民医連綱領、方針

2014年6月17日

第37期第2回評議員会決定

2007年2月18日
全日本民医連第37期第2回評議員会

はじめに

 民医連が求めてきた看護師増員を求める請願が、先の臨時国会の衆参両院本会議において、全会一致で採択されました。画期的な出来事です。「国民的要求であること」、「団結し、たたかえば要求は国会をも動かす」ことを実証しました。署名は一年間で八八万筆を超えました。
 かつて、日本が起こした侵略戦争で二〇〇〇万人以上の尊い命が奪われました。日本はアジア各国に、筆舌に尽くしがたい殺戮と略奪を行いました。同時に、 沖縄、広島、長崎はじめ全国各地で甚大な被害を受けました。その戦争に、「教育」によって国民が動員されていったという反省に立ち、二度と戦争はしないこ と、そのために一切の戦力は保持しないという日本国憲法を制定し、教育基本法を定めました。
 しかし安倍首相は、教育基本法を改悪し、防衛省昇格を強行したのに続き、憲法公布六〇年の今年、「任期中に憲法九条を変える」と明言しました。戦争は最も弱い立場の人びとの生命を脅かし、著しく人権を奪います。
 急速に国民皆保険制度の後退、医療供給体制の崩壊が起こっています。内閣府の「国民生活調査」では、生活不安を抱えている人が、調査開始以来、五〇年間 で最高の六七%を超えました。政府に一番望むこととして、社会保障の拡充を求める人が七三%でした。民医連事業所の経営も急速に悪化しています。
 医療・福祉の危機、国民や地域住民の苦難と民医連内部に起きている困難の「根」はひとつです。
 G7(先進七カ国)の中で、「一番高い自己負担」、「医療費のGDP比が一番低い」日本の医療制度を抜本的に見直す時です。
 憲法九条は「日本と地球の安全保障」であり、憲法二五条にもとづく医療・社会保障は「いのちの安全保障」です。
 第三七回総会から一年が経過します。第二回評議員会では、「困難はたたかいと連帯の力で乗り越える」とした総会の立場をあらためて確認し、情勢認識を一 致させ、全国の経験から学びあい、今後一年間のめざす方向を確認しましょう。
 小泉・安倍政権の悪政に対する「怒り」が渦巻いています。今年は統一地方選挙、参議院選挙の年です。要求実現をめざし、力いっぱい奮闘しましょう。徹底 して「共同」を追求し、平和と医療・福祉の拡充を求める運動、地域での医療・福祉の実践にとりくみましょう。

1章 平和・医療・福祉・くらしをめぐる情勢 と私たちの立場・態度

1節 小泉政権の5年間は国民生活と医療に何をもたらしたか

1.貧困と格差の拡大

ワーキングプア=働く貧困層の拡大

 「順調な景気回復が続いている」。財務大臣が言うように、大企業はバブル期を超える史上空前の利益を得ています。
 しかし、私たち国民に実感はなく、生活困難、貧困、格差が拡大しています。
 大企業があげた空前の利益は、徹底したリストラや労働者の非正規化によるものです。二〇歳から二四歳の若年層で四〇%、全雇用労働者の三分の一が非正規雇用労働者です。
 まじめに一生懸命に働いても、生活保護基準以下の生活しかできないワーキングプア(働く貧困層)は、すでに労働者の四人に一人、全世帯の一〇分の一という異常さです。
 国連の発表では、世界の成人人口の二%が世界の「富」の半分以上を占有するにいたり、「富」(貯蓄や不動産から負債を差し引いたもの)の所有者の上位 一%の中に、日本人が二七%、アメリカ人が三七%を占めます。さらに、アメリカや財界の意向を受けて、「ホワイトカラー・エグゼンプション」という、どん なに働いても残業時間を認めない制度を準備しています。経団連は、その基準額を「年収四〇〇万円以上の労働者を対象とすべき」と主張しており、サービス残 業を野放しにし、過労死をいっそう招くものです。
 これが、小泉・安倍政権による「構造改革」の結果です。

高齢者の生活が破壊されている

 小泉「構造改革」は、国民に耐え難い「激痛」を与え続けました。安倍政権はさらに「傷口に塩をすり込むような」激痛を与えようとしています。中でも高齢者、障害者など社会的に弱い立場の人びとには、生半可なものではありません。
 六五歳以上の高齢者は、すでに人口の二〇%、二五〇〇万人になっています。月当りの年金平均額は、厚生年金受給者で一七・二万円、国民年金受給者で四・ 六万円(高齢者の一人暮らし生活保護基準額は東京都市区部で月約八万円)であり、国民年金受給者の六割が月額五万円以下の生活を余儀なくされています。六 五歳以上の無年金者も六〇万人存在します。スウェーデンでの最低年金が約一五万円と比べれば、その違いは歴然としています。
 その高齢者に、「これでもか」と負担増が襲いかかっており、これからも続きます。全日本民医連が昨秋とりくんだ高齢者生活実態調査でも、ぎりぎりの生活 に陥っている高齢者の様子が浮きぼりになりました。医療費負担増による受診抑制が顕著です。介護疲れによる殺人事件も年間三〇~四〇例も起きています。世 界第二位の経済大国といわれる日本で、年間一万人以上の高齢者が「孤独死」していると推計されます。全日本民医連が行った「孤独死調査」では、二〇〇六年 一~九月の間に、「民医連事業所の患者・利用者・共同組織の構成員の孤独死」として、一〇五例報告されました。
 国民、高齢者の預金には利子もわずか、その一方で、大手銀行六社は過去最高の利益を上げています。しかし、法人税を「びた一文」払っていません。年間で 税額八八〇〇億円を免除していることになるという試算があります。この税収があれば、住民税定率減税半減(四〇〇〇億円)、高齢者を苦しめる住民税増税 (一六〇〇億円)、介護保険料引き上げ(二〇〇〇億円)、障害者・医療費の自己負担強化(七〇〇億円)など、を全部もとに戻しても余ります。逆立ちした政 治・政策の転換がどうしても必要です。

国民皆保険制度の崩壊につながる高い国保料(税)と滞納問題

 「国保証取り上げで受診控え、少なくとも二一人死亡」(二〇〇六年七月四日)というセンセー ショナルな記事が朝日新聞の一面に掲載されました。全日本民医連が行った調査を取り上げたものです。国保料(税)があまりにも高くて、払えずに滞納した世 帯から保険証が取り上げられた結果です。こうした人たちは自ら受診を制限せざるを得ません。「病気があっても患者になれない」、「いのちを切り刻む」苦 悩、無念さが伝わってきます。
 これらは氷山の一角にすぎません。すでに滞納世帯が四七〇万(国保加入世帯の二割)を超え、短期保険証世帯一〇〇万、実質無保険者である資格証明書世帯は三〇万を超え、国民皆保険制度が空洞化しつつあります。
 私たちは、国民健康保険(皆保険制度)は、すべての国民に平等の医療を提供するための憲法で保障された権利(第一三条・幸福追求権、一四条・法の下の平 等および二五条・生存権)と考えています。しかし国は、「相互扶助=助け合い制度」であるとわい曲し、「払えない人は国保に入る必要はない」という論調を 強めています。
 国民皆保険を守り、国保財政を健全化するには、ただちに国庫負担を少なくとも四五%に戻し(年間約八〇〇〇億円)、憲法違反の短期保険証や資格証明書発 行をやめるべきです。そして、医療の現物給付の原則に照らし、受療を優先させ、国保法四四条にもとづく減免制度や支払い猶予を実施すべきです。さらに、国 保にも傷病手当制度を創設すべきです。これは国民の健康、生命に関わる大きな課題ですが、税金の使い方を変えるだけで、十分実施が可能です。

ひどい生活保護の実態=「福祉が人を殺す」時代にさせてはならない

 生活保護世帯は増えつづけ、二〇〇五年度は初めて一〇〇万世帯、一四二万人を超えました。いま や国民の九〇人に一人が生活保護受給者です。その背景には、限りない生活の困窮があります。しかし、実際に受給できている世帯は、保護を必要とする世帯の わずか二〇%未満です。四〇〇万世帯が生活保護基準以下の生活を余儀なくされています。
 一九九八年以来、自殺者が年間三万人を超えており、その最多の理由は「経済苦」です。悪政が八年間で二六万人以上の生命を奪うという異常さです。「福祉 や政治が人を殺す」事態をなんとしても転換しなければなりません。
 しかし安倍政権は、さらなる生活保護制度「改悪」を準備しています。
 生活保護制度の「見直し」について、安倍政権は、施策指針となる「骨太方針2006」で、(1)保護基準を非保護世帯の生活水準を踏まえたものにする、 (2)母子加算(老齢加算はすでに廃止が決定している)の廃止、(3)リバースモゲージ(自宅などの資産を担保に行政がお金を貸し出し、死後資産を没収す る制度)の活用、を打ち出しました。来年度予算では、年間四〇〇億円の削減目標を提示し、さらに、現在四分の三の国庫負担を、二分の一に削減することも画 策しています。
 このような制度見直しは、国には国民の生活・人権を守るという考えはなく、過酷な現実におかれている保護世帯に対する共感や理解が極めて乏しいことを示 します。生活保護の切り下げは、そのあと、年金や最低賃金を引下げる口実になることは明らかです。
 生活保護の現場で起きている問題は特殊な問題ではなく、まさに「明日はわが身」であり、すべての国民に関係する問題です。北九州市などで行われている憲 法違反、人権無視の生活保護「締め付け」行政に対し、現場で起きている矛盾を突きつけ、対応を改善させること、自治体の姿勢を変え、国に政策転換を迫る運 動が求められています。これまで以上にSW(ソーシャルワーカー)の役割が重要になっています。全国各地ですすめられている老齢加算廃止・母子加算廃止撤 回を求める生存権裁判をともにたたかいましょう。

2.地域・医療崩壊に立ち向かおう

地域と自治体が崩壊の危機に

 いま地方自治体が戦後最大の危機に直面しています。
 「平成の大合併」といわれる市町村合併で、自治体数が半分近く(三二三二→一八〇七)に減少しました。大きすぎて「顔の見えない」自治体に変貌しつつあります。
 こうした事態を生み出した背景は、小泉・安倍政権による「地方リストラ政策」です。地方交付金を二〇〇四年から三年間で六・八兆円も削減しました。一九 九六年の橋本内閣以来、国は地方自治体に大型公共事業の実施を押しつけました。それは、日米貿易均衡とアメリカ資本による事業創設を目的に、六年間で四三 〇兆円の大型公共事業を実施する、と約束させられたからです。そのために地方自治体は、莫大な借金を負ったうえ、今回の「兵糧攻め」がのしかかり、財政破 綻が急増しています。財政破綻した北海道の夕張市では、行政サービスの後退に次ぐ後退で、人が暮らすことが困難な状況が生まれています。全国各地の自治体 に共通する問題です。
 全国各地で、財政の危機を理由にして、国民健康保険料や介護保険料、公共料金の大幅な値上げ、生活保護の削減、学校の統廃合、保育所民営化、学校給食の委託外注など、行政サービスの後退が始まっています。
 また住民の苦難をよそに、岐阜県、宮崎県、和歌山県、福島県、東京都のように汚職・談合・不正・私物化など利権が幅を利かす自治体が明らかになり、厳しい批判が集まっています。
 国民保護法に基づく災害訓練に名を借り、「住民を国家統制する」危険な動きをすすめる自治体が増えています。福井では「北朝鮮が攻めてきた」という想定 の下で、学校の課外授業が一切中止させられるなどの事態が進行しています。
 一方で、尼崎市、松本市、東大阪市などのように、国からの押しつけを拒否し、住民参加のまちづくりをすすめている自治体もあります。地方自治体の役割 は、地方自治法第一条で「住民の福祉の向上を図ること」と明記されています。地方自治体を「悪政の推進者」ではなく、「暮らしを守る防波堤」に変え、人間 が住み続けられるまちにしていくために、今春の地方選挙や参議院選挙は重要です。
地域医療・医療供給体制の崩壊
 「地域から産婦人科が消えた」、「一番近い救急病院まで数時間」、「地域から療養病床がなくなった」、「三〇〇床の病院で九人いた内科医がゼロになっ た」といったニュースが伝えられない日がないほどです。医療供給体制の危機が社会問題化しています。これは一地方だけではなく都市部でも同じように起きて おり、全国的な状況です。
 一方、新卒医師が毎年約八〇〇〇人生まれていても、開業する医師が四〇〇〇人を超え、勤務医が増えません。とりわけ産婦人科、小児科はじめ、リスクが高 いといわれる科を選択する医師や、急性期医療を担う医師が急速に減少しているのが現状です。
 なぜ、こうした問題が起きているのでしょうか。それは、急性期医療を担う医師の労働条件や環境があまりにも苛酷なためです。看護の問題も同様です。日本 の人口一〇万人当たりの医師数は、一九九人であり、WHOの報告書では世界六三位です(二〇〇二年度)。経済協力開発機構(OECD)の平均と比べ、換算 すれば一二万人不足しています。日本の勤務医の週平均労働時間は七〇時間を超えていますが、EUやOECD加盟国は四八時間以内(イギリスは五六時間以 内)です。また、絶対的な不足の上に、地域格差も深刻です。
 しかし国は、この二〇年間、一貫して「医師過剰論」に固執し、二〇〇六年七月に発表した厚生労働省の「医師需給に関する検討会報告書」でも「偏在」はあっても「不足」はないという立場です。
 いま日本で起きている「病院から医師がいなくなる」という医師問題の本質は、医療費抑制のために意図的に医師不足をつくり出してきた医師養成政策の長年の「ツケ」が、噴出した結果です。
 また、実情を無視した療養病床削減政策や、自治体・公的病院の統廃合計画、診療報酬で誘導し医療機関のスクラップ・アンド・ビルドをすすめる政策によっ て、病院が存続の危機に直面しています。地域から身近な医療機関・病院が次つぎと消える事態の中で、国民の生命と健康が著しく脅かされています。
 危機に瀕した日本の医療を立て直すには、医療政策の大転換が必要です。ただちに医療費を増やし、GDP対比でOECD平均並の一〇%にすべきです。そう すれば、医師・看護師の増員も実現でき、この間の国民への負担増を行う必要はありません。この声と運動を大きくしていきましょう。

2節 医療「構造改革」のねらい

1.日米支配層のねらい

 小泉政権は、地方や中小零細企業など既存の支持基盤を切り捨て、日米のグローバル化を歓迎する大企業や上層階層にシフトした政権運営へ大きく転換しました。その内容は「軍事大国化」と日本経済の「構造改革」です。
 「軍事大国化」では、イラク戦争を真っ先に支持し、自衛隊の戦地派遣を強行しました。しかし、憲法九条の制約上、「非戦闘地域」に限り、名目「人道的支 援」から抜け出すことはできませんでした。だから、なんとしても憲法九条を改定して、アメリカとともに世界中どこでも武力行使ができるようにし、日米の同 盟関係を強めたいという動機があります。
 「構造改革」では、「国際競争力をつける上で足かせとなる」との虚構を振りかざし、先進国ではきわめて低水準の社会保障や劣悪な労働規制をさらに弱め、 税制を変えて、大企業を優遇するなど、大企業本位の急進的な改革を行いました。
 こうした政策を実現するために、財界が直接政策決定に乗りだすしくみをつくり出しました。それが、「経済財政諮問会議」であり、ここを国の政策決定司令 部として、政府を指導し、規制緩和など新自由主義的な政策を断行しました。
 医療改悪、規制緩和によって日米財界はさまざまな「利権」を獲得しました。マスメディアには、アフラックやアリコなどの民間医療保険の広告があふれか えっています。このような事態は、老人医療無料化や健康保険本人の窓口負担がなかった時代にはあり得ないことでした。医療・福祉を「商品」にしてはなりま せん。
 この「軍事大国化」と「構造改革」は一体のものであり、日米の世界戦略そのものです。
 生み出されたのは、限りない「貧困と格差拡大」社会であり、モラル低下であり、地域社会の崩壊です。
  安倍政権は、前政権がなし得なかった憲法九条の改悪と、激しい「構造改革」・「規制緩和」を推進する役割を担って登場しました。とりわけ安倍首相は、太平 洋戦争を侵略と認めず、植民地支配への反省が一切ない、親米ナショナリストであり、いっそう危険です。
 同時に、あまりに激しく「貧困と格差」が拡大し、要求運動と平和運動が高まる中で、安倍政権の支持率が低下し続け、思惑通りにはすすまない現実もあります。
 一方、医療・福祉の財源として、消費税増税論が医療関係者・団体の中からも出ています。逆進性の強い消費税の増税は、いっそうの格差拡大につながりま す。一九八九年からはじまった消費税がほとんど大企業の法人税減税に使われた事実に照らしても、逆立ちした税金の集め方、使い方を、大本から転換すること こそ必要です。

2.「医療構造改革」の特徴と「対抗軸」

 都道府県が「構造改革」の下請けの役割を担わされようとしています。
 「医療費適正化計画」が端的な例です。国が構造改革の大枠を決定し、その下で、各都道府県に「自主的な」計画を策定させ、実施させていく方式が想定されています。
 昨年六月に成立した「医療改革関連法」は、二〇二五年までに「医療費適正化計画」によって医療給付費を八兆円削減することをめざしています。療養病床削 減(三八万床→一五万床)や、七五歳以上の高齢者医療保険制度の創設、都道府県単位に国保、政管健保、組合健保を統合し、生活習慣病患者抑制の「数値目 標」や入院患者抑制の「数値目標」を設定させる、などが柱です。都道府県単位の医療費適正化計画は、二〇〇八年から実施されようとしています。
 生活習慣病患者抑制の「数値」目標は、五年間で実行できなければ、「予防対策をとっていない」とみなされ、計画が未達成の場合は、診療報酬の点数を下げ るか、サービスを落とすか、保険料を値上げする、などの対策が迫られます。こうして都道府県を競わせ、責任を押しつけるものです。
 個人に対しては、「自己責任」が押しつけられます。「生活習慣病」が治らない場合は、自己責任の名のもとに、会社などから排除される事態も予測されま す。糖尿病、高血圧などの病因が、過酷な労働や環境、ストレスなど社会的な要因にあることを無視し、すべて個人の生活習慣の問題として処理する考え方も大 問題です。この間、介護保険改悪、療養病床医療区分設定などに際して、政府が一部のデータを都合よく恣意的に使っていたことが発覚しました。同様に、科学 的根拠が確立しているといえない「生活習慣病」対策がまかり通ることに、批判が必要です。
 今後、医療構造改革の展開の場面は、地域や都道府県となります。そして「地域」が、安倍政権とたたかう「対抗と運動、要求実現」の「主戦場」となります。
 「人が住めないまちにするのか、それとも新しい住民本位の平和と福祉のまちをつくるのか」が大きな争点となります。国保の短期保険証・資格証明書の問 題、生活保護、医療供給体制や介護の問題、障害者の問題など「暮らし」をめぐる課題は山ほどあります。病気は、人も時間も場所も選びません。制度は変わっ ても、医療や福祉の需要がなくなるわけではありません。
 地域の医療機関は、地域の社会的共有財産です。事実と要求を基礎に、運動を練り上げ、具体的な要求の実現をめざし、他の医療機関や福祉施設、行政と連携 して、医療変革のために共同の運動を推進すべき時です。「安心して住み続けられるまちづくり」を掲げ、運動と実践を続ける民医連と共同組織が、先頭に立っ て役割を果たしましょう。社保協、住民団体、患者団体、医療・福祉関係者としっかりと連帯し、国にむけた地方での運動をもりあげ、具体的な課題で前進をめ ざしましょう。

3節 情勢をとらえる私たちの視点

1.平和と人権、医療を守る国民的運動の高揚

 「もう黙ってはいられない」。
 二〇〇四年夏に発足した「九条の会」は今日、地域と職場に六〇〇〇を超えて結成され、広がっています。九条の会の運動がさらに強まり、地域、分野、職場 で一~二万を超える組織に広がるならば、改憲を阻止する大きな国民的力となることは間違いありません。
 政府は、沖縄・辺野古への普天間基地移転・強化、岩国基地の戦闘部隊移転強化、横須賀への原子力空母配置、座間への司令部移転など米軍の再編強化を画策 しています。しかし、各地の猛烈な反撃で、いずれも実現させていません。
 「中国残留孤児の責任は国にある」と訴えた裁判の全面勝利、原爆症集団訴訟の広島、大阪地裁での全面勝訴、日の丸・君が代強要裁判での東京都に対する違 法認定など、粘り強いたたかいを通じて、権利を守る運動が前進しています。
 医療の分野では、医療崩壊のリアルな実態に迫るマスコミ報道があいつぎ、世論が大きく変わりつつあることを実感させました。全日本民医連が昨年二回、全 国すべての病院(約九〇〇〇)に送付した見解に対し、かつてない共感、共同の意志が寄せられました。また、民医連にマスコミからの取材が殺到しています。 歯科が独自に行った歯周病メンテナンス改善署名は、短期間の間に三万八〇〇〇筆を超えました。
 難病医療の「見直し撤回」を求める運動、リハビリ医療制限撤廃の運動など、患者自らが主体者となった運動もかつてないたたかいをつくり出しています。障 害者自立支援法も三年間で一二〇〇億円増額する約束を政府が表明せざるを得ない状況をつくり、難病医療では見直しそのものを撤回させました。運動が政策を 転換させた大きな成果です。
 これらの動きは決して偶然の産物ではありません。あまりにも過酷な現実を前に、各分野、各層、各地域で「怒り」が渦巻き、要求を基礎にしたたたかいが巻 き起こっています。その力が世論を動かし、政策を変えつつあるのです。これらのたたかいを合流させ、「大河」とすることができれば、競争原理・力の政策を 転換させることは可能です。私たちは、今、そういう時代に生きています。まじめに生きる人びとに苦難を与える政治が長く続くはずはありません。
 世界を見ても、中南米、欧州などは、競争原理を柱とする新自由主義的政策を拒否し、参加型民主主義を通じて、福祉国家への道をすすんでいます。アメリカ でも先の中間選挙で、ブッシュ政権が大敗北しました。アメリカ国民のイラク戦争ノー、格差拡大ノーの明確な意思表示です。
 日本政府官僚の「核武装発言」をよそに、「話し合いで平和的に解決しよう」と、北朝鮮をめぐる六カ国協議が再開されました。日本政府の異常さがあらため て、浮き彫りになりました。平和憲法を持ち、唯一の被爆国である日本こそ、平和外交のイニシアティブをとるべきです。これこそもっとも期待される国際貢献 です。
 第三七回総会方針で提起した、平和と人権が花開く「もうひとつの世界、日本は可能」に確信を持ちましょう。

2.情勢をとらえる視点を確かなものに

 あらためて、私たちの情勢をとらえる視点を確かなものにすることが大切です。視点や立場によっ て見えてくるものが違ってきます。「貧困と格差」の進行をリアルにとらえることが重要です。診察室、病院、施設の中だけでは、現実が見えにくいことは、高 齢者生活実態調査の経験からも明らかです。
 私たちは単なる「みんなでつくるみんなの医療・福祉機関」ではありません。徹底的に地域に根ざし、この社会の中で、もっとも困難な立場にいる人びとに寄 り添い、共感し、その人たちの医療や介護を受ける権利、人間らしく生きていく権利を守り発展させる視点で、情勢をつかむことが重要です。人権のアンテナを 地域、職場に張りめぐらせ、感度を研ぎ澄ましましょう。そして、決してあきらめず、現状に甘んじず、変革の立場にたち、困難な人たちの「最後のよりどこ ろ」の事業所、共同組織づくりをすすめる決意を固め合いましょう。

3.政治と医療の変革を

 いま、圧倒的な国民に困難を押しつけているのは、まぎれもなく小泉・安倍政権であり、自民党・ 公明党がその推進役を果たしてきました。「医療・福祉のパイ」がどんどん小さくされる中で、うまい手はなく、自分だけ生き延びることは所詮無理です。「パ イ」が縮むことは、国民の生存権、権利が縮むことにほかなりません。
 私たちは、革新自治体の実現で老人医療無料制度が実施されるなど、「政治が変われば、暮らしが変わる」ということを幾度も経験してきました。
 いまの政治に、審判を下すチャンスが今年の地方選挙、参議院選挙です。東京都知事選挙には、私たちの仲間である歯科医師・吉田万三氏が立候補します。
 私たち民医連は、一貫して「いのちの平等」を実現する立場から、政治に働きかけ、そして自ら無差別・平等の医療・福祉を実践してきました。平和・医療・ 人権を守るためには政治の役割がどうしても必要、というのが私たちの立場です。小泉・安倍政権のもとで急速に医療・福祉が悪くなりました。「どの政党がど んな役割を果たしたのか」、「憲法九条改悪にどんな態度をとっているか」を事実に照らして、しっかりと見極めなければなりません。
 「いのちの平等」を願う六万を超える職員、三二一万を超える共同組織の中で、学習を重視し、深めあい、要求を高く掲げて、広げ、選挙に臨みましょう。こ れらの選挙に向けて、全日本民医連としての要求・政策を発表する予定です。「だれがやっても同じ」、「どうせ政治は変わらない」という立場では、「いのち の平等」を守り抜くことはできません。「私たち一人ひとりが主権者として選挙権を行使しよう」と呼びかけます。

2章 この1年間の前進面と課題

 第三七回総会から一年、総会決定の学習活動を基礎に、全国各地で多彩な活動がとりくまれています。ここでは、全面的な総括は行いませんが、特徴的な前進面に大いに確信を持ち、同時に起きている課題、困難は直視して分析し、運動を総合的に前進させましょう。

1節 前進面に確信を

1.看護師増員闘争の経験と教訓

 五三〇〇人が結集した「10・27医師増やせ・看護師増やせ中央集会」が大成功し、全国各地で医労連はじめ多くの関係団体との共同行動を強めました。中部圏知事会が意見書を出し、長野県、山形県、京都市はじめ、多くの自治体で請願が採択されました。
 看護師自らが運動の主体者として力強く実践に踏み出したこと、同時に運動の中心に「看護の輝きは、いのちの輝き」、「人間らしく、その人らしく生きるこ とを援助するのが看護」との立場をおき、日々の実践、学習、語り合いを通して、自らの医療観・看護観を高め、確信を深めたことが、運動の大きな前進につな がりました。その中で、仲間が育ち合う職場づくり、他職種との共同が積み上げられました。そして、困難な中でも看護充実にむけ、「7:1」看護の届け出や 看護師確保運動を前進させてきました。
 全日本民医連は、看護CMやDVDの作成、ネット署名の展開、ニュースなどで各地の運動を激励しました。全国各地でシンポジウム、看護フォーラムの開 催、街頭宣伝、関係団体との共同、病院訪問などが、おう盛にとりくまれました。医療関係者の共感と共同はもとより、住民、国民の支持と共感を広げたことが 大きな力となりました。四回にわたる看護師独自の厚生労働省交渉は、「現場の生の声、実態を知らせる」機会となりました。
 この運動に、「初めて」という次代を担う若い職員や、中堅世代が積極的に参加したことは大きな財産です。
 この一年間、全国で集中してとりくんできた運動の成果と到達に確信を深め、当面一〇〇万筆署名を達成し、都道府県議会をはじめ、すべての自治体で請願の 採択をめざし、さらに奮闘しましょう。国と各都道府県に対して、国会請願採択を力に、需給計画の見直し、看護学校や院内保育所への補助増額、診療報酬改定 など、具体的な要求をもとに交渉をすすめます。

2.患者・国民の受療権をまもる日常の医療実践と運動

 第一回評議員会で提起した、高齢者医療・介護・生活実態調査は、ほとんどの事業所でとりくま れ、二万人を超えました。参加した多くの職員は、仕事の現場ではなかなか触れることのできない生活実態を知り、民医連の事業所や共同組織の役割を肌身で感 じる機会となり、「いのちの平等」を守る活動への決意を新たにしています。
 各地で受療権を守るために、「一職場一事例運動」を強めており(「民医連新聞」新年号参照)、福祉用具の貸しはがしを撤回させるなど、具体的な成果を生み出しています。
 県や地域社保協の中心的な担い手となって、自治体キャラバン・交渉などをおう盛にすすめ、県独自の乳幼児医療、障害者や難病医療、国保制度をよくする運 動(値下げを求める直接請求署名・新潟市など)をすすめています。特に、事例を示しての自治体交渉は、説得力を持ち、制度改善につなげる力となっていま す。引き続き重視しましょう。
 社会的な視点から医療と患者の権利を守る運動も、すすめられました。
 原爆症集団訴訟では昨年、大阪、広島での全面勝訴を勝ち取りました。今年は一月に名古屋で判決が出されました。名古屋地裁判決では「原因確率」にもとづ く国の認定方法を三たび否定しました。しかし、国は判決を受け入れず、相変わらず被爆者の権利を守る立場には立っていません。三月には仙台、東京で判決が 出されます。私たちは、被爆者の権利を守るために、各地の裁判闘争を全力で支援します。
 アスベスト問題は、第三七回総会でも強調したように今後四〇年以上続く長期の医療課題です。「生活と労働の視点」、「日常医療活動のレベルアップ」、 「相談・調査機能とたたかい」を強め、「民医連の役割発揮を」と呼びかけました。アスベスト外来の設置、検診や相談活動、過去のカルテ分析などの活動がと りくまれつつあります。マスコミなどの関心が薄らぎ、企業側の巻き返しも起こっている状況のもと、あらためて、すべての県連に対策委員会を設置し、弁護士 や土建組合などとの共同をいっそう重視しましょう。
 水俣病公式確認から五〇年が経過しました。新たに四〇〇〇人を超える認定申請が出されているにもかかわらず、国は未だに被害者への救済の道を閉ざしたま まです。有機水銀を垂れ流しつづけた原因企業は、時効を主張する有り様です。熊本民医連の仲間は、九州・沖縄地協の支援を受けて、地域の健康調査、患者の 掘り起こしにとりくみ、新たな裁判をささえています。昨年九月には、近畿水俣病検診が行われました。受診者三〇人のうち、二八人が水俣病との診断です。水 俣病は終わっていません。国と企業の責任を放置することは、新たな公害病や薬害などを生み出すことになります。薬害肝炎裁判も大詰めを迎えています。全日 本民医連は、薬害をなくし被害者を救済する立場から、支援をいっそう強めます。
 東京大気汚染裁判では、大気汚染が環境基準を超え、ぜんそく患者が増加する中で、判決を踏まえて、粘り強い交渉がすすめられてきました。先ごろ、東京都 が独自の医療費助成制度創設を発表するという成果を生み出しました。じん肺や振動病被害、過労死問題など、「生活と労働の場」で病気の原因をとらえ、「患 者とともにたたかう」という民医連の医療理念にもとづく実践がいっそう重要です。
 少なくない医師や職員がこうした課題にとりくみ、役割を発揮し、確信を深めています。青年医師や研修医、医学生などにも積極的に参加を呼びかけましょう。
 第二回病院管理者・顧問弁護士交流集会は、第一回集会の二年前と比べ、日常的な連携が強まっていることを実感させました。医療事故を契機に、警察が業務 上過失致死などで立件する動きが強まっています。国際的にも異常な事態です。初期対応の原則をあらためて確認し、徹底を図るとともに、関係者との共同を強 め、安全・安心の医療をめざして、全日本民医連は公正・中立な第三者機関設置実現にむけての運動をいっそう強めます。精神科医療、産婦人科、小児科それぞ れの政策検討を開始しました。全国歯科所長・事務長会議では、民医連歯科の存在意義を輝かせ、経営的にも前進させようと意思統一を行いました。

3.沖縄・辺野古連帯行動など平和運動の前進と職員の成長

 この二年間、三カ月に一度(一〇次)の沖縄・辺野古基地建設反対連帯支援行動、各地協や千葉、 福岡、大阪など各県連が独自にとりくんだ行動に、計一二〇〇人の職員が参加したことは、大きな財産です。日本平和大会、原水禁世界大会、アジア平和ツアー (韓国・中国)なども積極的にとりくみました。岩国、横須賀、青森など各地の基地反対闘争が広がっています。これらのとりくみと学習を通し、職員の平和へ の関心が広がっています。入院患者、施設入所者などから直接戦争体験を聞く活動や、自転車リレー、自主的な平和サークルづくりなど、創造的な活動を生む力 になり、九・二五日宣伝を継続し、職場や共同組織に九条の会をつくる原動力になりました。
 「戦争は、もっとも生命を粗末にする行為であり、いのちを守る医療・福祉人として平和・憲法を守ることは、何より大切であること」を学ぶなかで、次世代 を担う職員が育っています。まさに、「平和問題のとりくみ」は、「生命を守る医療・福祉人づくり」のキーワードになっています。

2節 困難や課題を直視し克服しよう

1.経営困難の増大

 「医療構造改革」路線のもとで、民医連の経営は、急激な「外的」環境の変化に直面しています。 診療報酬・介護報酬の引き下げで収益が悪化し、ゼロ金利の廃止と金融機関の貸し出し選別化により、急激な資金難が起き、医療法人制度・民法公益法人廃止・ 保険業法などの法制度の改定や、退職金の課税強化など税制度の改定などにも、対応しなければなりません。
 同時に「内的」問題として、医師退職や看護師確保の困難、施設リニューアルや病床再編成などへの対応が迫られています。収益を確保しながら、手持ち資金 の減少に対応し、給与体系や退職金制度などを整備することも課題です。患者の窓口負担増にともなう患者減少や、窓口未収金の増大に対しては、共同組織とと もに地域のささえあいの力を強化することも必要です。
 全一六三医科法人の事業収益比で四七・三%を占めるモニター二六法人の事業収益は、前年度の上半期は増収(一九・七億円)でしたが、今年度の上半期には 事業収益が減少し、しかも事業費用が増加した結果、経常利益は前年同期の六・九億円から▲三・九億円と減少し(▲一〇・八億円)、黒字から赤字へ転化しま した。上半期を赤字で推移したのは、この一〇年間で三度目であり、資金繰りの悪化と合わせて、経営をめぐる状況は容易ならざる事態です。とりわけ事業収益 は、同期比▲一〇・八億円と減収であり、収益ダウンがそのまま経常利益ダウンに結びついています。減益の最大要因は診療報酬引き下げと医療改悪による収益 の激減です。
 一方、モニター法人中、「黒字:赤字」法人数は、「一三:一三」法人、同数になりました(前年「一六:一〇」)。赤字法人が増加していますが、中には経 営が改善している法人もあります。それらの法人の経験から学び、生かすことが重要です。
 全国的に見て、平均在院日数は減少し、入院患者を常に確保しないと空床が生まれます。民医連内から受け入れるとともに、外からの受け入れを強めることが 必要です。そのために救急隊と懇談したり、ACLS(二次救命処置)講習会の講師活動で学びあい、開業医などやほかの医療機関、福祉施設との連携を強めて いる事業所もあります。紹介したり、されたりの関係がたくさん生まれています。
 事業収益の四割を占める外来収益は、大幅に減収となっています。外来患者数の減少が主な要因です。投薬日数の長期化もありますが、医療改悪による受診抑制が大きな影響をおよぼしています。
 現役世代の有訴率と通院率の差=「がまん率」は、一九九五年に四%だったものが、健保本人の二割負担が実施された直後の一九九七年には一四%に跳ね上が りました。三割負担となった二〇〇四年には三割近くになっていると推定されています(国民生活基礎調査より)。慢性疾患の中断率もこれを裏付けています。 また、窓口未収金が増加しています。中小零細事業者や高齢者への負担が急増している今日、もっとも困難な立場におかれている人びとの「がまん率」は、さら に高くなっていると推測されます。
 「民医連新聞」の昨年八月二一日号に掲載した青森・中部クリニックの「無保険でも治療し、生健会との協力で生活保護受給を支援し、生活を立て直した」な どの経験のように、健診・保健予防活動の強化や生活相談、無料・低額診療制度の活用、助け合い運動などで、受療権を守る「総合力」を高め、件数増、患者数 を確保していく視点がいっそう重要です。
 モニター法人の無床診療所は、上半期一五・六億円の経常利益を確保しているものの、前年より減らしました(▲四・三億円)。その結果、病院の赤字を診療 所が補う構造を維持してはいますが、法人経営をささえる力は弱まりつつあり、見直しが必要です。
 歯科経営、保険薬局をめぐる経営も厳しい局面が拡大しており、全国的な経験や団結の力で改善をすすめていく必要があります。
 介護事業の施設収益は、過去三年間で二割近く減少しました。過去二年間、増勢を維持してきた居宅収益も今年度は減少に転じました(対前年比一二・一%→ 三・一%→▲一・六%)。介護報酬の大幅ダウンと、軽度介護者の介護保険からの締め出し、サービス取り上げが原因です。創意工夫をこらして経営を守るとと もに、介護改善の運動が必要です。
 事業収益、経常利益の減少の結果、資金繰りが悪化している法人が増加しています。モニター二六法人のうち、五法人で、月末現預金残高が月収の一カ月分を 下回っており、月によっては〇・五カ月分を切る法人もあり、特別対策が求められます。また医科一六三法人中、約四割が現金・預金残高の予測額を十分に把握 できておらず、情勢に見合う資金管理が不十分です。あらためて、民医連統一会計基準の徹底を呼びかけます。
 医師体制や看護体制も経営に直結する課題です。
 全役職員が経営をめぐる事態を共有すること、安易に「診療報酬債権流動化」などに流されず、職員や共同組織に徹底的に依拠した出資金や地域協同基金の確 保運動などをすすめ、「たたかう経営路線」を貫き、前進しましょう。「知恵は、現場にあり」。英知を結集すれば、まだまだやれることはあるはずです。
 営利・市場化の流れに、地域住民の共有の財産である民医連の事業所が押しつぶされるわけにはいきません。全日本民医連として、今日の情勢に見合った経営 困難支援規定見直しを開始します。県連とともに、経営困難に陥ったあるいは可能性を持つ法人に対する支援・援助をいっそう強めます。

2.「室料差額」を徴収しない立場民医連の理念に照らして再確認を

 病院の新築移転にあたり、室料差額を徴収することを検討している法人があります。主な理由として、入院環境改善の一環として個室率を増やすこととの関係で、それにかかる多額の費用を回収するために室料差額徴収を検討しているということです。
 全日本民医連は、これまでも総会や評議員会でこの問題についての見解を表明してきました。それらを振り返りつつ、あらためて全日本民医連の見解を表明します。
 一九七三年一二月理事会では、「民医連における差額徴収・保険給付外負担金について」を決定・発表し、その中で「一九六四年の第一二回総会以来、『原則 的に徴収すべきではない』とされ、診療報酬を引き上げ、すべての医療を保険給付として認めさせるために患者とともにたたかうことを基本としてきました。現 在もこの基本的態度を放棄する理由はありません」と、原則的立場を確認しました。「もし深刻化する経営困難を理由に、その打開策を安易に差額徴収に求める ようになると、無意識のうちに日常診療の中に差別をもちこみ、民医連の医療活動の特徴をゆがめる危険をはらみます。それが現実化すれば、結果として民医連 院所が依拠する働く人びとからの支持を失い、やがて『働く人びとの医療機関』の立場さえ、放棄する可能性があることをあらためて確認しておく必要がありま す」、「かりに、差額徴収によって若干のプラスがあったとしても、失うもののマイナスは、はるかに多くなることの可能性を見極めることが大切です」、「差 額徴収をしないことは、民医連の医療活動の特徴そのもの。医療戦線の統一、院所と患者との結合、院所の発展の力をどこに求めるのかなど、重要な点で根本を 問われる課題であることを深く考慮し、困難はあっても、民医連にふさわしい『患者とともにたたかう立場』で医療活動の充実と諸闘争を発展させることを基本 として、いっそうの前進を勝ちとることが大切です」、「とくに、病院・診療所の新築、増築などにあたっては差額徴収に陥ることのない厳密な経営計画を立て ること。新しい気持ちよい施設になったのだから、ということで差額を合理化するような安易な考え方に陥らぬよう留意する必要があります」と述べています (『民医連資料』一一号、『民主的医療機関と経営第一巻―二』収録)。
 また一九九〇年代に入り、老人保健施設など老人医療分野での差額徴収が問題になった時期の一九九二年第三〇回総会では、「差額徴収・自由診療にどんな対 応をとるかということがあります。この問題は、一般的医療、老人医療、歯科の三つの分野で問題の性格が異なっています。一般医療の分野では、室料差額反 対、自由診療拡大に反対し、保険適用を要求する私たちの運動と医療実践は、私たちへの国民の共感と信頼の一つのシンボルとなっています。この立場は堅持す べきものです」と述べています。一九九三年八月理事会決定では、「(1)一般医療分野での室料差額・差額徴収は断固行わない。現時点でそのことは可能であ り、国民の支持を得て運動をすすめていく上でも、この立場は重要。…中略…(3)老人医療分野においても室料差額、差額徴収、自由料金には基本的に反対で あり、最大限『室料差額』なしの院所、施設管理に努力すべきである。やむをえず『室料差額』を徴収する老人病院、老健施設は、…それなしで成り立つような 経営努力を続けるとともに、県連理事会の承認を得なければならない」(老人医療に関する室料差額・患者負担問題検討プロジェクト・『民医連資料』二五一号 収録)と述べています。
 さらに第三一期第二回評議員会方針(一九九五年二月)では、「今日、医療営利化の攻撃は激しく、医療機関自体が室料差額などの患者負担に頼ったり、種々 の営利事業にとりくむ方向にしむけられています。こうした時、民医連の『いつでも、どこでも、誰でも』良い医療と福祉をという主張と実践は、民医連院所の 存在意味をもっとも分かりやすく地域の人びとに示すものであり、このとりくみの『象徴』として『室料差額なし』の実践を三〇年以上積み重ねてきたのです。 この旗を安易に降ろすべきではありません。…(中略)…入院する部屋に対する患者の要求は『より広いプライバシーの守れる居住空間がほしい』ということで あり、『部屋代』を払っても、というのは現在の制度のゆがみの反映です。私たちは医療差別に反対しています。『室料差額』をもらうということは三〇年の医 療差別反対の旗印を投げ捨てることになりかねず、しかも運動の広がりとは無縁のものです」と、あらためて室料差額を取らない方針を確認しました。

3章 第38期総会にむけてこれから1年間のとりくみの強調点 
    ~困難は「たたかいと連帯」の力で 乗り越えよう~

 今期の全日本民医連理事会は、経営管理者交流集会、経営委員長会議、医師委員長会議、拡大看 護・看護学生委員長会議(二回)、介護事業責任者会議、病院管理者顧問弁護士交流会、歯科所長・事務長代表者会議、社保委員長会議など、総会決定を具体化 する重要な会議を開催してきました。
 これらの提起や到達点を踏まえて、これから一年間、第三七回総会決定の具体化をはかり、第三八回総会を迎えるための課題、強調点を、重点に絞って提起します。

1節 憲法・平和の「正念場」憲法9条と25条を一体で、守り生かす運動に全力を!

 今国会に「改憲手続き法」案である国民投票法案が上程されます。まぎれもなく憲法九条の改悪の ための「地ならし法」です。憲法九条の改変を参議院選挙の争点とすることを明言した現政権のもとで、平和を守る運動はまさに正念場を迎えます。圧倒的な世 論の力で、「改憲手続き法」阻止、憲法を守る運動を強めましょう。
 とりわけ三月一日から三一日を集中期間として、改憲手続き法反対署名を一職員当たり五筆、全体で三〇万筆を集めきり、全日本民医連として国会に提出しま す。すべての職場、職員がFAX、メール、はがき、面談などあらゆる方法を活用して、地元選出議員を中心に要請を集中しましょう。
 職員や共同組織など仲間の中で学習を通じ、確信を深め、「訴えられる人から、訴える人へ」と運動の輪を今より一回りも二回りも大きなものにしていくこと が重要です。私たちは微力であっても、決して無力ではありません。
 医師・医学者九条の会のとりくみを医師集団自らの運動として強めるとともに、引き続きすべての職場、共同組織、地域に九条の会づくりをすすめ、創意あふれる活動をすすめましょう。
各地の基地撤去運動や反核平和運動と連帯し、今後も三カ月に一度、沖縄・辺野古連帯行動を実施します。すべての県連で位置づけ、成功させましょう。韓国や 中国への平和ツアーを今年も実施します。また、平和運動の担い手を育てることを目的に、平和学校を開校します。
 第二七回日本医学会総会(二〇〇七年三月三一日~四月八日・大阪)開催の機会に、「医学と戦争責任」の企画を行うことになり、保団連、民医連、一五年戦 争と医学医療研究会、反核医師・医学者の会などが共同して「戦争と医学」展実行委員会をつくり、準備しています。日本の医学界が先の戦争責任を認めていな い中、この企画は重要です。ぜひ、成功させましょう。

2節 医療・福祉を良くし、患者・地域住民の権利を守る

 遅くとも参議院選挙までに、すべての地協で、条件のあるところでは県や地域単位で、九州沖縄地 協が行ったような「地域医療を守るシンポジウム」を開催しましょう。すべての県連でアンケートなども行い、病院はじめ関係団体・個人との懇談をおう盛に行 い、「共同」を広げましょう。
 高齢者実態調査、アンケート付きハガキ、孤独死調査などを分析し、マスコミなどを通じて社会にアピールし、地方自治体に「提言」しましょう。
自治体にむけて、具体的事実をもとに健診、介護、国保、生活保護、障害者、難病医療などの行政サービスの改善を求め、要求実現をめざす運動を強めましょう。
 今年の六月、七月を「高齢者の生活を守れ、生活保護の拡充」をめざす「強化月間」として、とりくみます。六月は、定率減税の全廃や住民税の一〇%化にと もない、各家庭に「納税通知書」が届けられる時期です。国保料、介護保険料引き上げ「通知」も行われます。昨年と同様に各自治体の窓口に問い合わせ、苦情 が殺到することが予想されます。すでに第一段階として、この三月、確定申告によって増税が行われます。今から準備し、各地で怒りの声を組織し、地域や役所 の前などで旺盛(おうせい)に「宣伝活動」を展開し、「生活相談」活動を共同組織、社保協や他団体にも呼びかけて行いましょう。選挙の一大争点として、新 聞などへの投書活動などマスコミを動かす活動も重視しましょう。
 月間の一環として、大阪民医連の高齢者「熱中症調査」や北海道・もみじ台診療所の団地「階段調査」(いずれも「民医連新聞」新年号)のような「目と構え」で、全県連でテーマを持ち、とりくむことを呼びかけます。
 憲法九条と二五条に焦点を当てたビデオ(DVD)と新版『明日をひらく社会保障』(社保テキスト)を作成中です。戦後の社会保障の画期的な前進をつくっ た朝日訴訟や、老人医療無料化運動など、憲法二五条に示された「権利としての社会保障」を育んだ運動を、全職員が学びあう活動を重視します。それは必ず運 動の推進力となるに違いありません。

3節 「医療費適正化計画2008年実施」問題を正面にすえ、共同組織とともに、地域医療を守る大運動を展開しよう

 二〇〇八年度から実施予定の「医療費適正化計画」は、都道府県、市区町村ですでに準備が始まっ ています。この計画は、日本の公的医療制度を根底から覆し、いっそうの地域医療の崩壊を招くものであり、断じて許してはなりません。この問題は、生保、国 保、障害者などの住民施策切り捨てと合わせて、すべての住民に重大な影響を及ぼします。直接被害を被る人びとが主体となるような、これまでの運動の枠を大 きく超え、医師会はじめ地域の団体、患者会、共同組織の総力を結集して、壮大な運動をつくりあげましょう。
  自治体に対し、徹底した情報公開を要求し、住民参加の運営のもとで計画策定するよう迫っていくことが大切です。
 計画段階で明らかになった問題点を知らせ、地域住民の健康を改善し医療を守り要求実現をめざす視点で、幅広い人たちと学習会やシンポジウムなどにとりくみましょう。
 自治体健診が各保険者の責任となり、保険者から民間業者に健診と健康指導が委託外注されます。民間業者はビジネスチャンスとして売り込みや健康指導者の養成と確保に躍起になっています。
 この分野で民医連の事業所が出遅れるならば、これまで積極的な役割を担ってきた自治体健診の分野から排除されることにもなりかねません。
 しかし「バスに乗り遅れるな」式の発想では、住民の健康に寄与することは到底できません。自治体健診がなくなることは、住民にとって重大な事態です。が ん検診などもこの機会になくされたり有料化される危険性があります。住民の健康管理の責任は、自治体にあることをはっきりと打ち出し、自治体健診を継続さ せ、安易な業者委託を許さない運動を大きく広げましょう。地域医師会や多くの団体とともに、自治体への提案型の運動を繰り広げ、住民の健康を守るという民 医連の立場を鮮明にして臨むことが大切です。
 高齢者医療保険制度創設、都道府県単位の医療保険の統合の問題にも、同様の立場で運動することが重要です。有病者が多く、保険料を支払う能力のない高齢 者層から保険料を取り、その範囲内で医療費をまかなうという「姥(うば)捨(す)て山」のような保険は、本当に残酷な制度です。医療費が高くなれば、保険 料や自己負担を上げるしくみで、負担ができない人は医療から締め出される事態も予想されます。こんなひどい内容をほとんどの住民、高齢者は知りませんし、 知らされていません。住民に知らせ、理念や考え方の誤りを問い、自治体労働者や自治体関係者、議員、老人会などと共同し、広域連合など各種協議会(議会) に、専門家や住民として参加し、私たちの要求を反映させることを重視しましょう。

4節 民医連医療機関の展望を切り開く挑戦

1.病院の課題

 昨年一一月、法人トップ・病院管理者五〇〇人が、「地域医療と国民皆保険を守るたたかい」の意 思統一と今日的な情勢のもとでの「民医連病院の再構築」を目的に一堂に会し、病院経営管理者交流集会を開催しました。集会後、見学などの交流も始まってい ます。資料集・報告集・CD―ROMや医療活動調査などの積極的活用を呼びかけます。
 この集会を踏まえ、民医連病院の役割や展望について、あらためて、以下の点を強調します。

(1)「無差別・平等の医療と福祉」、「共同組織の存在」、「理念で一致する職員集団の存在」な ど、民医連病院の理念・立場の堅持と組織の優位性の発揮が、今日の情勢や民医連病院の展望を切り開くうえで大事であること。特に地域医療崩壊といわれる中 で、民医連らしい医療活動、保健・医療・介護・まちづくりの総合性を追求する視点を重視する必要があります。
(2)民医連病院の再構築を考える視点は、病院の「規模」ではなく、「役割」と「機能」であり、解答は個別的であり、一つではない、ということです。他の 経験から大いに学び、徹底した地域分析を行い、地域の要求にもとづいて、進路を選択すること、自らの病院の「強み」、「弱み」を自覚し、ポジショニングを 確立することが重要です。とりわけ、(ア)地域の医療と福祉の水準および生活実態、疾病動向を数値でつかみ、分析すること、(イ)地域の動向分析と住民の 医療・福祉要求とをすり合わせ、課題を鮮明にすること、(ウ)その上で、地域の健康を守るために、何が重要なのか、実現にむけた連携のあり方や実践の道筋 を明らかにする作業を、重視することが大切です。全日本民医連医療活動調査も有用です。
(3)一九七〇年代から八〇年代前半にかけて病院化した、多くの病院施設が新築・リニューアルを控えており、多額の資金を必要とします。今日の情勢のもと では、特にしっかりとした経営計画・資金計画を策定することを重視すること。
(4)病院の「ミッション」「ビジョン」「ポジション」「アクション計画」を定め、実践するために、法人トップと病院管理者が責任をもち、役割を発揮する ことです。特に医師集団との意思統一、職員、共同組織の参加を重視すること。
(5)医師集団とともに、医師が結集できる魅力ある構想づくりをすすめ、医師を確実に増やしながら前進させる構えが必要です。その際、職員、共同組織の参加を重視しましょう。
(6)県連・地協に結集して、連帯と共同の力で民医連事業所の展望を切り開くこと。
(7)地域医療と国民皆保険制度を守るため、政策転換を迫る国民的共同運動を前進・構築すること。そのたたかいのうえで民医連の社会的使命と責任は重大で す。特に、医師・看護師不足をテコに医師・看護師の配置を「重点化・集約化」する政策は、公的医療費抑制の手段になっています。ドクターウエーブとナース ウエーブは、重要なたたかいのポイントであること。
(8)開業医や地域の病院、福祉施設との連携・協力は、日常の医療でも運動でも重要なキーワードです。

2.療養病床の課題

 日本医師会「療養病床の再編に関する緊急調査」では、医療区分1の患者が四割を占め、このうち 「病状不安定で退院の見込みがない」が三割にのぼります。「退院可能」のうちの半数は、独居や医療処置ができないなどの事情から「在宅での受け入れ」は困 難とされ、二割の患者は施設への入所を待っている状態です。慢性期医療の包括評価調査分科会コスト調査結果では、医療区分ごとの報酬と実際のコストとの間 に大きな乖離があることが明らかになっています。日本病院会の調査では、医療療養病床をもつ病院の七割が前年比で減収になり、一〇%以上の減収になった病 院が五割弱を占め、二割の病院が二〇%以上の減収です。経営危機から療養病棟の廃止・閉院を余儀なくされる病院もあります。
 医療費削減を目的とした療養病床再編の強行に断固反対の立場を貫きつつ、早急に医療区分の妥当性を検証し、見直しを行う運動を強めます。
 医療療養病床は、在宅での療養が困難になった難病や慢性呼吸不全、透析などの疾患への対応、終末期医療・ケアへの対応、在宅支援の急性憎悪への対応など、「なくてはならない」役割があります。
 医療療養病床が高齢者医療・ケアの場としてふさわしい機能・役割を維持していくために、医療区分2・3の対象の大幅な拡大と診療報酬(包括評価)の改善を求めます。

3.診療所の課題

 民医連の診療所は現在五二四カ所です(うち有床診療所二一カ所、近接診療所四五カ所、透析一二 カ所など)。二〇〇五年全日本民医連医療活動調査によると、ほとんどの診療所で往診をはじめ在宅活動、保健予防活動にとりくみ、地域に密着した役割を担っ ています。しかし外的には、医療改悪による受診抑制、地域の崩壊、新規開業ラッシュ、内的には医師体制の困難などの影響を受けています。こうした中で、あ らためて民医連診療所の存在意義を深め、役割を強めねばなりません。キーワードは、「地域の中での役割の自己認識」、「保健予防・医療・介護・まちづくり までの総合性」、「共同組織とともに」、「自覚的、献身的な職員集団」、「民医連内外との連携」です。課題は、医師体制、経営問題があげられます。この間 「民医連新聞」などに紹介された経験からも学び、受け身にならず積極的に医師確保や医師養成に参画し、前進を勝ち取りましょう。
 在宅支援診療所の届け出は、全国で九七二〇カ所と全診療所数の約一割を占めています(「朝日新聞」調べ、二〇〇六年七月現在)。民医連では一一月時点で 加盟診療所の六割・三一三診療所であり、三・二%を占めています。
 高齢化が進行する中で、自宅で生活を続け、最期を迎えたいと希望する人が増えています。「医療費削減先にありき」の「在宅への誘導」策には反対の立場を 貫きつつ、地域の要求にいっそう応えていくことが必要です。二四時間対応を中心とする在宅医療・ケアの拡充・強化が求められています。在宅医療を展開して いるすべての診療所で、この届け出をめざし、条件整備をすすめましょう。地域のネットワークの中で在宅療養支援診療所を軸に、二四時間対応の医療・ケア体 制を整備し、強化していくことが必要です。医師・看護師の過重負担軽減をはかる必要があり、固定医の配置、日常の連携やバックアップ体制の構築を、法人や 県連的連携ですすめましょう。地域で民医連外の事業所との連携を追求し、実現していくことも課題です。また、訪問看護ステーションをはじめ、ケアマネ ジャー、介護事業所が機動力を発揮し、終末期医療・ケアの対応、在宅分野での倫理問題を検討するしくみづくりもすすめましょう。
 国に対して、患者負担の抜本的な軽減策の実施を求め、在宅療養支援診療所がその機能を充分発揮できるよう報酬の改善を要求します。

5節 介護・福祉事業分野の課題

 介護保険制度は始まったばかりですが、早くも後退が続いています。一方、介護・福祉への要求は ますます強くなっています。経営環境は厳しさを増していますが、小手先の対応ではなく、医療・介護のネットワークと、共同組織の存在など、民医連の特徴・ 強みを生かし、たたかいと結びつけ、長期を見据えた「総合的な対策」をすすめましょう。

1.「最後まで安心して」をささえる事業

 「自宅で生活したい」という願いに応え、複合的な機能をそなえた施設、通所・ショートの単独型 施設、小規模多機能型の施設など、利用者と家族介護を多面的にささえる地域の拠点づくりをすすめましょう。「自宅では暮らし続けられない」高齢者が増えて いる中、低額の家賃で入居でき、医療・介護と連携できる「住まい」づくりを、運動として位置づけ、共同組織と連携してとりくみましょう。地域の福祉を総合 的にささえる上で、特養の役割は重要であり、地域の要求を踏まえ、引き続き施設建設を追求しましょう。
 軽度の利用者への生活支援を強化しましょう。あらゆる場面で相談機能を強化し、制度の枠にとどまらない自主事業、助け合い活動を広げましょう。
 民医連の地域包括支援センターは、五〇カ所となり、不十分な制度のもとでも、地域包括ケアの中核機関として活動しています。民医連内の地域包括支援センターの全国会議を開催し、経験を交流します。

2.介護事業整備の課題

 「介護事業の整備」を重視します。厚労省は給付「適正化」推進のため、新たな事業者規制、保険 者の指導監督権限の強化をはかるとともに、「指導及び監査指針」の改定を行いました(実施は二〇〇七年度から、可能な都道府県は二〇〇六年一〇月から)。 特に「監査」については「悪質」と判断される事業所を選定し、「改善勧告」「改善命令」、場合によっては「指定の取消」「効力の停止」などの行政処分を通 して給付「適正化」をはかるとしています。実地指導や監査の通知を受けてから整備するのではなく、質の確保・向上に向けたとりくみの一環として、恒常的に 指定事業所としての法的整備を重視しましょう。法人や県連での定期的な内部監査、事業整備への支援体制・システムづくりをすすめましょう。

3.介護保険「改悪」の実態を告発し改善・見直しを求める運動を

 介護保険法「改悪」から一年が経過し、軽度者のサービス利用の大幅な制限、予防給付への移行にともなう利用中断、認定システムや介護予防支援の矛盾、税制改定による費用負担の増大など、地域で様ざまな困難が広がっています(『困難事例集一』として発表)。
 「改悪」が利用者・家族の介護と生活にどのような影響・困難をもたらしているのか、全日本民医連では「困難事例第二弾調査」を行いました。現場で起こっ ている事実をもとに、国や各自治体に対する制度の改善・見直しを求める運動につなげましょう。
 これらを総合的にすすめるうえで、ケアマネジャーの役割が決定的に重要です。民医連ケアマネ政策づくりに着手します。

6節 医師問題へのかかわりを強め医師の成長を育む組織に

 今期五年ぶりに、県連医師委員長会議を開催しました。第三七回総会決定を踏まえ、第一に、スク ラップ・アンド・ビルドの医療政策の荒波の中で、民医連の医師集団が「輝き」を増すために、今日的な医師政策をつくり上げようと提起したこと、第二に、諸 外国と比べても圧倒的にわが国の医師数が少ないという事実認識を一致させ、医師増員運動を提起し、その発火点、発信源として民医連の医師集団が立ち上がろ う、と呼びかけました。
 医師の流動化が急速に始まっています。
 民医連は、二〇〇四年からのマッチング世代以後、研修医は伸びていますが、定年の増加(今後さらに急増予定)、中堅医師の退職問題などもあり、医師総数 が伸びておらず、一進一退の状況です。経営問題にも直結しています。医師集団の動向は、民医連運動の鍵を握っており、新たな前進のために何が必要なのか問 題意識を練り上げ、方針を具体化していく時期を迎えています。
 以下のポイントを絞って問題提起を行います。

1.あらためて「育てる医学生対策」にとりくみ、奨学生運動をいっそう重視しよう

 現在、全国の医学部に三六五人の民医連奨学生が存在します。一九九六年には四六三人の奨学生が 存在していましたが、とりわけマッチング以後の中低学年対策の遅れによって、一〇〇人以上減少しています。また全国七九医学部中、一校で二三人の奨学生を 擁している大学が存在する一方(一〇人以上は一〇大学)で、奨学生が一人もいない大学が一二校存在します。奨学生が集団の力で生きいきと成長している経験 も少なくありません。すべての地協、県連で、現状をリアルにつかみ、具体的な政策・方針をつくり上げ、次期総会までに四五〇人の奨学生・決意者をめざしま しょう。そのために、運動月間を設定します。

2.民医連運動を主体的に担う医師を養成するうえで、足りないものは何か

 新臨床研修制度のもとで、研修システムづくりや組織整備、教育技法の研修、指導医養成に努力 し、三年間で目標を大きく上回る五〇〇人以上の新卒医師を受け入れることができました。満足度調査では初期研修に約八割が「満足」との結果が得られていま す。全国的な医療団体としては最大規模の受け入れ数であり、研修満足度も高いことを、確信にすべきです。しかし、マッチングにより研修先を決めるという制 度のもと、民医連とのつながりが希薄な研修医が増えています。研修内容も細分化された中で、民医連の医師として成長してもらうことは、単に民医連病院に所 属しているだけでは困難です。民医連を担う後継者に育てられるかどうか真価が問われるのはこれからです。
 民医連医療を担う後継者を養成する、という視点に立った時、さらにどんな研修が必要なのか、あらためて考えてみる必要があります。
 一つひとつの症例にこだわり、生活背景をつかみ、多職種参加のカンファレンスを充実させて日常医療活動の中に民医連を実感できるようにすること、そして 指導医も、研修医も集団化して率直な意見交換ができるようにすることが大切です。また、退院患者訪問や班会など地域に出て学ぶこと、民医連の医療観や理念 である「生活と労働の場」からみる疾病観を身につけること、病院―診療所―在宅の連携をつかみ、経済問題も含めて患者を総合的に診る視点、地域の健康問題 の視点、民主的なチーム医療の実践などを体得することが必要です。
 社会科学的な視点、総合的な力量が求められます。これは、ある日、突然できるものではなく、奨学生―研修医時代―中堅、そして生涯を通じて追求するテー マです。これを中心的にすすめリーダーシップを発揮する、医師層の形成が決定的に重要です。県連や法人は幹部医師づくりを意識して、青年医師の時代から成 長を促すような系統的なアプローチを整えましょう。今年の四月末、「民医連青年医師学校」を開催します。また、すべての医師を対象に制度教育を行うこと、 と医師集団づくりを援助しましょう。

3.病院、診療所のポジショニング、ビジョンに医師養成方針をマッチさせよう

 医師退職の少なくない要因に、医療構想と医師のかかわりのミスマッチがある、と考えられます。 経営管理者会議でも提起したように、医療構想とポジショニングのあり方に、医師集団が積極的にかかわることを重視し、法人や院所管理部の責任で、議論と合 意づくりをすすめましょう。この作業は、医師政策を自らの医師像、医療観と重ね合わせて、つくり上げる過程です。診療科、分野によっては、一法人や一県連 では政策化できないことも多く、ビジョンづくりと医師養成方針をすり合わせるうえで県連、地協の役割が重要です。
 家庭医療学、プライマリー・ケアが体系的な発展を見せています。地域に根ざす診療所や中小病院を基盤にする民医連の医療機関こそが、これらの動きに注目 し、家庭医療学の成果や到達点から積極的に学び、実践をリードする構えをもつことが必要です。当然、一人での総合的な展開には限界があります。循環器、呼 吸器、消化器、糖尿、リハ、感染症、老年医学、緩和ケアなどの標準的な医療水準を維持できる、集団的な力量の獲得とシステムをめざす必要があります。
 これまで民医連の医師像として「総合性の上に一定の専門性を持った医師」という一般的な合意がありました。今日においても根本は同じですが、その具体的 内容を深め、医師政策にまとめる時期にあります。診療所、中小病院、県連センター病院や大規模病院などの診療現場を基礎に、後期研修の到達目標という形で 民医連の医師像をイメージできることが必要です。民医連の医師集団の場合、たとえば、「心疾患と労働時間の関係」の追求、「肺疾患とアスベスト問題」など 社会科学的な視点を持った診療への期待が高く、具体的な接近が必要です。臓器別専門医の養成は、しっかりとした総合診療能力の獲得を前提にし、県連、地協 の政策として確立することを呼びかけます。
 すべての民医連医師が、それぞれの役割を尊重され、働きつづけられる条件の整備が急務です。不平等感も退職の要因となります。過重労働の解消、全科で担 う医療構想、情報と目標の共有、労働と責任に見合う賃金・労働条件の検討、女性医師の働き方の工夫などについて、地協や県連・法人内に検討チームを設け、 具体的な計画づくりをすすめましょう。

4.医療崩壊の危機に立ち向かい民医連の医師集団として成長しよう

 ドクターウエーブは、医師、勤務医が主体者となる初めての提起です。日本の多くの医師、とりわけ勤務医と連帯し、政府に政策の転換を迫る運動です。管理部、医師集団の中で学習し、確信を深め、行動に立ち上がりましょう。
 全日本民医連は、闘争本部を設置し活動を開始しました。すべての県連に闘争本部を設置し、当面は医師集団での学習を重視し、医師会の勤務医部会、自治体 首長や病院長との懇談、各病院訪問、シンポジウムなどにとりくみ、運動を広げましょう。一月~三月末まで首都圏で全日本民医連としてラジオコマーシャルを 行います。

7節 「育てる看対」をすすめ、看護師確保と養成、質の向上をめざそう

 今年四月の「7:1」看護取得に向けて、大学病院などを中心に大量募集がかけられています。 「10:1を取得するために三〇床閉鎖、一五人の看護師が増えないと再開できない。看護師確保に追いまくられて、看護の質を良くする仕事ができない。派遣 紹介を利用すると、仲介料だけで一〇〇万円かかる。新卒はほとんど入ってこない」、「どこの病院でも看護師が集まらない。募集広告を出しても反応がない」 (東京)など、病院の存亡にも関わる深刻な声が、民医連外からも出されています。
 私たち民医連は、医療機関を看護師獲得競争に巻き込み、確保できない病院は「淘汰」されても仕方がないとする国・財界・厚生労働省の政策に、くみするものでありません。
 行き届いた医療・看護ができるよう需給計画をただちに見直すこと、辞めないで働き続けられる労働環境をつくること、看護師の養成数を増やすこと、五五万 人といわれる潜在看護師が現場に復帰できるよう必要な手だてをただちにとるよう、あらためて国と自治体に対し要求するものです。私たちも現場の実態から出 発して、積極的かつ具体的に政策提言していきましょう。看護師不足解消の方策のない安易な外国人看護師・介護福祉士の導入は、慎重にすべきです。この看護 師増員闘争を、看護師増やせの運動にとどまらず、医療矛盾に立ち向かい、医療を守り発展させる運動へ、飛躍させていきましょう。
 同時に、新卒確保目標一四〇〇人に対し、七〇〇人弱の到達です。実数で前年より前進しているものの、「達成困難」と回答しているのは三六県、八〇%と なっており、このまま推移すれば、看護体制の充実はもちろん、経営計画にも大きな影響を及ぼしかねません。民医連に就職希望する学生の動機は、「いのちの 平等」を貫いている~差額ベッド料をとらない病院への共感、地域とともに歩む病院、地域に密着した医療機関への共感、働きやすい、働きつづけられる職場、 が上位を占めています。そして多くが、高校生一日体験、看護実習・体験などを通じて、奨学生として関わり成長していく中で、民医連への就職を決めていま す。民医連看護学校の役割も大きなものがあります。離職者の職場復帰支援活動を開始した福岡や兵庫・尼崎医療生協など、多くの学ぶべき経験も生まれていま す。
 一方、看護師対策体制が弱まっており、強化が急がれます。あらためて「民医連医療、看護の魅力」を前面に打ち出し、全職員や共同組織の力も得て、新卒確 保、既卒確保に全力を尽くすとともに、本道である「育てる看対」を貫き、前進をかちとりましょう。看護の質向上をめざすとともに、仲間を大切に、育ち合う ことのできる職場づくりを重視しましょう。

8節 民医連組織の発展のために

1.共同組織月間の到達点と課題

 二〇〇六年度月間では、七万五五八〇人の仲間が増え、全国の共同組織数は三二一万を超え、大きな前進(前年五万八八四一人、前々年四万四七八九人)となりました。『いつでも元気』は、五万三三三三部の到達で、過去最高になりました。
 しかし、各県連・共同組織が自主的に立てた月間目標に対しては、まだ三七・五%にとどまっています。職員「一人あたり二人を」の提起に対しては、一・三 八の到達です。決めた目標をあいまいにせず、年度目標の実現めざし、必ず実現しましょう。
 地域で「連帯と共同」をすすめ、あらゆる分野で事業所との共同をすすめる共同組織が、大きく仲間を増やし、元気に力強く活動する状況を想像してみてくだ さい。四〇〇万の共同組織と『いつでも元気』誌一〇万部の実現は、第三七回総会で提起したように小泉・安倍政権のもとですすむ「孤立と分断」に対し、「連 帯と共同」を育み、安心して住み続けられるまちづくりをすすめるうえでの民医連の戦略的課題です。二〇〇八年に、都道府県単位での「医療費適正化計画」が 実施に移されようとしているもとで、共同組織の質量の発展、共同の強化がとりわけ重要です。民医連運動のあらゆる面で共同組織との共同を強めましょう。九 月三〇日~一〇月一日、長野・松本で第九回共同組織活動交流全国集会を行います。成功させましょう。

2.今日の情勢に見合う地協・県連機能の強化を

 第三五期第二回評議員会で「求められる県連七つの機能」((1)全日本民医連方針の討議と具体 化、県連理事会機能と機構の整備、(2)県連長期計画の策定と具体化、法人事業計画と経営の掌握と指導援助、(3)県を代表する運動組織としての役割、 (4)共同組織の拡大と交流、『元気』の普及、(5)民医連運動を主体的に担う職員育成と後継者養成の計画と具体化(教育事業の推進)、(6)医師問題の 前進、地協と共同して民医連運動を担う医師養成推進、(7)民医連組織を守り前進させるとりくみ)を提起しました。今期の経営委員長会議では「県連経営委 員会ミニマム案」、「地協経営委員会の役割」、経営管理者交流集会では、医療構想、戦略、医師養成などを地協、県連の力で練り上げる必要性について提案し ました。法人・事業所単独での前進が困難であっても、県連や地協の力の集中や調整によって前進の可能性が生まれます。
 県連は、それぞれの県における民医連運動を代表し、具体的に推進する役割を担っており、法人や事業所が肩代わりすることのできない機能と役割がありま す。法人、事業所との関係では、民医連の理念や綱領に照らして、指導を行う関係を強めることが求められます。これまでの提起に照らして、自らの県連機能を 点検し、必要な改善をすすめましょう。

3.全国的連帯の発揮を

 全日本民医連は、県連の要請にもとづき、経営困難に陥った徳島健康生協対策委員会を設置し、再 生運動を支援しています。また、宮城県連・宮城厚生協会対策委員会への参加を通じての支援、鳥取民医連への薬剤師支援、地協レベルでのさまざまな支援(茨 城、川崎他)を行っています。少しずつですが、それぞれ成果を生み出しています。今日の医療・経営をめぐる情勢のもとで、困難が増大しており、どの法人や 事業所にも、急速に困難に陥る危険性は存在します。我流や経験主義だけで前進は困難です。全国のすすんだ経験や痛恨の教訓から学びあい、知恵を出しあう、 全国・地協、県連的連帯の重要性をあらためて強調します。

4.民医連共済を守る運動

 自主共済の保険業法適用除外を求める国会要請行動を通じて、衆議院五三人、参議院二五人の国会 議員が紹介議員になり、再び大臣質問も行われる中で、同法の問題点が明らかになってきました。全日本民医連は自主共済運動への攻撃に反対するたたかいを続 ける一方、民医連共済運動を守り抜くため、中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合の設立も視野に入れ、全国八カ所で法人を対象にした説明会を開催しま した。三月に臨時総会を予定しています。

5.民医連綱領・規約の見直しについての到達点

 綱領・規約見直しプロジェクトを設置し、作業を続けています。第三七回総会で提起したように、 「古くなった」、「時代に合わなくなった」から見直しを行うものではありません。急速な日本社会の変貌、価値観の多様化の中で、民医連はあらためて「誰の ために、何のために、誰と、どのように」医療と福祉の実践と運動をすすめるのか、見直し、確認し、決意を新たにする機会とすることを提起したものです。第 二回評議員会に理事会素案を提起する予定でしたが、引き続き検討をすすめ、早期に提案する予定です。今期中の完成めざして五〇年史の準備をすすめていま す。

おわりに

 今春、多くの新しい仲間が入職してきます。パートなど非正規雇用の仲間も増えています。みな「いのちの平等」を掲げ、実践する民医連の仲間です。歴史に学び、歴史をつくるのは、私たち自身です。
 四月には統一地方選挙、七月には参議院選挙が行われます。秋には、大阪で第三二回全国青年ジャンボリー(二〇〇七年一〇月二一~二三日)が開催されま す。前回に引き続いて韓国・緑色病院からの参加が予定されています。今秋(二〇〇七年一一月一六~一七日)に、広島で行う第八回学術・運動交流集会は、 「広島からとどけよう 憲法を生かし、平和といのち守る声を! 地域医療の崩壊や、格差社会に立ち向かう 民医連の存在意義を深め、ひろげ、輝かせる時」 をテーマに集います。とくに医師集団の積極的参加を呼びかけます。医療・福祉・運動の成果、到達点を持ち寄り、交流しましょう。
 いつの時代にも困難はつきものです。厳しい時だからこそ、小手先の対応に走らず、職員と共同組織・地域との団結を固め、学ぶこと、たたかうことを重視 し、運動でも日常診療・福祉の実践においても、「いのちの平等」めざして、これからの一年間、力を合わせて奮闘しようではありませんか。

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