介護・福祉

2014年11月3日

密着 認知症だって旅行ができる! 岩手・盛岡医療生協

 岩手・盛岡医療生協が運営する仁王ケアセンターすみれ(デイサービス・グループホーム)と「さくらの家」(グループホーム)が 「家族会」日帰り旅行を企画しました。利用者は全員が認知症の高齢者ですが、新幹線や路線バスなど公共交通機関を使った旅に挑戦。そこには、認知症高齢者 自身のがんばりと、スタッフの奮闘、そして暖かい地域の協力がありました。密着取材しました。(田口大喜記者)

 認知症の人は自宅や施設にこもり、社会と関わることが減っていく傾向にあります。それは家 族も同様です。そこですみれでは毎年、利用者の孤立感の解消や、介護する家族の身体的・精神的負担の軽減を目的に「家族会」と名づけたイベントにとりくん できました。当初は食事会や音楽会など手軽にできるものでしたが、回を重ねるにつれ内容を工夫するように。
 昨年行ったバスでの日帰り温泉旅行は好評で、今年は青森の八戸市まで「おいしいものを食べに行こう!」と企画。盛岡からは約一〇〇キロ。バスでは片道約 三時間の移動に。高齢者には負担が大きく、楽しむどころではありません。そこで、新幹線を検討。移動は一時間程度、トイレもあります。問題は使ったことの ない公共交通機関である点でした。「スタッフにも利用者にも挑戦です」とすみれケアプランセンターの尾形京子センター長は語ります。

■公共交通機関を使って

 九月二五日の旅行当日、二八人の利用者が参加しました。車いすや杖歩行、介助歩行です。スタッフは共同組織のボランティアを含む二八人のマンツーマン体制。加えて家族一六人の合計七二人の大集団になりました。
 いったん施設に集合しJR盛岡駅まではマイクロバスで移動。「早く行こう!」利用者さんたちの期待も最高潮。ホームへはエレベーターを使いましたが、一回の乗降人数が少ないため何往復も。
 新幹線が到着。移乗をスムーズにするため、ホームと新幹線搭乗口に渡すスロープを準備して、駅員が五人待機していました。五分足らずで全員乗りこみ、無 事発車。車内でも「揺れるからしっかり掴まって!」などの声かけがあり、新幹線自体が初めての人もいましたが落ちついて車窓を眺める姿がありました。
 約三〇分で八戸駅に到着。目的地の八食センターまでは路線バス二台を利用。運転手さんが設置したスロープを伝って乗りこみます。バスは狭く、時間はかか りましたが、「全員移乗完了」の点呼が出た時は、一般の乗客たちも笑顔で拍手してくれました。

■「おいしい」と食の細い人も

 目的地・八食センターに到着。いよいよ昼食です。イカ、エビ、ホタテ、白身魚などの新鮮な 魚介類を網で焼くお店です。「おいしい!」と利用者たち。ここでもスタッフは息をつく間もなく食事介助と焼きを担当。「普段はご飯を残しがちな人が、比べ ものにならないくらい食べています。焼くのが追いつきません」と、忙しくても嬉しそうなスタッフたち。「東北で暮らしていた人がほとんど。魚介を焼いて食 べた記憶は残っていると思います」と旅行会社の添乗員も利用者の食欲に満足げ。
 家族も良い時間を過ごせたようです。「今は無理ですが、昔、夫と二人で歩いたことを思い出しました」と川原喜美子さん。「普段は夫の介護で忙しいです が、今日は職員さんにお任せして楽しめました。大勢で食べるご飯もおいしい。また参加したい」と初参加の鳥澤マサエさん。

■スタッフにとっても挑戦

 旅行の準備は半年かけました。事業所の祭りに出店して財政活動し、費用の足しにしました。さらにスタッフは八戸までのルートをシミュレーション。歩行距離や各施設のバリアフリーの状態、乗車口の確認なども行っています。
 そのかいあって無事に帰れただけでない発見もありました。「利用者さんは公共の場をちゃんと認識して行動できました。その力に驚き、新しい可能性が発見 できた思い。若手スタッフもがんばってくれて嬉しいです。次回は一泊旅行に挑戦します」と次なる挑戦を語る尾形さんでした。

(民医連新聞 第1583号 2014年11月3日)

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