民医連綱領、方針

2014年6月17日

第38期第3回評議員会決定

2009年7月18日
全日本民医連第38期第18回定例理事会

はじめに

 憲法9条は「世界と日本の安全保障」、憲法25条は「いのちの安全保障」です。
 「いのちの平等」をめざし保健・医療・介護の実践と平和・民主主義擁護のために奮闘している民医連へ期待が高まっています。時代を大きく画するような激 動の時を迎えています。「権利」は与えられるものではなく、いつの時代にも、運動によって勝ち取ってきました。多くの国民と力を合わせ、悪政を転換し、 「人を大切にする社会」「権利としての社会保障」の実現をめざして大いに奮闘しましょう。
 今回の第3回評議員会は、(1)総選挙最中に開催される評議員会を医療・社会保障の拡充、要求実現をめざす決起の場とすること、(2)新しい団結の旗印 となる民医連綱領改定の論議を集約し討論すること、(3)医師、経営問題など次期総会までの重要課題について意思統一をはかること、(4)次期役員選出基 準を確認すること、を目的に開催します。

I、今の時代をどう見、働きかけるか(変革のチャンスです)

1.世界はアメリカ型の「競争原理主義」を拒否し、戦争に反対し、人間を大切にする新しい国づくりが始まっています。イラク戦争が間違いであったことが誰 の目にも明らかになり、ゆき詰まりと孤立を深めるアメリカではオバマ政権が誕生しました。オバマ大統領はプラハで「世界で唯一核兵器を使った国としての道 義的責任」に言及し核兵器のない新しい世界を、と呼びかけました。「核兵器廃絶」の運動と来年のNPT(核拡散防止条約)再検討会議が重要です。
 一方、アメリカから日本への軍事的・財政的負担を求める動きが強まっています。辺野古、横須賀など在日米軍基地強化を許さないたたかいを強め、年間6000億円におよぶ日本国民の税金を、在日米軍のために使わせないとりくみを強めましょう。

2.1月に実施したキューバ視察では、アメリカによる半世紀に及ぶ経済封鎖などで困難はあって も、憲法で医療費、教育費を一切無料と定め、「人間中心の国づくり」を実践していることを目の当たりにしました。保健・予防活動が重視され高度医療まで医 療制度が整備されていました。人口あたりの医師数は日本の3.2倍もあり、貧しい国ぐにから留学生を受け入れ医学教育を無料で行い、「人間が我が国の最大 の財産」(駐日キューバ大使)という国でした。政治制度や歴史の違いはあっても学ぶべきことが多い視察でした。イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン など多くの国では原則、医療費の自己負担はありません。これが世界の大きな流れです。

3.「派遣村=憲法25条村」の運動を通じて、これまでつながりのなかった多くの団体・個人が連 帯し、住所のない人の生活保護申請でも受理させるなど成果を生みました。新しい労働組合が生まれるなどの動きも広がっています。東京・日の出町では四月か ら七五歳以上の医療費無料化が実現し、石川・川北町でも来年1月から実施が決まっています。医学部定員増、介護報酬引き上げ、原爆症認定集団訴訟の原告 19連勝、生保申請基準の改善など、具体的な成果が生まれています。

4.実体経済と離れた「マネー資本主義」(実際に売り買いされるのに必要な「お金」の数十倍の 「マネー」が「儲け先」を求めて世界中を飛び回っている)の破綻が引き金となり世界が同時不況に突入しました。外需頼みの日本では08年度の経済成長率は 前年比▲12%に落ち込みました。1999年の派遣法改悪によって雇用制度が破壊され、非正規雇用労働者が全労働者の3分の1まで増えました。今や生活保 護基準以下の収入で暮らす労働者は1000万人(2006年度政府統計)を超えました。ただでさえワーキングキングプアといわれる労働者を大量に生み出し たのに加え、今回の景気落ち込みを受けて大企業は大量の派遣切りを行い、正規労働者の首切りへと拡大しています。各国が消費税を引き下げ、労働者保護政策 を打ち出す中、日本政府の動きは大企業擁護の政策に終始しています。直ちに労働者派遣法を1999年以前に戻すことを求めます。内需拡大による雇用の安 定、社会保障の充実が求められています。政府統計でも、医療、介護、公衆衛生などの強化の方が、道路建設などよりもはるかに経済波及効果が高いことが明ら かになっています。GDPの6割を占める個人消費(約300兆円)を高めるためにも、内需拡大へと経済政策を転換すること、セーフティネットとして社会保 障制度の拡充をはかることが緊急課題です。

5.1980年代以降、一貫して医療・社会保障制度が改悪されてきましたが、特に小泉内閣が誕生 した2001年以来、2011年までで13兆円もの社会保障費が削減される計画です。この間、自殺者は11年連続3万人を超えており、今年は1~6月の半 年で17,076人と過去最悪の事態です。日本医療政策機構が行った調査では九割の国民が医療費に負担を感じています。日本のように自己負担3割、後期高 齢者からも保険料をとり自己負担を強いている国は先進国では皆無です。無保険者が急増しています。介護認定制度の改悪で介護度が不当に引き下げられるなど 矛盾が噴出しています。
 一方、公私病院連盟・日本病院会による調査では、2008年6月度、76%の病院が赤字、自治体病院に限っては93%が赤字という実態です。

6.毎年、社会保障費自然増分の2200億円を削減するという06年度の閣議決定は、世論の猛反発の中、2010年度限定で削減しない方向を出していますが、削減を続けるという基本方針はなんら変えていません。
 公的医療費を抑制し、医療崩壊を招いてきたことの問題を端的に示したのが新型インフルエンザへの対応です。この間、中核となる自治体病院つぶしとともに 保健所の統廃合もすすんでいます。このままでは強毒性を持った新型インフルエンザが発生した場合、大混乱が起こることは必至です。特に、100万人の無保 険者の存在は深刻です。1918年に大流行した「スペイン風邪」では当時の人口5500万人の日本で39万人が死亡したといわれています(内務省報告)。 こうした事態を避けるためにも、しっかりした公衆衛生や医療態勢を整えさせることが急務です。

7.しかし、自民・公明党政権は、国民が直面している困難に対し、なんら解決の方向を示し得てい ません。1回限りの定額給付金2兆円は、消費税率の引き上げによる恒久的な国民からの収奪と引き替えの施策であり、弱者救済にも景気回復にも結びつきませ ん。大企業支援中心の15兆円もの補正予算ではなく、後期高齢者医療制度即時廃止など国民の切実な要求実現や生活不安を解消するためにこそ税金を使うべき です。自民党は「3年後に消費税増税」とマニフェストに掲げました。

8.総選挙が8月30日に行われます。「政治が人を殺す」ような悪政を転換するチャンスです。誰 が政治をしても同じではありません。かつて革新自治体では医療や社会保障、環境政策に力をそそぎ、老人医療費無料制度や公害被害者補償制度を実現した時代 がありました。いつの時代にも、要求を実現させる力は私たちと国民世論の大きさにかかっています。すでに野党四党の共同提案で、生保の母子加算復活法案や 後期高齢者医療制度廃止法案、介護報酬を3プラス7%引き上げる法案が国会に提出され、参議院では可決されています。民医連が単独で提出した看護師増員を 求める署名も3度、国会決議が上がっています。さらに介護保険制度の抜本改正や診療報酬の大幅な引き上げも可能です。
 一方、民主党への期待は大きく、東京都議選では大躍進し、自民党は歴史的な大敗北を喫しました。しかし、決してこれまでの都議会での民主党の役割が評価 されたのではなく、これまで都の提案に99.3%も賛成してきた態度を一変させ、対決姿勢をとり、「今の悪政を変えてほしい」という都民の怒りの受け皿に なって大量得票しました。築地市場移転反対、新銀行東京の廃止や医療や介護の充実、保育所待機児ゼロなど、掲げた公約を実現させるためには、私たちの運動 を強めなければなければなりません。民主党には、小沢前代表や鳩山代表への政治献金問題にみられるような金権腐敗体質があり、鳩山代表は憲法9条を変えて 自衛隊を軍隊として扱うことを公言し、四年先の消費税増税を否定していません。政権交代だけでなく、国民の生活を守る政治へと転換が必要です。
 民医連が発行したビラの学習、普及をすすめ、具体的な各政党の政策を学び、要求実現、社会保障政策の転換をめざして大きな変革の波を起こしていきましょ う。また、予定される自治体の首長選挙は暮らしに直結するものであり、重視してとりくみましょう。

9.全日本民医連の「医療・介護の再生プラン案」は、「税金の集め方・使い方」を変えることによって医療・社会保障の充実は可能である、と提言しています。さらに深め、実現をめざし、9条、25条を掲げる国民的運動へ奮闘しましょう。

10.北朝鮮は、国際世論に背をむけ、許されない暴挙を繰り返しています。私たちは非核の北東ア ジア実現を切望します。直ちに国連決議にもとづき6カ国協議に復帰すべきです。憲法九条を持つ国として日本の役割は少なくありません。同時に、田母神元空 幕長、桜井よし子氏、渡部昇一氏ら右派・改憲派の動きが活発となり、「日本は核武装すべき」とさかんに宣伝しています。被爆者の苦しみを全く理解しようと しないこれらの動きは軽視できません。

II、第38期第2回~3回までの半年間の活動の特徴と課題

 この章はこの半年間の活動を振り返り、第39期までの課題を提起します。

1.この間、私たち民医連は、医師増員、看護師増員、介護改善を求めて、それぞれが主体的になっ た3つのウエーブを展開してきました。これらは、医師養成数の増員や介護報酬3%引き上げなどの成果となって表れました。同時にこの運動は、これまでつな がりのなかった他の医療関係者や介護事業者、その職員とのつながりを強め、今後の運動をさらに広げる基盤を築くという大きな財産になりました。

2.平和自転車リレーはじめ平和活動が大きく広がり、四国の四県連が合同して反核平和マラソンを 実施したり、全日本民医連の平和活動交流集会、第2回平和学校、第17次辺野古支援連帯行動が行われました。「若い世代」が体験を通じ戦争の実相、今の日 米軍事同盟の実態を目で見て、成長しています。平和を守ることは医療・福祉関係者のつとめです。原水禁世界大会、来年のNPT再検討会議にむけた署名と参 加を管理部・職責が位置づけを強め、120万筆署名・100人以上の代表を送る準備を今からすすめましょう。11月に鹿児島で開催される反核医師・医学者 のつどいを成功させましょう。

3.「メタボ」に特化した特定健診・予防活動の問題点も明らかになってきており、制度撤回を含む 見直しを求めていきます。同時に、これらを乗り越え、民医連らしい保健予防活動を展開しましょう。医療生協さいたまでは、特定健診とともに協会けんぽの資 格取得を活用し、事業所検診を大幅に拡大、また自治体のガン検診や組合員健康チエックを活用して4.1万件の大腸ガン検診などを展開、健康づくりに寄与し ています。かわち野医療生協でも同様で積極的に健診・健康づくり運動にとりくみ、自治体のがん検診の約半数を実施しています。いずれも「地域まるごと健康 づくり」の立場でとりくんでいるのが特徴です。「協会けんぽ」生活習慣病予防健診受託医療機関の取得をすすめ、健保本人・家族の受診を促進しましょう。

4.アスベスト問題は今後数十年にわたってつづく労災・公害であり、これまで長年にわたって見過 ごされてきた疾患です。各地で実施した肺ガン死亡例の1000例見直し調査では約13%に石綿関連所見が見られました。日常診療の中で他の患者も含めて、 しっかりと「職歴」「生活歴」を把握し、健康と権利を守りぬくとりくみを強めましょう。また、被害者が各地で裁判を起こしています。専門家の立場から支援 を強めましょう。

5.1000人規模の熊本水俣掘り起こし検診(9月20~21日・現地実行委員会)が22年ぶり に全国的な支援のもと行われます。環境省は実態の解明もすることなく、自・公政権と民主党は、患者の声を全く聞かず「水俣病救済法」の名のもとに「幕引 き」「チッソ救済」法を強引に成立させました。今度の検診活動がいっそう重要です。公式発見から44年となる新潟水俣病でも裁判が起こされました。水俣病 解決のための新たなたたかいはこれからです。患者の完全救済にむけて、とりくみを強めましょう。
 原爆症認定集団訴訟の「全員救済制度」確立にむけて、新たな段階を迎えています。国は完全に敗訴しています。被爆から64年が経過し、今なお苦しんでい る被爆者は平均年齢76歳を超えています。与党PTからも1日も早い完全解決をのぞむ勧告的意見書が出ています。早期完全勝利のために被爆者のたたかいに 連帯し、奮闘しましょう。
 臓器移植法が国民的な議論も、国会での十分な論議も行なわれず成立しました。「脳死=人の死」と定めたこの法律は人間の尊厳にかかわる重大な問題です。 全日本民医連は、あらためて、国民的な議論を尽くすよう要求します。

6.新型インフルエンザが流行した神戸では、発生報道翌日には発熱外来はパンク状態となり、感染 病床も満床となりました。検査キットや防護マスクも不足しました。行政の指示系統が縦割りのため必要な情報提供の遅れや混乱が生じました。休校・休園、老 人通所施設の一時閉鎖などによる社会生活への支障も問題になりました。国や自治体の対応を含め今後のために教訓化しておくことが重要です。全日本民医連 は、整理すべき課題をまとめ今後に生かしていきます。
 あわせて、この間すすめられた公的病院など医療機関つぶしや保健所つぶし(この10年で4分の1が統廃合された)が問題です。
 全日本民医連は、神戸など大流行した地域での経験を踏まえ、自治体病院などがしっかりと地域の災害拠点としての役割を果たすこと、安全なワクチンの早期 製造と必要な患者への適用、医療機関や行政との間での情報交換や連携システムの早期確立などすすめるよう国・自治体への要求をまとめ提言しました。各自治 体への要望や地域での連携システムづくりをすすめましょう。

7.また、公立病院改革ガイドラインなどの締めつけで統廃合がすすめられようとしている自治体病院や公的病院を守りぬき、地域医療の再生のために、医療機関や施設、行政関係者などとの連携や共同を強めていきましょう。

8.世界的に見ても、日本のワクチン行政はたいへん遅れています。昨年末ようやく発売されたヒブ ワクチンは供給不足、3万円近い自己負担の重さが問題となっています。定期接種化と公費負担を求める運動を「細菌性髄膜炎から子どもを守る会」の仲間とと もに強めていきます。小児用肺炎球菌他のワクチン接種も安全性を高め、公的接種を求めます。今年は薬害根絶デー10年目に当たります。肝炎など全ての薬害 患者の完全救済および薬害の根絶めざして活動を強めましょう。

9.昨年、全国放映された城北病院を舞台にした「笑って死ねる病院」は民医連の職員、共同組織の みならず多くの国民に感動を与えました。このとりくみは民医連のめざす「患者に寄り添う」医療実践であり、全国の仲間がとりくみ、めざしているものです。 あらためて大いに学び、「共同の営み」「民主的集団医療」を徹底させ、患者の立場に立った医療・福祉の実践にとりくみましょう。

10.08年度の経営は、上半期のたいへん厳しい状況を受け、医科法人専務・県連経営委員長会 議、DPC病院交流集会などを開催し、全国の経験から学び下半期の経営改善をやり抜くことを確認しました。下半期、多くの努力が行われ一定の成果も生まれ ていますが、08年度全体では経常利益は前年に比べ約17.3億円減少し、37億円(対事業収益比0.7%)、税引き前純利益で47.8億円減少し、 ▲29.1億円というたいへん厳しい状況です。08年度の経営実態調査(集計中)では、要対策「短期指標」に該当した医科法人は37法人、「中長期指標」 に該当したのは55法人で、いずれも前年の該当数を上回る結果です。金融機関の対応いかんでは経営危機が表面化する可能性も少なくありません。小泉構造改 革以来、保険料引き上げ、患者負担増などを主な理由に全国のどの医療機関も患者件数・のべ患者数とも減少が顕著です。自院の経営分析・患者動向を把握し、 09年度第1四半期・上半期経営分析を行い、下半期にむけて意思統一をきちんと行うこと、2010年の経営・予算づくり方針を全職員や共同組織の力も得て つくり上げることを呼びかけます。この秋、3つの病院調査を踏まえ中小病院交流会、また診療所所長交流会を開催します。

11.来年度の診療報酬改定での10%以上の大幅な引き上げ、介護保険制度抜本改正や報酬引き上げ7%以上にむけて運動をいっそう強めていきます。公益法人改革での「たたかいと対応」、自主共済を守り、全日本民医連厚生事業協同組合の活動を強めます。
 全日本民医連の連帯の力を事業の分野でも強める時です。全日本民医連として医薬品、医療材料の共同購入のあり方について検討を開始していきます。

12.全日本民医連は、昨年の総会で確認した「室料差額を徴収しない」立場と新病院建設計画にかかわって室料徴収を行おうとしている法人の問題に関し、当該県連との定期懇談を踏まえ、県連に対し全日本民医連の見解を送付し、徹底論議を呼びかけました。

13.6月から事務幹部学校を開始しました。医師、看護師不足は主に必要人数に対する不足が指摘 されていますが、事務の場合、経営困難などで計画的な採用ができなかったなど、主に幹部の質と量が問われています。次代の民医連運動を担う幹部づくりを、 学校と現場と共同して成功させましょう。また、各地協、県連レベルでの事務の力量アップを意識的に追求しましょう。今期中に1994年以来改定していな かった「事務政策」を見直し、提案する予定です。

14.「共同組織活動交流集会*$8168長崎」には全国から1560人もの仲間が集まり、肥田 舜太郎顧問の記念講演、各地の豊かな実践が生き生きと報告され、大成功しました。小さな県連にもかかわらず成功のために奮闘された長崎県民医連の仲間と、 九州・沖縄地協の仲間に感謝します。次期開催地は岩手に決まりました。この秋の「共同組織月間」では、職員・共同組織の仲間が地域に打って出、仲間ふや し、『いつでも元気』普及、健康づくり、出資金(地域協同基金)増資、班会開催、平和・社会保障の改善などをすすめ成功させましょう。目標は別途提起しま す。

15.今秋には福岡で第33回全国青年ジャンボリーが開催されます。ジャンボリーは民医連に働く青年が集い、語り合うことを通じて、仲間との連帯や民医連を実感する場です。大きく成功させましょう。今回も韓国緑色病院から青年を招待し交流します。
16.群馬で行われる第9回学術運動交流集会には701演題が報告されます。経済同友会終身幹事である全国革新懇代表世話人の品川正治氏の講演も予定され ています。各地の実践を交流し、学びあう場として、積極的な参加を呼びかけます。

III、第39回総会までの重点

1.綱領改定案の学習・討議運動を徹底的にすすめ、「民医連とは何か」を深め、自らの力で21世紀を切り開く新しい団結の要、新綱領をつくりだそう

 新綱領草案の学習討議運動は、DVDの活用や「私と民医連」を語る運動など創意あるとりくみが全国で行われました。あらためて無産者診療所以来の民医連 や法人、事業所の歴史、「無差別・平等」の理念のもと果たしてきた役割を学び、今日の情勢のもとで民医連が「誰のために」「何のために」「誰と」「どのよ うに」「どんな」医療や福祉をすすめるのかをあらためて深める機会となっています。この学習運動を通じて多くの仲間が「民医連で働いてよかった」と実感し たとのべています。共同組織の中でも積極的に討議され、大きな信頼を寄せていただいています。
 第38回総会で提起した「室料差額問題」の全日本民医連の立場についても綱領改定論議の中で積極的に受け止められています。民医連は、混合診療を容認し ません。「すべての人が保険でよい医療・介護を」受けることができる制度を求めて引き続き運動をすすめます。
 民間医療保険の販売が解禁されたのは老人医療有料化、健保本人1割負担実施と同時期です。すでに東京などでは1日20万円を超える室料差額をとる病院も 現れています。アメリカ政府から日本政府に対して出されてきた規制緩和要求(年次要望書など)にもとづいて実施された目玉が、民間医療保険や医療材料・医 薬品の販売拡大です。
 これまでに「草案」に対し多数の意見や要望が寄せられています。現綱領以来の実践を通じて積み上げてきた「無差別・平等」「共同の営み」などの理念を盛 り込んだこと、民医連運動にとって欠くことのできない「共同組織」を位置づけたこと、「憲法を守る立場」を明確にのべたこと、「核兵器廃絶」「環境問題」 「地域とともに歩む専門職の育成」、後文に、開かれた民医連として圧倒的多数の国民と協力・共同をすすめ医療と福祉を民主的に変革していく立場を表明した こと、などを多くの仲間が歓迎しています。「やわらかい」表現になったことに対する賛成意見が多いのも特徴です。同時に、「今の名文を変える必要性を感じ ない」といった意見や「働くひとびとの」や「非営利・協同」の表現、「医療生協組合員の記述」などについて、世代、職種、立場などによって違った意見も少 なくありませんでした。
 討議を踏まえ、あらためて理事会の綱領改定の立場を表明します。現綱領は時代に合わなくなったから変えるのではなく、さらに発展させ、21世紀に輝き、 次世代にバトンタッチできるものへとバージョンアップさせるのです。「学習・討論」運動で出された多くの意見を踏まえ改定案を提起します。全国の仲間の熱 い討議で新たな民医連運動の旗印として新民医連綱領をつくりあげていきましょう。特に、民医連運動の中心的役割を担う医師集団での旺盛な議論を強めましょ う。

2.綱領論議の力を基礎にこの秋から冬にかけ、「地域に打って出る」活動を強め、受療権を守る活動、健診活動、生存権を守る活動などを旺盛に展開しよう

 綱領論議を実践に生かしていかなければなりません。目の前の患者・利用者に対し、その人らしく、尊厳を守り抜く医療や介護実践を強めましょう。また、日 本中の困難な人たちが安心して医療や介護を利用でき、安心して生活できる権利行使のために奮闘しましょう。
 このことは、第30回総会(1990年)で定式化した「患者の権利2つの側面」((1)目の前の患者と医療者との関係における患者の権利、(2)誰もが憲法で保障された医療を受ける権利)を守る実践そのものです。
 生活が困難な人びとへの支援活動、生活保護や国保改善運動などを重視しましょう。日常の現場で、1つひとつの事例を深く多角的に検討することが重要で す。意識的に「一職場一事例」検討会など集団的なとりくみを行いましょう。
 実際、生活が困難な人は地域社会の中で孤立し、自己責任を感じ、もちろん医療機関にも受診できません。権利としての社会保障を根づかせる必要がありま す。患者・利用者の立場に立ち、学習すること、地域に打って出る、調査し実態をつかむ、さらにそれらを発信し、国や自治体の施策を求めることは、民医連と 共同組織が最も力を発揮できる活動です。2万人総訪問活動(北海道)、国保中断患者訪問(福岡)など「地域に打って出る」気風を事業所、職場につくり出 し、「地域から孤独死を出さない」「最も困難な立場の人びとに寄り添う事業所」としての決意を固め、具体的な実践を広げましょう。
 無料・低額診療事業への挑戦が続き、届出が受理される事例が増えています。独自の財源で支援する自治体の動きも出ています。さらに全国規模で発展させま しょう。貧困の拡大の中で、自治体の財源を使った施策も生まれています。金沢市では新たに独自に生活困窮者への医療費助成制度をつくりました。一方、全国 1800余の自治体中、国保法44条(やむを得ない事情のある場合一部負担金を減免する制度)の適用基準を決めている自治体は1000余にとどまり、あっ てもまったく知らせていない、活用していない自治体も少なくありません。後期高齢者に対する減免制度も同様です。また、他の制度運用も求めていきましょ う。この秋、地域社保協などとともに一斉自治体キャラバンで要求していく運動を強めましょう。また、国に対して自治体への財政援助も求めていきます。
 また、国に対し、2200億円の社会保障削減方針の撤回、診療報酬の大幅引き上げ(10%以上)、国保資格証明書発行中止、中学生までの小児の医療費無 料化、生保老齢・母子加算廃止の撤回、後期高齢者医療制度即時廃止や医師・看護師増員、10年目に入った介護保険制度の抜本的改善、など3ウエーブのとり くみをさらに強めること、消費税引き下げや「ゼロ税率」化などを求めて運動を強めます。10月22日には医療関係者・市民の一大決起の場として中央集会、 11月8日には国民大運動実行委員会主催で10万人規模の国民大集会が開催されます。総選挙後の集会であり、要求実現をせまる全国的な運動として位置づ け、大きく成功させましょう。医療崩壊の矛盾は地域に現れています。全国各地で医療・福祉の改善を求めるシンポジウムや集会などを、大小問わず多くの団体 や個人と共同して広げましょう。

3.医師問題は民医連運動の最大のカギ、臨床研修制度へのたたかいと対応、医学対活動の十分な分析をすすめ、専門職の確保と養成に全力をあげて奮闘しよう

 医師問題は内部の医師体制の問題とともに日本における重要な社会問題です。最大限の力を発揮して前進をかちとりましょう。
 医療崩壊の進行に動揺した政府は、ドクターウエーブの運動と世論に押され医師養成数増員の方向へ、これまでの方針を大きく転換しました。医師・医学生2万筆を超える運動の大きな成果です。
 一方、研修医の強制的な配置コントロールと実質的な研修期間の短縮をねらって、道理のない臨床研修制度見直しを行いました。医師数の絶対的不足という深 刻な事態にもかかわらず臨床研修病院の数や募集定員を減らす制度に大義はありません。政権交代も可能な情勢のもと、地域の医療機関や大学関係者はじめ多く の医療関係者や医学生との共同で、この制度を押し戻し、地域に密着した医師養成を実現させる制度へいっそう運動を強め、日本の医療崩壊を防ぎ、再生に向け て奮闘しましょう。
 全日本民医連は5月に緊急医師委員長会議を開催し、第一に、住民や他の研修病院など共同の力で、地域の中小病院を医師研修から排除させない、第二に、 「地域で幅広い基礎的臨床能力を身につける初期研修こそ医療再生に貢献する医師養成」という積極性を世論にし、医学生のコンセンサスにするとりくみを強め ること、第三に、研修コースが複線化する中で、民医連の初期研修の優位性を打ち出してフルマッチをめざし、医学対活動を強化する、との意思統一を行いまし た。
 臨床研修病院を中心に、各地で県当局との懇談やシンポジウム、研修プログラムの充実や地協の対応、卒年対策の強化がされました。民医連は、国の臨床研修 制度がなかった時代から4000人以上の初期研修医を受け入れた実績があります。そして、社会性、総合性を持ち、チーム医療を重視してきた民医連の医師養 成に対して、経験した研修医や医学教育者からの高い評価があります。これらは、地域にある切実な要求を受け止め、共同の営みの視点で医療をすすめてきた民 医連の歴史と実践、そしてそれを担う医師の確保と養成を特別重視してきた結果であり、これらを確信にして今後のたたかいと対応をすすめましょう。秋には、 日本生協連医療部会と合同で第8回臨床研修交流会が開催されます。民医連の研修の優位性を確認し、充実させる機会として成功させましょう。
 医学生対策は今後の民医連運動が前進する上で最重要課題です。中・低学年から民医連運動に触れ、学び、成長する奨学生を大量に生み出し、集団化するとり くみをなんとしても強めましょう。そのためには、各県連レベルで、現状をリアルに直視し、必要な手だてをとることが求められています。以下、問題提起を行 います。
 民医連の奨学生がなかなか増えない、医学生運動の困難が続き、医学連脱退の動きが起こるなど、医学生をめぐる状況は厳しいものがあります。医療再生に向 かって青年医師や医学生が正義感を発揮して活躍すべき時代に、なぜなのか、どこに困難があるのか、県連、事業所幹部や医師集団の本気の分析と行動、担当者 への励ましが必要です。
 各県連で、医学生の生の声が十分つかめているでしょうか。医学生名簿が手に入らない状況があり、従来の医学対活動と大きく様変わりしています。対象者が 開拓できない、ネットからしか実習申込みが生まれない、高校生対策や新歓期につながった数少ない特定の個人との関係に終始しがちという傾向があります。担 当者は、医学対へ医師を組織するのも大変な状況で、限られたつながりを細ぼそと続けるのが精いっぱいという状況すらあるのではないでしょうか。
 一方、事務幹部は担当者を配置するのが精いっぱい、あるいは配置も困難で、具体的な活動や担当者の悩みを聞き、いっしょに打開策を考える余裕もない状況ではないでしょうか。
 県連や拠点の病院として、たとえば地元大学の医学生の何%の状況を掌握できているか、どれだけ対話したか、対話の中身はどうだったか、つながりのある学 生に経年的に誰がどのようにアプローチし、どう変わってきたかなど、具体的な指標や活動内容をつかみ、いっしょに考えることから始める必要があります。
 この間すすんでいる中学生、高校生の医師体験や、医師、担当者、生協組合員などが一体となって粘り強く医学対活動をすすめ奨学生活動やサークル活動を援 助している和歌山の経験など、担当者任せにせずに全国のすすんだ経験を徹底的に学びましょう。全日本民医連は、全国の実情もつかみ、今後の発展のために、 何が必要かについて第39回総会方針に反映させていく予定です。
 医学生、看護学生はじめ医系学生対策を法人・管理部の中で位置づけ、体制を確立しましょう。
 2010年度、地協・県連の初期研修医受け入れ目標を必ずやりぬく具体的な意思統一をはかりましょう。
 医学生や青年医師、若手の専門職に必要なのは、長い人生の中で地域、患者、住民の生活にふれ「どんな医師、専門職となるのか」です。10年後の自分を想像し、ともに未来を語り、ともに成長していきましょう。
 そのためにも民医連綱領にもとづく医療や活動が意識的に行われているのか、とりわけ事務幹部が医師に対して正面から向き合っているのか自己点検し、改善 をすすめましょう。医療生協さいたまでは「私たちの命と医師を守る宣言」を確認しました。民医連の医師は、地域から学び、患者から学び、他職種や同僚から 学び成長してきました(肥田舜太郎、莇昭三医師ら「私と民医連」論文など参照)。それは今も昔も同じではないでしょうか。
 民医連の医療にふれ、民医連で働きたい、と参加してくる既卒の医師も少なくありません。全日本民医連は、民医連を語り、全国の医師や潜在医師に民医連への参加を呼びかける機会をつくります。
 看護師、薬剤師、リハ・技術者、介護・福祉分野の職員、事務などの育つ土壌も道筋も同様であり、同じ視点を貫きます。

おわりに

 私たちは、今、これまで経験したことのないような転換期の時代を生きています。全日本民医連が結成されて56年になります。自民党が国政選挙で過半数を 割り、支持を失って政権の座から降りるというような事態は初めてのことですが、その可能性が開かれています。こんな異常な政治はもう終わらせなければなり ません。政治が変われば暮らしや社会保障が変わります。
 全日本民医連も協賛し、秋に完成する「日本の青空II~いのちの山河~」は半世紀前、豪雪地帯で医療から遠ざけられていた人へ、日本でいち早く老人医療 を無料化し乳幼児死亡をゼロにした旧・沢内村を舞台にした映画です。その後、70年代には次つぎに革新自治体が生まれ、1973年から10年間、全国で老 人医療無料の時代が続きました。四半世紀前までは健保本人の自己負担はありませんでした。政権を交代させ、運動をいっそう広げ社会保障削減政策の撤回、介 護保険制度見直し、診療報酬を大幅アップさせましょう。
 来年は無産者診療所が誕生して80年周年です。無産者診療所誕生のきっかけとなった戦前の労農党代議士・山本宣治の出身地、京都で行われる第39回総会に向けて、奮闘し、各地の成果を持ち寄りましょう。

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