民医連綱領、方針

2014年6月17日

第33期第2回評議員会方針

1998年2月21日
全日本民医連第33期第2回評議員会

はじめに

 昨年8月の第1回評議員会以降、私たちは総会方針が提起した”激変の時代に深く地域に根ざして”の言葉ど おり、地域に足をふみだし「気になる患者訪問」や「要介護老人実態調査」などにとりくみ、患者や地域住民の医療や福祉、くらしへの不安な思いを聞いてきま した。参議院選挙後に発足した自民党小渕内閣のもとで、国民生活の苦難は一層深刻になってきています。
 1月からはじまった通常国会は、くらしや医療・福祉、平和の問題など21世紀の日本をめぐる重要な法案の審議がはじまりました。
 今回の評議員会方針は、第一に、自民党流”国づくり”のゆきづまりのもとで、医療や社会保障の大改悪を阻止するたたかいの意志統一を行い、「人権と非営 利」をめざす共同の輪をひろげること。第二に、第33回総会から1年を経過し、これまでとりくんできた課題の教訓をまとめ、今後の課題を明らかにするこ と。第三に、21世紀初頭の民医連運動のあるべき道をさし示した「全日本民医連の医療福祉の宣言」第一次案の討議を開始することです。

 第1章 医療や社会保障の大改悪を阻止するたたかいをすすめ、「人権と非営利」をめざす共同の輪をひろげよう

 今日の不況を根本的に解決するために、多くの国民は、消費税率を3%にもどし国民消費を拡大すること、医 療費を改悪前にもどすことを求めてきました。しかし、小渕内閣は国民のねがいを無視し、大企業やゼネコン、多国籍企業優先の経済政策とアメリカ従属の軍事 路線をとりつづけてきました。その結果、世論調査でも日本の現状と将来について、「方向転換が迫られている」「漂流している」「沈没しかかっている」など このままではダメとみている国民が95%に達しています。
 参議院選挙で国民は厳しい審判を下しましたが、その後の社保のとりくみのなかで、医療署名は381万、緊急医療署名は75万に達し、多くの開業医が民医 連作成の”医療費をもとにもどせ”のポスターを貼るなど、社保協の運動は従来にない広がりを示しています。10年ぶりに群馬大学医学部自治会が医学連に加 盟し、岐阜大学医学部が圧倒的な医学生の支持で今年の医学生ゼミナールの主管をきめ、各地で卒後研修シンポジウムや学習会が開催されるなど、医学生のなか にこれまでになく大きな変化がおこっています。
 国民の怒りと私たちのねばり強い運動は、政府厚生省の社会保障大改悪のたくらみを思いどおりにはさせない状況をつくりだしてきました。まさに、「人権と 非営利」をめざす共同の輪をひろげる条件が満ちてきています。一斉地方選挙での勝利はこうした流れを一層おしすすめることを可能にするでしょう。
 今日の情勢を把握する上で、社会問題や国民生活はどんな状況にあるか、支配層の戦略はどんな内容か、それに対する国民の要求と運動はどんな段階にあるか、をつかむことが必要です。

(1)深刻な不況と失業、増大する現在と将来への生活不安

 病苦による自殺者が増大しているように、多くの国民が、消費税率が引き上げられ、医療保険が改悪され、医 療・福祉やくらしについて現在と将来への不安が増大しつづけています。また、深刻な不況による企業倒産はその後も連鎖的に拡大し、失業率は4・4%と 291万人を突破しました。「給食費を払えない家庭が増加している」「大学を中退せざるをえない」「保険証がなくて遠足にいけない」など教育現場にも暗い 影をおとしています。
 10月から2カ月間とりくんだ要介護老人実態調査で、「年金は二人で95円です、介護保険料なんて払えません、その上利用料なんて」「保険料を払っても 認定されないなんて」「僕が死んだら保険金で母を施設に入れてあげて」「とにかく介護者が休めるようなシステムを」「ぐっすり眠りたい」など患者・家族の 悲痛なさけびが各地からよせられてきました。調査に参加したある職員は、「こうした思いをどこに反映させられるのだろうと思うと、切なくなって帰ってきま した」「諸外国に較べ日本の福祉が遅れていることを実感した」と語っています。
 このように戦後最悪の長期不況は国民生活の苦難を深刻なものにしています。

(2)自民党流政治のゆきづまり

 参議院選挙後に発足した小渕内閣のもとで、不況とともに国家財政も危機をむかえています。バブル崩壊のツ ケをうめるため、金融機関に60兆円もの税金投入を決めました。そして、公共事業に16兆円も積みまししました。その結果、国や地方自治体の借金である国 債や地方債発行残高はこの3年間に150兆円ふえ、560兆円となり、99年度には600兆円に達するといわれています。国民一人あたり500万円の借金 となり、21世紀にまで国民に重くのしかかってくるのは確実です。
 自民党流政治のゆきづまりの現象は、こうした財政危機と同時に社会の危機としても表れています。大銀行や大企業は自分たちがおかした責任をとらないで、 政・官・財がいっしょになって血税を食い物にしています。大蔵省、厚生省、通産省につづいて防衛庁でも汚職問題が明らかになりました。政・官・財の総腐敗 体制は、犯罪の増大や教育の荒廃につながっています。
 平和・外交の面でも小渕自民党政治には、アジアの国々だけでなく世界から「自主性のない国」と信頼をなくしています。今回のアメリカとイギリスによるイ ラク爆撃は、国連の安全保障理事会で協議中に突如として行われた暴挙でした。世界の国々は一斉に非難の声明をだしました。しかし、小渕内閣は攻撃と同時に アメリカの軍事攻撃優先路線への無条件支持の声明をだしました。通常国会では、新ガイドライン(日米軍事協力の指針)にもとづく関連三法案(周辺事態法 案、自衛隊法改正案、日米物品役務相互提供協定改正案)の審議がはじまります。アメリカが武力行使をおこしたさいに、自衛隊をはじめとして日本が自動的に 参戦する法案です。いのちと健康をまもり、平和をねがう民医連として、あらゆる戦争政策に反対する立場でこの法案を阻止するたたかいを重視してとりくみま す。
 自民党と自由党による連立内閣は、消費税を福祉目的税としてさらに税率を引き上げること、自衛隊を海外に派遣すること、衆議院の比例議員数を削減するこ と、など自民党政治を悪い方向に補強するものです。憲法九条を見なおす議員連盟の動きも無視できません。
 このように、自民党政治は、政治・経済・社会・外交のすべてで”海図なき航海””いたるところで浸水がはじまった難破船”といわれています。大企業の利 益とアメリカの戦略的要求にもとづく自民党流”国づくり”でなく、国民が主人公、国民生活が中心になる新しい”国づくり”を多くの国民が模索しはじめてい ます。

(3)21世紀の医療や社会保障をめぐる重要な国会

 自民党政治は、社会保障の切り捨てと消費税率をさらに引き上げることで財政危機をのりきろうとしていま す。橋本内閣当時に成立した財政構造改革法は、参議院選挙での自民党の惨敗をうけ、小渕内閣によって”凍結”となりました。しかし、その後の小渕首相や大 蔵大臣の発言は、「医療・社会保障の削減政策は変更しない」との立場をとっています。公共事業に50兆円、社会保障に20兆円という逆立ちした政治を変え なくてはなりません。
 1月からの通常国会は、99年度国家予算審議とあわせて、医療・年金・福祉など社会保障と平和の問題をめぐり、21世紀の日本の将来にかかわる重要法案 が審議されています。小渕内閣が決定した99年度予算案では、社会保障関係費は前年比3・8%増、5700億円の増額となっています。これは、自然増すら も上回らない予算であり、医療や福祉のさらなる削減が前提になっています。

 医療保険・第四次医療法・診療報酬改悪の動き
 高齢者の新しい医療保険制度の創設について、医療保険福祉審議会の制度企画部会は、これまでの老人保健制度にかわる新たな医療保険制度をつくる意見をま とめ、厚生大臣に提出しました。これまで保険料を払っていない低所得のおとしよりにも保険料の負担をもとめ、窓口では1~3割の定率負担とすることが柱で す。高齢者にとって介護保険とあわせて大幅な負担がおしつけられることになります。
 薬代の保険給付に上限をもうけ患者負担を増やす新薬価制度の導入をもとめる意見書も提出しました。新しい日本型参照薬価制は、効き目が同じ医薬品のグ ループごとに「給付基準額」と名づけた上限ラインを設定し、これを超えた部分の全額と、上限ライン以下は定率部分(3~5割)を患者負担とするものです。 現在の薬代二重負担をこえる重い負担となります。問題になっていた高薬価には手をつけず製薬メーカーの高利益を野放しにしたままです。
 第四次医療法の改悪の内容は、一般病床を急性期病床と慢性期病床に区分し、それぞれの必要病床数を定め、施設基準の変更による病床削減も計画していま す。平均在院日数が短縮すれば必要病床数も減るというアリ地獄的なしくみが導入されようとしています。
 また、昨年10月に厚生省医療関係者審議会医師臨床研修部会が2年ぶりに開催され、卒後研修義務化にむけての議論が再開されました。部会では「最終意 見」をとりまとめ、その後法案作成を行い通常国会で医師法「改正」することがねらわれています。しかし、卒後研修の具体的な改善方向が全く示されておら ず、特に財源問題や保険医資格の扱いなどについては、なんら具体的な提案がされていません。昨年10月に開催された「21世紀の日本の医師養成を考えるシ ンポジウム」は多くの医学生や研修医、指導医の参加で成功し、卒後研修改善に向けての課題が明らかにされました。
 厚生省のたたき台が明らかにした診療報酬の改悪は、医療制度抜本改悪を経済的に推進していく役割を持っています。医療法の改悪と表裏一体のものとして改 定内容が用意されています。情報の公開や療養環境の改善など、患者・国民の要求を実現するかのように装いながら、「施設利用料」の名による保険外負担の限 りない拡大と自由化、大幅なベッド削減、200床以上の病院の外来規制などを行おうとしています。病院は入院のみ、外来は診療所という機能分担を一気にす すめ、定額化を中心とする診療報酬体系に作り替えてしまおうというものです。その意味では、従来の改定以上に重大な影響を医療現場に与えます。救急医療を 中心に地域医療も深刻な被害を被ることが予想されます。
 全日本民医連理事会としてさらに方針を練りあげ、さまざまな共同のたたかいを追求して、改悪阻止のたたかいをすすめます。
 この間、インフルエンザによって、施設や療養型病院に入院している高齢者の死亡が大きな社会問題になっています。インフルエンザによる急患の急増で、 ベッドが大幅に不足する事態も生まれています。また、院内予防としてのワクチン接種が、経営に影響を与えている病院もあります。
 94年の予防接種法改定によってワクチン接種の義務づけが任意方式になり、製薬企業がワクチンの製造量を削減し、ワクチンが圧倒的に足りないという問題 も指摘されています。しかし、根底には高齢者を病院から追い出し、療養型や老人病院では、高齢者の検査や投薬を制限し、定額制によって医療費を抑制する、 こうした高齢者医療差別のしくみが、高齢者にとっても必要な医療を抑制し、手遅れによる死亡者数の高騰をまねいているのではないでしょうか。
 全日本民医連は、この問題で厚生省交渉を行い、特例としての定員を超える入院を認めること、公費によるワクチン接種を要請し、定員超の入院について認めさせています。
 通産省や経済企画庁などからは、医療制度改革への働きかけが強まり、営利企業の参入をひろげ医療の営利市場化をすすめようとしています。

 年金や福祉の改悪
 年金審議会は、「国民年金・厚生年金制度改正に対する意見」を提出しました。その内容は、厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢を65歳まで段階的にお くらせ、60歳代前半の年金をなくす、賃金スライド制をやめる、高齢者の年金額を賃金に応じて減らすなどです。また、将来的な保険料率を26%から30% に段階的に引き上げ、ボーナスからも月収と同率の保険料を徴収することも提言しています。
 社会福祉審議会による、社会福祉事業法を全面的に「改正」する中間まとめを受けて、厚生省は昨年末「制度改革の骨子」を発表しました。これまで「非営 利」と「公共性」を原則として提供された社会福祉サービスについて、措置制度を契約制度に改める、費用負担はサービス内容に応じて支払う、営利企業の参入 を認める、などの内容がもりこまれています。
 以上のように、社会保障の全般にわたる抜本的な改悪案が国会に提出されようとしています。通常国会と一斉地方選挙にむけて、この間地方協議会ごとに社保 決起集会を開催してきました。県連や法人・院所で方針の具体化をはかり、医療・福祉・年金の大改悪と新ガイドラインを阻止するたたかいをおおいにすすめま しょう。
 社保協は、46都道府県に結成され、のこる秋田県も結成に向けて検討がはじまっています。そして、地域社保協は145をこえ文字どおり社会保障運動の芽 が全国各地に広がっています。こうした運動の発展段階と社保協の今日的な役割の重要性をふまえ、全日本民医連は中央社保協の組織強化にとりくんできまし た。ひきつづき質的にも量的にも社保協の発展のために奮闘しましょう。

(4)新しい”国づくり””まちづくり”の運動を地域からつくりだそう

 自民党政治の悪政によるひずみが、地域住民の医療や福祉だけでなく、くらしや教育や文化の面にも大きな影 響を与えています。これまでつながりのなかった団体や個人、保守的といわれた人たちも、地域住民の要求実現をはばむ道理のない政治に鋭い目を向けつつあり ます。各地の医療や福祉のシンポジウムに、医療改悪への怒りと危機感をもった開業医などが積極的に参加してきています。ここにたたかいとあわせて「人権と 非営利」をめざす共同の輪を広げていく可能性があります。
 地域住民と語り合い、相談し、”安心して住みつづけられるまちづくり”の運動に、民医連の職員と共同組織が参加し、積極的な役割を担う時代をむかえてい ます。とりわけ、ヘルパー事業やグループホームなど福祉の分野で「非営利・協同」の組織を発展させる条件があります。この「非営利・協同」の組織の発展 は、利潤を主目的とした営利企業の参入を阻止するだけでなく、地域に連帯と信頼をはぐくみ、地方自治体や国政を住民が主人公の政治に変えていく力にもなる ものです。この分野で、医療住民運動組織としての共同組織が大きな役割をはたせるよう、民医連としても協力していきます。6月の共同組織交流集会で各地の 経験を交流しましょう。
 また、今年は国際高齢者年の年でもあり、高齢者の人権を守る運動としてとりくみを強めましょう。
 新しい”国づくり”、”まちづくり”のうえで、今日、環境・公害問題も重要な課題です。大気汚染はさらに悪化し、地球温暖化やダイオキシンなどによるいのちや健康、さらには国民の生活にも多大な影響を与えています。
 この間、全日本民医連は、ダイオキシン問題を中心とした学習交流集会などにとりくんできましたが、引きつづき重視していきます。

(5)地方政治と国政の革新をめざして

 無駄な公共事業への投資は、国家財政ばかりか地方自治体の財政をゆるがし、「財政危機宣言」をだす自治体 がふえてきています。マスコミをとおして「地方自治体も一つの企業」といったゆがんだ報道がされています。これまで私たちがかちとってきた生活や医療・福 祉などの地方自治体独自の補助制度が削られ、公共料金がつぎつぎと値上げされ国民生活がおびやかされています。
 一斉地方選挙がまじかに迫ってきました。地方自治体の本来の役割は、住民のくらしといのちをまもる防波堤であり、住民参加と民主主義をどのように確立す るかが問われる選挙です。また、今回の一斉地方選挙は、介護保険制度の導入を前にした選挙です。要介護老人実態調査などの結果も活用し、地域住民との対話 活動を大いに展開しましょう。
 そして、逆立ち政治を転換するためにも、国会解散・総選挙を求め、参議院選挙につづき総選挙で国民のきっぱりとした審判を下しましょう。

 第2章 33回総会方針実践の中間点検とこれからの重点課題

(1)介護保険をめぐるたたかいと対応

 要介護老人実態調査は、多くの職員の努力で2万9645件の要介護者および家族と面談し、貴重な結果をえ ることができました。このとりくみは民医連が総力をあげた他に類をみないものです。調査結果から、現在の保険制度のもとで福祉サービスを受けている約3割 の人が介護保険の給付から除外されること、生活保護基準以下の世帯が3割もあり保険料や利用料を払えない人が多いこと、在宅サービスの内容が知らされてい ないこと、などが明らかになりました。
 現在、「実態調査概要報告」「調査の記録ブックレット」「実態調査報告書」を編集しています。これらの資料を民主団体や地域の人たちの共有の財産としてたたかいと対応にいかしましょう。
 介護保険実施は1年後に迫っていますが、現状のサービスさえ削られるのか、低所得者への対策は、基盤整備は間に合うのか、要介護認定の矛盾点はどうなる のか、など地域住民と市町村の不安が高まるばかりです。全日本民医連は、調査結果をふまえて介護保険の抜本的改善をもとめる「提言」を行います。県連単位 でも全日本待ちにならず政策提言づくりにとりくみましょう。
 介護保険へのたたかいと対応は、長期にわたるとりくみであるとともに、当面急いで対応すべき課題でもあります。全日本民医連理事会は、「介護保険をめぐ る当面のたたかいと対応の基本点」の方針提起を行いました。ヘルパー事業をはじめとして多岐にわたる課題が提起されています。すでに第1回評議員会方針で 老人医療・福祉委員会の設置をよびかけましたが、この方針提起にもとづき県連理事会が責任をもって県連としての戦略づくりと法人・院所でのとりくみを促進 させましょう。

(2)この間の経営改善をはじめとしたとりくみ

 98年度上半期の経営結果と99年度予算編成にあたって
 97年度の厳しい経営結果をふまえ、管理部の堅い決意と全職員の努力で経営改善を行ってきました。モニター法人調査によれば、98年度上半期の経営結果 は68・1%が黒字(昨年は36・3%)で改善しています。民間病院や公的病院の経営と比較しても民医連院所のがんばりが数字に表れています。その要因 は、全体として患者件数や延べ患者数をふやし、医療収入の伸び率以内に支出を押さえた結果です。
 99年度の予算編成にあたって、総会方針や第1回評議員会方針で提起したように、医療情勢はひきつづき厳しく支出抑制型の経営とならざるをえません。収 入増のみに依存する経営体質の改善、医師の労働実態をみすえた収入計画に留意する必要があります。また、現在法人・院所で検討されている医療・経営構造の 転換論議と整合性をもった予算編成がもとめられています。
 予算論議にあたって、従来から提起されている全職員参加の予算づくりを徹底し、「非営利・協同」組織にふさわしく労働組合や共同組織とも予算論議を行い、もう一段と高いとりくみに発展させましょう。

 医療・経営構造の転換について
 第1回評議員会方針で提起したように、医療・経営構造の転換の必要性は、第一に、介護保険導入に対応し民医連の介護・福祉分野への対応が急がれること。 第二に、医療の抜本改悪や医療機関の再編成のなかでこれまでの延長線上の努力では第一線の医療を継続・発展させることができないこと。第三に、医師体制の 厳しさのなかで従来の高日当点・高収入にたよる経営構造を転換することです。
 県連や法人・院所では論議がはじまったところで、高齢者施設体系の整備、在宅介護事業のとりくみ、病院・診療所への療養型病床群の導入、一般病床(急性 期医療)の在院日数の短縮への対応、病院の外来規制への対応(門前診療所の開設)、保健予防活動のとりくみの強化、など論点も明確になってきました。医 療・経営構造の転換の具体的方針は、地域の医療状況や院所の到達点などをふまえれば一律的に提起できるものでなく、それぞれの院所で英知を結集してとりく むべき課題です。検討委員会をつくり、ニュースも発行し論議を積み重ねている法人・院所もあります。
 転換についての論議を深めるうえで、留意すべき点をいくつか提起します。第一は、患者や地域住民の人権がまもられ、安心してくらせる”まちづくり”の視 点を重視することです。その際、他の医療や福祉団体などとの連携をふまえることも重要です。第二に、医療活動のあり方や人づくり、医師養成の課題や看護婦 などの後継者対策、共同組織との協力関係と密接にむすびつけた論議が必要です。第三に、論議と方針づくりに医師集団が積極的な役割を担うことが必要です。
 病院委員会は、大規模病院院長会議(3月)と中小規模病院院長会議(6月)を開催し、交流を深め医療・経営構造の転換や医師養成、管理運営問題について 検討を深めます。診療所委員会は、全国集会(6月)で医師研修と養成、まちづくり、管理運営、500カ所建設について交流と検討を行います。

 「非営利・協同」について論議を深めよう
 総会方針や第1回評議員会方針で「非営利・協同」組織として民医連を位置づけ内外に発表したことが、地域共同組織はもちろんのこと民医連内外に共感を もって大きな反響を広げています。一例をあげれば、雑誌『経済』(1月号)の大型座談会の中で民医連を特定しての角瀬法政大学教授などの発言にあらわれ、 多くの学者・研究者から民医連への期待と注目がよせられています。
 医療や福祉の分野で、90年代に入って「市場の失敗」や「政府の失敗」により、営利企業や公的組織が地域住民の社会的要求を充足しえない場合、それに代 わって社会的需要を満たしていく役割を非営利・協同組織が担ってきています。資本主義の矛盾をある範囲で実践的に克服し補完するきわめて重要な分野とし て、国際的にも位置づけられています。
 介護保険制度の導入を機に、医療や福祉の分野に営利企業の参入が一層推しすすめられようとしているもとで、民医連綱領の立場を堅持しつつ、「非営利・協 同」組織についての論議を深めることは、医療機関や福祉施設の地域の中での存在意義や役割を問いなおし、新しいまちづくり運動をすすめる上でも重要です。 そして、二一世紀の民医連運動の発展ともかかわる課題です。
 「非営利・協同」組織の条件として開放性(開かれた組織、自発性にもとづく加入、脱退の自由)、自律性(政府その他の権力の直接的な統制下にない自治組 織)、民主制(一人一票制を原則として民主主義と参加という価値にもとづいて運営される組織)、非営利性(利潤極大化ではなく社会的目的の実現を第一義と して運営される組織)などが学者・研究者から提起されていますが、おおいに学習し、論議するなかで民医連としての考え方を整理していきましょう。

 民医連の経営を新しい段階に
 「非営利・協同」組織として、経営面でも深めるべき課題があります。医療従事者だけの判断で医療や経営計画をすすめるのでなく、どのように共同組織をは じめとして地域の人びとの意見をきき、反映していくかという問題です。もう一つは、医療従事者の社会的使命感の共有をどのように高め合うかという問題で す。それは「民医連らしさ」や「やりがい」ともふかくかかわっています。
 いずれの問題も”地域”に足をふみだし、地域から院所をみつめる視点を大切にし、県連や法人・院所の管理部での検討をふかめるとともに、労働組合ともこ うした問題について率直に論議することは、21世紀に民医連運動をさらに発展させる上で重要な課題となっています。
 最近、民主勢力の一部から「民医連にも搾取が存在する」との見解が出されていますが、民医連の院所は、患者の立場にたった医療をすすめるという医療従事 者と地域住民の共有の財産です。民医連運動と組織を発展させる上で利益確保は不可欠です。利益をどのように配分するのか、運営や協議をすすめるうえで参加 と民主主義が重視されなければなりません。これを前提として、民医連の経営は利益(剰余労働)を私的に取得することはなく、その意味で民医連内部に「階級 的対立」や「搾取」は存在しないという基本的見解を再度確認しておきます。
 また、民医連が福祉の分野にとりくむなかで、新たな検討課題も生じています。福祉での報酬が極端に低くおさえられてきたもとで、医療事業と同じ様な収支 構造では福祉事業の経営を維持できない現実があります。制度上の欠陥を改善する運動にとりくみ、新しい法人の設立など、事業展開にふさわしい柔軟な対応が 必要になっています。

(3)医師養成と確保の課題

 33回総会方針は、克服すべき二つの弱点として、経営問題と医師養成と確保の課題を指摘しました。民医連運動を担う医師集団をどのように確保し、養成するかは民医連の発展の歴史の中で常に重視してきた課題です。
 99卒決意者は、1月現在107名で、00卒は82名にとどまっています。21世紀の民医連の発展をかちとるうえで、この壁を突破する必要があります。 医学生の社会や医療問題への意識変化がおこっているなかで、民医連としてどのように働きかけを強めるか、毎月の理事会で議論してきました。そして、医師・ 医学生委員会では時間をかけて「民医連の医師・医師集団は何をめざすのか(案)」の論議を重ねてきました。また、「医学対活動の新しい前進のための問題提 起」も行いました。「民医連基礎研修の課題と展望(案)」もまもなく提起できるところまで論議がすすんでいます。
 現在とりくんでいる「医療・経営構造の転換」論議や「民医連の医療宣言」づくりとも密接な関係にあります。新入生を迎える時期も迫ってきました。県連や 院所で三つの問題提起をあらためて論議し、医師養成と確保の課題を全職員と共同組織のちからで前進させましょう。

(4)民医連運動を担う人づくり

 私たちは、「気になる患者訪問」「要介護老人実態調査」「社保運動」などで地域に出て患者や地域住民を生 活の場でとらえる努力を重ねてきました。また、日常医療活動のなかで人権をまもり、医療観や患者観・疾病観などを研きあっています。また、制度教育に参加 し、忙しい仕事からはなれて民医連のこと、社会保障のこと、自分自身が民医連職員であることの意味や将来のことなどを考える機会も得てきています。
 いま職場教育をどのようにすすめるかが課題となっています。科学とヒューマニズム、民主的医療人に成長するうえで、職場での論議に参加し、問題をふかめ 合うこと、社会や経済、文化など様ざまな本を読み、互いに学び合うことが大切です。医療従事者としての社会的使命などについても深め合いたいものです。こ うした積み重ねが民医連運動を担う主体者として互いに成長し合うことにつながると思います。

(5)同仁会再建の到達点と再建2年目の課題

 全国および大阪民医連、地域住民や諸団体の支援をうけて資金ショートの危機を回避し、全職員の努力で予定 どおり98年度11億円の利益をめざす経営改善がとりくまれています。「前倒産に至った要因と改善にむけての自己点検(案)」および「経営再建3カ年計画 の策定のために(案)」にもとづく法人・院所での総括論議に九割の職員が参加し、医療・経営構造の転換論議と実践がはじまっています。
 また、10月には自立再建にむけて新指導部体制も確立され、労働組合や共同組織との新しい関係づくりも行われています。現在、大阪民医連理事会を中心 に、県連としての総括論議がすすめられており、全日本民医連理事会として、ひきつづき再建にむけた必要な援助を行いつつ、第3回評議員会にむけて全日本民 医連としての総括論議を開始します。

(6)その他の主なとりくみと残された検討課題

 歯科分野のとりくみ

 日常的な社保活動を組織的にすすめるために社保担当者養成講座を開催し、高齢者の食べる権利を保障する往 診活動などが旺盛に展開され、要介護老人実態調査では口腔状態を把握する追加調査にとりくみました。中堅歯科医師交流集会には61人の歯科医師が参加し、 全国的な横のつながりもすすみました。「100院所」「全県連に歯科を」めざして地方協議会ごとに歯科院所建設の論議がはじまっています。
 歯科分野の今日的な発展段階と今後の展望をにらみ、従来の院所長・事務長会議から名実ともに民医連歯科の方針を討議決定する会議として民医連歯科院所代 表者会議を開催しました。歯学生対策が遅れており、全日本民医連主催の夏期ゼミを開催すべく準備をはじめました。

 いのちと健康をまもる全国センターの発足
 1年間の「全国センター設立準備会」での活動をふまえ、過労死や職業病、労働災害などの予防や安全の確保、補償の実現ををめざし、調査研究、政策提言、交流などを推進する全国組織としてセンターが正式に発足しました。
 「民医連の努力は新しいセンター設立の土台になり、その中から民医連自身の活動をもっと深く働くひとびとの中に根づかせようという積極的な発想が育って いる」という声もよせられています。「全国センター正式発足にあたって、働くもののいのちと健康を守る全国・地方センターをつくる運動の前進を…再び訴え る」の提起にもとづきとりくみを強化しましょう。

 『いつでも元気』の5万部普及めざして
 共同組織は、この間、県連単位で強化月間にとりくみ、組織構成員は246万、『いつでも元気』は3万4614部に到達しました。20世紀末までに300 万の構成員と『いつでも元気』を5万部突破することを確認しています。6月に開催される共同組織活動交流集会までに『いつでも元気』の4万部達成にむけ て、とりくみを強めましょう。
 経営のわかる多数の職員を育成する課題も急がれています。とくに事務系職員が民医連統一会計基準を先頭に立って実践するための講座などについて検討します。

第3章 「全日本民医連の医療福祉の宣言」第一次案の討議を開始するにあたって

(1)これまでのとりくみの経過

 「宣言をつくろう」という提起が2年前の評議員会で提起されました。第一に、医療・社会保障の戦後史的大 改悪という新しい段階に、民医連が何をなすべきかを明らかにすること。第二に、現在の民医連綱領が策定されて四半世紀が経過し、もう一度綱領を自分たちで つくるような論議をとおして「民医連とは何か」を考える機会にしたいということでした。
 その後、新しい綱領パンフでの学習会や「私と民医連」を語るとりくみがすすめられました。また、諸団体や研究者に集まってもらい「医療宣言についての懇 談会」も開催しました。1997年8月の評議員会で、全日本民医連の宣言だけでなく、院所や事業所単位でも医療宣言をつくり発表することをよびかけ、理事 と評議員からなる「民医連の医療宣言委員会」を発足しました。
 理事会と委員会は、院所でのとりくみの促進をはかり、全日本民医連としての医療宣言について討議を重ねてきました。

(2)地域の人たちと論議をまきおこそう

 論議の過程で、今日の情勢と医療・福祉を一体としてとりくむ新たな段階をふまえ、「民医連の医療宣言」か ら「全日本民医連の医療福祉の宣言(第一次案)」とすることを決めました。この宣言は綱領に準ずる重要な文書として、綱領を土台としながらも、新たな広が りと飛躍をめざした内外に表明する21世紀初頭の民医連の基本指針です。新しい時代の変化にたえず適合させ、歴史の進歩に役立つものとして見直し、充実さ せていくものとします。
 この案は、評議員会での討議を経て、1年間全国的な議論に付します。民医連の内外、とりわけ共同組織での討議をお願いし、その意見を積極的にうけとめ、 内容としては民医連と共同組織の共同宣言としていきたいと考えています。また、開業医や民主団体、学者、知識人などの意見もうかがう機会をつくります。 従って、様ざまな意見をふまえてより豊かに修正し、2000年に大阪で開催される第34回総会で、21世紀の民医連の新たな旗印として宣言を確立しましょ う。

(3)病院や診療所など事業所ごとにひきつづき「宣言づくり」の運動を

 いま、私たちは医療・経営構造の転換について、法人・院所で論議と実践にとりくんでいます。医療宣言づくりの運動は、安心して住みつづけられる”まちづくり”、「人権と非営利」をめざす共同の輪をひろげるとりくみと密接にむすびついています。
 院所・施設での医療宣言づくりにとりくんだ職員からは、「自分の生きがいと働きがいを問い直す機会となった」「院所の存在意義をあらためて見直すことが できた」など積極的な意見がよせられています。院所管理部が院所・施設の医療宣言づくりに、ひきつづき積極的な役割をはたしましょう。院所の医療宣言も、 内容として共同組織との共同の宣言にすることに努力し、さらにこれまで民医連と接することが少なかった広範な地域の人びとと話しあって、意見を聞くことが 大切です。
 九月に開催される学術運動交流集会で、院所の医療宣言づくりの交流などの企画も検討しています。「全日本民医連の医療福祉の宣言(第一次案)」の討議とあわせて、院所での宣言づくりの運動を強めましょう。
 「人権と非営利」をめざす立場から、21世紀論をおおいに語り合いましょう。そして、「民医連運動の明日」について語り合い、21世紀の展望を切り開きましょう。

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