いつでも元気

2014年10月1日

破壊されたガザ/国際人道法違反の大虐殺/ジャーナリスト・志葉 玲

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もっとも激しい攻撃を受けたガザ市東部のシュジャイヤ地区

 ブウゥーン…。上空から無人攻撃機のエンジン音が鳴り響き、ドオォン!という砲撃音が周囲の大気を震わせる。どちらの音もだんだん近くへと迫ってくる。
 今年七月末~八月上旬、私はイスラエル軍に侵攻されたパレスチナ自治区ガザに赴いた。日本のメディアは「暴力の連鎖」などの陳腐なフレーズを懲りもせず使っていたが、実際には一方的な虐殺だ。
 八月一九日現在、イスラエルの民間人犠牲者は三人、軍人の犠牲者は六四人。対するガザ側の犠牲者は二〇〇〇人以上、しかも大部分が民間人で、四分の一以上が未成年だ。

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ガザ中部のアルアクサ病院に運ばれてきた女の子と父親。同病院にはけが人や遺体が次々に運びこまれてきたが、その半分以上が子どもだった

次々と運ばれてくる犠牲者

 ガザ中部のアルアクサ病院では、次々と空爆の犠牲者が運びこまれてきた。すでに息絶えた者も少なくない。亡くなったイブラヒム・カルルーブくんはまだ四歳だった。彼の母親も爆撃で足がちぎれ、父親も重傷を負った。
 さらに遺体が運びこまれてくる。ガザ中部ブレイズ難民キャンプの民家が爆撃されたのだ。ガザの人々は大家族で同じ家に住んでいることが多いが、ジャベル 一家の自宅はイスラエル軍の戦闘機に爆撃されて倒壊、二二人が死亡した。
 そのなかには、へその緒のついた赤ちゃんも含まれる。出産間近だったディアナ・アブ・ジャベルさんが爆撃のショックで産み落としたのだろう。赤ちゃんの 頭部は割れ、脳みそがこぼれ落ちていた。
 ヤミン・アブ・ジャベルくんは全身に大火傷を負いながらも生き延びた。だが、両親も兄弟も皆殺しにされたのだ。まだ四歳の子どもが直面するには、あまりにむごい現実だろう。

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ジャベルー家は22人がイスラエル軍の爆撃で殺された。一家の生き残り、ヤミンくん

「他の国に生まれていたら…」

 ガザ南部の被害も大きかった。南部の街ラファで自宅を砲撃されたアル・ドゥーリ家では一家一七人のうち、マフムードくん(10)、ハニンちゃん(4)ら 三人が負傷、彼らの両親や祖父母など一二人が死亡、二人が行方不明となった。マフムードくんらの親族は「ラファは地獄そのものだ。雨あられのように砲弾が 降り注ぎ、けが人や死人が続出している」と訴えた。
 あからさまに、子どもをねらった攻撃もあった。
 「どうして、僕たちがこんな目に遭うんだ。僕が他の国に生まれていたら、こんなことにはならなかったのに…」
 まだ火傷が生々しい少年は、病院のベッドの上でうめく。彼は、ガザ市に隣接するビーチ難民キャンプに住むムハンマド・ライラくん(10)。イスラム教の 断食月の終わり、日本で言えばお正月にあたる七月二八日に一時停戦中だったこともあり、他の子どもたちとおもちゃやお菓子を買いに出ていた。その彼らをイ スラエル軍の無人攻撃機がミサイルで襲撃し、七人が死亡した。

国連管理の学校まで標的に

 イスラエルは、「ハマス(パレスチナ解放を求める政党・武装勢力)が子どもを『人間の盾』に使っている」と主張する。はたしてそうか。人口密集地へ爆弾を投下すればどうなるのか、誰にでもわかりきったことだ。
 ガザは東京二三区の半分程の面積しかなく、平時からイスラエルに封鎖されている。ガザ全域で空爆や砲撃がおこなわれている以上、どこにも逃げ場はない。
 さらにイスラエルは、人々が避難していた国連管理の学校を三度も攻撃した。ガザ北部のベイトハヌーン、ジャバリア難民キャンプ、南部のラファ。いずれの 学校も、武器の持ち込みが禁止され、避難していたのは民間人ばかりだ。いずれの学校でも多数の死傷者が出た。
 マナール・アルシンバリさん(14)も、ベイトハヌーンの国連学校に避難していたところを爆撃され、両足と脾臓を失った。彼女の母親と二人の妹(八歳と一二歳)など親族五人は死亡したという。

がれきの山と化した家々

 イスラエルは今回の侵攻の目的を「ハマスが掘った地下トンネルの破壊」だと主張していたが、私にはガザのすべてを破壊しようとしているように見えた。
 とりわけ、ガザ市東部のシュジャイヤ地区の破壊のされ方は凄まじかった。何百もの家々ががれきの山と化していた。辛うじて原型をとどめている家々も、銃 弾や砲弾による穴だらけだ。一時停戦の際、住民たちが自宅の様子を見に来ていたが、変わり果てた街の姿に呆然としている人々も少なくなかった。
 「まるで津波のあとのようだ」「街並みが壊されすぎていて、どこが自分の家かすらわからない」
 私の知人も家を失い、「これからどうしたらいいのか」とこぼしていた。シュジャイヤ地区の復興は大変な困難をともなうだろう。

ガザ唯一の発電所も爆撃

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攻撃されたガザ唯一の発電所。もともと深刻だった電力不足がさらに悪化した

 イスラエルは、ガザ唯一の発電所も爆撃した。イスラエルからガザへの送電も止められ、頼みの綱 はエジプトからの送電のみ。私の滞在中、ガザでは一日一時間程度しか電力が供給されない状態に陥った。病院などは自前の発電機を持っていたが、燃料不足で 十分な発電量を確保できず、医療環境にも悪影響を及ぼしつつあると医師たちは嘆いていた。
 アイスクリーム工場や家畜飼料工場など、ハマスの軍事行動とは無関係な工場も次々に破壊された。もともとガザは封鎖の影響もあって経済が低迷しており、 七~八割もの人々が無職で、生活は国連等の援助に依存している。少ない雇用の受け皿を破壊されたことで、住民の生活がさらに困窮するのは間違いない。

責任は日本の有権者にも

 ガザを取材していて、あらためて違和感を覚えたのは日本の報道のあり方だ。「イスラエルも悪いが、ハマスも悪い」という一見「中立的」な報道のあり方自 体、暴力だ。イスラエルとガザでは、殺されている人々の数が圧倒的に違う。
 イスラエルはメディア関係者や救急車さえも爆撃した。同じことをたとえば北朝鮮やイラン等がやったらどうなるか。しかし米国との関係が深いイスラエルは 「テロ国家」との烙印を免れる。今回、イスラエルがおこなったような国際人道法違反の戦争犯罪──非戦闘員の大量虐殺は、二〇〇八年末から〇九年始めにか けてのガザ侵攻、二〇一二年一一月のガザ空爆でもおこなわれたことだ。
 ガザで無辜の人々が殺され続けているのは、イスラエルばかりが悪いわけではない。その暴挙の責任を追及しない国際社会こそ罪深いのだ。
 今年五月、イスラエルのネタニヤフ首相と安倍首相は、経済・防衛分野で互いに協力しようと約束し、握手を交わした。問われているのは、私たち日本の有権者でもあるのだ。

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