医療・看護

2014年10月20日

相談室日誌 連載380 国民健康保険料の差し押さえの末に… 井元麻里子(大分)

 国保料の滞納者の預貯金や給料などを自治体が差し押さえ、強制的に回収する例が増えています。大分市でも、二〇一一年一六九件、一二年五一五件、一三年七八二件と年々増加中です。
 糖尿病と高血圧のAさん(五〇代男性、独身)は、当院を定期受診していましたが、ある月を境に中断。気になった看護師が電話すると「国保から給料を差し押さえられ、病院にかかるお金がない…」と話しました。
 小学校卒業後、長年大工として働いていたAさん。〇六年に糖尿病で入院するまで無保険でした。〇八年、仕事が来なくなり失職、非正規で工務店に雇われま した。手取りは月一五万円ですが流動的。社会保険がないため国保のまま。国保料は月額二万円でしたが、市県民税や車のローン、消費者金融の返済もあり、月 一万五〇〇〇円で分納していました。しかし滞納は膨らみ、三〇万円になった一三年一〇月、給料から七万円を差し押さえられたのです。食べるのもやっと、医 療費など出せなくなりました。
 生活と健康を守る会と一緒に国保課に行き、こんな額の差し押さえは不当だと訴えましたが、市側は「正当な範囲だ」と主張します。本人の生活実態を話しても変わりませんでした。
 「払いたくても保険料が高すぎて払えない…」。国保課に行くと、分割相談に来た人が、事情を聞かず支払いを求める窓口と言い合っている姿をよく目にします。払えるのに払わない悪質な滞納者はわずかでしょう。
 自治体や社会は、生活困窮に陥った人たちの生活実態を理解すべきです。これを考えず差し押さえを強行すれば、加入者の生活を破壊するばかりか、生存権すら危機に陥れます。
 Aさんの今年の国保料は二万三〇〇〇円。いまは無料低額診療制度で治療中ですが「こんな仕打ちをされ、今年また高い国保料を払うのはいや、自費で病院に かかった方がまし!」と憤ります。一方で無低診を使うことには後ろめたさも感じておられました。
 自己責任論が蔓延する中、「権利としての社会保障制度」を、患者さんとともにどう実現するか、その難しさを改めて考えさせられました。

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