医療・看護

2014年11月17日

泉南アスベスト国賠訴訟 最高裁での勝利と国の謝罪 泉南アスベスト国賠訴訟を勝たせる会/事務局長・伊藤泰司

 戦前からアスベスト(石綿)工場が密集し、日本の産業をささえてきた大阪・泉南地域。工場労働者のみならず地域丸ごと汚染されま した。必要な措置をとらなかった国の責任を明らかにしたいと二〇〇六年、被害者らは「泉南アスベスト国家賠償請求訴訟」を提訴。一〇月九日、最高裁は「国 の責任を認める」原告勝訴の判決を出しました。大阪・耳原総合病院の元職員で、泉南アスベスト国賠訴訟を勝たせる会・事務局長の伊藤泰司さんの寄稿です。

■経済より生命・健康

 一〇月九日、提訴から八年五カ月、「アスベスト被害について国の責任がある」と認める最高裁判決が出されました。判決は国民の「健康に生きる権利」を守り発展させる上で大きな意義をもつものです。
 第一に「国民の生命・健康を守ることを産業発展よりも優先しなければならない」と明確に認めました。
 「産業発展のために労働者の健康・生命が犠牲になっても仕方がない」とした第一陣高裁判決(二〇一一年八月)を明確に否定。国は生命・健康被害を防止す るために「技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したもの」になるよう「適時にかつ適切に規制権限行使をすべき」としました。
 第二に、「石綿被害の原点」である泉南で国の責任を認めたことは全国のアスベスト被害の救済の礎になります。判決は「石綿被害の知見確立時期から対策を 義務付けるべきだった」と判断。違法期間は一九五八年五月から七一年四月まで。
 第三に国賠訴訟の保護対象が広がりました。出入り業者(原料運送会社の従業員)も国賠法上の保護対象となると認めました。
 第四に、国の責任は全損害の二分の一という重い責任を認めました(筑豊じん肺訴訟では三分の一)。基準慰謝料は筑豊じん肺の基準から一〇〇万円増額。 「喫煙歴あり」「経営者の期間あり」などの理由で慰謝料の減額を認めなかった点も、特筆に値します。

■最高裁判決の問題点

 問題点もあります。一つ目に、一陣訴訟の近隣ばく露者、家族ばく露者などを審理の対象としなかった点です。工場の換気扇から排出される石綿を吸い、アスベストで真っ白になった田畑で農作業をしていた人や、工場の敷地内で育った人の被害を、審理から外したのです。
 二つ目に、国の違法行為(抑制濃度の強化義務違反、防じんマスクを使用させることと安全教育実施義務違反)については、七二年以降は認めませんでした。 七二年以降は石綿の大量輸入、消費の時期です。泉南地域の工場はフル稼働し、石綿の危険性(特に発がん性)の認識はなく、防じんマスクの着用もすすんでい ませんでした。しかし判決は、工場内では局所排気装置設置が重要でマスク着用は補助的なものだったため、著しい違法とは認められない、としました。
 なお今判決は、防じんマスクが主要な防護策である建設アスベスト訴訟に悪影響は与えないでしょう。

■和解に向けて

 一陣地裁判決(一〇年五月)で勝訴して以降、国に「控訴せず早期解決を」と申し入れてきました。五~六月の三週間、「厚労大臣 泉南原告に会(お)うてんか」行動と名付け、原告らが毎日厚労省前で訴え続けるとりくみもしました。
 最高裁判決後、与野党八党と無所属一一人の国会議員が衆参の厚労、内閣、法務、環境、経済産業の各委員会で政府に早期解決を迫りました。全国紙はじめ約 二〇の地方紙も最高裁判決を評価。「一日も早い解決を」と掲載しました。
 こうした声を背景に塩崎厚労相は一〇月二七日、原告一二人と弁護士の前で謝罪。二陣判決に沿って裁判上の和解を積極的にすすめる意思を表明しました。

*   *

 裁判中に亡くなった原告は一四人。原告は自らの被害を法廷内外で訴え、泉南地域の石綿被害が地域ぐるみで長期かつ広範なものであると明らかにし、被害救済の大きな世論をつくり、最高裁を動かしました。
 訴訟を支援してくださった全ての人々と勝利を喜びたいと思います。これを足場に人のいのちと健康を大事にする社会に向かっていっそうがんばりたい。まず 建設アスベスト被害者に対する国と建材メーカーの責任を認めさせましょう。

(民医連新聞 第1584号 2014年11月17日)

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