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2014年11月17日

リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(15) 文・杉山貴士 貧困とセクシュアリティ〈2〉

 アメリカの支援団体を拠点に、フィールドワークをしたことがあります。対象は、主にヒスパニックやアフロアメリカン。家出をしてきた性的マイノリ ティの子どもたちに、食事や居場所を提供するボストンの支援団体です。全米各地から、ゲイを理由に親から家を追い出されてきた子どもたちがセンターに来て いました。高校中退など学歴が低く、職業的スキルもない彼らが、その日の食事と寝床を探すために手を染めるのが、麻薬の売人とセックスワークでした。
 私は日本でも同じ状況があると感じています。親に頼れず、行政機関に頼ることなどなおさら難しい。高校を中退し水商売や「ウリ」で生計を立てていても、 25歳を超え若くなくなれば、それもできなくなる。学歴や職歴を問わずに寮がある仕事を探すことになれば、派遣や飯場の作業員などになります。社会保険な どないのがほとんどで、住むところがあれば御の字。ゲイであるがゆえに将来が見えず、「思うに任せて突っ走ってしまった結果」という自己責任論が、ここに は蔓延しています。
 現に、この状況に陥ったゲイは自ら「自己責任だ」と主張することが多いのです。湯浅誠さんは『反貧困』(岩波新書)の中で、「五重の排除」によって「た めがない」状況が貧困へ追いやることを説明しました。また、鈴木大介さんは『最貧困女子』(幻冬舎新書)で「三つの排除」の言葉で説明しています。共通す るのは、家族、地域、社会制度からの排除です。
 差別問題として、よく部落問題があげられますが、家族や同じ地域からの排除はそこにはあまりありません。ゲイの場合、親がゲイであることは稀なため、一 番味方になってくれるはずの親から排除される構造があります。その結果、家族、地域からの排除にもつながります。
 家出せざるを得ない家庭や地域、学校の環境、ゆえに仕事も選べず、職と住む場所がセットでないと生活できない。日々緊張が続き、ドラッグやリスキーな セックスにのめり込んで自分を保つしかない。これは彼らが自分で選んできた結果なのでしょうか。彼らを排除する状況が構造的にあり、社会が彼らをこうした 行動に駆り立てたはずです。貧困に向き合う私たちはどう対処すればいいのでしょうか…。


すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか

(民医連新聞 第1584号 2014年11月17日)

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