。(新井健治記者)

安上がりで効率的なシステム
政府の地域包括ケアの狙い

 高齢化がピークを迎える二〇二五年に向け、政府は「地域包括ケア」を本格的に推進しようと しています。地域包括ケアは「住み慣れた地域(徒歩三〇分圏内、中学校区)で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予 防・住まい・生活支援が一体的に提供されるシステム」と定義されています。
 定義自体は大切ですが、額面通りに受け取ることはできません。政府が地域包括ケアに込めた本当の狙いは、高齢化に伴い増大する医療費・介護給付費を徹底 的に削減、足りない分は家族の力や地域の助け合い、自費で民間サービスを購入して対処するしくみをつくりあげようとしているからです。

国民の願いを逆手にとる

 政府は「社会保障・税一体改革」で「二〇二五年の医療・介護の将来像」を打ち出しました。高度急性期病床を頂点に、在宅に大きく裾野を広げたピラミッド型の医療・介護提供体制です(図1)。
 図の下方に行くほど公的保障の度合いが薄くなり、保険外サービスに委ねることが可能になります。「入院から在宅へ」「医療から介護へ」、さらに「介護か ら市場・ボランティアへ」と誘導、安上がりで効率的なシステムをつくろうとしています。
 病床機能の再編を「川上」、地域包括ケアの実現を「川下」と表現。「住み慣れた地域で最後まで」という国民の願いを逆手にとり、あたかも水が流れるように「在宅へ、在宅へ」と患者を押し流そうとしています。
 川下の地域包括ケアについて「自助・互助・共助・公助」の役割分担が強調されています。まずは本人・家族の責任で対応し(自助)、何かあったらボラン ティアや住民の助け合いでまかない(互助)、それでも足りない場合は介護保険に代表される共助で、どうしてもダメなら最後に生活保護などの公助でと説明。 「順番を間違えるな」と繰り返しています。
 政府は植木鉢に例えて地域包括ケアのイメージ(図2)も 示しました。一見するとバランス良く見えますが、実際にやろうとしているのは「医療・看護」「介護・リハ」「保健・予防」は効率化・重点化で公費削減、 「生活支援サービス」はボランティアや民間企業で対応、「すまい」は住宅市場で自己調達、「マネジメント」は公的制度を使わせない「自立」支援が基本で す。さらに、土台(皿)に「本人・家族の選択と心構え」を据え、「孤独死を当然視した死に際の覚悟」(地域包括ケア研究会報告書二〇一三年版より)を国民 に求めています。

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“追い出し”と“打ち切り”

 一連の改革の第一歩が、国会で審議中の「医療・介護総合法案」です。狙いは医療・介護費の 抑制で、柱の一つが病床数削減と入院日数短縮を前提とする病床機能の見直しです。また、都道府県が機能別の病床数を定めた地域医療ビジョンを策定し、従わ ない病院にはペナルティーも課します。
 病床再編の先取りとして実施されたのが四月の診療報酬改定。今後二年間で「7対1病床」(患者七人に看護師一人、三六万床)を九万床減らすとともに(最 終的に半減)、あらゆる病床から在宅に移す誘導策が盛り込まれました。
 二つ目の柱は地域包括ケアに対応した介護保険の見直しです。(1)要支援者の訪問・通所介護を市町村に丸投げ(2)特養入所対象を原則要介護3以上に限 定(3)一定以上の所得がある場合は利用料二割化(4)施設入所者の費用軽減制度の縮小など、病床再編で在宅需要が増大することを回避するために、かつて ない“介護給付費削減メニュー”が並びました。
 重症患者を強引に在宅へ押しやる一方で、在宅介護サービスは後退、施設にも入れさせない。政府自身が掲げた地域包括ケアの定義とは真逆の改革です。
 「入院は追い出し」「介護は打ち切り」という法案の内容は、医療と介護の根幹を突き崩す大改悪。孤独死やNHKが放送した「老人漂流社会」に象徴される ように、「住み慣れた地域で」「当たり前に暮らし続けること」は、現状でも困難です。政府はその問題を放置したまま、国民に「自助・自立」(=自己責任) をいっそう押しつけようとしています。これでは地域包括ケアならぬ「地域崩壊ケア」ともいうべき事態をもたらしかねません。

無差別・平等 まちづくり
私たちがめざす地域包括ケア

 民医連がめざす「あるべき地域包括ケア」とは、「お金のあるなしに関わらず、必要な医療・ 介護が連携して、同時にかつ切れ目なく保障される無差別・平等の地域包括ケア」(四一期運動方針第五章三節)です。また、「誰もが安心して暮らせるまちづ くり」としての地域包括ケアです。民医連綱領の実践であり、「全ての活動を共同組織とともに」の視点で推進する課題といえます。
 住民本位の地域包括ケア実現に向け、(1)制度を変えるたたかい(2)地域の要求に応える法人の中長期計画の二点について述べます。

制度を変えるたたかい

 医療・介護・社会保障制度の充実は、あるべき地域包括ケアの前提です。「本人・家族の選択と心構え」の強制ではなく、憲法二五条に基づき「国の責任と覚悟」を求めていかなければなりません。
 医療・介護総合法案など制度改悪を許さず、民医連の「人権としての医療・介護保障めざす提言」を携え、社会保障や地域包括ケアの本来的なあり方について、さまざまな個人・団体と対話・共同を広めましょう。
 地域包括ケアの推進主体は市町村で、今後は地域でのたたかいが焦点となります。現在、各市町村は地域包括ケア計画の策定作業を本格化させています。一 方、政府は、「良い地域包括ケアと悪い地域包括ケアができる」(厚労省幹部)と自治体間格差を当然視しています。地域の実態と要求に基づく具体的提案を行 い、自治体の計画に反映させることが重要です。

中長期計画の策定

 総会方針では二〇二五年を見据えた中長期計画の策定を提起しました。各地で本格的な検討が 始まっています。地域に何が必要とされているのかをよく分析し、法人の立ち位置や新たに獲得すべき役割・機能を明らかにしながら、保健・医療・福祉・まち づくりが一体となった総合計画をつくりましょう(下図)。特に病床機能再編への対応と、在宅分野の総合的強化の両立が焦点です。
 地域包括ケアがおおむね中学校区を想定していることから、身近な生活圏域を単位とした発想が必要です。中学校区が一〇あれば、求められる地域包括ケアも 一〇通りになります。各中学校区には共同組織の班や支部が対応していると思います。共同組織と協力しながら、地域分析と中長期計画づくりに生活者の視点を 反映させることが大切です。
 これまで民医連が実践してきた保健・医療・福祉の総合的な展開や住まいづくり、HPH、多職種協働、共同組織の「最後まで、安心して住み続けられるまち づくり」のとりくみは、あるべき地域包括ケアの先取りともいえます。
 地域包括ケアをめぐり、政府が狙う方向か、それとも住民本位の方向か、“激突とせめぎ合い”の情勢がこれから本格化します。これまでの到達点に立ち、高 齢化の進展や貧困・格差の広がりに向き合い、地域の期待や新たな要求にいっそう総合的に応えていく「たたかいと対応(提案と創造)」の視点が求められてい ます。

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(民医連新聞 第1573号 2014年6月2日)

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