民医連新聞

2014年9月1日

学ぼう!総会方針 (8)職員育成 人間的な発達ができる職場へ 日常の「なぜ?」を大事に

 全日本民医連総会方針は、この二年間で飛躍する課題のひとつとして、「人間的発達のできる組織にふさわしい担い手を育てること」を挙げています。柳沢深志・職員育成部部長(全日本民医連副会長)に聞きました。実践も二例紹介します。(丸山聡子記者)

柳沢深志・職員育成部部長に聞く

 総会方針は民医連について、「憲法の実現をめざす運動体」「非営利・協同の事業体」「人間的な発達ができる組織」と、初めて特徴づけました。その組織における職員育成は一言でいうと「民医連綱領と日本国憲法の理念を実現するために奮闘する人づくり」です。

■葛藤をうやむやにしない

 課題は二つです。一つは職場の管理・運営を民主的にすすめること。これは大前提です。二つめに「人間的な発達」を保障する職場づくりにどうとりくむか、 です。「人間的な発達ができる組織」とはどんな組織か。一人ひとりの職員の成長と職場の業務と実践が、どう相乗的にすすめられるか、職場ごとで議論しま しょう。
 大事なのは「職場教育」です。医療や介護の現場で日々起こる課題にどう向き合うか。一人ひとりが疑問や矛盾を感じたり悩んでいる時、その葛藤をうやむや にせず、職場の仲間で考え民医連綱領の実践に結びつけていくことです。
 たとえば、『看護10ストーリーズ』でも紹介された、私が勤務する石川・城北病院の事例です。長期入院中のALS患者さんの病状が進行しました。患者さ んをトイレに誘導するには、グラグラする首を一人がささえ二人がかりで介助をしなければなりません。夜間は五〇人の患者さんを二人の看護師でみなければな らず、膀胱留置カテーテルの導入が検討されました。この方針を話し合った時、若い看護師が「患者さんは自分でトイレに行きたいと言っているし、私はそれを ささえたい」と涙ながらに訴えたのです。同僚たちは初めて、訴えた看護師の思いを知りました。
 師長の「最も困難な人に光を当てれば、ほかの人にも光が当たる」との言葉をきっかけに、集団で知恵を絞って実現方法を探り、「やってみよう」となりまし た。壁にぶつかった時は職場の仲間たちと議論し、解決する中で、自分たちがめざす看護も見えてきました。
 ベテラン職員も新入職員も等しく「疑問や悩みを放置せず率直に出し合う」ことは、忙しい職場で簡単にはできません。「なぜ?」を大事にして、繰り返し議論する“職場の文化”を作りましょう。
 なお、中間管理者は民医連綱領を実現する職場づくりの“要”です。そして民医連を語り、実践できる中間管理者を育てることは、管理部の重要な役割です。

■“自己責任論”を乗り越えて

 この間の「生活保護バッシング」は、民医連の職場にも少なからず影響しています。いくつかの事業所がとりくんだ生活保護の職員アンケートでも、「(生活保護になったのは)その人が怠けたから」などの回答が多くありました。
 “自己責任論”はここ二〇年ほど、政府・財界がすすめる弱肉強食の経済を徹底させる哲学として登場、浸透してきました。私たちの身近なところでも広がっています。
 たとえば「成人病」が「生活習慣病」と呼称を変えられたことで、疾病が個人の生活習慣に責任があるようにイメージされやすくなっています。しかし、民医 連が行った「暮らし・仕事と糖尿病についての研究」では、糖尿病や肥満の背景に幼少時からの低所得状態や教育、不安定な働き方があることが明らかになって きています。
 疾病を患者個人の問題にとどめ、政治や社会などの背景から目をそらしていては、予防も治療もできません。背景にどんな暮らしや働き方があるのか、社会保障制度は機能しているのか、目を向けてみましょう。

■傍観者ではなく

 社会保障は削られ、必要な医療や介護を受けられなくなっています。戦後守り続けてきた憲法解釈が変えられ、「戦争ができる国」へ突きすすんでいます。民医連が支援・連帯している沖縄の辺野古で新基地建設が強行され、オスプレイは日本中を飛び回っています。
こうした情勢に、憲法の理念の実現をめざす民医連職員として、どう立ち向かうのか。総会方針をもとに、職場全体で「傍観者であってはいけない」ことを学び、議論し行動してほしいと思います。

 

育ちあいの「職場づくり」に必要な8つの視点

  • いつも患者・利用者、人権を守ることが中心にすわっている。事例からの学びを大切にしている職場である

  • 職場の使命や目標が明確になっている。職場の誰に聞いても、目標や課題について共通の認識をもっている

  • 決めたことをやりぬくことが重視され、やったことがきちんと評価される

  • 地域、職場、現場の状況や出来事がリアルかつタイムリーに共有され話題になっている

  • 現状変革の志がある。一人ひとりの職員に「もっと~したい」「~を良くしたい」という思いがある

  • 思いやりと率直な相互批判にもとづく信頼と規律がある

  • 個人の責任と集団の責任が明確になっている

  • 学習が重視されている。絶えず学ぶ雰囲気があり、一人ひとりの成長にむけて援助し、励ましあっている

 

健康職場の5つの視点

  • 個人にとって適度な質的量的負荷となっているか

  • 職員の安全・安心が保たれているかどうか

  • 技術的に研修の保障がされているか

  • 使命が明確で評価されているか

  • ライン内・職場間・職種間で少数意見が保障され、コミュニケーションが向上しているか

 

生活保護患者の実態調査を職員育成にも位置づける

長野県民医連

 長野県民医連では、昨年末から今年三月までとりくんだ生活保護受給者の実態調査を職員育成 にも位置づけました。生活保護基準削減の影響を把握し、実態を社会に訴えて制度改善につなげる狙いに加え、「受給者の実態を知り、事実をつかみ、考え、 “自己責任論”を乗り越えて行動する職員を育成する」ことも目的に掲げました。
とりくみは運動部と職員育成部のプロジェクトで推進。調査に先立ち、県連内の全法人で学習会を実施。調査に関わった職員からは、患者の言葉に耳を澄ませ 「人間らしい生活」とは? と考え、自分にできることを探る姿が浮かび上がってきます。
職員の感想です。「部屋は寒く、食事も一日一~二食。何とか生活できているが、これ以上、生活保護基準を引き下げてはだめ」、「受給の負い目から、買い物 も人目を気にするなど大変さが分かりました。無料塾や受給者同士のたまり場が必要」、「遠い存在だった生活保護の実態が分かった。不正受給をやり玉に世論 を煽り、保護費を下げる政府に腹が立つ」、「食費もギリギリで『食べるだけ』という感じ。栄養を気にすることもできず、好きなこともできず、これが憲法で 保障する『人間らしい生活』だろうか」―。
調査後も、まとめの冊子を全職員で学習する事業所や、生活保護窓口の水際作戦に改善を要請した事業所なども生まれています。

気になる患者訪問 年間622軒医療活動の力に

北海道・ねむろ医院

 北海道・道東勤医協ねむろ医院では、看護師を中心に「気になる患者」訪問を日常的に行っています。昨年は年間で六二二軒を訪問。自分たちが実践する民医連医療にやりがいを感じています。
 毎日、診療後に医師と看護師全員でカンファレンスを実施。気になったこと、患者の様子を共有します。午前の診療後などに看護師が患者宅を訪問します。
 患者を取り巻くキーワードは「高齢化」「貧困」「認知症」。高齢化する地域の中で所得が下がり、貧困が進行しています。訪問をきっかけに一九二件の「認 知症チェック」を行い、二二件の介護保険認定申請につなげました。四件の自殺未遂も予防。自殺未遂の背景には経済苦と病苦があります。
 事務長の高橋香織さんは、「地域に踏み出し、地域の人たちとともに歩む。民医連ができた当初からの伝統を今も続けています」と話します。二~三月の豪雪 の際は約二〇〇軒の患者宅に安否確認の電話をし、うち二〇軒に職員がスコップを持って駆けつけ雪かきをしました。
 こうした積み重ねで患者と職員の間に「何でも言い合える関係」ができ、医療をすすめるうえで大きな力を発揮しています。高橋さんは「訪問で分かった実態 を市に届け、国保証の留め置きや資格証明書の発行をやめさせました。訪問活動を通じて患者を診る目、社会を見る目、行動する力が研ぎ澄まされています」と 話します。

(民医連新聞 第1579号 2014年9月1日)

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