介護・福祉

2014年10月20日

フォーカス 私たちの実践 職員の意欲引き出す 島根・斐川生協病院 「患者さんの願い」中心に据え療養病棟で職場目標を達成

 医療療養型病棟は重症の患者さんが多く、目標を持って日常の看護・介護にとりくむのが難しい場合も多々あります。島根・斐川(ひ かわ)生協病院では、ポートフォリオを使った目標管理で職場の目標を明確化。患者の願いを叶えることに職員が執着し、不十分だったカンファレンスも活発に 開かれるようになりました。看護師長の三代由美子さんからの報告です。

 斐川生協病院の医療療養型病棟六〇床のほとんどは寝たきりの患者です。経管栄養が約四〇 人、気管切開した人が約一〇人と重症で、発語や意思疎通の難しい患者も少なくありません。急性期の治療を終え、大半が施設の空きを待っています。長期入院 も多く、忙しい日常の中で職員のモチベーションの維持が課題でした。

患者さんの笑顔が見たい

 二〇〇八年から、病院全体でポートフォリオを使用した職員の目標管理を開始。ポートフォリオは、職場や個人の目標を明確にし、それを実践する過程や評価などを一元化し振り返ることができる、職場の目標管理の手法です。
 以前から個人目標を持つようにしてはいましたが、日常の医療活動の中で意識されているとは言えませんでした。ポートフォリオ導入を機に、個人目標を職場 目標につなげ、職員全体での共有をめざしました。職場目標も複雑な内容ではなく、常に意識できるような明瞭なものに設定しました。
 職場で議論したところ、「患者さんの笑顔が見たい!」との意見か多く出され、「何か一つ患者さんの願いを叶えよう!」を目標にしました。職員がいつでも目にしやすいように張り出しました。
 はじめに、患者やその家族の願いを聞き取ることを目的に、全ての患者についてカンファレンスを開くことを、リーダー会議で確認しました。
 その結果、これまで定着していなかった全患者のカンファレンスを実施。長期入院の患者についても、どんな願いを持っているのか、どんな人生を歩んできた のかなど、職員が改めて知ることになりました。また、この聞き取りを通じて、家族といろいろ話せ、信頼関係も深まりました。

人生の一場面に寄り添う

 寝たきりの男性の妻は、ほぼ毎日面会に来ていました。「夫はマラソンが大好きなの」と聞 き、病院のすぐ前の道を通る出雲駅伝を、患者と家族、職員で応援することに。翌年も同じように病院前で応援。その後、患者は亡くなりましたが、妻は最後に 「何度も駅伝を見に行きましたよね」と懐かしそうに話してくれました。
 女性の患者は、三年ぶりに帰宅し、一人暮らしをしていた夫と自宅で過ごすことができました。数時間の滞在でしたが、近所の人も訪ねてきてくれたり、「ご 先祖さんの仏壇に手を合わせることができた」と、とても嬉しそうに病院に戻ってきました。気管切開した患者は娘さんの結婚式への出席を望み、職員の同行で 実現しました。
 外出は遠方になることもありました。複数の職員が同行すると職場は人員配置を厚くするなどして、フォローしました。回を重ねるごとに患者や家族が喜ぶ姿 を目の当たりにし、「患者さんの笑顔はスタッフみんなの喜びになる」という実感が職場に広がっていきました。
 以前は「上司に言われたことをやる」というスタンスの職員もいましたが、このとりくみを通じて、「患者さんの願いを叶えるために、自分たちで考えて行動しよう」という空気が広がりました。

カンファ開催100%に

 職場目標の「患者さんの願いを叶える」を中心に、カンファレンスの開催も定着。患者の家族、看護師、介護職、相談員、薬剤師、栄養科、リハ職員などで開催するカンファレンスでは、積極的に発言する人が増えました。カンファ開催一〇〇%も達成しました。
 このとりくみを始めるまでは「自分や職場の目標って何だっけ?」ということも少なくありませんでしたが、今は全員が目標を意識して日常業務に当たってい ます。リーダーの間でも、「目標が分かりやすかった」「願いを叶えられてよかった」と大好評です。
 今後は、外出以外にも、患者の願いを実現できるように、工夫していきたいです。

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