民医連綱領、方針

2014年6月17日

第34回定期総会 運動方針

目 次

はじめに
―第34回総会の意義と任務
第一章 私たちをめぐる情勢
第一節 国民の医療・社会保障への要求と国民生活の苦難
第二節 国のあり方をめぐって
第二章 90年代の民医連運動の到達点と21世紀初頭の課題
第一節 90年代の民医連運動の到達点
第二節 21世紀初頭の課題
第三節 民医連の医療・福祉宣言
第三章 2年間の活動のまとめと今後2年間の方針
第一節 民医連の医療と経営を守り抜き、「民医連の医療・福祉宣言」をつくるとりくみ
第二節 地域に「人権と非営利」をめざす共同の輪を―平和・人権・福祉の新たな日本を
第三節 「科学とヒューマニズム、民主的医療人」―民医連運動の担い手としていかに成長するか
第四節 共同組織の総合的発展を
第五節 民医連運動の団結を新たな水準に
おわりに


はじめに-第34回総会の意義と任務

 第34回総会は、20世紀最後の年に開催されました。

 今世紀は、医学・医療が大きく発展し、科学・技術とともに社会的生産力も飛躍的に発展しました。そして、 国民主権、民族自決、基本的人権など社会の進歩と変革の運動が大きく前進した時代でした。しかし、残虐な戦争や核兵器によって、多くの尊い生命が奪われた 世紀でもありました。

 もうこれ以上愚かな殺戮を繰り返してはならない、これが世界の人々の願いと決意です。また、「経済効率」 一本やりの今日の政治・経済の社会にあって、このままではいのちと健康、雇用や営業・くらし、教育や文化、さらには環境などが破壊されてしまう、一人ひと りの人権が守られ、平和と民主主義がもっと大切にされる21世紀の社会をつくりたい、これが国民の熱き願いでもあります。

 とりわけこれからの2年間は、憲法をめぐって国民的な論議がまきおこり、逆立ちした政治を転換できるかどうか、介護保険時代をむかえ、医療や社会保障の充実をめざすうえでも重要な時期をむかえました。

 1953年に全日本民医連が結成されて47年が経過しました。現在、民医連の加盟院所・施設数は 1350、民医連常勤職員数は4万3000名、常勤医師・歯科医師は3300名、共同組織の構成員は264万に達しています。民医連の主体的力量は、量的 にも質的にも日本の民主運動、医療運動の中で誇るべき到達点を示しており、同時に歴史的な重責を担うことが期待されています。

 私たちは、この総会期に21世紀をむかえます。平和・人権・民主主義の憲法が尊重される社会、新しい平 和・福祉の国に日本を切りかえようという運動と国民の声が高まりつつある中で、21世紀初頭の民医連運動の展望をどのように切り開き、地域の中での民医連 院所・施設の存在意義を輝かしていくべきかを論議する総会でもあります。

 第34回総会運動方針案は、第一に、雇用・くらし・営業など国民生活の苦難が増大し、医療・社会保障への 攻撃がいっそう激しさを増しつつある中で、政府・自民党や財界など支配層のねらいを明らかにし、これらの悪政にたいする従来にない国民の反撃の高まりな ど、今日の時代認識を一致させ、医療・社会保障の充実をめざすたたかいの方向を決めることです。

 第二に、90年代の民医連運動の到達点を明らかにし、21世紀に向けて医療・社会保障のたたかいと民医連 の存在意義を深め、憲法を守り、「『人権と非営利』をめざす共同の輪を広げる」とりくみ、「安心して住み続けられるまちづくり」など、21世紀初頭の課題 と中長期の民医連運動の基軸を示すことです。

 第三に、介護保険を中心とした国民的たたかいの前進と、その中で民医連のはたした役割、民医連運動と加盟組織の前進、医療・経営構造の転換や医師確保と養成のとりくみなど、この2年間の活動を総括し、教訓と課題をまとめ、今後2年間の活動方針を決定することにあります。

 今総会の任務はつぎのとおりです。

  1. 以上の内容をもつ運動方針案と関連する規約の一部改正案を審議し、決定すること。
  2. 98・99年度会計決算と会計監査報告を承認し、2000年度予算と2001年度概算予算を決定すること。
  3. 新しい役員を選出し、評議員・予備評議員を承認すること。

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第一章 私たちをめぐる情勢

第一節 国民の医療・社会保障への要求と国民生活の苦難

(1)医療・社会保障への国民の切実な要求

●医療・社会保障の連続改悪への高まる不安と怒り

 最近の世論調査や政府調査で、国民の医療や社会保障への不安、将来生活への不安を訴える声が7~8割を示しています。

 この間の度重なる医療改悪のもとで、患者負担が増大し、「入院だけは勘弁してほしい」「検査はこのつぎ に…」など、日常診療の現場でこんな声を聞く回数が増えてきました。「病院に来れる人はまだまし。医療を受けたくてもお金がないからと我慢している人が地 域にはいっぱいいる」と訪問看護ステーションの看護婦は語ります。

 2000年度国家予算案では、70歳以上の人は外来・入院ともに一定の上限を設けた上で1割の定率負担と なり、入院給食費も値上げされ、患者負担が重くのしかかってきます。高額療養費も大幅に引き上げられようとしています。高齢者の入院期間が6カ月を超えれ ば看護料を半減するという、診療報酬上での老人追い出しの施策はすでにとられています。病院も追い出され、ショートステイや老健施設を探すのに奔走してい る患者・家族は少なくありません。

 介護保険への不安は日増しに高まり、「利用料が払えない」「介護保険料をとられても、認定されないとサー ビスが受けられないなんて」と怒りと不安が満ちています。「行政の申請説明会のあと、悲観して老夫婦が自殺した」(福井)など、高齢者をはじめとした社会 的弱者でいっそう悲惨な事態が生まれています。

 国保問題では、介護保険制度と同時に国保法の改悪が行われ、資格証明書・短期保険証の発行数が全国で40万世帯(昨年比122%)に急増し、滞納者が348万人を超えるという深刻な状況が続いており、「国保が人を殺す」憂慮すべき事態となっています。

 年金問題では、基礎年金に続いて報酬比例部分の支給開始を65歳に先送りし、支給額を5%カットし、賃金 スライド制を「凍結」する改悪案が、先の臨時国会でわずか10時間の審議で自自公によって強行可決されましたが、議長裁定で今通常国会の議題となっていま す。この改悪案が通れば、平均賃金で平均年齢まで生き、2025年以降に65歳になる夫婦の場合、生涯支給金額が1200万円も減額されることになるので す。

 また、「日本版401K」といわれる労働者の退職金や年金を証券市場で投資し、企業負担を軽減する動きもあり、まさに国民のいのちや暮らしを無視する驚くべき事態となっています。

 保育の分野も従来の措置制度から契約制度へと変わりました。新エンゼルプランは少子化対策としてうちださ れ、低年齢児の保育所受け入れを増員するなど積極面をもっていますが、実質は国家の責任を放棄しています。地域の中で子どもたちの人権と医療を守る施策の 充実が求められています。

 このように、「いのちは平等であり、権利である」という社会保障の理念がふみにじられつつある中で、国民の医療や社会保障への現在と将来にたいする不安と怒りが増大しつつあります。

●すすむ地域医療の破壊

 日本の病院数は1990年の1万96施設、病床数は1992年の168万6696床をピークに、病院数・ 病床数ともに減少しています。厚生省のねらいは、日本の一般病床が人口比で欧米の2倍であること、単位病床あたりの医療従事者が2分の1から3分の1であ ること、平均在院日数が2倍であることを理由に一般病床を半減させ、患者と医療従事者を残った病院施設に集約し、在院日数を短縮することで必要入院患者数 の対応をさせようとしています。

 東京23区内で93年3月から98年12月に廃止された61病院のうち、100床未満の病院が9割を占め ています。付き添い廃止、施設の老朽化に加えて、入院患者数や手術件数の減少、大規模病院との競争などが主な理由です。地域に一般病院がなくなるという町 村もうまれています。

 私たちのたたかいや医師会など医療団体の要求の中で、医療法をはじめとする医療抜本改悪をストップさせて きましたが、政府・厚生省はいよいよこの法案をことし中に国会に提出しようとしています。急性期・慢性期の病床区分や大規模病院での外来規制、在院日数の 短縮や医師・看護婦数などの人員配置や施設面での療養環境基準を強化することで大幅なベッド削減をねらっています。地域住民の医療を守るために、病院関係 団体との共同したとりくみが必要になっています。

 国立病院の統廃合はその後もすすめられ、国立大学の独立行政法人化とあいまって、民営化の動きも出てきています。公的医療機関がなくなれば、難病対策や周産期医療などのとりくみに大きな弊害が生ずることも懸念されています。

(2)国民生活の危機の深まり

●深刻な雇用をめぐる問題

 国民の苦難は医療・社会保障だけでなく、雇用と失業が社会問題となっています。

 99年2月以降、失業者数は300万人を超えました。日本の未来社会を担うべき青年層に失業率が高いこと は深刻です。最近では企業の倒産あるいはリストラによって、一家の大黒柱である40~50歳台で急増しています。そして、生活苦や過労を理由とした自殺者 数が増え、昨年9月末で前年度の数を超え3万人に達しています。この自殺者の増大で、戦後伸び続けていた男性の平均寿命が、はじめて下がったということも 異常な事態です。

 今日の大企業におけるリストラは、倒産や経営不振でひきおこされたものではありません。大企業は国際競争 にうち勝ち、利潤をさらに確保するために、人格さえも無視してリストラを行っているのです。「リストラは平時に行うもの」と豪語する大企業経営者がいるこ と、政府・財界がこうしたリストラをすすめる企業には特別の資金援助をしていることは許せません。

 所得についても新たな問題がおこっています。戦後の日本企業の特徴である年功序列賃金制や終身雇用制度を、欧米型に切りかえる動きです。

 ヨーロッパの場合は年功序列賃金制をとっていません。長年の労働者のたたかいの中で、医療・福祉・介護・ 年金・生活保護に加えて教育・育児・住宅など社会生活を営む上で必要な社会保障制度の確立をかちとっています。ところが政府・財界など支配層は、社会保障 の充実をはかるどころか、患者負担を増大させながら日本型雇用制度を変えようとしています。ここに、必然的に国民の社会保障にたいする要求と需要が増大す る理由が存在しているといえます。

●暮らし、営業、教育、文化、環境などあらゆる分野で深刻な事態

 医療や社会保障だけでなく、どの分野を見ても″規制緩和″という言葉が出てきます。規制緩和こそが万能薬 であるかのようにマスコミも書きたてています。もともとアメリカや大企業の利潤を確保するために持ち出されてきた政策です。その結果、地域経済や街並みが つぎつぎと壊されてきています。

 大企業の大型店舗が進出してくると、歴史をもった商店街のシャッターがまた一つ、また一つと降ろされてい きます。大型店舗も利益が思うように得られないと撤退してしまいます。結局は、やむなく営業をあきらめた商店と、遠くの町まで買い物に行かなければならな い地域住民が残されます。政府奨励ではじめた農業や酪農でも、食糧輸入自由化や規制緩和の名の下に農産物価格保障を放棄し、生産者米価は7年前より40% 以上も下落し、歯止めのない低下で残されたのは借金のみという話を各地で聞きます。日本の食糧の自給率がついに40%を切ったといわれており、世界の先進 国でこんな国はありません。大企業は安いコストを求めて海外に進出し、長年にわたって支えてきた町工場が銀行の貸し渋りにもあって倒産しています。

 こうした結果がさまざまな社会的諸矛盾をひきおこしています。生活保護受給世帯も前年比で4%増の65万 5000世帯(98年7月)に達し、東京では5年前の1・5倍になっています。生活保護基準以下の収入世帯は10倍存在しています。自己破産や商工ローン の被害者も急増しています。ホームレスは全国に広がり、2万人を超え、結核が増加するなどの問題も生じています。

 公共性と社会的責任が重視されるべき教育分野においても、不登校の子どもたちの増大や学級崩壊に見られる今日の深刻な問題の解決がなされないばかりか、国立大学の独立行政法人化や民営化への動きも出ています。

 環境問題も、原発事故をはじめダイオキシンや大気汚染公害など国民生活にさまざまな問題を投げかけています。そればかりか、大規模工事による自然破壊や、大量生産・大量消費によって地球的規模での環境と資源の問題は深刻です。

第二節 国のあり方をめぐって

(1)支配層が意図する医療・社会保障の戦略

 政府・自民党や財界などの支配層は、医療や社会保障の公共性を否定し、営利・市場化をおしすすめようとしています。

 99年2月に発表された首相の諮問機関である「経済戦略会議」の答申で、医療は徹底的に規制緩和、厚生年 金は完全民営化、高齢者医療・介護費用・基礎年金は税方式、すなわち消費税引き上げをあてるという提言を出しました。医療保障制度については「保険者によ る自由な医療機関の選択」「日本版マネジドケアの導入」「企業による病院経営の解禁」「国公立病院の民営化」「薬価の自由価格制」など、露骨にこれまでの 社会保障制度を根本的に切り崩す内容になっています。

 「自由な医療機関の選択」では、『情報の提供』『選択』という一見国民の要求にこたえるポーズをとりなが ら、本質的には『競争』『淘汰』」という、新自由主義的な弱肉強食の考え方が反映されています。「日本版マネジドケア」は、医療費コストの管理を名目に保 険者による病院の選別、とめどない医療費抑制がねらわれています。あわせてDRG/PPSの導入もねらわれており、すでに10カ所の病院でモデル試行が行 われています。患者の人権を尊重し、一人ひとりの症状にあわせたやさしい医療でなく、病名にあわせて画一的に治療方針が定められてしまう内容です。まさ に、アメリカでの効率主義優先の医療を日本に持ち込もうとするものです。「株式会社による病院経営の解禁」は、医療を営利市場化に導くものです。

 介護保険導入をテコとしてこうした医療・福祉・年金の大改悪を一気呵成に行おうとしたのですが、私たちのたたかいや参議院選挙結果に見られるような国民のきびしい審判のもとで、支配層の思い通りにはさせてきませんでした。

 しかし、こうした考え方にもとづいて、第四次医療法や医療保険制度の抜本改悪が検討されています。そして、法律改正を待たないで、診療報酬改定で先行的に実行に移されつつあります。

(2)なぜこのような事態になっているか

 国民の苦難が増大し、医療や社会保障の危機が生じてくる根本的な要因はどこにあるのでしょうか。その第一は、アメリカいいなりの軍事大国路線にあり、第二は、逆立ち政治が続くもとで新自由主義的な政治・経済路線がいっそう深化していることにあります。

●平和と民主主義の危機と逆立ちした政治

 昨年の通常国会では、自民党・自由党・公明党によって異常な国会運営がすすめられ、「戦争法(新ガイドラ イン関連法)」「盗聴法」「日の丸・君が代法」「住民基本台帳法」など、日本の平和と民主主義にかかわる重要な法案が数の力で強行採決されました。とりわ け新ガイドライン関連法は、憲法の平和理念をふみにじってアメリカの戦争政策に日本を自動参戦させ、自治体や私たち医療従事者をはじめとする多くの国民に たいして、戦争への協力を強制するというものです。沖縄・普天間基地の名護市への移転問題は、老朽化した基地を莫大な費用を投じて半永久的に米軍基地化す るものです。こうしたアメリカいいなりの軍事大国路線は、多国籍企業の世界戦略と深く結びついています。

 2000年度の予算案では、社会保障費が前年比6500億円増ですが、高齢化にともなう自然増を満たして いません。その一方で、あいかわらず無駄な公共事業に莫大な費用を投じ、本来銀行業界が自己責任で行うべき破綻処理の損金穴埋めは10兆円も増やして、 70兆円にも達しています。公共事業50兆円、社会保障20兆円の逆立ち政治を転換することが必要です。

 長期不況のもとで国民のくらしをたて直す方策を示せないばかりか、国と地方の借金は今年度末で645兆円 という天文学的な規模になり、毎年利息のみで30兆円以上の新たな借金がうまれる深刻な事態です。「私は、世界一の借金王にとうとうなってしまいました」 と何らの反省もなく無責任なことを言っている小渕首相は総理大臣失格であり、自民党流政治をこれ以上続けさせるわけにはいきません。これらの借金はすべて 国民負担にまわされ、消費税率のさらなる引き上げにつながるのは必至です。

 阪神・淡路大震災は、その被害がとりわけ高齢者や低所得者に多大な損害を与えたばかりか、復興にたいしても大企業・ゼネコン型の産業インフラ復興を優先し、被災者の生活再建をあとまわしにしてきました。政治の責任・あり方がきびしく問われています。

●多国籍企業の利益優先のゆがんだ経済戦略

 政府・自民党や財界などの支配層は、国際競争に勝つためと称して、国民生活を守るのではなく、多国籍企業 の利益を優先した経済政策をとっています。新自由主義にもとづく経済路線は多くの企業を倒産させ、リストラで雇用の危機をうみ出し、地域経済と国民生活を 破壊しています。また、国際金融資本・ヘッジファンドなど一日一兆ドルにもおよぶ巨額の投資資金によって、一国の経済を崩壊させるような事態もうまれてい ます。日本の銀行などの独占資本もその一部を担っています。

 日本は、世界の資本主義国に例を見ない「ルールなき資本主義」ともいわれていますが、こうした横暴にたい して国民はもとより財界の一部からも批判が出ています。IMFによる経済・金融政策の破綻やWTO(世界貿易機関)の閣僚会議でアメリカの横暴が通らない など、グローバル化への批判が強まっています。

 西欧や先日総選挙が行われたニュージーランドでは、すでに人間のいのちよりも経済効率を優先した経済戦略への批判のもと、きびしい規制が行われ、政権交代なども行われています。日本でも規制と転換が求められています。

(3)広範な国民のたたかい

 国民の苦難と支配層の展望を示せない無責任さに、「このままの政治では根本的な解決はない」「政治の流れを変えよう」という認識が国民の中に広がりつつあります。

●草の根から広がる国民の反撃

 介護保険をめぐるこの間のとりくみでは、従来保守層といわれた人たちもふくめて懇談会やシンポジウムが開 催され、各地に「介護をよくする会」や「介護を考える会」ができてきています。介護保険の問題点を知り、要求をまとめて自治体に実現をせまる運動が広が り、要求するだけでなく、宅老所など力を合わせて「人権と非営利」の事業所づくりもはじまっています。

 教育や子育て、環境問題などにとりくむさまざまな市民団体、NPOなどの非営利組織が地域に無数に存在しています。「安心して住み続けられるまちづくり」をめざして、地域の中で連帯と共同の草の根からの新しい運動がはじまっています。

 また、沖縄県名護市の米軍基地移設反対や徳島県吉野川可動堰建設反対、新潟県巻町の原発反対など、住民自身による運動も前進しています。

●高まる政治革新を求める動き

 この間、参議院選挙やいっせい地方選挙・首長選挙が行われました。政治的には、いまの政治のあり方や国民 そっちのけの離合集散と党利党略をくりかえす政治への不信が高まり、無党派層の増大という現象もあらわれています。同時に、筋を通し、国民の苦難を解決す るために積極的な対案を示している日本共産党への期待が、従来になく高まってきています。

 医療や社会保障の充実をかちとることは、日本の政治上もっとも大切なことの一つです。先の参議院選挙で、消費税率の引き上げとともに医療費の患者負担増と高齢者の薬代二重負担を行った自民党にたいして、国民はきびしい審判を下しました。

 医療や社会保障の縮小と同時に、今日の自自公連立政権のもとで平和と民主主義をおびやかす悪法が強行可決 され、こうした時代逆行の危険な動きにストップをかける必要があります。「再び戦争をおこしてはならない」「国際紛争は話し合いで、戦争法を発動させない 運動を」の声も、日本のみならず世界的に広がっています。

 介護保険をめぐる運動のように、国民の切実な要求運動が政権を揺るがす状況もつくり出してきました。そして、何よりも国民要求と乖離した政策は、あらゆる分野で矛盾を激化させ、支配層の基盤が崩壊しつつあり、ゆきづまりを示しています。

(4)たたかいでの民医連の役割と視点

 国民生活の苦難やさまざまな社会問題の実態、支配層のねらい、そして国民の反撃など、私たちをめぐる情勢についてふれてきました。

 私たち民医連は医療・社会保障の改善をめざして、ひきつづき牽引車の役割をはたし、患者・地域住民の期待にこたえ、21世紀にふさわしいたたかいを切り開く必要があります。

 その視点の第一は、「いのちとくらし」を守る一つひとつの要求を地域に根ざして実現することです。そのために、共同組織をはじめ、あらゆる団体や個人との連帯と共同のとりくみを重視し、私たち自身がより開かれた民医連として、とりくみのかまえを広げることです。

 第二は、地域の中での実践を重視し、「人権と非営利」をめざす共同の輪を広げ、「安心して住み続けられるまちづくり」のとりくみを発展させることです。

 第三は、国政や地方政治を、国民の要求を実現する政治、住民が主人公の地方自治体の実現をめざして奮闘することです。

 地域ではくらし・営業・社会保障・教育・文化・環境問題などさまざまな問題が重なり合って、一人ひとりの 生活を困難に追い込んでいます。そして、これらの困難に立ち向かうさまざまな運動と組織が地域に存在しています。私たち民医連院所・施設と職員も地域に存 在しています。


第二章 90年代の民医連運動の到達点と21世紀初頭の課題

第一節 90年代の民医連運動の到達点

 90年代初頭に開催された第29回総会方針は、90年代が「医療の営利化路線と、医療の公共性を守って国 民医療を改善する国民的たたかいの路線との激しいぶつかり合いの時代」であり、医療と運動の面では民医連への期待が「いっそう強まる」一方、「経営問題を はじめとするきびしい現状は、一定期間続く」という時代認識を示しました。そして国民の医療要求(人権、高度化、総合化)にこたえて総合的医療活動と社会 保障を守り改善するたたかいをすすめ、長期的経営戦略を確立して、民主的運営を貫きながら経営構造を改善していく90年代の路線を提起し、この路線をおし すすめるための条件として民医連運動を担う人づくり、基盤となる組織の強化・拡大、県連機能の強化の必要性を強調しました。

 90年代後半の課題を提起した第32回総会方針では、96年からの5年間は21世紀の医療と社会保障をめ ぐって、「高負担・低福祉・営利・市場化=人間差別」という政府・厚生省などのすすめる反動的改革の路線と、国民が求める「いつでも、どこでも、だれで も、人間らしく生きる権利」を保障する、社会保障としての医療と福祉を実現する道のたたかいの期間という時代認識を示しました。そして、全国方針と各県連 の長計が達成された場合の21世紀はじめの民医連の姿を描き、「民医連医療の実践と創造をいかにすすめるか」「綱領実現をめざす人づくり」「県連・全日本 民医連の団結、組織の強化」「統一戦線づくり」の4点の重点課題が提起されました。

 90年代、私たちは民医連綱領の実現をめざして医療や社会保障の公共性と無差別・平等の医療の必要性を示し続けてきました。また、その時々の要求や課題に真摯に対応し、常に医療機関のあるべき普遍性を追求してきました。

(1)人権を守る医療・経営・運動での総合的とりくみ

 医療活動では、医療を「共同の営み」としてとらえる医療観を確立し、「患者の権利」についての考え方を整理し、民主的集団医療の今日的課題を明らかにしてきました。また、老人医療・福祉分野のとりくみにあたっての「たたかいと対応」の視点を確立してきました。

 経営活動では、民医連経営での利益を確保する重要性を確認し、科学的経営管理のための「民医連統一会計基準」を定め、民医連経営の優点を四つにまとめました。また、民主的管理運営の重要性を強調してきました。

 運動面では、政府・厚生省の医療・福祉への度重なる攻撃にたいして、社会保障を充実させる運動で牽引車の 役割をはたし、その時々の課題にたいして政策提言を行ってきました。社保協運動では、保団連などとともに県・地域社保協の確立に力をつくし、97年日生協 医療部会と共同してとりくんだ医療大改悪阻止の集会や運動は、その後の社会保障運動の前進の契機となりました。また、「気になる患者訪問」や「要介護老人 実態調査」など人権を守り、地域に打って出る活動にとりくんできました。また、国政革新や住民が主人公の地方自治体をめざして奮闘してきました。

(2)民医連綱領の実現をめざす人づくりと共同組織

 医師養成と確保の課題を常に最重要課題の一つとして位置づけ、医師集団の団結の要としての医局の役割を重 視し、医学生との連携を強めてきました。また、看護婦確保では1000名を超える確保を続け、技術者や事務系幹部の養成に力を入れてきました。「90年代 の教育活動の新たな発展をめざして」や『綱領パンフ』の改訂を行い、民医連運動を担う人づくりにとりくんできました。

 「基盤組織」から「共同組織」へ名称を変更し、共同組織の拡大・強化を戦略的課題として位置づけ、20世 紀末までに共同組織300万を達成し、「いつでも元気」を発刊し、5万の目標を決めました。共同組織は、「安心して住み続けられるまちづくり」の主体者と しての医療住民運動組織へと発展してきました。

(3)県連強化と全日本民医連の団結

 民医連における基本組織としての県連の役割と任務を明確にし、法人は民医連運動に自覚的に結集し、実践すべき基本的考え方を整理してきました。

 山梨勤医協の再建や福岡・健和会の民医連的再建、大阪・同仁会の経営危機に全国が連帯し、援助を行ってきました。阪神・淡路大震災への支援活動では、民医連の存在意義を内外に示しました。98年から地方協議会が設置され、民医連の連帯はさらに強まっています。

(4)共同の輪を広げるとりくみ

 他の団体と協力し、中央や都道府県、地域での社会保障推進協議会の強化にとりくみ、「働くもののいのちと 健康を守る全国センター」や平和と民主主義をめざす共同のとりくみなどに積極的に民医連の役割を発揮してきました。また、介護保険のたたかいを通して、地 域で従来にない共同のとりくみを発展させてきました。

 国際交流分野でも、全日本民医連としてフランスFMF、IPPNW、世界の被爆者との交流、ハーグの世界 市民平和会議への派遣などを行い、県連・院所ではベトナム戦争による枯葉作戦の影響調査、韓国や中国の労災職業病や公害問題での交流、ネパールとの交流 (日生協医療部会)などを行ってきています。また、民医連運動への期待を受け、さまざまな分野で学者・研究者や専門家の協力と援助を受けてきています。

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第二節 21世紀初頭の課題

 これから先5年から10年の、21世紀初頭の期間をどのような時代としてとらえるべきでしょうか。

 これまで述べてきたように、アメリカいいなりの軍事大国路線と多国籍企業や大企業のあくなき利潤追求をす すめる道か、それとも国民一人ひとりのくらしやいのちを大切にする新しい平和・福祉の国づくりをめざす道かをめぐって、歴史的たたかい、転換をめざす時代 といえます。医療や社会保障にあっては、国の責任を放棄し公共性を否定した営利・市場化への道を許すのか、それとも人権を守る立場で国民の医療と福祉の改 善をすすめる道かをめぐって、せめぎ合いの時代といえます。

 とくにこの2年間は、平和・基本的人権・民主主義の憲法をめぐって国民的な論議がまきおこる時期であり、 逆立ちした政治を転換できるかどうかの重要な時期でもあります。また、医療法改悪をはじめとした医療大改悪が準備されており、介護保険も矛盾をかかえたま ま施行されます。医療と社会保障の充実をめざして、これまで以上の国民的な連帯と共同のとりくみが求められている時代です。

 この間、さまざまな分野で国民生活の改善をめざす地域からのとりくみがまきおこってきています。21世紀の初頭は、新しい国づくりに向けて燎原の火のように草の根の運動が広がる時代といえます。

 このような中にあって、当面の緊急課題であり、民医連内部に存在する克服すべき課題としての経営問題と医 師問題を、全職員の英知を結集し、その壁を突破することが必要です。そして、医療・経営・運動や民医連運動を担う人づくり、共同組織の強化・発展など、総 合的に民医連運動を発展させるために私たちは民医連綱領路線を堅持しながら、歴史的な新たな発展をかちとる必要があります。

(1)人権を守る医療活動と福祉分野のとりくみ
―「人権と非営利」をめざして―

 21世紀は、人権と民主主義を守る流れがさらに普遍的なものとして広がる時代です。医療や福祉分野においても、いっそう人権を守る視点が重要になってきます。

 高齢者をはじめとした社会的弱者の立場に立ち、保険から除外される人をつくらないとりくみなどを日常医療活動の中で貫いていかねばなりません。情勢や患者・地域住民の医療要求の変化に対応して、「共同の営み」としての医療をさらに発展させる必要があります。

 介護保険時代に対応した老人医療・福祉分野のとりくみは、民医連としてより深めなければならない研究課題も多くあります。その際も、人権を守る視点を貫かねばなりません。

 まさに、民医連院所・施設が地域の中で「最後のよりどころ」として、その存在意義を示していかねばなりません。これが患者・地域住民の民医連にたいする期待でもあります。

 また、医療や福祉の分野に営利産業が参入し、教育の分野でも民営化がすすめられようとしている中で、「非営利」の視点はますます重要な意味をもってきています。

 「非営利・協同」組織とセクターは、社会保障や教育での公的な役割をいっそう促進し、現実的に公共性を守りうる可能性をもっています。そして、大企業の横暴や利潤追求に対抗していく役割ももっています。

 「非営利・協同」の中の「働くひとびとの医療機関」である民医連が、地域社会の中ではたす役割がいちだんと大きくなる時代です。「非営利・協同」について実践の中で深め、ひきつづき学習と論議を行いましょう。

(2)地域の中での民医連院所・施設の存在意義を問い直そう
―より開かれた民医連へ―

 私たちがとりくんできた民医連の医療活動や経営活動は決して特殊なものでなく、普遍性をもったものです。

 ″より開かれた民医連″とは、ひとりよがりにおちいることなく、地域の医療機関と協力・共同しながら、地 域住民の医療要求にこたえていくことでもあります。″民医連でつちかった宝を地域に″″地域住民のいのちと健康を守る視点″こそが、患者・地域住民の願い でもあります。

 地域から民医連院所・施設への期待は何かを常に問いかけ、院所・施設から地域を見るだけでなく、地域の側から院所を見直すことが大切です。

 共同組織の人たちをはじめ患者・地域住民の意見をよく聞き、医療活動や経営活動の方針をつくり上げていく基本姿勢を確立していくことが必要です。

 やさしさと強さをもった、頼りがいのある民医連院所・施設として発展させる時代です。

(3)「働きがい」と「院所・施設の発展」を統一して
―「社会的使命と主体性・民主性」―

 民医連の院所・施設は、民医連綱領で示されているように「働くひとびとの医療機関」であり、患者や地域住民のいのちと健康を守る砦でもあります。民医連院所・施設は「いのちと健康」を守り、医療や社会保障の充実をめざすという社会的使命をもっています。

 そこで働く私たち民医連職員は、誇りと確信をもち、民医連運動の発展に主体的にとりくむことが必要です。

 これまでもさまざまな困難に直面し、そのたびに職員の英知を結集し、団結して展望を切り開いてきました。民医連運動とはどこかに手本があるわけでなく、まさに「創造」のとりくみでもあり、だからこそやりがいも出てきます。

 社会的使命と職員の「やりがい」「生きがい」が統一されなければなりません。「民医連運動に確信と展望の もてるときはいつか?」というある医局のアンケートで、「職場で連帯を感じられたとき」「患者に喜ばれたとき」「地域から評価を受けたとき」という結果が 出ています。民医連の優点である民主的集団医療を職場から発展させ、民主的管理運営を貫くことがいっそう必要です。

(4)「安心して住み続けられるまちづくり」の実現を
―「連帯」と「共同」―

 国民の医療や社会保障への要求が全階層的なものになってきます。医療や介護・福祉に従事する専門家として、院所・施設として、草の根からの運動にどう参加していくかは、医療・社会保障の改善のみならず、民医連院所・施設の存在意義にもかかわる課題です。

 社保協は中央や地方のセンターの役割がいっそう大きくなり、地域住民の具体的な要求を実現する網の目のようにつくられた地域社保協の時代をむかえました。

 「人権と非営利」をめざす共同の輪を広げ、「安心して住み続けられるまちづくり」の運動は、新しい平和・ 福祉の国づくりのとりくみでもあります。さまざまな団体や個人によって多様な形態での「連帯」と「共同」の輪が広がってきます。地域住民の要求は医療や福 祉、教育や文化、平和と民主主義、そして環境など多彩です。

 私たちは医療・福祉、そしてくらしや教育・文化・環境へと視点を拡大していきます。これらのとりくみは、 共同組織とともに協力しながらすすめていく必要があります。医療住民運動組織としての共同組織の300万目標を達成し、地域になくてはならない民医連と共 同組織の存在意義を輝かしていくべき時代です。

 21世紀の日本社会を担う青年層の雇用問題が深刻になっていますが、介護保険時代に新しい福祉の事業に果 敢にとりくむうえで、また「安心して住み続けられるまちづくり」にとって、青年の力が必要です。21世紀初頭は地域の中で、運動的にも事業的にも新たな民 医連運動の発展をかちとる時代です。

第三節 民医連の医療・福祉宣言

(1)院所・施設での「民医連の医療・福祉宣言」

 医療・福祉宣言づくりは、民医連が地域の中ではたすべき役割を明らかにし、医療・経営構造の転換や長期計 画の議論・実践に「魂をふきこむ」とりくみとして、また職員一人ひとりが民医連にたいするロマンや生きがいを確かめ合う運動として、今日いっそうその重要 性を増しています。

 「あらゆるとりくみを医療・福祉宣言へ」というかまえで、各院所・施設の医療・福祉宣言づくりを共同組織 とともに推進し、21世紀初頭にはすべての院所・施設でつくり上げることをめざします。そのためには県連理事会や法人、院所・施設指導部のはたす役割が決 定的に重要です。医師集団の思いや積極性を引き出すとともに、共同組織をふくめた「宣言起草委員会」を設置してとりくみをすすめます。

(2)全日本民医連の「医療・福祉の宣言案」

 ひきつづき第一次案の全国的な議論をすすめます。各地での議論の到達をふまえ、次期総会において「全日本民医連の医療・福祉の宣言」として決定します。

 全日本民医連の医療・福祉宣言を、21世紀の民医連の実践的「旗じるし」として真に生きたものにするためにも、院所・施設での宣言づくりのとりくみと結合させた議論が重要です。

(3)民医連50周年に向けて

 全日本民医連は、2003年6月7日に結成50周年をむかえます。理事会のもとに「全日本民医連50年史編纂委員会」を設置し、民医連の50年史をまとめるなど記念事業の準備をすすめます。

 医療問題や社会医学上の諸問題について、学者・研究者と協同して総合的な研究・政策提言をすすめることを目的とした研究機関の設置を検討します。設置に向けて、当面、外部の専門家をふくめた課題ごとのプロジェクトをつくり、必要な研究・実践に着手します。

 また、アジアや世界の各団体との交流もすすんできました。各国の医療や社会保障の実状も把握し、研究も必 要になってきており、理事会のもとに国際部を設置します。総会直後に開催されるフランスFMF総会に3名の代表団を派遣します。この総会中に、いくつかの 国が参加して、「医療への住民参加」を主題としたシンポジウムが行われます。全日本民医連としてシンポジウムに参加し、報告することになっています。


第三章 2年間の活動のまとめと今後2年間の方針

 私たちはこの2年間、「憲法を医療と福祉にいかし、激変の時代に深く地域に根ざして『民医連の医療宣言』を」のスローガンのもとに民医連綱領の実現をめざして奮闘してきました。

 第一の前進面は、「憲法を医療と福祉にいかす」立場で、人権を守る医療活動に積極的にとりくんできました。

 高齢者の病院からの追い出しや薬剤の二重負担の実態を調査し、診療報酬改定の問題点を明らかにし、国や自 治体に具体的な要求と対案を示してきました。また、国家的大事業である介護保険導入にあたって、3万名におよぶ要介護老人実態調査にとりくみました。この 事実にもとづく分析は説得力があり、政治情勢を大きく揺り動かし、民医連院所・施設の地域の中での存在意義を内外に示すものでした。1万回を超える懇談 会・シンポジウムの開催や連帯と共同のとりくみの発展は、新たな社会保障運動の歴史を切り開くものとなりました。

 第二は、情勢の発展と民医連運動の今日的な到達点をふまえ、私たちの活動の「主として医療面での新しい座標軸」となるものとして、院所や職場ごとに「民医連の医療・福祉宣言」づくりにとりくんできました。

 日常医療活動を問い直す機会となり、地域に開かれた民医連院所・施設として21世紀に発展するうえでひきつづき重視すべき課題です。

 第三は、前総会が指摘した克服すべき課題としての経営問題と医師問題へのとりくみは、端緒的ではありますが確かな前進をかちとってきました。さまざまな困難を切り開きながら医療・経営構造の転換にとりくんできました。

 経営面ではひきつづき困難さをかかえていますが、一定の経営改善の成果をあげてきました。医師養成と確保 の課題では、「民医連医師・医師集団は何をめざすのか(案)」「民医連基礎研修の課題と展望(案)」を提起し、医局をはじめとして全職員で討議と実践を重 ねてきました。また、「医学対活動の飛躍をめざす大運動」では、職員と共同組織、奨学生の協力で、この4カ月間多くの医学生と対話し、近年にない民医連奨 学生決意者数を獲得してきました。

 第四は、民医連組織と団結が大きく前進したことです。

 前総会以降2年間で300を超える加盟院所・施設数が増加し、1350に到達しました。「介護保険へのたたかいと対応」の方針にもとづき積極的にとりくむ中で、加盟施設数が急増しています。

 また、「100カ所、全県連に」をスローガンに、歯科施設数は97に到達しました。

 共同組織は、活動面でも組織数でも医療住民運動組織として大きく前進し、「いつでも元気」は4万1000部に到達しました。

 前総会中に発生した大阪・同仁会の前倒産状態という危機にたいして、職員の奮闘はもとより地域の人びと、 大阪民医連と全国の仲間の「大阪民医連の灯、耳原の灯を消すな」の熱い連帯と支援に支えられて着実に再建にとりくんでいます。さらに、福岡・健和会の民医 連的再建の基本骨格の見直しに向けたとりくみもはじまりました。この間、岐阜民医連が結成され、44県連となりました。

 まさに激変の時代にあって、困難を克服しながら民医連運動は地域の人びとに支えられ、21世紀に向けて着 実に前進しつつあります。しかし、医療・社会保障をめぐる情勢はいっそうきびしさを増すことは明らかであり、だからこそ民医連への期待と役割が高まってい ます。そして、この期待にこたえるうえで、経営問題と医師問題はひきつづき重要課題として位置づける必要があります。

第一節 民医連の医療と経営を守り抜き、「民医連の医療・福祉宣言」をつくるとりくみ

 前総会方針は、情勢が質的に変わろうとしている時民医連運動も脱皮することが必要であり、よりいっそう深 く地域に根ざして、地域の人びととともに生きていくものとして、民医連院所・施設をさらにやさしく力強いものとしてうちたてること、今日の経営をめぐる事 態は過去のいかなる時にも経験したことのない過酷な環境であり、従来のままの医療や経営構造では民医連の経営は深刻な事態をうみかねないこと、21世紀に おける民医連運動の存立をかけて、文字どおり全職員の力で「民医連の医療宣言」をつくり上げることを提起しました。

(1)「医療・経営構造の転換」のとりくみ

 民医連の介護・福祉分野への対応を急ぐこと、医療改悪のもとで、これまでの延長線上の努力では第一線の医 療を継続・発展させることができないこと、医師体制がきびしい中で、従来の高日当点・高収入にたよる経営構造の転換が必要であることを主な要因とした「医 療・経営構造の転換」のとりくみは、全体として各県連や院所で積極的に討議され、実践をすすめてきました。

 訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、在宅総合センター、老健施設などの増加は、民医連がこれま での歴史の中ですすめてきた総合的な医療活動の実践、看護婦をはじめとして技術者や専門職の確保と養成に力をそそいできたこと、諸施設の展開の経験と実績 をふまえた職員集団が存在したこと、共同組織をはじめとした地域の人びとの期待と協力があったこと、などの結果です。

 病院近接診療所の建設や療養型病床の導入と病棟再編成は、在院日数のしばりや病院施設基準の変更など外部環境の激変、深刻な医師不足という内部的な問題点、患者・地域住民の切実な要求にこたえるという立場から緊急に対応すべき課題として検討され、実施されてきています。

 とりくみの中で、「急性期医療や技術建設との兼ね合いをどうするか」「医局をはじめとする職員集団の合意 形成のむずかしさ」「医療構造の転換の経営的な影響」「リニューアルの困難さ」「病棟管理や看護管理が従来のままでは対応できない」など新たな課題が浮き 彫りになってきています。

 今後、「医療・経営構造の転換」の課題にとりくむにあたって、以下の点に留意する必要があります。

 第一は、「医療攻撃への対応」だけでは不十分であり、「この国のあり方」「安心して住み続けられるまちづ くり」の視点から地域住民や患者の要求、医療・福祉の供給体制を視野に入れて、自分の院所・施設がどのような役割を地域の中ではたしていかなければならな いのか、自分たちの院所・施設の社会的役割と使命とは何かといった切り口から検討をさらにすすめる必要があります。

 第二は、「医療・経営構造の転換」の課題は、医療経営のきびしさの中で経営困難を克服し、民医連経営を守 る課題でもあります。現実はさまざまなかたちで「医療と経営の乖離」が存在しており、医療と経営を一体のものとしてとらえることが大切です。また、経営の きびしさの中で医療そのものが圧迫されてきています。民医連医療をすすめる上での優位性でもある人的体制をどのように保障していくべきか、真剣な論議が必 要です。「院所・施設と地域の乖離」が存在していないかを問い直すことも大切です。患者さんや地域住民の声が届かなくなってはいないか、点検が必要です。 また、「福祉分野は経営的にきびしいから手を出さない」などは経営主義の新しいあらわれでもあり、警戒が必要です。

 第三に、職員の働きがいと県連・法人・院所の発展計画を結合させる課題です。医師労働の軽減に関する提起 は、医師のみならずすべての職員、さらには民医連に決意をした医学生からも歓迎されました。実践的にも、看護婦や検査技師、放射線技師、事務などによる医 師労働を軽減するさまざまなとりくみがはじまっています。医師を日常診療のみに埋没させず、医師が大きな視点で民医連運動を考え、実践する「ゆとり」を保 障することにつながっています。病棟医療、外来医療、さらには在宅医療や福祉分野にたずさわるすべての職種に、従来の延長線上でない業務のあり方や改善を 必要としてきています。職員一人ひとりが納得し、働きがいのある職場づくりと結合させ、深め合える論議が必要です。

 第四に、介護保険制度ははじまったばかりであり、2000年の診療報酬改定や医療抜本改悪がたくらまれて います。県連理事会や法人・院所管理部の指導部は激変の動きを把握し、患者や地域住民の要求にこたえる立場で院所・施設の発展にとって何が必要なのか判断 し、決断することが求められています。具体的方針は画一的でなく、地域の状況や院所・施設の役割に応じてつくられる必要があります。

(2)患者の人権と安全を守る共同の営みとしての医療活動のとりくみ

●医療活動調査による民医連の医療活動の特徴

 全日本民医連の医療活動調査を再開して、99年度は3回目となりました。この調査は全日本民医連の医療活 動の全体像を把握することとあわせて、県連や法人・院所・施設の医療活動の到達点を全国平均や他の院所と比較することによって、客観的な評価と位置を確認 することができます。

 医療活動調査をふまえて、科学的な分析の上に立って院所・施設の発展方向と日常医療活動の方針を立案していく基本姿勢が定着しつつあります。″継続こそ力″″継続こそ宝″を重視し、調査のとりくみと活用をひきつづき強めましょう。

 全日本民医連の院所・施設で1日に接する保険診療総患者数は約12万人です。一医療機関あたりの患者数は減少し、患者負担増の医療改悪の影響が明確に出ています。

 民医連の医療活動は、民医連以外の医療機関と比較して高齢者の比率が高いこと、医療機器の保有率が高いこ とが特徴です。最近では、在宅医療や理学療法や作業療法・精神科作業療法・精神科デイケアなどの分野のとりくみが急速に拡大されています。病室も、リ ニューアルとあわせて個室の増加や5人以上室の比率が減少するなど、医療経営のきびしさの中でも対応がはかられています。

 冠動脈疾患集中治療室が消滅し、新生児集中治療室が減少しており、民医連以外の病院でも同様の傾向にあり、将来の救急医療問題が深刻化していくことが懸念されます。住民のいのちを守る観点から公的医療機関の役割などを住民に提起していくことが必要です。

●医療の安全性と医療整備の課題
〈医療の安全性と医療整備〉

 患者の臓器取り違え手術や誤注射死亡事故をはじめ、医療事故に関するマスコミ報道が意図的と思われるほど連日行われています。民医連院所で発生した左右取り違え手術やガーゼ置き忘れ事故、結核院内感染なども報道されました。

 医療事故を防止するためには総合的対策を持続的に展開しなければなりません。

 第一に、医療行為そのものが、ある意味では「一歩間違えば生命や人権に重大な危害を加える危険なもの」であるという認識を、医師をはじめとした医療技術者一人ひとりがもち、患者の安全と人権につねに謙虚になることです。

 第二に、普段からインフォームド・コンセントに留意し、患者・家族との信頼関係を築き、「共同の営み」としての医療を前進させることです。

 第三に、民主的集団医療を日常的に実践し、ミスやニアミスが医療事故につながらない安全システムを確立することです。医師集団や看護集団での独自の対応はもとより、相互に点検し合う多重的なシステムが必要です。

 第四に、職員一人ひとりが業務基準やマニュアルを守り、問題があれば即座に見直しと周知徹底をはかることです。

 第五に、管理部の指導と責任のもとに、院所の危機管理体制を確立することです。この点での法人指導部の指導性も問われます。

 具体的には、患者さんからの苦情やトラブル、ニアミスが現場から率直に報告されるしくみがあるかどうか。 これらを整理し、分析する院所利用委員会・医療整備委員会・安全委員会・感染対策委員会が機能しているかどうか。その結果が、管理委員会や職責会議・職場 会議・医局会議などを通して院内全体に明らかにされ、その教訓を学び、現場での業務改善がすすめられているかなど、常に点検と改善が必要です。全日本民医 連として全国的な安全モニター制度の確立などを検討し、医療の安全性と医療整備のとりくみを強めます。

〈インフルエンザ流行への対応〉

 この間、施設や療養型病院に入院している高齢者のインフルエンザによる死亡が大きな社会問題になりました。

 94年の予防接種法の改定によってワクチン接種の義務づけが任意方式になり、製薬企業がワクチンの製造を 削減したためにワクチンが不足するという事態が生じました。しかし、これほどまでに事態が深刻化した背景には、医療費の負担増で医療機関にかかりにくく なったことや、定額制の導入によって老人病院、療養型病床群施設や老健施設で検査や投薬を制限され、高齢者に必要な医療が抑制されるという医療政策上の問 題があります。

 民医連は、インフルエンザ流行にたいする厚生省交渉を2回にわたって行い、希望する人への公費によるワク チン接種と定員超過の入院を認めさせることなどを要求してきました。その結果、定員超過の入院を認めさせるという大きな成果を上げることができました。ひ きつづきワクチン接種を公的に行うよう要求していきます。

〈結核への対応〉

 最近、結核の院内感染が問題になっています。

 かつて国民病ともいわれ、国民の死因のトップを占めていた結核は、戦後の復興の中で減少し、かなり以前か ら過去の病気のように宣伝されてきました。しかし、最近になって結核症患者は減少・停滞から増加に転じ、厚生省も99年7月に「結核緊急事態宣言」を行い ました。このことは、国民生活の貧困化や健康状態の悪化とも無関係ではありません。

 このような状況の中で、全日本民医連は医活部のもとに結核問題プロジェクトを組織し、研究機関の専門家の助言も受けながら結核への「対応マニュアル」を作成しました。この「対応マニュアル」にもとづき院所・施設での対策にとりくみましょう。

●共同の営みとしての医療活動のとりくみ

〈慢性疾患管理活動〉

 慢性疾患管理活動を「共同の営み」の実践課題の一つとして、民医連の民主的集団医療の力を発揮しやすい外 来・診療所の医療活動の中心的な柱として位置づけてきました。しかし、専門外来システムの導入や診療システムのマンネリ化、病棟を中心とした急性期・重症 型医療への傾斜にともなって、相対的な後退もしくは停滞がうまれてきています。また、診療所などの小規模院所では体制上の問題もあってとりくみは停滞して きています。

 一方、医療改悪による自己負担増で、自覚症状の少ない患者の治療中断が顕著にあらわれ、生活習慣病への呼称変更にみられる疾病の自己責任論がふりまかれ、患者自身の受診抑制がすすんでいます。

 介護保険制度の時代をむかえ、患者が主体者としてすすめられる援助のあり方、診療報酬での包括化に対応したあり方など、人権を守り、共同の営みとしての医療を視点とした新しい慢性疾患管理活動をつくり出す必要があります。

 第4回学術・運動交流集会では、「慢患ってこんなにおもしろい」の講演やかかりやすい外来をめざすとりく み、マイカルテを利用した患者主体の慢性疾患管理、糖尿病初診時教室のとりくみ、歯周病のとりくみなど、創意ある民医連らしい医療活動が紹介され、参加者 に勇気と展望をあたえました。「慢患アンケートまとめ」や「慢患診療の到達と課題(案)」をもとに、県連・院所・施設での慢患医療のあり方を再検討すると りくみを強めましょう。全日本民医連としても、情報交換や交流の企画を実現します。

〈カルテ開示〉

 情報化社会の広がりや人権意識が高まる中で、医療における情報の公開を求める声が大きくなってきました。全日本民医連はこうした状況をふまえ、「診療情報開示(いわゆるカルテ開示)に向けて、討議ととりくみをすすめよう」の方針を提起しました。

 「カルテ開示」は人権にもとづいた実践が求められており、「共同の営み」としての医療のとりくみを発展さ せる立場から、患者の「カルテ開示」の求めに誠実に対応していくことが必要です。医療機関や医療従事者が患者との新たな信頼関係を創造していくものとして 位置づけ、その討議と実践にあたって、共同組織の人びとの意見を聞きながら職員の間での合意をはかっていくことが必要です。

 厚生省が打ち出したカルテ開示の法制化には多くの問題点を含んでおり、「拙速に法制化すべきでない」との立場です。

〈医療倫理〉

 日本で脳死・臓器移植法が施行されて、すでに4例の脳死による臓器移植が行われました。しかし、日常の医 療における「人生の始まりと終末」に関する倫理上の問題はきわめて悩ましいものがあり、国民的合意形成がなされていない段階では慎重な態度が必要です。ま た、遺伝子診断・治療の分野は急速に発展しており、既存の医学・医療の体系を大きく変えるものであり、そのあり方に関しても検討が必要です。患者や国民 も、医学・医療にたいする期待と不信の交錯の中で、人間的な医学・医療の発展を求めています。

 全日本民医連は今日的に問われている「医の倫理」の諸問題を、医療側と患者・地域住民との共通のテーブル で検討し合い、そのために院所に倫理委員会の設置を呼びかけてきました。しかし、現在、設置されている法人・院所は数カ所にとどまっています。「共同の営 み」としての医療を発展させる立場から、倫理上の諸問題にこたえる検討と対応を行う機構として倫理委員会の設置を急ぐ必要があります。

●病院と診療所の医療活動

〈病院〉

 民医連の病院は、地域住民の医療要求にこたえるために急性期医療に積極的に対応し、医療機器を充実させ、医療技術の蓄積を行ってきました。また、訪問看護などの制度ができる前から在宅医療を重視し、介護・福祉分野の活動と結合させた医療活動を行ってきました。

 このような技術集積や医療活動は、医師養成をはじめとして後継者対策に大きな力を発揮してきました。そして、何よりも病院を支える強力な共同組織が存在しています。こうした力は、今日の政府・厚生省による医療再編成とたたかう貴重な武器でもあります。

 全日本民医連は、大規模病院院長会議や中小規模病院院長会議を開催し、医療・経営構造の転換、地域の中で の病院の役割と存在意義、管理運営と院長の役割論、医師養成と確保の問題を中心に交流と議論を行いました。「転換、医師養成、院長論にしても、常に地域・ 医療変革の視点を貫き通すことの重要さをあらためて実感。管理運営においてもこの視点に立つことと、その先頭に立つ院長の姿勢の重要性を再認識。また、あ らためて医療変革の時期における戦略や戦術について民医連が大きな財産をもっていることを確認」などの感想が出されています。

 同仁会の教訓にあるように、大規模病院なるがゆえの管理運営問題など、大集団の職員が認識を一致させ、地 域の医療要求や病院にたいする意見をどのように掌握していくか、ひきつづき解明しなければならない問題が山積しています。それぞれの病院が交流し、相対化 することでさまざまな困難を切り開いていくことが可能です。

 全日本民医連の臨床研修病院は11カ所になっています。その他、8病院程度が取得に向けて準備、検討を重 ねています。厚生省は、臨床研修病院の条件として300床以上、もしくは入院件数3000件以上の病院、診療科や指導医の規定など、従来の条件を変えてい ません。これは大病院中心でハード面に偏したものとなっていますが、プライマリーケア研修を含む全身的な診療能力の修得という観点から指定基準の変更・緩 和を求める運動が重要になっています。また、医師養成の観点に立って、県連はもとより地協で具体的な検討が必要になっており、全日本民医連としても検討会 議を開催します。

〈診療所〉

 病院での外来規制は必至の情勢にあり、空白地域での診療所建設と病院近接診療所の建設を、県連および法人 として本格的に強化しなければならない情勢です。そのためにも、医師確保と養成で飛躍をかちとることが第一条件です。第二は、県連理事会や法人理事会は、 医師体制上でいますぐの建設は無理であっても、診療所建設を戦略的課題として長期計画や発展計画に位置づけておくことが必要です。

 空白地における新設診療所の建設にあたって、2000世帯の共同組織が不可欠です。準備段階から共同組織と協議し、ボランティアを組織し、デイケアやリハ活動に旺盛にとりくんだところでは患者数の伸びが順調で、初年度から経常利益が黒字となっています。

 診療所も介護保険時代をむかえ、地域での役割が大きく変化しています。共同組織や地域に存在する団体や個 人の協力を得て、ヘルパー養成講座や在宅ケア研究会を組織し、ヘルパー派遣事業にとりくんでいる院所もあります。診療所でも、従来の延長線上の医療活動に とどまっている院所では患者数が減少し、かつての元気さをなくしている院所も少なからず存在しています。

 診療所委員会では、「診療所活動ミニマム」を作成しました。「安心して住み続けられるまちづくり」は、民 医連診療所が大いにその存在意義を輝かすべき課題でもあります。これまでの「在宅医療」「健診活動」「慢性疾患管理活動」でつちかった三つの柱のとりくみ の経験をいかし、地域に密着した医療・介護・福祉のとりくみを通して、新しい診療所の発展と展望を切り開きましょう。

 有床診療所は、地域の多面的要求にこたえる入院機能をもつ診療所として、その役割を発揮してきました。し かし、医療改悪や医師体制のきびしさの中で、ベッド閉鎖を余儀なくされるところもうまれています。また、地域の高齢者の要求に即した総合施設として積極的 な転換をはかっている院所もあります。地域の医療・福祉要求にどのようにこたえていくべきか、地域全体の医療供給体制をふまえながら県連や法人としても検 討が必要です。

●歯科医療の前進

 これまで歯科院所長・事務長会議として開催されていましたが、「歯科100カ所建設」「全県に歯科を」のとりくみの前進の中で、99年に第1回全日本民医連歯科院所代表者会議が開催され、21世紀に向けた民医連歯科医療の発展をめざす新しいとりくみがはじまりました。

 歯科院所は、今期中に13カ所が増え、97カ所に到達しました。山形県で新たに歯科院所が開設され、24県連に到達しています。前期間中の増加が3カ所であったことと比較すれば、大きな前進です。

 人権を守る歯科医療としての往診の強化、歯周病の慢性疾患管理、民主的集団医療の実践課題として提起され た治療計画の共有など、民医連ならではの歯科医療、経営改善のとりくみが前進しています。歯科衛生士や歯科技工士の比率の高さや経験蓄積など民医連歯科の 特徴が発揮されているからです。

 「保険でよい入れ歯を」の運動は「保険でよい歯科医療を」に発展し、『口から見える社会保障』をテキスト に学習し、すべての職員が社保活動にとりくみ、介護保険への対応も積極的にとりくまれてきました。医療・経営・運動を総合的にとりくんできたことが前進に つながっています。

 全国の歯科医療の分野では民医連の歯科院所はまだ少なく、人権を守る民医連歯科への期待は大きく、さらな る飛躍が必要です。そのためには、歯科分野でも歯科医師の確保と養成が第一義的課題です。また、空白県連を克服するための歯科研修医をむかえられる経営力 量もつけなければなりません。

 すべての地協で院所長・事務長会議が開催され、「院所の問題を具体的に話し合える」「空白県連の克服を共 通の課題として話し合える」など交流と連帯も深まっています。中堅歯科医師交流集会には半数の歯科医師が集い、「21世紀の歯科医療はまかせろ」のスロー ガンのもとで、熱心な討議が行われています。

 歯科院所のない県連からも代表者会議に参加し、「歯科院所開設のてびき」の学習会を開催したり、具体的な開設準備をすすめる県連もうまれてきています。歯科院所をもたないすべての県連理事会では、長期計画に歯科院所開設を位置づける必要があります。

●働くもののいのちと健康を守る活動と保健予防活動

 この間、私たちは日々の診療の中で患者の実態をつかむ努力を強め、カルテなどにそれを反映し、労働と生活の改善を実現するための患者・労働者自身のとりくみを支援する活動をすすめてきました。

 過労死問題研究会は、虚血性心疾患の発症と労働についての症例研究にとりくみ、冠攣縮性狭心症、心筋梗塞 の発症と長時間労働や労働ストレスとの関連を明らかにしました。また、民医連の糖尿病追跡調査では、夜勤などの労働と糖尿病のコントロールとの関連につい て検討され、精神科世話人会では自殺過労死についての症例集約がはじまるなど、研究会や各分野でも労働と疾病に関連する研究がはじまっています。

 98年12月に「働くもののいのちと健康を守る全国センター」が発足しました。地方センターとの連携、労 働組合などの団体や学者・研究者との協力・共同のとりくみ、中小業者や農民もふくめての働くものの健康を守る活動など、幅広い運動が開始されました。過労 死・夜勤交代制勤務・国際労働安全衛生の三つの研究会と事例研究会を設け、安全衛生の活動家養成や活動の交流、相談事業、国際連帯など活発にとりくまれて います。千葉・山梨・京都・神奈川で地方センターが発足し、近く埼玉・長野などで発足の予定です。函館や愛知・みなとでも地域センターが発足しています。

 多くの院所で、民商共済会と共同した中小自営業者の健診、九州社医研が中心となったじん肺掘り起こし健 診、北海道での振動病認定打ち切りにたいする労基署との交渉などがとりくまれています。トンネルじん肺裁判の勝利和解をかちとる上でも大きな役割をはたし てきました。ひきつづき日常医療活動の中で労働要因の分析を意識的に追求し、カルテ改善にもとりくみます。全国センターや地方・地域センターのとりくみを 労働組合などとも協議しながらすすめます。産業医、働くものの看護(産業看護)の活動を重視してとりくみます。

 厚生省は98年3月、老人保健法にもとづく保健事業からがん検診を削除し、190億円の国庫補助打ち切り と一般財源化を行いました。がん検診の有効性がいくつかの研究でも指摘されており、乳がん検診や肺がん検診の充実をめざし、自治体に有料化をさせず、自己 負担の軽減を求めるたたかいが必要です。乳児検診にたいする国庫補助も99年度からカットされ、2000年から完全な打ち切りが計画されています。地域の 人びととの連帯したたたかいが求められています。

 厚生省は、「健康日本21」を打ち出してきました。どのような具体案が出されるのか、十分に注意しながら対応していく必要があります。

 保健予防活動は、健診受診者の増加に見られるように前進しています。98年と2000年に全日本民医連健 診活動交流集会を開催しました。健診を窓口に、受診者の仕事と暮らしを診断し改善する、健診を入り口に指導と教育を重視し、健診結果を科学的に分析し、健 康的な社会をつくること、共同組織との共同のとりくみを強め、共同の営みとしての医療を地域や職場に広げていくことなどが提起されました。

●薬剤分野の活動

 薬剤分野の活動はこの間多岐にわたり、施設数も薬剤師数も急速に増加し、発展してきました。

 こうした現状をふまえ、県連薬剤師部門代表者会議や薬局法人代表者会議などを開催し、「薬剤師政策 (案)」や「薬事委員会の発展のために」を提起し、民医連の薬剤師としての活動のあり方や、安全性と有効性を重視した薬事委員会の役割などを検討し、深め てきました。病院薬剤師配置基準や脳代謝改善剤や環境ホルモンについて、厚生省交渉を行いました。病院薬剤師会との懇談を行いましたが、ひきつづき関係を 強めていきます。日本型参照薬価制度に反対するとりくみやエイズ、ヤコブなど薬害を糾弾し、被害者を支援する活動にもとりくんできました。

 地域で民医連薬局として存在感のある役割が求められています。慢性疾患や在宅での服薬指導を行い、また開 業医や地域の開局薬剤師などとも連携し、薬物療法や薬剤評価を行うなど有効で安全な薬物療法を実現するとりくみや、薬剤師集団が共同組織の班会に参加する など、「安心して住み続けられるまちづくり」の視点で網の目のような保健・医療・福祉のネットワークをつくるさらなる追求が必要です。

 このように民医連の薬剤分野における活動は多面的になり、保険薬局が急激に増加するもとで、後継者の受け入れと育成が急がれています。県連や法人として重視してとりくみましょう。

 2000年の診療報酬改定では大幅な薬価引き下げがたくらまれており、保険薬局の経営や院所の経営に深刻な影響をあたえることは必至です。「民医連新統一会計基準」に沿った経営管理と民主的管理運営にいっそうの努力が必要とされています。

●各分野のとりくみ

〈環境公害〉

 98年12月に、環境ホルモン問題をテーマに「第8回全日本民医連環境公害問題学習交流集会」を開催しま した。この学習交流集会の内容を『環境公害の新たな視点』としてパンフレットにまとめ、発行しました。また、昨年から新たに「NO2、酸性雨・SPM全国 一斉測定運動実行委員会」主催の大気汚染調査に参加しました。同・実行委員会の中では、「医療に携わる方たちが大気汚染測定に参加して、大気汚染の健康へ の影響を調査する意義は大きい」と高く評価されています。

 ことし、「尼崎公害訴訟」で神戸地裁は大気汚染訴訟では初めて自動車排ガスの差し止めを命じた判決を出し ました。判決は、西淀川、川崎に続き、三たび自動車排ガスと健康被害との因果関係を認めた点でも画期的なものです。この裁判での完全勝利と東京訴訟などで の勝利に向けての活動を強めます。

 最近、医療廃棄物を含むゴミの不法な国外への持ち出しが問題になりましたが、医療機関は感染のおそれのある医療廃棄物を大量に排出せざるを得ず、これらの処理を安全にすすめるための経済的な保障を国に求めるとともに、ひきつづき適切な対応をすすめましょう。

 全国でとりくんだ「大理石を使っての全国酸性雨調査」の分析を現在すすめています。

 日本の大企業が利潤追求のために、地球温暖化、ダイオキシン、核汚染、公害など人類の生存そのものを脅か すような環境破壊をすすめ、今後もその路線が推進されようとする情勢のもと、環境問題にたいする視点を民医連の職員がとぎすます必要があります。ダイオキ シンや産業廃棄物など住民が不安に感じている環境破壊について、共同組織や地域住民とともに積極的にとりくみましょう。

〈被爆者医療〉

 被爆者をめぐる裁判は、松谷訴訟、京都訴訟などにも励まされ、東京や北海道でも新しい訴訟がはじまっています。また、第五福竜丸乗組員のC型肝炎発症にたいする保障を求める審査請求のたたかいがはじまっています。

 被爆者は高齢化し、被爆者の精神的な問題など、被爆者医療が単に健診や日常診療だけに終わらない課題を提 起しています。高齢被爆者を院所全体としてどう支えていくのかを明らかにすることが求められます。また、被爆二世問題なども今後の検討課題となってきてい ます。全日本民医連は、21世紀をむかえた被爆者の全国実態調査や肝疾患追跡調査などを目的に、被爆者データベース登録運動を実施します。

 昨年9月30日に起こった茨城県東海村のJCOでの臨界事故は、国内の原子力関連施設による災害として最 大規模のものであり、死亡者も出てしまいました。この事故にたいして茨城民医連は、共同組織構成員を中心とする健康調査を行いました。全日本民医連は被爆 問題委員会名での声明を発表するとともに、現地に医師を中心とする調査団を派遣するなど茨城民医連のとりくみへの援助を強めてきました。

 現在の政府のエネルギー政策や原発にたいする″安全神話″からも、ひきつづき重大事故が発生することは十 分に予想されます。福井民医連が地域住民と一緒にとりくんだヨード剤の配置が注目を集めています。青森では、六ヶ所村の核燃料サイクル施設への反対運動が とりくまれてきました。当面、プルサーマル計画の実施に反対する運動をすすめるとともに、原発事故による被爆問題に備えるために、34期の早い時期に「原 発関連県連代表者会議」(仮称)を開催する予定です。

〈精神医療〉

 この間、新たに常勤化した院所がある一方で、非常勤化や中堅医師の退職などによって常勤医師数は減少して います。総合的な医療を実践するために、すべての県連に精神科外来を開設することをひきつづきめざします。将来的には各県連の拠点病院に精神科常勤医を配 置することをめざし、精神科世話人会としても援助をしていきます。

 この間の精神科分野のとりくみでは、アルコール依存症に関して他科との連携が強化され、とりくみがすすん できています。患者を地域で支えていくためのデイケア、グループホームなどの開設にとりくみ、ネットワークシステムの強化をはかります。ギャンブル依存 症・摂食障害、仕事中毒症などさまざまな嗜癖問題が明らかになり、家庭内暴力から被虐待妻症候群、児童虐待、アダルトチルドレン、心的外傷等の問題が浮か び上がってきています。また、訪問を通じて「引きこもり」を把握し、必要な援助を行う活動をすすめていく必要があります。

 災害後の心的外傷後障害では、阪神・淡路大震災での民医連精神科スタッフによる支援が行われましたが、サ リン事件や臨界事故などこれからも同様の対応が期待されています。過労・リストラが直接的な原因で自殺に追い込まれるケースが増えてきています。ことし全 日本民医連では過労自殺をテーマに「精神医療交流集会」を行い、今日的課題にとりくみます。

〈学術活動〉

 現在、16の自主的研究会が組織され、それぞれのテーマを設定して活動をすすめています。昨年6月に「研究会代表者会議」が開催され、活動の交流が行われました。また、学術・運動交流集会では「学術研究セミナー」を開催し、研究の手法と成果についても学びました。

 研究会によっては、学会の中で民医連の役割を強く打ち出しているところもあり、全体として活発に行われています。しかし、多忙と経営のきびしさから研究会の参加者が減少したり、学術活動が病院や一部の医師に偏るなどの問題も出ています。

 民医連の学術活動は、労働災害・職業病、公害、薬害、被爆者医療、慢性疾患医療など幅広い分野で歴史的に も大きな役割をはたしてきました。さらに臨床研究は日常医療活動を科学的に分析し、質的に向上させる意味でも、また医師養成の面でもきわめて重要です。今 後とも民医連ならではの学術活動を追求し、発展させていきます。また、自主的研究会の活動にたいする援助のあり方については、全日本民医連理事会としても 検討していきます。

〈その他〉

 96年3月、「らい予防法」が廃止され、長年社会から差別・隔離されてきたハンセン病患者の人権回復の流 れが明らかになりつつあります。しかし、社会に偏見は根強く、収容中の人格侵害の実態が明らかになりつつあります。私たちは、こうしたさまざまな人権をめ ぐる問題に目を向け、とりくみの事態から学び、人権保障を求める活動を強めましょう。

●医療活動委員会の役割

 政府・自民党や財界などの支配層は経済効率を優先し、医療を営利市場化に持ち込もうとしており、医療その もののあり方が大きく変わろうとしてきています。それとともに、医療活動の分野は広く、必要な政策提言や対応が要求されてきています。緊急を要する課題も しばしばおこっています。

 重要なことは、診療情報開示の問題に対応したように支配層のねらいをよみとり、人権を守る視点での医療理 念を明確にした「総論」をしっかりとふまえ、かつ具体的な個別課題としての「各論」にとりくむこと、「総論」と「各論」のどちらも重視しつつ、反復させな がら深め創造する作業が求められています。

 県連や法人・院所にあっても、医療・経営構造の転換や介護・福祉分野へのとりくみにあたって十分な論議を 経ないで対応を急いだり、経営的側面からのみ判断し、院所の中で不団結や地域住民との乖離が生じるなど、民医連院所・施設としての存在意義が問われたりす ることがおこりかねません。

 県連の医療活動委員会の役割は、医療・経営・運動の総合的視野に立って、医療活動上でいまどのような論議が必要か、どのような対応が必要かを、県連理事会や法人・院所の指導部に提起していく役割をもっています。

(3)民医連経営の優点を発揮する課題

●経営改善の課題は全体として前進

 97年度のきびしい民医連経営の状況の中で発生した同仁会の前倒産状態の経営危機は、「他人事ではない」 「自分の法人や院所の経営はどうなっているか、資金繰りは大丈夫か」など、今日の医療情勢や金融情勢のきびしさを実感し、あらためて経営構造を見直す機会 となりました。

 この間、院所・施設数が増加しているにもかかわらず、全日本民医連の全体的な事業収益が従来のように伸び なくなっていること、医師体制のきびしさは受け入れ数の減少と退職医師の増大のもとで、医師総数が停滞していることなどをふまえて、収入増のみに依存する 考え方の転換を提起してきました。管理部をはじめ全職員の努力と共同組織の協力を得て、98年度・99年度と全体として支出を抑える努力の結果、収支の改 善をはかってきました。また、民医連共同購入連絡会は加盟県連が27と大幅に増え、薬剤や医療機器などの購入管理に大きく貢献してきました。

 しかし、事業収益は依然として伸びない状況にあり、収支改善は前進しましたが、施設の老朽化や施設基準の 変更にともなうリニューアルをはじめとした施設改善の課題が急がれている中で、自己資本比率を高める課題が残されています。また、介護保険時代に対応し て、地域住民の福祉要求にこたえるために必要な施設づくりなども民医連として積極的にとりくまねばならない課題です。

 雇用問題が深刻な社会問題となっている中で、仕事づくりの面からも、「安心して住み続けられるまちづくり」の面からも、民医連としてとりくむべき課題です。

●全国の経営状況の把握と適切な指導と援助

 我流による経営管理手法に決別し、民医連統一会計基準にもとづく科学的な経営管理の重要性を強調してきま した。新たにいくつかの法人で、公認会計士の援助を受けて財務管理の見直しを行うなど、全体の認識になりつつあります。  民医連統一会計基準は、今日の税制改革など情勢の変化に対応し、また、これまでの損益計算書と貸借対照表に資金繰り状況を把握するためのキャッシュフ ロー計算書の導入をし、真実の経営実態をあらわすために発生主義会計原則を徹底した民医連新統一会計基準を決定しました。

 同仁会の経営危機の教訓をふまえ、県連経営委員会と全日本民医連が一体となり、法人・院所の経営実態を把握し、適切な指導・援助を行ってきました。とりわけ地協での経営検討を重視し、県連経営委員会との連携したとりくみを強めてきました。

●経営を担う事務系幹部集団の形成

 地協ごとでの事務幹部養成のとりくみが前進しました。経営委員会では、経営幹部養成の課題を任務としてとりくみを強めることとします。2000年より、懸案の課題であった「統一会計基準推進士養成講座」を開始することになりました。

 今日ほど、民医連方針にもとづく医療・経営・運動を総合的にとりくまねば経営そのものを維持できない時は ありません。その意味で、法人専務をはじめとした法人の経営幹部のはたす役割は重要であり、集団化も求められています。今後も、必要に応じて専務会議など を開催し、交流と民医連の課題についての相互点検の場をつくります。

●民医連経営の優点をいかした経営改善を

 少なくとも今後2年間は、ひきつづききびしい経営状況が続くのは確実です。これまでも、経営の困難さを全 職員の力を結集して困難を切り開いてきました。民医連経営の優点として全職員の力や共同組織の協力を上げてきましたが、もう一歩突っ込んでこの問題につい ての論議と実践が求められています。

 施設や設備の計画的な更新をすすめ、地域の要求にこたえる新しい事業を創造していくことは、民医連経営に とって不可欠な課題です。そのためには、事業活動の中から一定の利益を生み出し、大衆資金を結集して自己資本比率を高めることが必要です。とりわけ金融機 関の貸し渋りや、介護分野などで営利企業との競争が拡大する状況では、職員一人ひとりがみずからの生活を守ることと民医連経営を守ることを一体のものと考 え、経営活動の討議に参加することが必要です。

 そして、地域における民医連院所の存在意義と役割についても認識の一致をはからなければなりません。雇用 問題が社会問題になっているいま、管理部と労働組合が地域に目を向け、福祉分野などでの新しい仕事づくりは民医連ならではのとりくみです。従来の経営協議 をさらに発展させることや、対等平等・協力共同の関係をいっそう強める努力を行いましょう。

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(4)介護保険時代に対応した老人医療・福祉分野の新たな展開

●老人医療・福祉分野へのとりくみ

 私たちは90年代の初頭の老健施設にとりくむにあたって、「たたかいと対応」の考え方を確立してきました。

 高齢者医療における長期入院・入所施設の整備に関する問題提起、特養ホームや老健施設づくりなど「一県一 老人施設づくり運動」、訪問看護ステーションや在宅介護支援センターなど、高齢者の人権を守る視点、地域の中で安心して暮らせる運動としてとりくまれてき ました。また、「気になる患者訪問」や「要介護老人実態調査」など生活の実態をふまえた科学的資料にもとづき、道理ある要求として国や自治体に向けた運動 をすすめてきました。

●介護保険時代をどのようにとらえるか

 日本の社会保障制度は、従来の医療・福祉・年金・生活保護に介護が加わり、公共性や非営利の視点がより重 視されなければならない時代をむかえました。まさに、国家的大事業であり、要介護者や家族の切実な要求にこたえるものであり、政府として遅きに失した対策 ともいえます。

 しかし、その介護保険制度を「保険あって介護なし」の制度にしてはならないというのがいまのたたかいです。そして、このたたかいははじまったばかりであり、今後数年間ははげしいつばぜりあいの時代となるでしょう。

 たたかいいかんでは、地域から新しい運動を切り開くチャンスでもあります。同時に民医連として、従来の医 療だけでなく「医療と介護」「医療と福祉」が密接に結びつき、これまでの姿勢を転換すべき時代となっています。高齢者医療への考え方、病棟医療そのものの 見直しも必要になってきています。そして、地域から従来にもまして医療・福祉に関する要求も寄せられてきます。

●民医連の老人医療・福祉分野のとりくみの到達点

 在宅分野では、病院・診療所の9割が往診・訪問診療を行い、訪問看護ステーションはひきつづき増加し、全国の1割を超えています。

 在宅介護支援センターやヘルパー事業、すすんだところでは「在宅総合ステーション」を開設するなど施設面 でのとりくみがすすみ、1000名を超える看護職やソーシャルワーカーが専任しています。介護支援専門員に4000名を超える民医連職員が合格し、多くの 院所・施設が居宅介護支援事業所として準備しています。

 施設分野では、民医連加盟の特養ホームや老健施設も増加し、入所者を生活者として接し、それぞれの生活に あわせたケアを看護職・介護職が協力し合ってすすめています。痴呆症状や廃用障害の高齢者が施設に入所してADLが改善したなど、人権にもとづく介護実践 に注目が寄せられています。

 有床診療所で、4割を超える292床が療養型を選択し、全体の3割にあたる病院で療養型が導入され、全体の病床数の2割を超える予定です。ケアハウス、グループホームのとりくみもはじまっています。

 介護保険事業へのとりくみでは、ほとんどの院所・施設が居宅介護支援事業者としての認可を受け、デイケア やヘルパー派遣などの介護サービス事業者の届け出を行っています。介護認定審査会には、医師169名をはじめ434名の民医連職員が審査委員として参加し ています。介護保険事業計画策定委員会には、多くの職員や共同組織の人たちが参加しています。

 県連には全日本民医連の呼びかけにこたえる委員会が設置され、7割の法人にも委員会が確立され、総合的視野での「たたかいと対応」方針が出されています。しかし、多くの場合、介護保険事業の準備に追われて、全体的な課題へのめくばりはこれからというのが実態です。

 このように、短期間に職員の力と英知を結集して、さまざまなとりくみに挑戦してきました。

●介護問題への今後の対応

 ひきつづき「たたかいと対応」を一体のものとして制度改善のたたかいを重視し、介護関連事業の具体化をす すめることです。営利産業もこの分野に参入してきていますが、私たち民医連は「人権と非営利」をめざす共同の輪を広げ、「安心して住み続けられるまちづく り」の実践課題として共同組織や地域住民と連帯してとりくむことが必要です。また、他の福祉分野から謙虚に学ぶ姿勢も大切です。

 介護保険事業の運営にあたって、これまで民医連経営の中でつちかってきた優位性を発揮し、経営幹部の配置 など法人や院所で全体的に責任をもてる人を配置し、徹底して共同組織や地域住民との協同のとりくみとすることです。全日本民医連として、33期は老人医 療・福祉委員会を新設し、介護保険にたいしては「介護対策室」を設置してとりくんできました。今後、さらに委員会体制を強化してとりくみます。

 現在、民医連の介護福祉士は357名、介護職員は512名になり、今後も増えることは確実です。多くのヘルパーも参加してきます。民医連綱領にもとづく学習や人権を守る視点の重視など、県連として独自の対策を行う体制を確立する必要があります。

 介護福祉士の育成をはじめ高齢者医療・福祉分野を総合的に担う人づくりについて、全日本民医連としても交流や研修会などを企画し、政策化につとめます。

(5)民主的集団医療と民主的管理運営

 民医連運動を総合的にすすめるうえで、職場の中に連帯感が存在しているかどうか、職員一人ひとりの働きがいや生きがいが大切にされているかが重要です。すなわち、民主的集団医療が日常医療活動の中に根づいているかどうかの問題です。

 「民主的集団医療の到達と今後の課題」にもとづき、実践することが大切です。職場の中で率直な論議を行う 条件が存在しているか、管理運営の問題として点検が必要です。また、職場単位だけでなく、診療委員会・院所利用委員会・外来委員会病棟委員会や慢性疾患活 動などを通して他の職種とともに論議し、共通の認識をもって連帯し合えるしくみが存在しているかも重要な視点です。

 このような活動で、企画性と組織性をもった事務系職員の役割は重要です。

 そして、法人や院所管理部が医療現場と乖離していないかどうか、患者や職員の実態をつかむ努力と体制が確立しているかどうか、組織的な点検が必要です。また、官僚主義への警戒心を怠らず、徹底した民主運営を貫くことが必要です。

(6)民医連の医療・福祉宣言

 院所や職場での医療・福祉宣言づくりの運動は、県連や院所で医療・福祉宣言コンテストや職場宣言の発表会を行うなど、いくつかのすぐれた経験が生まれてきました。

 「子育て支援・子どもを守ろう」の小児科医療宣言、「気になる患者訪問」や日常の看護活動をふまえての看 護委員会の医療・福祉宣言、薬局活動を通してやりがいと感じたことをまとめた薬局の宣言、起草委員会をつくり、1年間かけ職員と共同組織で論議をにつめて きた病院憲章づくり、などが学術・運動交流集会で紹介されました。

 いずれのとりくみも、なぜ医療・福祉宣言をつくるのかの論議からはじまり、民医連綱領をあらためて学習 し、地域の医療要求や院所への意見を集めるなどのとりくみが行われています。共同組織や患者・地域住民の側から院所を見つめ直し、民医連院所としての存在 意義を再認識する運動でもあります。

 「全日本民医連の医療・福祉宣言」は、第2回評議員会で医療宣言委員会第一次案として発表しましたが、職場・院所での医療・福祉宣言づくりをさらに広げる立場から次期理事会でのひきつづく検討課題としました。

第二節 地域に「人権と非営利」をめざす共同の輪を―平和・人権・福祉の新たな日本を

(1)介護保険のたたかいと医療抜本改悪阻止をはじめとするとりくみ

 私たちは第一に、支配層が介護保険制度の導入をテコとして医療・社会保障の抜本改悪をすすめようとしてい ることにたいして、介護問題を前面にしたたたかいにとりくむこと、第二に、医療をはじめ社会保障の全般にわたって、従来にない規模とスピードで大改悪をす すめようとしており、国民的な幅広い運動が必要であるとの認識に立って、社会保障運動にとりくんできました。

 要介護老人実態調査には全国すべての県連で3万人の職員が参加し、調査に参加した若い職員が全国ジャンボ リーでも介護問題の企画をとりくむなど、地域に出かける調査を通して大きな確信を得ることができました。この調査によって、生活保護水準以下の収入の世帯 が32%におよぶことや、介護保険から除外されるおそれのある人びとが多数存在すること、介護者が1日15時間もの介護を余儀なくされ、劣悪な住宅状況な ど複合的で深刻な介護の問題点を実証的に明らかにしました。

 この調査には、学者・研究者の協力と援助を受けました。各地でこの結果にもとづく記者会見や自治体にたいして提言を行うなど、積極的なとりくみがすすめられました。

 また、地域での懇談会やシンポジウムは1万回、参加者も13万人を超え、介護署名は103万、新医療署名 は80万を超え、たたかいの広がりと介護保険制度を手直しさせるうえで大きな力を発揮しました。従来の署名を中心としたとりくみから、調査を行い、事実に もとづく対案を示し、懇談会やシンポジウムの開催を重視し、対話運動を通して新たなたたかいの輪を広げたことは、社会保障運動の歴史の中で時代を画するも のとなりました。

 本年4月から介護保険制度が実施されますが、全日本民医連として介護保険によるサービスが十分に受けられ ているかどうか、保険料や利用料の負担増の影響と実態などについて、一昨年の要介護老人実態調査の対象者を中心に全国調査を実施します。ひきつづき介護保 険制度の改善に向けたとりくみを強めましょう。

 97年9月に実施された医療保険大改悪は、同年に実施された消費税引き上げとあいまって国民消費支出を減 退させ、今日の深刻な不況をうみ出す最大の要因となりました。高齢者の薬剤二重負担を元に戻せの運動や、高齢者の病院からの追い出しにつながる診療報酬改 悪にたいして、実態調査を行い、政府に改善を要求し、成果をかちとってきました。いよいよ医療制度の改悪や診療報酬改悪案が出されつつあります。医師会な ど医療団体との連携を強めて、国民医療の改善を求めるとりくみを強めましょう。

(2)要求の広がりと連帯

 私たちは″地域に深く根ざして″の立場をふまえ、地域の要求をつかみ、その実現をめざしてとりくんできま した。介護保険のたたかいで「介護保険から除外される人をつくってはならない」「自分たちの地域を、安心して住み続けられるまちにしたい」―こうした切実 な要求を一致点に、さまざまな団体や個人が連帯し共同することが可能であることを示しました。懇談会やシンポジウムの開催に、共同組織が大きな力を発揮し ました。地域医師会や町内会長、民生委員、さらには自治体労働者や福祉関係者など従来にない幅広い参加でとりくまれました。

 医療改悪阻止のとりくみでも、医師会・歯科医師会・薬剤師会も国民負担増に反対する立場をとっており、地域での懇談会やシンポジウムにも医師会長が参加し、民医連作成のポスターも開業医がこころよく受けてくれるなど、確かな変化が起こっています。

 政府・自民党や財界など支配層の施策は国民要求との矛盾を拡大し、たたかい方によって医療や社会保障の充実をかちとり、新しい平和・福祉の日本をつくることが可能であることを示しています。

 この間、社保協は46都道府県に確立され、秋田県でも準備会が結成され、全国に医療と社会保障の改善を求 めるたたかいの組織が誕生しました。地域社保協は196の地域で結成され、「介護保険をよくする会」などさまざまな形態でのとりくみが各地ではじまってい ます。これからの2年間は、保団連をはじめとした医療関係団体との対話をすすめ、連帯と共同のとりくみをさらに広げる時期です。

(3)「安心して住み続けられるまちづくり」のとりくみ

 私たちは診療に来る患者さんのみを対象とするのでなく、地域で寝たきりをなくす運動、介護保険から除外さ れる人をつくらない運動など、まさに「最後のよりどころ」としてのとりくみがはじまっています。共同組織でも、相談所ステッカーを掲げ、地域住民の要求を 聞くとりくみが広がっています。

 民医連としてのまちづくり運動への参加は、第一に、施設展開や医療・介護・福祉のネットワークづくりを通 して担う役割です。第二に、暮らしや営業・教育・文化など、地域住民の要求実現のとりくみへの参加です。第三に、配食・ホームヘルパーなどのボランティア や介護NPO法人など、非営利・協同の組織や事業所と共同のとりくみを発展させることです。第四に、革新自治体をつくり、自治体要求運動など住民が主人公 となる自治体づくりなど、多様で多彩なとりくみが求められています。

 この間、阪神・淡路大震災被災者への支援を中心とした災害被災者支援と、災害対策改善を求める運動に積極的にとりくんできました。

 「子どもの権利条約」が成立して10年が経過しましたが、不登校・いじめ・虐待・暴行をはじめとして子ど もの権利と健康を侵害する深刻な現状が続いています。民医連院所は、子どもの権利と健康侵害にたいして、地域の人びととともに苦悩しながらも積極的にとり くんでいます。前期には、小児医療プロジェクトチームによる小児医療方針案が出され、共同組織運動交流集会でもはじめて子どもの人権について分散会がもた れました。

 今後、「安心して住み続けられるまちづくり」の重要な一環として、子どもの人権と健康を守るとりくみを重 視していくことが必要です。少子高齢化時代といわれる中で、「子どもを産みたくても産めない」さまざまな社会的問題が存在しています。母子保健や妊婦環境 の改善などのとりくみを強めます。

(4)平和と民主主義を守るとりくみ

●戦争法反対など平和と民主主義を守るとりくみ

 戦争法(新ガイドライン関連法)阻止のとりくみで、新たに海員組合など連合系労組や宗教者、平和団体が結 集し、大きなたたかいとなりました。「反核医師・医学者の集い」に結集する医師・歯科医師は、戦争法案反対の緊急アピールの賛同署名を短期間に2000名 以上集め、各政党への要請行動を数次にわたって行いました。

 私たち民医連は、約6700回の学習会や約5600回の宣伝行動で青年を中心にマンガや紙芝居など創意あ るとりくみを展開しました。安保条約に反対し、基地反対闘争などを交流し、草の根から平和を守る運動をつくり出すため、毎年開かれる日本平和大会にも多く の民医連職員が参加しました。

 戦争法成立後も、戦争協力拒否宣言病院運動などにとりくんでいますが、戦争法の具体化を許さないたたかい とあわせて、沖縄での基地移転は単なるたらいまわしではなく、アメリカの海兵隊基地強化をねらったものです。基地をなくすたたかいに連帯し、反対運動をす すめる必要があります。

 この間、盗聴法や国会議員定数削減などに反対して、民主主義を守るとりくみをすすめてきました。国会に憲法調査会が設置されるなど、憲法改悪の動きが強まっていますが、民主主義を守る運動がますます重要です。

 漫画で情動的に日本の侵略戦争を美化し、青年に「日本人なら戦争に行け」といわんばかりの書物も出ています。平和と民主主義のだいじさを青年に伝えることは重要な課題です。

●核兵器廃絶を求める運動

 アメリカなどの核保有国が核抑止論にしがみつく中、パキスタン、インドが核実験を行い、核拡散防止条約の 問題点が明らかになりました。核兵器の廃絶を求めて、98年、99年の原水禁世界大会には広島、長崎あわせて毎年1400人以上の民医連職員が参加しまし た。被爆者の松谷さんが起こした松谷原爆訴訟の支援活動や、3・1ビキニデーなどにもとりくみました。

 国際活動では「反核医師・医学者の集い」に結集する医師が保団連などの医師とともにIPPNW世界大会 (メルボルン)、北アジア地域大会(北京)にも多数の代表を組織し、広島・長崎アピール署名を広め、被爆者の実状、戦争法の危険を知らせてきました。日本 原水協の核実験の被害調査には、カザフスタン、ネバダに医師を派遣しました。新アジェンダ連合など、核兵器の廃絶を求める声が国際的に強くなってきていま すが、「アピール」署名の推進などで日本政府を核兵器を廃絶する立場に立たせ、アメリカなど核兵器にしがみつく勢力を孤立させ、21世紀を核兵器のない世 界とするために奮闘することが必要です。本年6月、パリで開催されるIPPNW大会に代表団を派遣します。

 日本の支配層は多国籍企業を守るため、自衛隊の海外派兵をすすめようとしています。それは国のあり方を根 本から変えるものです。基地調査や非核港湾のとりくみなど戦争法に反対する運動を、院所・施設や地域の中でとりくみます。県連に反核・平和委員会を設置 し、設置しているところは強化し、ジャンボリーに結集する青年など職員の創意や工夫も取り入れて、共同組織や労働組合とともに運動が組織的・系統的にすす むようにする工夫をしましょう。

(5)地方と国政の政治革新

 「消費税率を3%に戻せ!」「医療改悪を元に戻せ!」「社会保障20兆円、公共事業50兆円の『逆立ち政 治』を変えよう!」などを争点とした参議院選挙には、小池晃全日本民医連理事をはじめ7名の民医連職員が日本共産党の候補者として奮闘し、悪政を続ける自 民党が惨敗し、日本共産党が大躍進しました。

 「住民が主人公の地方自治体を!」「無駄な公共事業より、福祉や教育の重視を!」「『保険あって介護な し』の自治体にしてはならない!」など、紙芝居など創意あふれるとりくみで行われたいっせい地方選挙にも多くの民医連職員や共同組織の人たちが立候補しま した。足立区や東大阪市をはじめとした革新自治体を守る首長選挙や全国各地の知事選挙・市町村長選挙にも、積極的にとりくんできました。

 小池理事の当選は、医療や社会保障のたたかいでも、地域の具体的な要求を国会の場にこれまで以上に反映できるようになりました。要介護老人実態調査などで明らかになった介護保険の問題点を国会の場で鋭く追求し、さまざまな改善をかちとってきました。

 医療保険改悪による患者負担増の実態、高齢者が入院施設から追い出される現実的な矛盾点、要介護老人実態 調査などをもとに具体的な改善案を示しながら、候補者を先頭に民医連の職員も政治の流れを変えるために奮闘しました。「政治を考える班会」「国政を変える 班会」など、共同組織と連携した懇談会が各地で開かれました。青年職員を中心に、紙芝居や漫画でアピールする創意あるとりくみが行われました。

 足立区長選挙では、東京民医連や全国の支援を受けて医師会や薬剤師会、歯科院所などすべての医療関係団体との対話をすすめ、民医連院所・施設のない地域でもセンターを設置し、地域での懇談会を行いました。

 私たちは、ことし2月に行われた大阪知事選挙と京都市長選挙に際して、政府・財界いいなり、無駄な大型公 共事業優先の政治から医療・社会保障の要求を実現する自治体政治に転換するために、このたたかいを支援してきました。残念ながら勝利することはできません でしたが、今日の国会での国民の意向を無視し、悪法をつぎつぎと強行採決する自自公の反民主主義的な動きが今回の選挙を通してよりいっそう明らかになり、 住民が主人公の地方自治体づくりに国民の共感が広がりつつあります。

 日常的に地域でのつながりを強め、医療や社会保障での地域政策を提案できる力をつけることが求められています。来るべき総選挙は、21世紀初頭の日本の政治動向を決する重要な選挙です。すでに9名の民医連職員が選挙区候補、比例代表候補として奮闘しています。

 21世紀に新しい平和・福祉の国づくりをめざして、国政革新と住民が主人公の地方自治体の実現をめざして奮闘しましょう。

第三節 「科学とヒューマニズム、民主的医療人」―民医連運動の担い手としていかに成長するか

(1)克服すべき課題としての医師養成と確保

●医師問題が全職員、共同組織の共通の関心と認識に

 「医師の確保と養成の課題で民医連組織の力の集中」を呼びかけた第3回評議員会方針は、医師問題の克服ぬ きに医療活動、経営活動をはじめとする民医連運動全体の維持・発展はありえないと真剣に受けとめられ、全職員や共同組織の共通の関心と認識になっていま す。そして、医師集団を先頭に懸命なとりくみが行われ、さまざまな変化があらわれています。

 医師問題の克服のための基調となる考え方は、激変する情勢のもとで民医連運動の歴史的到達点や社会におけ る存在意義をふまえ、医師としての社会的使命や生きがいを民医連運動の発展と結びつけて問い直そうというものでした。多くの医局で、学者・文化人などの外 部講師も招いて、今日の時代と情勢をどうとらえるか、地域の住民の生活や経済の状況はどうなっているかをテーマにした学習会など「知的輝き」を増すとりく みが行われました。

 医師集団が地域の中でいっそう役割をはたそうと、開業医層との医療連携や学習会の開催、空床情報の交換や 患者紹介、介護問題やまちづくりでのシンポジウムなどの共同が広がりました。これらは、気になる患者訪問、要介護老人実態調査への参加などとともに、地域 の視点からみずからの院所・医局のあり方を見つめ直し、存在意義に確信を深めるうえで重要な活動になっています。

 また、大学や研修病院関係者、医学生とともに、日本の医師卒後研修制度をよくする世論と運動を発展させ、政府・厚生省が企図した保険医インターン制の導入を阻止したことは、民医連の医師集団のたたかいの貴重な成果でした。

 医師のあり方をめぐっては、院所の医療経営構造の転換、目的を明確にした医師労働の軽減の論議の中でも深 められつつあります。「ベッドフリーの研修指導医体制を確立するために、パート医を導入して医師体制を維持した」「医局全体で各科やグループの医療構想・ 医師体制についてお互いにふみこんだ議論を行い、院所全体の共通の認識にしていった」「専門分化にかかわる弊害をのりこえるため、各専門病棟に一般内科病 床を置き、専門の狭間にあった患者を助け合うことで内科医師全体の確信になった」などの各地の経験を学び合うことが大切です。また、こうした論議と実践を 通して医局の医療宣言をつくり、内外に発表したところもいくつか生まれています。各県連・院所で研修システムの検討がはじまり、地協の研修委員長会議や指 導医研修会が開催されるなど研修改善のとりくみがすすみ、青年医師の成長につながりつつあります。

●医局・院所に新しい活気をもたらした医学対大運動の成功

 99年9月から12月にかけてとりくまれた医学対活動の飛躍をめざす大運動は、民医連奨学生決意者を 100名増やす目標を超過達成し、105名と大きく成功しました。2000年新卒医師受け入れでも、99年卒の実績を上まわっています。医学生の民医連へ の合流が近年にない勢いですすみつつあります。

 医師卒後研修義務化(保険医インターン制導入)問題や国立大学の独立行政法人化問題など、日本の高等教育 と医師養成制度が重大な岐路にあり、それをめぐって医学生運動が前進し、医学連加盟校が2年連続で増加しました。民医連をはじめとする医師層・医療界の共 同のたたかいが発展するという情勢のもとで、医師としての社会的使命・生きがいについて真正面から問題提起してきた民医連が、生き方を真剣に模索する医学 生に新鮮なものとして受けとめられ、共感を広げています。

 あわせて医学対大運動成功の最大の教訓は、この活動が全職員・共同組織・奨学生によってかつてなく豊かに 多彩にすすめられ、その意味で活動内容が新しい質的な飛躍を遂げたことにあります。医学生に民医連の魅力をどう伝えるか、なぜ自分が民医連に参加してがん ばっているかなどを職場で話し合い、実際に医学生と交流を深めることで、職場づくりも前進したという経験が各地で生まれました。また、医師の確保と養成で の共同組織の積極的なとりくみは、大きな励ましとなりました。

 医学生の民医連への合流と各地での奨学生の活躍は、民医連運動に新しい活気をもたらしています。今回の医学対大運動の成果と活動内容が、民医連の医師問題を打開していく重要な第一歩になったことを確認することがだいじです。

●医師問題の打開は、第34期もひきつづいて最大の課題

 医師体制の困難さ、医師の多忙さと余裕のなさは、診療体制の見直し、病棟閉鎖などの医療活動の縮小を招 き、また個々の医師の展望を失わせ、退職につながる大きな要因となっています。医師問題の打開は今期のもっとも大きな組織的課題であり、全職員、共同組 織、地域の民主勢力の知恵と力を結集し、「新しい段階を画するとりくみ」を通してみるべき成果をあげていかなければなりません。

 第一に、医学対活動では「大運動」の経験と教訓を発展させ、この2年間であわせて300人の新卒医師受け入れをめざします。5年生以下の中低学年で新たに200人の奨学生を増やし、その成長への援助を強めます。

 医学生と民医連職員や共同組織の人々との結びつきを、日常的に多彩に深めることが重要です。それぞれの大学から全国各地への民医連参加決意者をいっそう増やしていくために、地協の医学対活動を発展させましょう。

 第二に、日本の医師卒研制度の改善のための共同をさらに広げつつ、民医連の研修の充実をはかります。研修委員長会議の開催など、全国的地協的な協力・連携を強めることが課題です。

 第三に、退職問題についての深い検討をすすめ、退職を生まない医師集団づくりに全力をあげます。医師が民 医連でがんばり続け、生きがいを感じ、明日のエネルギーの源になるものは何でしょうか。医師集団や他職種との連帯感、患者・地域からの評価、所属している 院所の存在意義や社会的役割の明確化など大いに論議を深めていく必要があります。いっそう地域との一体感をもつ院所・医局づくり、研修指導や医学生との交 流などの目的を明確にした医師労働の軽減とゆとりづくりをすすめましょう。

 第四に、民医連運動の次代の医師リーダーの養成をめざして、中堅医師・青年医師らを対象とした全国的な講座などの開催を検討し、また地協レベルでのとりくみの強化をはかります。

(2)歯科部門

 全県連に歯科院所を開設し、100以上の歯科院所を建設するためには、歯学生対策の前進が必要です。これ までの点としての歯学生とのつながりから、集団としてのつながりに発展させられるかが課題です。17大学、24名が参加した「歯学生のつどい」のとりくみ は、歯学対運動転換の第一歩となりました。その成果に確信をもち、歯学生を医療変革のパートナーとしてとらえ、各歯科大学ごとの対策を具体化し、民医連歯 科院所に歯学生が日常的に訪れるような結びつきを強めます。同時に、青年歯科医師、中堅歯科医師など医師集団が団結を強め、集団で民医連医療の担い手とし て成長することがどうしても必要です。

 歯科衛生士、歯科技工士については、地方協議会あるいは全国規模で交流と研修をすすめ、それぞれの職種の政策づくりをすすめます。事務についても地方協議会、全国段階での研修や交流をすすめます。

(3)看護部門

 看護集団は、高齢者医療・福祉分野への積極的展開に大きな力を発揮しました。とくに訪問看護ステーション は、地域での医療・介護・福祉のネットワークづくりに大きな力を発揮しています。さらに、老人施設建設、デイケアの開始、ヘルパー養成事業、ボランテアな ど在宅分野での総合的なとりくみをすすめ、新しい看護活動を展開しています。この実践の中で在宅分野を担う看護幹部が誕生しています。

 療養型病床群への転換のとりくみも具体的にはじまり、定額制の中でどのような医療を行うのか、どのような夜勤体制をひくのか、看護管理の課題について整理がはじまっています。今後さらにこの分野を担う看護幹部、看護集団づくりが求められています。

 病棟を担う若手看護婦の比率がひきつづき大きくなってきています。日常業務を安全にすすめる看護力量を養うことと、患者の背景をしっかりとらえ、民医連看護実践の後継者として育てる課題が重要になっています。

 新卒看護婦受け入れは98卒、99卒ともに1000名を超え、5年連続となりました。この確保が高齢者施 設、在宅分野での新しい看護活動の展開を保証しています。DANSは第4回をむかえ、看護学生の主体的な内容づくり、運営に努力し、大きな成功をおさめて います。とくに事務局・実行委員会にかかわった学生の医療・社会への関心を深めるなど、成長は大きいものがあります。しかし、県連奨学生からみればごく一 部の参加です。経営のきびしさから看護学生事務専任者の弱体化がみられます。

 今後、看護学校基礎教育カリキュラム改訂の影響が、受け入れ職場にはっきりあらわれてきます。医療・経営 構造の転換の模索の中で長期的視点に立った受け入れ目標の選定にむずかしさがありますが、県連的看護政策の論議であらためて新卒看護婦受け入れの今日的意 義を深め、活動の質を後退させないことが求められています。民医連看護学校も8校となり、新卒受け入れの約4割を担っています。看護学校の統廃合がすすむ 中で、民医連看護学校のあり方の検討が必要になってきています。看護大学が増加する中で、大学卒の受け入れの必要性の認識がすすんでいますが、まだ経験が 少なく、今後具体的な方針が求められます。

 民医連看護の優位性、民医連看護のつちかってきたもの、21世紀に引き継いでいくものはなにかなど、民医 連の枠内だけでない論議がはじまっています。看護委員会では民医連の看護論について討議してきましたが、論点を整理しながら34期の課題とします。看護集 団として医師養成や確保の論議ととりくみをすすめる中で、民主的集団医療の実践や若手看護婦を育てる職場づくりへの問題意識も深まってきました。ひきつづ き重視してとりくみます。

 第4回看護活動研究交流集会は98年9月に青森市で、「国民の求める看護とは」をテーマに830名の参加 で開かれ、活発に議論されました。第5回は2000年9月、「21世紀に豊かに発展させよう、人権を守る民医連看護~安心して住み続けられるまちづくりの 輪の中で~」をメインテーマに、大阪で開催されます。豊かな実践をもちより、成功させましょう。

 准看護婦制度問題が新たな局面をむかえています。厚生省から発表された2つの報告書「准看護婦の看護婦へ の移行教育に関する検討会報告書」「准看護婦の資質の向上に関する検討会報告書」にたいして、「准看護婦の移行教育に関する検討会報告の問題点と運動の方 向」の理事会方針が出されました。この方針に沿って広範な医療団体、医療従事者と大いに論議し、運動を強めていきます。

(4)事務部門

 今期は、各地協として事務幹部養成講座が積極的にとりくまれました。次代を担う事務系職員が民医連運動を 総合的にとりくむ視点から、情勢を学び、医療や経営・医師問題などをより深める立場から講座が企画されています。県連をこえて交流する中で、自分の県連や 院所を客観的に見つめ直し、事務幹部として成長する機会となっています。

 全日本民医連として事務委員会の活動を確立できませんでした。介護保険時代をむかえ、医療・経営構造の転換のとりくみ、民主的集団医療をすすめるうえでも事務職員の役割が大きくなってきており、34期は強化をはかります。

 なお、事務系職員や技術系職員の委員会は、これまでの経営委員会や医療活動部の管轄から分離し、理事会のもとに新しい機構で対応します。

(5)各分野・各職種の活動

 各分野・各職種の活動では、「医療・経営構造の転換」や介護保険導入への対応、民医連が今期重点課題とし て位置づけた医師問題や経営問題などを重視して活動をすすめてきました。これらの課題については、各職種委員会での討議をもとに、「医療・経営構造の転 換」にともなう職種ごとの新たな役割の検討や医師の過重労働を軽減する上での各職種のはたすべき課題などが民主的集団医療のかかわりも含めて議論され、全 国会議等で討議され、実践がはじまろうとしています。

 今期から新たに発足した地方協議会は、職種ごとの交流をはかり、活動の新たな前進に向けて大きな役割をはたしました。

(放射線)

 放射線部会は34県連で確立されており、それらの部会では技師政策づくり、「医療宣言」づくりなどを重視 しながらとりくみをすすめてきました。これまで放射線部門の重要な課題は技師確保でしたが、今後、入職した技師が民医連の放射線技師としていきいきと活動 するための教育や研修を重視してすすめることが必要です。ひきつづき部会確立、技師政策づくりを重視してすすめていきましょう。今後とも、画像診断の精度 の向上とともに、院所全体の中でのはたすべき役割を鮮明にすることが求められます。

(検査)

 今期は、各地協ごとの交流集会や幹部研修会が開催され、大きく成功させてきました。「医療・経営構造の転 換」の中での検査技師のはたすべき役割の検討や、「医療宣言」づくりの交流などが活発に行われました。しかし一方、毎年継続して実施している「臨床検査に 関するアンケート調査」の集約の特徴では、情勢のきびしさを痛切に受けとめる声や、将来への不安を訴える回答が数多く出されました。ひきつづき検査部門に たいする攻撃が強まることが予想される中で、この分野が民医連運動の中ではたすべき役割を法人・院所・検査室で十分に討議する必要があります。

 このような状況の中で、99年11月に開催された「県連代表者会議」では、検査にかけられた攻撃が国民に かけられた攻撃の一環であるととらえ、攻勢的にたたかって未来を切り開くこと。医療における検査の役割はこれからもなくならないし、新たに強化し、展開す る課題も生まれること。利益の出る収支構造のため、院所・セクションにとらわれず、「覚悟と英知」をもって部門全体で団結し、とりくむことが確認されまし た。

(リハビリ)

 老人デイケアや訪問リハビリ、脳卒中のリハビリのとりくみなどが全国的に大きく広がる中で、この間、この 分野の課題は技術者の受け入れと研修が大きな課題となっていました。理学療法士・作業療法士とも医療活動内容の反映もあり、着実に増えてきています。医療 活動の分野では、呼吸器疾患、嚥下障害、慢性関節リウマチ、訪問リハビリなどの分野で優れた経験も生まれてきています。また、98年9月に資格制度が発足 した言語聴覚士は22県連に53名の配置にとどまっています。

 この分野は、今後の需要の拡大と診療報酬の引き上げも予想され、各県連・院所で計画的な配置の拡大が求め られます。技術者の研修も県連をこえて地協レベルで行われるようになってきており、ひきつづき重視してとりくみをすすめます。この分野は比較的新しい分野 であり、今後、民医連のリハビリ技術者としてのあり方の検討などが求められます。

(栄養)

 「食」を守る運動がいままでに増して重要となっています。入院給食の自己負担の軽減を求める運動とあわせ て、介護保険下の自治体独自のサービスとして配食サービスの実施を求める運動など、新しい課題も生まれています。第33期にとりくんだ「在宅老人の食生活 実態調査」は、全国で約2800人の在宅患者を訪問しました。結果からは、31%の人がすでに何らかの配食サービスを受けており、現在は利用していない人 の中で20%の人が病気になったときなどに利用したいと回答していることから、配食サービスへの希望は今後増えてくると思われます。栄養科独自でこのよう な調査をしたのははじめての経験です。今後、この結果を全国各地でいかし、「安心して住み続けられるまちづくり」の運動にいかすことが必要です。

 また、急増している遺伝子組み替え食品、食品の輸入検疫の形骸化など、日本の食糧の安全性を守る運動にも食の専門家としての役割が求められます。

(ソーシャルワーカー)

 介護保険への対応をすすめる上で民医連に働くSWの配置施設が増加し、はたすべき役割はたいへん大きく なってきています。民医連のSWは増加してきていますが、この間介護保険への対応にともなうケアマネージャー部門へのベテラン・中堅の配置などにより、経 験の短い職員が増えています。このような中で研修や教育を重視していく必要があります。また、幹部保全についても検討する必要があります。  1月に開催された県連代表者会議では、21世紀に向けての課題として、法人・院所にとどまらず県連部会や地協に団結し、お互いに支え合い、情勢を切り開 く集団づくり、国民の苦難の増大とともに、深刻化する医療・福祉問題にひるまずとりくむ「たたかいと対応」のできる力量を備える集団づくり、民医連MSW の歴史と伝統を引き継いだ新しいSW集団づくりなどの課題を提起しました。県連部会や院所での討議と実践をすすめます。

(臨床工学技士)

 「民主的集団医療の中に、臨床工学技士の役割を積極的に発揮し、民医連の医療活動を前進させること」を基 本任務として、今期新たに「臨床工学技士委員会」」が新設されました。委員会ではニュースも発行し、全国的な交流から活動を開始しました。これまで透析の 分野は全腎懇(全国腎疾患管理懇話会)に結集し、活動してきましたが、今後、民医連職員としての臨床工学技士のあり方を含めて活動をすすめていきます。

(鍼灸・マッサージ)

 介護保険下での鍼灸・マッサージ部門の対応について検討し、対応をすすめてきましたが、職能団体の足並み がそろわず、きびしい状況も生まれています。全日本民医連の委員会は、今後この分野の展望を切り開くために「私たちの医療政策と医療要求」を決定し、全国 での討議を開始しました。ひきつづき国民要求にもとづく民医連の総合的医療活動に位置づけて、活動をすすめます。また、保険診療の拡大と診療報酬の改善を 求める運動に積極的にとりくみます。

(保育)

 きびしい院内保育園をめぐる環境は、今後も継続されます。社会福祉法人格を取得し、認可保育園の開設や院 内保育所への補助金を充実させるとりくみ、子育て支援ネットワークづくりなど、21世紀にふさわしい院内保育所の役割を経営幹部や保育士(保母、保父)、 父母など保育関係者が力をあわせて積極的に検討しましょう。

(6)教育活動

 今期は、県連や地協ごとに看護管理研修会や事務系幹部養成講座が活発に開催されました。全日本民医連では 職場教育のとりくみに重点をおき、教育学習ブックレットづくりに学者・研究者の援助も受けてとりくんできました。職場教育は、職員一人一人の働きがいや生 きがいを大切にし、民主的集団医療を日常医療活動にいかすために、職場や院所での連帯感をつくることと深く関連しています。

 職場教育にとって必要なことは、第一に、新しい職員に業務上の内容や民医連運動にとって必要なことをてい ねいに理解してもらうことです。第二に、ベテラン職員も中堅職員も若い職員も対等の立場で、一緒になって共通の課題について論議し合うことです。伝達し、 教えるられるだけではおもしろくありません。「人権をどのように感じ合えるか」を素材にある病院の医局で問題提起がされました。「往診活動にすべての医師 でとりくんでみよう」との提案がされました。数カ月にわたって医局での論議が行われました。こうした育ち合う視点でのとりくみが求められています。第三 に、他の職種や地域の中で、学び合うことです。職場の中だけでは視野は広がりません。民医連の社会的使命なども地域に出てはじめて深めることができます。

 教育委員会では、職場教育推進のためのミニマムで育成面接を制度化し継続して行うこと、職員個々人の感想 文などを蓄積・保管し、ファイルしていくことを呼びかけ、実践しています。ひきつづき制度教育を管理部や医師集団も含めて重視し、職場教育での新たな発展 をかちとりましょう。教育活動は、院所・施設の管理部がその指導性を発揮されなければなりません。

 阪神・淡路大震災後、民医連教育学習会館の建設委員会のとりくみが中断していましたが、33期では委員会を再開しました。ひきつづき会館建設の今日的意義など検討をすすめます。

 青年ジャンボリーは99年10月鹿児島で開催され、「未来へのベクトル、見つめ直そう昨日までを、語ろう 明日からを」のスローガンのもとに1056名が集いました。2000年のジャンボリーは開催を見送り、全国ジャンボリー運動と地協や県連や職場での青年の とりくみとどのようにつなげていくのか、などを検討する期間としました。

 県連理事会のもとに青年委員会が設置されているところもありますが、未来の民医連運動の主体者である青年 職員の成長をどのように援助していくべきか、県連理事会のもとにプロジェクトチームなどをつくり、県連としての長期計画を検討しましょう。全日本民医連も 担当者会議などを開催します。

第四節 共同組織の総合的発展を

(1)組織拡大・強化の20世紀目標に迫りつつある

 共同組織や地域に呼びかけた、「『人権と非営利』をめざす共同の輪を広げよう」に共感が広がり、医療住民 運動組織としての共同組織は、活動内容の面でも組織強化の面でも「新しい水準」へと転換する力を生みつつあります。20世紀中に300万の共同組織構成員 と5万の「いつでも元気」の目標は、現在260万の構成員と4万1000部の読者になっています。

 構成員の拡大はここ数年10万の増加になっており、いまのテンポのままでは20世紀目標の達成は困難とな ります。友の会型の共同組織は共同組織活動交流集会をはじめて以降、急速に活動内容が豊かになり、構成員も増えてきています。地域での役割がいっそう大き くなる中で、さらなる強化が必要です。

 職員一人一人が民医連運動を担う主体者としての自覚を高め、共同組織構成員になりましょう。また、法人・院所の指導部は共同組織の強化は民医連運動にとっての不可欠な課題として位置づけを明確にし、全職員の力を引き出せるよう指導性を発揮しましょう。

 「いつでも元気」は全日本民医連共同組織活動交流集会をめざして集中的なとりくみで前進してきています が、共同組織の活動の発展がそのテンポを決めています。20世紀目標達成のために、「いつでも元気」を職員みずからが読み、少なくとも職員の半数以上が読 者になるようとりくみを強めましょう。

(2)民医連運動の発展にとっての強力なパートナー

 共同組織では、医療・経営・運動に加えて医師確保など民医連運動のあらゆる分野において民医連方針が積極的に受けとめられ、民医連運動の発展にとって不可欠な組織として発展してきました。

 国民生活の苦難の増大と不況にもかかわらず、民医連経営のきびしさにたいして「自分たちの病院や診療所の 経営を支えよう」「新しい介護・福祉施設は住民の宝であり、協力しよう」など、出資金や出資基金、建設協力債が寄せられています。同仁会の経営危機にたい しても積極的な協力が行われました。患者さんや地域住民の日常医療活動への問題点や声を届け、地域住民に信頼された院所・施設として発展するために、大き な期待がこめられています。今期は、とりわけ医師確保の分野で大きな協力が発揮され、共同組織の構成員に「医学生を紹介してください」の訴えが出された り、共同組織の中に医学対の組織をつくったところも生まれました。

 こうした共同組織の発展と変化に対応して、私たち民医連の側のかまえを変えるための検討が必要です。院所 利用委員会をいっそう重視し、定期協議を確立し、予算立案や医療・経営構造の転換のとりくみについて、法人・院所の悩みを率直に伝え、「共同の営み」とし てのとりくみを発展させることが必要です。県連理事会としても県連の共同組織連絡会と定期的な協議が必要です。

(3)「安心して住み続けられるまちづくり」運動の主体者として

 介護保険のたたかいや国政や地方政治の革新をめざすとりくみなどで、班会や懇談会が地域住民に参加を呼びかけて無数に開催され、とりくみの発展に大きな力を発揮してきました。

 昨年行われた共同組織活動交流集会で、「10年目の集会で節目をむかえた」「内容的にも、いままで医療・ 福祉の分野での活動が中心であったが、まちづくりでの共同組織の役割が鮮明になった」「私たちはどちらかというと自己完結型となっていたが、地域の他の団 体と手を結ばなければならない」など、地域に目を向けた創造的な実践がはじまりました。集会のまとめで、「民医連の側は新しい段階に入りつつある。総会方 針で民主的な地域医療づくり、まちづくりのうえでまさに主役としてたちあらわれてほしいとしたが、現実的になってきた」として、共同組織のさらなる前進を めざす確信に満ちた呼びかけが行われました。

 集会では、さまざまなとりくみが報告されました。世代間・隣近所の助け合いが希薄な時代になっている時、 地域の中で新しい信頼と連帯と共同の社会をつくるうえで、共同組織の存在とその活動は地域にとっても力強いものとなっています。医療住民運動組織として、 積極的にまちづくりについての提案や問題提起が期待される時です。民医連としても、地域要求から出発したまちづくり運動の視点で、共同組織との共同のとり くみを積極的にすすめましょう。

(4)県連での共同組織連絡会の結成

 県全体や地域での医療や社会保障の改善運動やまちづくり運動にとりくむうえで、県連の共同組織委員会の役 割が大きくなってきています。また、複数の法人・共同組織で構成されている県連は、共同組織とよく相談して県連の共同組織連絡会の結成をすすめ、共通の課 題での交流会や検討会を開きましょう。

第五節 民医連運動の団結を新たな水準に

(1)大阪・同仁会再建、福岡・健和会の民医連的再建のとりくみ

●大阪・同仁会の経営危機と再建のとりくみ

 経営危機の直接の要因は、不良債権を抱え、合併を予定している銀行の「貸し渋り」と「資金回収」によるも のでしたが、根本的要因は、長期にわたる赤字構造を放置し続けたことによるものでした。全日本民医連は、同仁会・耳原総合病院が大阪民医連のセンター病院 としての役割をはたしており、倒産などの経営破綻は社会的な信用を喪失させ、今後の大阪での民医連運動を著しく困難にすると判断の上、事態を重視し、「倒 産させないで再建する」ために対策本部を設置し、全力をあげてとりくむことを決定しました。

 全日本民医連の呼びかけにこたえ、いくつかの県連や法人からの8億円の緊急融資、そして全国から、大阪か ら、地域から、堺の諸団体から、連帯と熱い思いを込めた14億円の再建基金が寄せられ、倒産という危機を回避しました。並行して全日本民医連対策本部と法 人理事会、労働組合の間で、再建をともにすすめる立場を確認し、賃金カット、医師、看護婦はじめ職員の他県連、法人への出向等による人員削減、診療日の拡 大、経費削減等「再建基本方針」を決定し、同仁会職員による再建のとりくみが開始されました。

 98年2月以来、22カ月間の連続黒字を計上し、再建第一年度の98年度は、11億円の利益計画にたいし 12億6000万円と超過達成し、99年度(12月末)で6億2000万円の利益計画にたいし4億7000万円を達成し、27億円あった債務超過を半減さ せました。99年3月には法人融資を完済し、民医連統一会計基準の遵守と資金管理の抜本的強化を前進させました。また、こうした事態を招いた体質について の総括をすすめ、「前倒産に至る要因と改善に向けての自己点検案」としてまとめました。

 全日本民医連は、同仁会および大阪民医連の自己点検をふまえ、医療と経営の乖離、病院と地域の乖離、民主 的管理運営の弱点、とくに職場からの民主主義の欠落、資金管理や利益管理についての事務系幹部の力量、統一会計基準の理解と遵守、法人の自覚的な県連への 結集と県連機能などを教訓とすべき問題点として整理してきました。

 現在、同仁会では法人機能を強化し、老人保健施設の開設、療養型病棟開設、病棟再編成などをすすめつつ、 「医療と経営」「院所と地域」「管理と職員」の三つの乖離を克服すべく全力をあげています。民医連綱領と同仁会の歴史を学ぶ全職員による学習運動、同仁会 の医療宣言集会では45の職場から医療宣言を発表するなど、民医連運動と同仁会再建を担う職員養成にもとりくみました。しかし、急速な再建運動によるさま ざまな矛盾もかかえており、法人機能のあり方と大規模病院である耳原総合病院における民主的管理運営の強化と民医連運動を主体的に担う人材養成は、ひきつ づき強化すべき重要な課題です。

 同時に、同仁会問題は大阪民医連の他の拠点法人にも内在する弱点であり、大阪民医連の県連機能の反映の一 つでもあります。大阪民医連理事会は真剣な自己点検と同時に、近畿地方協議会の援助も受け、実践的な解決に全力をあげています。全日本民医連は、同仁会対 策本部を再建3カ年計画終了まで継続します。

●福岡・健和会のとりくみ

 福岡・健和会の1985年の事実上の倒産以来、16年が経過しています。92年から民医連的再建にとりくみ、94年からきびしい情勢下でも毎年4~10億の返済をし続けてきました。2000年以降は毎年10億円を超える返済計画となっています。

 しかし、激変の医療情勢のもと、返済に必要な利益を長期に維持し続けていくことや、健和会の病院群も大規模なリニューアルなしには、日常診療を維持することさえ困難な状況に直面しようとしています。倒産状態を実感している職員も少数となってきています。

 医師体制のきびしさの中で民医連的再建をめざして、九州・沖縄連絡会議を中心に全国的な医師支援を継続し てきました。健和会再建のためには、金融機関との交渉も含めた再建計画の根本的見直しと、何よりも再建を主体的に担う役職員が団結しうる21世紀初頭の再 建計画の展望を示すことが求められました。全日本民医連は健和会対策委員会のもとに福岡・健和会再建資金計画チームを発足させ、事務幹部の派遣を行い、九 州・沖縄連絡会議と福岡・佐賀民医連とともに、21世紀初頭に向けた再建のための基本骨格を策定し、そのとりくみを開始しました。

(2)地方協議会の活動

 全日本民医連と県連や法人・院所の距離を近づけ、機敏に対応できる機構としてはじまった地方協議会の活動は、従来のブロック活動とは質的に異なり、新しい団結の水準をつくり出してきました。

 これまでの単なる交流から悩みを共有し、問題の根本に迫る論議がはじまり、県連や法人・院所の困難な問題 にたいして組織的な援助を行ってきています。具体的には法人の経営改善、保険薬局の運営、院所建設計画、管理運営や県連機能など問題のあらわれ方はさまざ まですが、どれもが医療・経営・運動や医師体制・管理運営・県連機能が相互にからみあったものであり、民医連運動の総合的な視野からの援助と対応が必要に なってきています。

 医師養成と確保については、毎月の地協担当理事会議で協議され、今回の医学対大運動の前進に大きな力を発 揮しました。地協として医学対の半専従体制をとり、その財源を各県連でもちあうところもあり、九州・沖縄のように診療所研修や臨床研修指定病院を念頭に入 れた地協としての医師養成方針が検討されています。事務幹部養成講座や病院事務長研修会がほとんどの地協でとりくまれ、看護部門や薬剤部門など各職種や歯 科部門でも地協としての交流や検討がはじまっています。

 県連事務局長・県連会長・評議員と担当理事からなる地協総会も定期的に開催され、論議内容も深まってきて います。県連事務局長会議が、地協の日常的な執行機能の役割をはたしてきています。組織的には、九州・沖縄のように連絡会議としての歴史があるところでは 規約などが定められていますが、現段階では地協総会を継続的に開催し、連帯と団結が強まる方向で地協活動の強化をはかります。この活動を保障するために は、事務局体制の強化と地協活動費の増額が必要であり、今期具体化することとします。

(3)県連機能の強化と全日本民医連の活動について

●県連機能強化について

 大阪・同仁会の前倒産状態や福岡・健和会の事実上の倒産をはじめ、法人のさまざまな困難に共通している問 題は、県連機能の強化が法人・院所の発展から相対的に遅れていることです。法人の県連への自覚的結集が不十分なために、民医連方針の全面実践に不十分さを 残し、諸問題を顕在化させず、解決を客観的に先延ばししたことによるものです。県連機能の強化は依然として民医連運動の重要な課題であり、いささかも軽視 することはできません。また、全日本民医連理事会の県連にたいする指導・援助のあり方をこれまで以上に強化していくため、理事会体制の強化や地方協議会の 発展、専務会議や理事長会議など適切に開催していくことが求められています。

 この間の民医連運動の発展は、医薬分業の前進や介護保険分野への対応、まちづくり運動の発展などの中で、 新たな法人を創出していることに特徴があります。一つの法人だけで民医連運動が完結せず、県連の中でこそ民医連運動を総合的に把握することが可能となりま す。さらに、民医連運動は医療経営構造の転換や介護保険対応をはじめとする福祉分野でのとりくみ、診療所建設や老人保健施設、特別養護老人ホームなどを県 連的視点に立ち、各法人が共同してとりくむべき課題が山積しています。これからのリニューアル計画は、法人単独の事業計画としてとりくむには困難さが予想 されます。臨床研修病院の指定取得のためには、一県連だけでは実現への展望をもちきれません。

 21世紀初頭の民医連運動前進のためには、法人の自覚的な県連結集と県連機能強化、法人間の連携強化が重要です。また、いくつかの県連では長期計画の見直し時期をむかえています。情勢を的確にとらえ、今日の時代にふさわしい総合的な中長期計画をつくりあげましょう。

●学術・運動交流集会

 第4回学術・運動交流集会は長野市で開催され、過去最高の役職員1294名が参加し、21世紀はどういう 時代か、民医連とは何か、医療人としての生きがいと喜びなどを考え、語り合う場として成功しました。とりわけ共同組織、医系学生の参加と発言、福祉系職員 など新しい職種の参加などにより、民医連運動の発展と広がりを示した集会になりました。2001年に第5回を開催します。

●機関紙誌

 今期の機関紙誌活動は情勢に機敏に対応するとともに、民医連運動上の重点課題を重視して紙面に取り上げ、運動の前進に寄与してきました。

 「民医連新聞」は、読みやすい紙面づくりをめざして、99年6月から紙面改善を行うとともに、通信員活動 の活発化のために「腕章」を作成しました。「民医連医療」は、民医連における学術活動を誌面に反映させるとともに、理論的な問題を重視してきました。「民 医連資料」は、98年3月に300号の区切りをむかえ、1号からの「索引集」を発行しました。ひきつづき読みやすい紙面づくり、運動の前進に役立つ紙面づ くりをめざして、編集体制の強化の検討などを含めてすすめていきます。

 民医連運動の分野が広がる中で、民医連の機関紙のはたすべき役割を明らかにし、活動の交流を行うための機関紙担当者交流会を34期中に開催します。

 全日本民医連のホームページを開設し、インターネットによる情報交換が開始されています。「民医連資料」のあり方や調査資料等の発表などについて、情報ネットワークの有効活用を検討します。

●職員の健康管理

 共済組合の傷病休業補償制度をもつ県段階の統計でも、最近とくに傷病休業にかかわる給付が増えています。中でもメンタルヘルスに関する傷病休業が増えており、対策に苦慮している県も見られます。

 働くものの医療を担う民医連職員の健康管理は重要です。民医連共済組合では、理事会に健康問題プロジェク トを発足させる準備を行っています。職員みずからの自覚的な健康管理とともに、県連や法人・院所は職場における労働安全衛生委員会の確立とその活動を強 め、対策と対応を強化しましょう。

●共済組合

 共済組合は民医連年金の給付水準と掛け金の負担問題、休業補償、医療費助成などについて共済支部・法人代 表者合同会議を地協単位に開催し、今後の課題を交流しました。今期中には民医連年金の中期的な方向を確定し、職員の健康管理のとりくみや急激に増大する退 職金への対応など、経営課題と結合した共済活動が求められています。全日本民医連、県連理事会が共済組合と組織的に協力したとりくみをすすめます。


おわりに

 私たちはいま時代の大きな転換期、変革期にいます。新しい世紀こそ、一人一人の「いのちと暮らし」がほんとうに大切にされる社会、国民の幸せにつながる医療・社会保障をつくり上げねばなりません。

 民医連運動がより地域に開かれたものとして輝き、人びとの連帯と「人権と非営利」をめざす共同の輪が広がった時、それは真に平和と福祉が花開くまちづくり、国づくりの実現に大きく貢献するでしょう。

 20世紀から21世紀につながるこの2年間、広範な人たちと連帯し、″新しい時代のとびら″を開こうではありませんか。


規約改正

 「全日本民医連規約」第九条第四項を以下のように改正します。

【現行】
第九条
 理事に欠員が生じたときは、評議員会は必要に応じて補充することができる。
ただし、この事項については次期総会の承認を必要とする。
【改正】
第九条
 ? 副会長や事務局次長に欠員が生じたときは、評議員会は必要に応じて理事の中から補充することができる。理事に欠員が生じたときは、評議員会は必要に応じて補充することができる。
 ただし、この事項については次期総会の承認を必要とする。
【説明】
 会長および事務局長については、規約上で「事故あるときの代行」を規定している。理事についても、「欠員が生じたときは、評議員会で補充できる」と規定している。副会長や事務局次長に欠員が生じたとき、補充をすることができるように改正をしたい。

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