民医連綱領、方針

2014年6月17日

第35期第2回評議員会決定

はじめに

 今年六月七日、全日本民医連は結成五〇周年を迎えます。日本国憲法が誕生して五七年目です。私たちはこの五〇年、憲法を守り、育て、暮らしに生かそうと 努力してきました。しかし今、憲法の柱ともいうべき平和や人権、民主主義が危機に瀕しています。また医療事故や事件を口実に、かつてない民医連への誹謗中 傷が全国各地で行われています。
 一方、医療改悪許すな、社会保障を守れ、国民の生活を守れ、イラクへの武力攻撃反対、有事法制反対を求める運動が大きく広がっています。
 昨秋のたたかいと共同組織強化・発展月間以後、医療改悪凍結・撤回を求める署名が約六四万筆、共同組織構成員は約七万増え二九四万を超えました。民医連 への期待のあらわれです。
 今年は四月に統一地方選挙があり、総選挙も想定されています。アメリカ一国覇権主義と戦争、日本経済を破綻させかねないデフレ不況など、小泉政権が厳し く問われます。悪政の連鎖を断ち切って、平和と人権、福祉の息づく社会へ向かう転換のチャンスです。
 あらゆる国民的運動との連帯と共同を強め、その一翼を民医連はしっかりと担っていきます。
 激動の中、この日本の社会の中で、「いのちの平等」を掲げ、もっとも困難な人びとの立場に立ち、地域に根ざした医療と運動にとりくんできた民医連運動の 真価が問われるときです。輝きをいっそう増し、地域にとってなくてはならない医療機関、施設として役割を強めましょう。
 第三五期の中間点にあたり、民医連運動をめぐる情勢や課題についての認識を一致させ、団結を固めましょう。そして第三五回総会および第一回評議員会で提 起した方針の具体化をすすめ、実践しましょう。

I 情勢とわたしたちの闘いの方向

1 政治・経済をめぐる動向と国民生活
 いま、小泉政権による悪政のもとで、不況が一層ひろがり、倒産、廃業、リストラ、失業と日本経済と国民生活は悪化の一途をたどっています。このままで は、日本沈没、国民生活沈没という危機的な状況です。不況、生活苦から国民生活を守るには、社会保障の抜本的な拡充と日本経済をささえる中小零細企業への 支援を思い切ってすすめ、地域、まちに活気を取り戻すこと、冷え込んだ消費を戻すことが必要です。そして、リストラを許さない、ルールの確立が必要です。
 しかし小泉政権が行おうとしていることは、まったく逆のものです。年頭から消費税大幅引き上げ、不良債権の加速処理の姿勢を一層強めており、今後、さら に、大企業には大幅な減税を行い、労働者の解雇を承認する一方、中小零細企業や自営業者には命綱とも言える運転資金の貸し渋り、貸しはがし、赤字企業にも 課税する外形標準課税の導入、消費税の免税点を年間三〇〇〇万円から一〇〇〇万円に下げるなど、むりやり倒産や廃業に追い込む政策を次からつぎへと断行し ています。
 また、市町村合併の大合唱のもとで、全国各地で住民の暮らしに直結する医療、福祉の切り捨てが行われようとしています。この計画は、そこに住む住民の生 活と暮らしを根こそぎ奪おうとする計画です。また、公的病院の廃止、統合、民間への移譲が大規模にすすめられようとしています。これらはいずれも、自治体 版リストラともいうべきもので、地域医療の崩壊を招くことは必至です。
 この路線では、国民生活を良くすることはできません。銀行支援や大企業への支援には何十兆円ものお金を投入し、国民生活の根本をささえる社会保障には、 その数分の一しか使わない政治の根本的な転換が必要です。昨年、ダム開発に見られる無駄な公共事業を大幅に削減し、医療や福祉、教育への予算を増額した長 野県・田中県政、徳島県、熊本市、尼崎市など住民本位の自治体が全国各地で誕生しています。その担い手は多くの市民、住民です。私たちは、そうした運動と 連帯し、国でも、地方自治体でも国民本位、住民本位への政治・経済への転換を求めて運動をすすめていきます。

2 平和と民主主義をめぐる情勢
 一一月の国連安全保障理事会はイラクへの査察を求める一四四一決議を満場一致で採択しました。この決議は、アメリカによるイラク攻撃を認めず国連による 平和的解決をめざす内容となっています。ところがアメリカは、あくまで武力に固執し、「テロ支援国家」などさまざまな口実と世論操作を背景にイラクへの攻 撃を準備しています。小泉政権は、アメリカに無条件で追随し、多くの国民の反対を振り切って、高い情報収集能力と戦闘能力を持つイージス艦を北インド洋に 派遣しました。アメリカの戦争への実質的な参戦であり、さらに、有事法制の成立を次の国会でねらっており、予断を許さない状況です。教育における憲法とい われる教育基本法や憲法改悪の動きも強まっています。
 平和をおびやかす北朝鮮の核開発疑惑やアメリカによるイラクへの武力攻撃に反対する国外、国内の世論も高まっています。多くの知識人も声を上げ、また先 の日本平和大会が大きく成功するなど、平和を求める草の根からの運動が、確実に広がっています。
 この間、被爆者が原爆症認定集団申請(訴訟)に踏み切りました。原爆被害の国の責任を問う重要な運動です。「いのちをかけたたたかい」をささえ、「核兵 器廃絶運動につなげる全人類史的な運動」にしましょう。
 全日本民医連は、これまで原水禁世界大会や平和大会、地域の平和運動の中で、大きな役割を果たしてきました。いのちを守る医療人として、人権と民主主義 を否定する戦争につながる有事法制化の動きに反対します。アメリカによるイラクへの武力攻撃に反対します。憲法を否定する一切の動きに反対します。

3 医療・社会保障をめぐる情勢
 三〇〇〇万筆にも及ぶ医療改悪反対の声を押し切って、一〇月一日より老人医療の一割(二割)負担、負担限度額の大幅引き上げ、療養費償還払い(一旦窓口 で支払った上、手続き後、返還)制度の導入、一八〇日超入院の特定療養費化が強行されました。この結果、定額負担より支払いが減少した方がたが一定数いる 一方、多くの高齢の患者さんは大幅な負担増となり、在宅酸素療法の患者さんが月一万円以上の負担となるなど、重すぎる負担に、治療を中断し、医療から疎外 される患者さんが急増しています。
 医療機関への受診者は激減しています。民医連の医療機関でも月を追って患者が減っている事業所も少なくありません。「高齢者を弱者とみるのは間違い、応 分の負担をしてもらう」というのが、政府・与党、厚生労働省の主流の考えです。
 高齢者だけでなく、国民の半分近くが加入する国民健康保険は、八四年に国の補助金を四五%から三八・五%に下げたことに端を発し、赤字、値上げ、滞納の 増加、値上げを繰り返す悪循環を生み、加入者の負担能力をはるかに超える保険料となっています。国民健康保険加入者の大半は年金者、中小零細業者と農業漁 業従事者、失業者、会社の保険に入れないパートやフリーターなど不安定な方がたです。〇〇年四月から一年以上の滞納者は「悪質滞納者」と認定し、資格証明 書を発行するよう義務づけられました。すでに全国で二二・五万世帯(〇二年六月一日現在)に資格証明書が発行され、保険証を取り上げられ、無保険者化して います。国民皆保険という世界に誇る公的医療保険制度の空洞化がはじまっています。「いつでも、どこでも、だれでも、必要な医療を受けることができる」、 そして「病気になったときくらい、お金の心配なく医療が受けられる」ことは国民皆保険制度の根本原理であり、憲法二五条の定めるところです。
 私たちは、国民皆保険制度を守る運動を強めます。そして医療制度改悪により経済的に医療機関から排除される方がたが生まれないよう、一人ひとりの受療権 を守る具体的なとりくみを重視します。
 また、医療供給体制に関して、日本病院会などが「地域一般病棟」を要求していますが、厚生労働省による一方的な一般病床削減攻撃に反対し、地域医療を守 る立場から、病院関係団体や地域の中小病院との連携したとりくみを重視します。
 厚生労働省は、昨年末に次の医療保険制度改革試案を発表しました。新たに高齢者医療制度の創設と、国保と政管健保の都道府県単位での統合を打ち出し、〇 三年度中に成案化をはかるとしています。高齢者保険医療制度の創設は、高齢者に新たな医療保険料の負担を求めるとともに、消費税率の引き上げの口実とされ る計画です。また、国保と政管健保との統合は、上記した現在の国保の矛盾を政管健保にまで広げ、現在は全国一律の政管健保の保険料に、地域格差を持ち込む ものです。私たちは財政論や効率論のみに固執した医療制度改革の動きに反対します。日本経団連は一月一日に発表した「活力と魅力あふれる日本めざして」の ビジョンの中で、法人税を減税する一方、今後の社会保障財源として〇四年より毎年一%消費税を上げ、最終一六%にすること、そして公的保険の範囲を切り下 げ、自己負担の拡大や医療への株式会社参入を提起しました。
 医療や福祉に競争原理はなじみません。医療や福祉を受ける権利は憲法が保障するもので、人間の生きる権利、尊厳にかかわる問題です。それを「商品」とし て売り買いする、医療や福祉の分野に営利企業の参入を許す動きや、それにつながる「医療特区(特別地域)」「福祉特区」「混合診療の規制廃止」の動きに反 対します。肺がん治療薬「イレッサ」による副作用死亡事件は、これまでの薬害の教訓が生かされない事例であり、製薬メーカーの責任、国の責任が厳しく問わ れるものです。私たちは、今すすめられようとしている医薬品審査の公的責任を放棄する動きに反対し、安全性を最優先する政策の転換を求めます。
 介護保険が導入されて三年が経過しようとしています。「介護の社会化」、「在宅重視」、「サービスの自由な選択」など、当初掲げられていた制度の理念に はほど遠い実態であることが明らかになっています。保険料や利用料など重い費用負担は低所得層を直撃し、在宅サービス整備の立ち後れの中で、独居世帯、老 老世帯での在宅生活の維持が困難になっています。特別養護老人ホームの待機者は介護保険実施後急増しており、施設不足も深刻です。こうした中で、利用者や 家族ともに、自治体に対し、保険料や利用料の減免をかちとり、改善をはかっている経験、特養待機者家族会をつくって自治体に対し、改善をすすめている経験 は貴重です。利用料の軽減措置がとられたところでは、実際、利用が増加しています。
 厚労省は〇三年度に介護保険料、介護保険事業計画、介護報酬の見直しをはかるとしていますが、現状の問題点を解決し、制度の根本的改善につながる内容で はありません。私たちは、「介護に営利を持ち込むべきではない」ことを主張してきました。経済特区構想の中で、株式会社による特養ホームの建設・運営等が 盛り込まれるなど、財界の要求に基づいた介護分野の営利化の動きがいっそう強まっています。全国に一二〇〇カ所の事業所を展開したものの儲けが少ないと判 断すると即座に撤収をしたコムスンや、営利業者による不正請求があとをたたない例が示しているように、介護を営利の対象にゆだねてはなりません。
 支払い基金の民営化の動きは、患者のプライバシー保護にも重大な問題を来たし、審査自体も、競争原理の導入で医学的見地から離れ、経済的側面からの意向 が強まる危険性があり、反対します。
 この四月から障害者の介護支援事業が従来の措置制度から「支援費制度」による契約制度に変わります。「障害者による自由な選択」「自己決定権の保障」な どの宣伝文句とは裏腹に、サービスの受け皿となる施設や事業所の不足が指摘されています。支援費制度をよりよいものに改定させる運動が必要です。また、利 用者や行政などから民医連の事業所への期待も寄せられています。行政の責任を明確にし地域の中で連携、協同を強める視点から検討をすすめましょう。
 安全・安心の医療実現の上では人的な体制の拡充が不可欠です。日本は欧米に比べて極端に少ない医師、看護師の体制となっています。医療事故の防止のうえ でも体制を整えることは重要です。しかし、政府は〇二年四月、史上はじめて、診療報酬を公称二・七%引き下げ、また外来再診料、外来透析患者の食事代金や 一八〇日超の長期患者の入院料を引き下げ、その分を特定療養費の名のもとに患者から徴収することを容認しました。診療報酬は、実際には四%以上の引き下げ となっており、医療機関の経営悪化に拍車をかけています。生き残りをかけ、医療機関では入院差額ベッド料金の大幅な引き上げなど、患者負担に転嫁する動き が出ており、ますます悪循環になっています。診療報酬の引き上げは急務です。

4 たたかいのまとめと今後のとりくみの方向と共同組織強化を
 一〇月からとりくんだ医療改悪撤回・受療権を守るたたかいと共同組織強化・発展月間は、各地で旺盛な運動がとりくまれ、九万人との対話、五〇万筆近い医 療改悪撤回の署名、約七万の共同組織構成員拡大、二〇〇〇を超える『いつでも元気』の拡大という成果をあげました(資料五面)。改悪を知らせる大量宣伝、 医師会や職能団体、老人会などへの申し入れと懇談、自治体交渉など、先のたたかいの中で築いた「連帯と共同」の輪をさらに広げました。
 こうした中、日本医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会の四者は「医療改悪凍結・撤回を求める共同声明」を発表し、国民的運動を呼びかけました。戦後 初めての画期的なことです。「全労連」「連合」とも三割負担凍結を求める談話を発表し、厚生労働省に申し入れを行っています。長野県議会は全会一致で三割 負担凍結・撤回の決議をあげました。そして二月一二日には野党四党の共同で、健保本人三割負担凍結法案が提出されました。今や、医療改悪凍結・撤回を求め るたたかいは大きな世論となっています。
 私たちはこうした流れに呼応し、凍結・撤回にむけて国民的運動をすすめ、社会にアピールを行います。「いのちを守れ! くらしを守れ!」の一大国民的ウ エーブを巻き起こしていきましょう。
 この間、医療改悪が実施されるなかで、国と自治体に対し、患者さんの受療権を守る施策の実施を求めるとりくみを重視してきました。自治体によって大きな 格差が生まれています。ひき続き、自治体に対し、公費負担の対象を身体障害者手帳三、四級まで拡大させること、高齢者医療の療養費徴収方法の改善、短期保 険証・資格証明書の発行を許さない運動、介護事業の改善や保険料、利用料軽減のとりくみなど強めましょう。そのことは、市町村合併や行政改革などの動きと あわせ、四月に行われる統一地方選挙や年内に行われるとされる総選挙の重要な焦点となります。統一地方選挙にあたり、私たちは、実態をつかみ、学習し、地 方自治体が国の悪政に抗し、いのちと暮らし、福祉の守り手として役割を果たすよう、運動を行っていきます。地域社会保障推進協議会の結成と役割強化にむけ 奮闘します。
 イラク攻撃、有事法制化の動きに断固反対を表明し、たたかいを強めます。三月には辺見庸氏をまねいて平和活動交流集会を開催します。大きく成功させま しょう。
 情勢を見る、私たち民医連の視点は、この日本の社会の中で、もっとも困難な人びとの医療要求や実態をふまえ、その原因がどこにあるのかを分析し、現状を 変革する立場にたつことです。あきらめないという立場です。
 医療改悪による影響は、診療の現場にも大きな影響を及ぼしていますが、受診できない患者さんが急増しているもとで、医療機関の中、診察室の中だけでは、 きびしい実態、医療機関にかかることのできない、苦しさ、悔しさを実感、共感することはできません。意識的に地域に打って出、地域の視点から、事業所の役 割を明らかにするとともに、そこで得たものを医療改善の運動に結びつける活動が重要です。「人権のアンテナ」の感度を高め、地域から運動を強めましょう。
 自治体への要望や「助け合い」制度創設などあらゆる手だてをつくして、一人たりとも経済的理由で治療中断することのないよう、断固、決意を固めあいま しょう。
 安心して住み続けられるまちづくりの運動は、今日ますます重要となっています。
 そのためにも、〇三年度の月間終了時までに三〇〇万共同組織、今年三月までに五万の「いつでも元気」の普及を必ず実現しましょう。そして、今年九月七~ 八日に東京で行われる第七回全日本民医連共同組織活動交流集会を大きく成功させましょう。

5 医療事故、事件を口実にした民医連攻撃をうち破るとりくみ
 今、川崎、京都にとどまらず全国各地で、政権与党の一角を占める勢力が、民医連加盟の医療機関の医療事故や事件を口実にした誹謗中傷、民医連つぶしのは げしい攻撃をおこなっています。国会でも、各地の議会でも異常な攻撃を行っています。この内容は真に医療事故をなくそうとするものではありません。民医連 つぶしを目的とし、政争の具として持ち出しているものであり、真剣に医療事故や事件をなくそうとする努力への冒とくです。また、医療をよくしようとする運 動や民主主義への重大な挑戦であり、断じて許すことはできません。
 私たちは、これらの攻撃に対し、理性的に、事実と道理にもとづき私たちの立場と態度を表明しました。一月、事務局長名の論文を『民医連資料別冊』として 発行しました。職員、共同組織の中で徹底して学習討議を行い、確信を深め、国民の中に、民医連が行っている医療事故をなくすためのとりくみや民医連そのも のの存在を大きく打ち出し、地域に打って出、攻撃をうち破っていきましょう。

II 安全・安心・信頼の医療前進と民主的管理運営の強化のために

 医療事故をなくし、安全・安心・信頼の医療を実現することは、国民共通の願いであり、医療機関の社会的使命です。私たちは、人の尊厳にかかわる問題として、この課題に全力でとりくみ、前進しなければなりません。
 この間、民医連の院所で発生した医療事故や事件は、これまで地域の中で培ってきた信頼を損なうものでした。中でも川崎協同病院の事件と京都民医連中央病 院の事件は、医療人としてのモラルが問われる、あってはならない事件でした。一つひとつの事例から徹底して教訓をくみとり、再発防止のとりくみが重要で す。全日本民医連理事会は、「川崎の事件からなにを学ばなければならないか」(『民医連資料』九月・三五三号)、「川崎、京都の事件を踏まえ、自己点検を すすめよう」(会長アピール)を出し、川崎協同病院内部調査委員会・外部評価委員会の二つの報告書の普及(五万部)を行い、自己点検を呼びかけてきまし た。愛媛民医連ではチェックリストをつくり、自己点検を開始しています。すべての事業所、職員が自らの事業所に引き寄せ、学び、教訓を共有するとりくみを 強め、この分野での質的前進をはかりましょう。
 全日本民医連第八回理事会は、国民向けに「医療事故、事件と私たち民医連の立場」をまとめ、見解を発表しました。これを共同組織、患者さん、医療関係者 に大量に普及し、討議を呼びかけます。これまで医療事故問題は内部問題として処理されがちで、オープンに議論することはあまりありませんでした。
 全日本民医連は〇〇年八月より、医療事故にかかわる安全モニター制度を発足させ、全国で起きている医療事故を集約、分析し、教訓を普及してきました。全 事故中、約四割を占める転倒・転落事故、二割近くを占める注射事故について、原因分析と予防策の確立をすすめています。また医師がかかわる事例の教訓をま とめました。プロジェクトをつくり作業してきた「医療事故に対応する危機管理のあり方、考え方」について近く見解を発表します。その中で、三つの基本理 念、「患者の人権を最優先する姿勢の確立」、「共同の営みの医療の確立(患者参加の重視)」、「事実に謙虚に向かい合う姿勢の確立」と、五つの対応原則 「重大性の認識」、「組織的対応」、「正確な事実調査」、「患者家族への迅速で誠意ある対応」、「届け出と公表の考え方」と、一三の整備すべき項目を提起 しています。これらのとりくみの集大成として、三月八~九日に全日本民医連として「医療安全交流集会」を開催します。医療の安全性向上の上で、画期となる 集会として大きく成功させましょう。また、全日本民医連として医療事故問題を組織的に扱う第三者機関の設置を要求し、運動します。
 全日本民医連は、この間、山梨や同仁会の教訓である「医療と経営」「事業所と地域」「管理と職場・職員」三つの乖離の克服を呼びかけてきました。この 間、発生した川崎・京都の事件に共通した問題として管理運営のあり方が問われました。
 山梨問題以降、全日本民医連として民主的管理運営の強化に努力してきましたが、管理運営の強化という点では弱点をかかえています。民医連の各事業所は七 〇年代から八〇年代にかけて急速に規模が拡大しましたが、拡大に見合った管理運営の習熟や整備が十分できなかったことと、さらに、今日の医療経営環境の厳 しさを反映して、弱点がより明らかになってきました。「管理部に提起しても全く反応がない」「決まったことが徹底されない」などの声がよく聞かれます。ま た、「民主的」ということで、責任の所在があいまいとなり、管理不在になる傾向があります。規模が大きくなればなるほど、管理運営能力の質が問われます。 特に、院長や事務長、総看護師長などのトップ幹部の姿勢や力量、危機管理能力など、「判断し」、「実行する」管理運営の総合力、いわゆるトップマネージメ ント能力を高めなければなりません。また、大規模になった組織では、職場に責任を持つ中間管理者の役割が重要で、職員の力量を高め、引き出す運営に力を注 がなければなりません。
 管理運営能力を高める上では、機構や運営図の整備、責任と権限の明確化、情報の公開と伝達、知識や技能の向上、危機管理の能力や民主主義の能力と情熱が 必要です。そのため、体系だった研修を行うことと評価を行うことが重要です。全日本民医連として、管理運営の抜本的改善・強化をめざし、八一年に出した 「院所における民主的管理運営の今日的課題案」以来のとりくみと今日的な課題の検討を行い、あらたな方針を準備していきます。また、医療機能評価機構や ISOなどの外部の力を積極的に借りることも検討しましょう。地協や県連内での相互点検や保健所が行う医療監視も積極的に位置づけ、とりくむことも重要で す。
 民医連事業所がとりくむべき課題として次の点について点検・具体化を呼びかけます。
(1)医療法から保険診療に至るまで、法的医療・介護整備の総点検をすすめること
(2)職員全体で民医連運動の存在意義の確認と管理運営機構の点検、見直し、業務分掌基準の確立と点検、統一会計基準にもとづく経営活動の点検、理事会、共同組織との関係の点検
(3)県連、地協による調査、点検など外部監査、医療評価機構、ISOなど第三者評価の受審を意識的にすすめること
 そして、医療倫理を高め、患者の権利・利用者の人権を守るためにとりくむべき課題を提起します。
(1)医療倫理委員会の確立、院所利用委員会の確立と役割強化
(2)インフォームド・コンセントを「医療における民主主義」の実践として確立する
(3)症例検討会、回診など民主的集団医療体制の点検と、介護・福祉連携時代の「チーム医療」のあり方の確立
(4)カルテ開示の倫理的検討と実施
(5)終末期医療など高齢者医療にかかわる医療倫理問題の考え方の整理
(6)医療安全委員会の充実とリスクマネジャー配置などの具体化

III 第35期の中間点にたって、1年間のとりくみのまとめと今後の重点課題

1 医療・経営構造転換をすすめ、医療の質の向上と民医連の経営を守り抜こう
 史上初めての診療報酬のマイナス改定、〇三年八月の病床区分届け出、介護保険事業の見直しと新たな展開、〇四年四月からの医師臨床研修必修化の流れなど、医療福祉経営をめぐる情勢は激変しています。
 昨年開催した全国会議であらためて、転換をすすめる上で、五つの基本的視点を提起しました。
 (1)転換は国民・地域の要求にねざした時代の要請である。
 (2)支配層からの攻撃から自らの法人・事業所と地域の医療と福祉を守る「たたかいと対応」である。
 (3)民医連の発展過程の中で生じた諸課題を克服する契機とする。
 (4)積極的な地域連携の中から「開かれた民医連」を推進する。
 (5)院所の歴史と地域での役割、個別性を勘案する。そして、この転換を、医師集団を中心に職員、共同組織の主体的、能動的な力ですすめる。
 現在、全国各地で急速に医療・経営構造の転換がすすめられています。その中で生じてきたいくつかの課題について、あらためて提起します。
 
 一、医療・経営構造の転換をやり抜き、「保健・医療・福祉の複合体」としての機能強化をはかることです。
 これまでの診断・治療に偏重した対応だけでは地域住民や働くもののいのちと健康を守ることはできません。地域の青空健康チェックに何十人もの列ができる 状況があり、安心して暮らしたいとの要求に応える上で、地域・職域での健康づくりや健診のとりくみをいっそう強める必要があります。病床区分の変更に関 わって、まだ方針が定めきれていない法人もあります。地協・県連の援助を強め、転換をすすめめていきましょう。
 また、医療の質を高める必要があります。個々の診療内容にとどまらず、医療技術、診断・治療、接遇、インフォームド・コンセント、医療相談、療養環境、 医療事故、院内感染、医療倫理、診療情報、医療・福祉・行政の連携、危機管理などがトータルに問われる内容です。
 
 二、福祉・介護分野のとりくみ強化を呼びかけます。
 特別養護老人ホームの待機者の急増にみられる基盤整備の遅れにより切実な介護要求に応えきれていません。ヘルパー労働など、介護分野の労働条件の改善に 向けたとりくみが重要です。介護労働は現在なお低賃金のもとにおかれ、善意と献身的な努力で運営されています。今回発表された二・三%介護報酬引き下げ は、いっそう労働条件の低下を招き、介護職としての専門性の確立と質の向上に逆行するものです。また、改定内容では利用者の負担増を招くケースが生まれま す。全日本民医連は、介護制度の改善と介護報酬の引き上げを求めて運動を強めます。
 介護事業は各県、各法人で事業展開がされていますが、地域の要求や民間業者の進出の中で、これまでの医療分野の展開に比べ、遅れており、事業の種類につ いてもばらつきが見られます。介護保険制度改善のたたかいとあわせ、地域の介護を守る立場から積極的な事業展開をすすめましょう。中でも、訪問介護やデイ サービスなど在宅サービスを重視し、総合的なとりくみをすすめましょう。安全性をふくめた質の向上や事業整備、ケアマネジャーの確保と養成は引き続き重要 な課題です。市町村が行う第二期介護保険事業計画の具体化にあわせ、自ら特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホームなどの追求と地域連携による施 設建設、基盤整備に積極的にとりくみましょう。特別養護老人ホームや老健施設を対象に施設交流集会の開催を検討します。
 
 三、歯科では、「新しい時代の扉を開こう―二一世紀初頭の民医連歯科の役割と課題」の提起をふまえ、地協、県連単位でのとりくみを強化しましょう。
 「全県連に歯科を」「民医連院所、施設に対応する歯科」の建設など、新たな目標を提起しました。今後、歯科を開設する県連への援助を強めるなど具体的に 歯科空白の県連をなくしていくとりくみを地方協議会ごとにすすめます。六月には第一六回歯科学術・運動交流集会を開きます。
 
 四、激変の時代にふさわしく民医連経営を断固、守りぬくことが重要です。
 〇〇年度、〇一年度と八〇%以上の法人が黒字を出すなど、堅調な経営活動をおこなってきましたが、〇二年度上半期の経営結果は、一転して、モニター法人 で前年比、医業収益でマイナス三四億円、介護収益で一五・五億円増、事業収益全体で一八・五億円(マイナス一・六%)の減収で、経常利益では九・三億円の 利益減少というきびしい結果となっています。この傾向は、医療改悪が実施された一〇月以降、一層きびしくなっており、断固、民医連経営を守る立場で、情勢 認識の一致をはかり、改善に努めていくことが求められています。
 一一月に開催した経営委員長・法人経営幹部合同会議で、全日本民医連は、経営結果と医療経営をめぐる情勢分析をふまえ、経営改善をすすめる上で八つの留 意点を提示しました。(1)経営改善と国民の受療権を守るたたかいの統一、(2)住民の健康を守り発展させる活動の重視、(3)人件費対策と民医連運動の 源泉の重視、(4)管理運営水準の引き上げ、(5)役職員・共同組織の共通の目標としての医療・福祉宣言づくり、(6)県連レベルでの事業展開と組織統 合、(7)投資計画に見合った大衆資金の結集、(8)税制改正への対応、です。全国には様ざまな改善の経験が生まれています。我流に陥らず、これらの経験 から学ぶことが重要です。また、銀行による貸し渋りや貸しはがしが露骨になる一方、民医連の経営は医療・経営構造転換の推進などで、資金需要が拡大してき ています。確かな資金計画を確立して、転換をすすめましょう。今表れている困難は、医療改悪によるものであり、医療機関のみならず地域の患者さんや住民が 医療から遠ざけられた結果生まれた困難です。経営改善のポイントは、まさに「たたかいと対応」の統一が必要です。〇三年予算づくりは、民医連経営と受療権 を守りぬく決意を固める場としてとりくみましょう。

 五、情勢認識を一致させ、あらたな水準での労働組合との対話と共同をすすめましょう。
 経営をめぐる激変の情勢のなかで、退職金制度、賃金体系、人員配置の見直しと職種転換、仕事の外注、派遣労働の導入など労働条件の変更が避けて通れない 事態も生まれます。そうした対策は、職員の生活や働きがいや生きがいとも深くかかわります。民医連運動の力の源泉は、職員と共同組織にあります。改定が避 けがたい場合は根拠ある資料をしっかり準備し、対応する労働組合に対する真摯な説明と時間をかけた話し合いを通じて、納得と合意を得ることが重要です。

 六、一八〇日超の長期入院患者への対応についてあらためて、意思一致をはかりましょう。
 「一八〇日超過入院の特定療養費化に伴う患者負担への対応」をめぐって全日本民医連の方針に意見が出されています。第一回評議員会「方針」は一八〇日を 超える入院であっても、医学的に治療継続が必要な症例については特定療養費の適用除外を求める運動が必要であり、社会的に入院の継続が必要な患者さんのた めには受け皿となる施設の整備や他施設との連携など最大限の努力をおこない、原則徴収しないということを提起しました。
 医療の基本部分の特定療養費化や医科への混合診療の導入が今後すすむ情勢を踏まえて、原則徴収の方向を決定した法人もありますが、患者が経済的な負担能 力によって医療から排除されることを容認する法人は一つもありません。しかし、運動を巻き起こすという点では充分ではありませんでした。今、必要なのは、 あらゆる努力と運動を広げることです。そうした状況を踏まえて、第一回評議員会方針を次の通り補強することを提起します。
 
(1)第三六回総会までの期間、全ての院所で一八〇日超過入院の特定療養費化に伴う患者負担金の徴収を見合わせる。
(2)その間に、医学的に治療継続が必要な症例の全日本民医連への集中を行い、他団体とも連携して、厚生労働省に特定療養費の適用除外症例の拡大を求める 運動や社会的な入院が避けがたい場合の患者負担を許さない運動を大規模に展開する。
(3)各県連や法人が主体となって、社会的に入院の継続が必要な患者さんの受け皿となる施設の整備や他施設との連携を実現する。
(4)医療の基本部分の特定療養費化や医科への混合診療導入撤回のたたかいをすすめる。

2 医師の確保と養成、医師問題の改善に全力をあげよう
 〇四年四月の臨床研修必修化は、三六年ぶりの医師養成制度の転換であり、激変の情勢です。研修の場と目標が、これまでの大学中心、専門医養成中心の研修 から、地域の臨床研修指定病院中心、プライマリーケアを担いうる医師養成へと転換がはかられることになりました。このような積極面と同時に、研修条件改善 のための財政措置が置き去りにされていること、各病院があらたに大学の系列に再編される可能性などの問題点もあり、なお改善が必要です。
 厚生労働省の医学生へのアンケートでは四三%が学外での臨床研修を希望しています。〇四年度から、新六年生に対し、アメリカにならったマッチングシステ ムが適用されます。各大学や研修病院それぞれの研修プログラム(システム)をコンピューター上で一括管理の上、それぞれのプログラムに対し、医学生に希望 させ、調整の上、研修先を決定するものです。人気の高い研修プログラムに研修医が集まる一方で、人気のないプログラムには、研修医が来ないというもので す。必修化やマッチングシステムの開始に応じて、各研修指定病院も研修医受け入れのための準備を急速にすすめています。問われるのは、研修の内容、評価、 実績であり、研修医のめざす医師像と一致する研修や医療となっているのかどうかです。
 民医連は、これまで必修化にむけて、地協単位で臨床研修病院の取得にむけて整備を集中してきましたが、今後は、力点を、どんな医師を育てるのか、そのた めの指導体制やプログラム、医師が育つ土壌としての病院の医療活動充実にむけ力を注ぐことが決定的に重要です。〇二年一〇月に出した全日本民医連理事会方 針にそって、研修指定病院の指導医体制の充実など、教育力量を高めるとりくみを強めましょう。
 また、民医連事業所として、病院、診療所との連携や地域住民と結びついた保健・医療・介護のゆたかな展開を生かし、地域の中で学び成長する研修の姿と医 師像を明確に打ち出し、研修目標とプログラムを鮮明にし、そこへの共感を広げていくことが重要です。全日本民医連として医学生にむけた呼びかけを作成しま した。この内容で意思統一を行い、確信を持って、全ての医学生に民医連での研修と参加を呼びかけていきましょう。
 〇三卒医学生の民医連に入職する決意者の到達は九六人です。これまでの結びつきを生かして、最後まで民医連への参加をよびかけます。研修の優位性のみを 語るのでなく、時代に向き合う民医連の理念や決意、社会的使命を語り、結びついた医学生の人間的な成長を援助することが重要です。地域や共同組織には、人 の役に立ちたい、人の心がわかるヒューマンな医師になりたいという医学生の初心を育てる土壌があります。先輩医師や医学生担当者、職員が適切に援助するこ とが重要です。全国いたるところに、すぐれた経験があります。これらに学びながら、医学生の民主的な成長を援助する事業所際の医学生対策を低学年から系統 的にすすめましょう。
 日本の医師研修・医学部教育と医学生のライフスタイルの大きな変化の中で、医学生への接近の仕方についても工夫が必要です。これまでの総訪問、電話によ る対話の到達点を生かしつつ、ホームページや『メディウイング』(CD―ROM版も)、メールの活用など新しい情報手段を生かし、民医連の姿がより的確に 伝わり、理解され、医学生の自主性が生かせるようにしなければなりません。高校生一日医師体験などの経験は今後もますます重要になります。
 全日本民医連として卒後研修必修化を踏まえ、医学生対策担当者の役割、位置づけや、卒後研修との関連などを含む医学対の新たな方針を練り上げていきま す。
 民医連の医師集団をめぐる状況は、ひきつづき厳しいものがあります。退職者も少なくありません。医師労働を適正化しながら、医療・経営構造の転換の議論 に医師集団が主体的にとりくめるようにすることが重要です。また、川崎の二つの報告書や医療情勢、医師像などについての意識的な学習・研修のとりくみや、 民主的集団医療への関わりを強めること、地域にでかけて民医連への期待を実感する、このような医局を意識的に追求することが重要です。それぞれの医師を孤 立させない、初心を生かす、退職を生まない職場づくりのためには、法人、事業所あげたとりくみが重要です。医師問題は民医連運動の根幹をなす課題です。事 務幹部がとことんつき合うなど日常的なかかわり、援助を強めましょう。

3 民医連職員の確保と養成、医療・福祉宣言づくりの運動
 全日本民医連は、〇二年八月に開催した第一回評議員会で、第二回評議員会までにすべての事業所で、医療・福祉宣言をつくることを呼びかけました。この 間、秋田、岩手、宮城、熊本、大分、長崎、鹿児島県連が、すべての事業所でとりくみ完成させたのをはじめ、全国各地で急速に、宣言づくりの運動がすすめら れました。自らの院所、職場の歴史を振り返り、地域からの期待を踏まえ、内外に、役割を宣言していくとりくみを通じて、職場づくり、職場の団結、民医連へ の確信が広がってきています。全日本民医連として五〇周年事業の一環として、全国の事業所の医療・福祉宣言をCD―ROMにまとめ、発行します。
 医療・経営構造転換をすすめる中で、民医連運動を担う専門職の位置づけも変化しています。これまでの診断・治療中心の職種構成から、保健・医療・福祉へ の総合的な事業分野を担う専門職の確保と養成が求められています。また、激変の情勢に呼応した職種の配置や転換も必要になってきています。
 薬剤師を取り巻く情勢が大きく変化しています。チェーン薬局による薬剤師大量採用、薬学生の大学院志向増加と、診療所段階まで医薬分業がすすむ中で、薬 剤師の確保が困難となっています。地域差も広がり、都市部では保険薬局の経営困難で新たな薬剤師を抱えられない状況も出ています。あらためて民医連が保険 薬局を展開する意義を医科法人との連携とあわせ検討し、介護分野も含め地域医療に貢献する事業所としての自立が求められます。
 医薬品規制緩和、保険はずしの動き、やせ薬による健康被害など、医療の枠組みにとどまらない社会的役割が薬剤師集団に求められています。病院における薬 剤師の役割を見直しながら、安全性のチェック、リスクマネジメント、医師研修など期待される役割をいっそう強めましょう。
 新薬許可期間の短縮で、副作用チェックは重要な課題です。この間、副作用や薬害問題、環境問題などに積極的にかかわる中で民医連の薬剤師として成長する 姿が見られました。薬学教育六年制に向けて臨床志向が高まり、低学年薬学生の病院、保険薬局の実習が実施されています。好評で、このように薬学教育の内容 づくりに参加することが薬剤師確保につながります。県連内、地協内での経験交流や研修がいっそう重要です。
 看護師は民医連最大の職種で、この間、訪問看護ステーションの展開、ケアマネージャーとしての役割、老人施設や療養型などの施設展開をすすめる上で重要 な役割を担っています。第六回全日本民医連看護活動研究集会(横浜市)は元気の出る集会として、成功しました。
 一方で、病棟部門ではベテランが減り、三年目未満の職員が多数をしめるなどの中で、指導援助体制が不十分になってきているとの報告も少なくありません。 また、民医連の看護学校も一般病棟が減り、実習場所としての条件が困難となっている状況もあります。療養環境を守り、安全・安心の医療をすすめていく上 で、病棟はひきつづき重要な場所です。また、外来や在宅を結ぶ連携の中心です。計画的な確保とあわせ、中長期の視点に立った看護師養成方針を確立すること が重要です。〇二年度の看護委員長・看護学生委員長会議で提起した「看護婦養成(卒後初期研修)に求められる視点と課題が提起したもの」にそったとりくみ を強めましょう。
 三四歳以下の民医連職員は四四%を占めています。仕事を覚え若い力を発揮する世代から、職責者としての役割を担ったり、中堅としてしっかり事業所を支え ている世代まで含みます。この世代は入職後に「社会にめざめる世代」という特徴とともに「明日の民医連を担う」世代です。こうした青年職員の成長は、民医 連運動の未来とかかわって重要な課題です。この間、地協レベルでジャンボリーがとりくまれ、成功しています。各地の平和運動や医療改悪反対のたたかいの中 で、青年職員のとりくみが存在感を増しています。今、多くの青年職員は、生きがいや働きがいを求めて模索しており、平和を思う気持ちや正義感は人一倍強い ものを持っています。自主性、主体性を尊重しながらも、県連、法人、院所のなかでの援助が必要です。なかでも、今年一〇月に沖縄で行われる第三〇回民医連 全国青年ジャンボリーは、青年の連帯、団結、学びの結節点となるものです。現在、実行委員会で準備されていますが、位置付けを強め、大きく成功させましょ う。全日本民医連は今期、青年委員会を立ち上げ、活動を開始しました。
 三月一~二日、共済組合と共同で全日本民医連としてはじめて、「民医連職員の健康を守る交流集会」を開催します。メンタルヘルスの問題への対応など、働 きやすい労働環境づくりに、日常的に意識的にとりくむきっかけにしましょう。
 今日の時代は、創造的なとりくみが求められる時代です。管理運営にいっそう習熟し、他の経験からも積極的に学び、改善強化をはからなければなりません。 病院関係団体などで行う研修会への参加や地協、県連でのとりくみを強めましょう。全日本として〇三年秋には、医師、看護、事務のトップ幹部を対象にした幹 部研修会を計画します。

4 民医連組織の強化をすすめよう
 第三五期理事会は、「より現場際で、より総合的に」をキーワードに、理事会機能、地協機能を強めてきました。時間をとっての地協運営会議は、全日本の方 針の具体化や現場でおきている問題に総合的にせまることができ、具体的な援助を強めています。
 この一年間の活動、とりわけ地協活動を強める中で、明らかになってきたことは、県連機能と法人、院所の全日本や県連への結集と県連の意思決定の問題でし た。県連は都道府県における民医連を代表する組織であり、運動のセンターの役割を果たすものです。法人、院所の自覚的結集が大前提となります。
 第三三回総会で県連機能六つのミニマムを提起しましたが、共同事業や地協レベルの医師養成など、今日的な活動の進展を踏まえ、求められる県連七つの機能 ((1)全日本民医連方針の討議と具体化、県連理事会機能と機構の整備、(2)県連長期計画の策定と具体化、法人事業計画と経営の掌握と指導援助、県連共 同事業の推進、(3)県を代表する運動組織としての役割、(4)共同組織の拡大と交流、「元気」の普及、(5)民医連運動を主体的に担う職員育成と後継者 養成の計画と具体化(教育事業の推進)、(6)医師問題での前進、地協と共同して民医連運動を担う医師養成推進、(7)民医連組織を守り前進させるとりく み)を提起し、検討をよびかけます。
 一〇月一九日、「非営利・協同研究所いのちとくらし」が発足しました。一二月現在、すべての県連が加入しました。総研ホームページ上でテーマを募集して います。積極的にテーマを持ちより、主体的な参加で、研究所を盛り立てていきましょう。
 これまでの論議の経緯を踏まえ、連帯と団結を強める方向で、連帯基金のあり方について第三回評議員会までに提案できるよう準備していきます。
 福岡健和会は、この四年間で三四億円の経常利益を生み出し、また医師研修、研修医受け入れの上で積極的な役割を果たしています。銀行からの融資が困難な もとで、利益を生み出し、自己資金を確保し、中原病院の建設に着手する一方、強引な貸しはがしに直面しています。力を結集し、再建の確かな展望をつくりあ げていかねばなりません。
 大阪・同仁会は再建さなかにセラチア菌院内感染問題に直面しましたが、翌〇一年度は経常利益四億円を確保するなど、再建運動をすすめています。この間、 医師問題などの困難に直面しながらも、外来外部化、急性期特定病院取得、医療評価機構受審、老人保健施設、介護事業の展開、療養型および緩和ケア病棟の開 設など積極的な医療経営構造の転換をすすめました。また現在、近畿の臨床研修指定病院として、民医連の医師を育てる任務をおっています。〇四年度には、同 仁会基金の完済を行う予定です。
 川崎医療生協・川崎協同病院は、現在、「医療の再生」「経営の再生」「組織の再生」を再生運動の柱に掲げ、一二月には臨時総代会を開催し、総合再生プラ ン案を満場一致で決定しました。また、事件の教訓を踏まえて、命の尊さを学ぶとりくみをはじめ、内部調査委員会、外部評価委員会の指摘にそって改善運動を すすめています。一〇月、一一月連続黒字を生み出し、今年度の生協出資金は一・五億円の増資をかちとっています。全日本民医連は一一月に総合現地調査を実 施し、とりくみを激励し、提言を行いました。現地では、一部勢力による、川崎医療生協、川崎協同病院つぶしの激しい攻撃が行われており、川崎の再生運動 は、民医連運動を守り、前進させる運動でもあります。全日本として、神奈川県連とともに、最大限の援助を行います。
 第三六回総会を二〇〇四年二月、埼玉で開催します。総会の規模を六〇〇人程度に留め、民医連方針を集中して論議出来る運営に切り替えます。また、次の総 会では、民医連加盟や会費問題のあり方について提案します。
 全日本民医連は今年、創立五〇周年を迎えます。五〇周年にあたり、今一度、民医連の歴史、院所の歴史に学ぶことを呼びかけます。そして、今日の日本社会 の中で期待される役割を確認しつつ、新たな時代、平和と人権の息づく日本社会をつくりあげるために、奮闘する決意を固めあう年としたいと考えます。五〇周 年記念事業をつらぬくメインスローガンは「はばたけ未来へ、平和 人権 非営利 ~いのち輝く社会めざして~」です。職員、共同組織参加型の企画を行いま す。積極的な参加を期待します。

おわりに

 日本は、少子高齢化社会と日本経済の低迷のもと支配層による弱肉強食を論理とする小泉「構造改革」がすすめられ、それに対抗する平和と人権と福祉を求め る広範な国民との間で、保健、医療、福祉のあり方をめぐってせめぎ合いが激しくなっています。いま歴史的な転換の時代に立っています。
 五〇年の歴史の中で、絶えず国民の医療、福祉の要求とともに歩んできた私たち民医連も大きな転換期にあります。不当な攻撃につぶされないように、頑固 に、しなやかに、たくましくたたかい対応していきましょう。地域の住民や医療機関、福祉など関係機関と連帯、連携し、広範なたたかいを通じて、あるべき保 健・医療・福祉・まちづくりを実現していくという壮大な目標をもって、時代に向き合いましょう。
 全日本民医連の医療・福祉宣言、事業所の医療・福祉宣言を携え、地域に打って出て、事業所の役割を大いに語りながら、安心して住み続けられるまちづくり めざして、地域に平和・人権・非営利のネットワークをつくりあげていきましょう。

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