医療・看護

2014年6月2日

選択療養制度とは? 「混合診療」解禁の危機 全日本民医連・石川徹国民運動部長に聞く

 政府の規制改革会議は三月二七日、事実上の混合診療解禁となる「選択療養制度(仮称)」を提案しました。日本医師会や患者団体、 保険者の団体も反対しています。何が問題で、どうしてこのようなことが狙われているのか、全日本民医連国民運動部長の石川徹副会長(医師)に聞きました。

混合診療、日本ではNG

 日本では、「国民皆保険制度」の下、保険診療といって健康保険で行う診療の範囲や価格を国で決めています。どの病院、診療所に行っても同じ金額で同じ医療が受けられるのはこのためです。
 「混合診療」はこの保険診療と健康保険で認められていない診療(自費・自由診療)を同時に行うことをいいます。健康保険の範囲内の分は健康保険でまかな い、範囲外の分は患者さんがすべて自費で支払うことになります。現在、日本では混合診療は原則として許可されておらず、保険内と保険外の診療を同時に行っ てはいけないというルールになっています。
 混合診療の問題点は、お金のある人とない人との間で、受けられる医療に差が出てしまうこと。医療や介護は、健康や命という一番大切なものを扱います。お金の有無で差別されることがあってはなりません。
 さらに自由診療は料金設定が“自由”ですから、製薬企業が新薬の保険適用をいつまでも求めず高額な料金のままにして儲けを大きくしようとするかもしれま せん。また公的な保険給付費を抑えたい政府が、新しい治療をいつまでも保険適用にしないということも考えられます。またなにより、保険診療外の診療の有効 性や安全性が明確でなく、患者さんに深刻な健康被害が生じてしまう危険性があることが問題です。
 現在、混合診療が例外として認められているのは次の二つです。一つは「先進医療」や「医薬品、医療機械の治験」など高度で新しい治療(評価療養)。将来 的に保険診療の範囲に組み込むかどうか評価するものです。もう一つは室料差額や予約診療など将来的にも保険診療にしないとしているもの(選定療養)です。

選択療養制度とは

 混合診療は規制改革会議以外でも、政府の経済財政諮問会議や産業力競争会議などでたびたび取り上げられてきました。そして昨年一〇月には閣議で「保険外併用療法」の拡充が決定されています。そんな中、規制改革会議が「選択療養」制度を提案したのです。
 この選択療養とは現在の評価療養や選定療養とは別に、自費診療について「個々の患者が希望する診療について保険診療との併用を認める」というもの。医療 機関や医療行為、薬剤などについての限定はなく、選択療養にするかどうかは患者さんと医師間の診療契約書などをもとに「極めて短時間に判断できる仕組みと する」などとしています。保険適用の前提にもなっていません。

患者団体も反対

 これは、まさしく混合診療の「全面解禁」です。有効性や安全性が確かめられていない医療行 為や薬剤が「患者の希望」により保険診療の現場へ自費料金で持ち込まれようとしているのです。ですから規制改革会議が推進の口実にする患者さん、難病の患 者団体やがん患者の団体も選択療養に反対を表明しています。「患者さんのため」というなら、難病や抗がん剤治療はじめ高額になる医療費の助成制度を拡充 し、患者さんの自己負担割合を軽減する政策を検討すべきです。

医療で儲けを狙う動き

 またこれを契機に、今まで保険適用を前提に行われていたはずの「評価療養」が変質し、保険 適用を前提としない先進医療が持ち込まれる危険があります。この四月の診療報酬改定では「先進医療A」の六九技術のうち八つしか保険導入になりませんでし た。(前回改定での導入は二三技術)。
 そして大手の民間医療保険会社は、全国で年間五〇〇人しか受けない先進医療(重粒子線治療)を例にして「先進医療特約」を大々的に宣伝しています。

*   *

 「無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす」を綱領の冒頭に掲げる民医連として、選択療養 の導入には断固反対です。医療分野がアベノミクスの第三の矢の標的になっています。社会保障への公的支出を削減して民間市場に任せる競争、「成長戦略」で はなく、国民皆保険制度を維持、充実させて国の責任ですべての国民の命と健康を守る、このことこそが必要です。

(田口大喜記者)

(民医連新聞 第1573号 2014年6月2日)

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