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2014年12月1日

リアル社会を生きるゲイ職員の性講座(16) 文・杉山貴士 貧困とセクシュアリティ〈3〉

 私が関わったボストンの団体では、家族、地域、社会制度から排除されてしまう若年ゲイらに対して、さまざまな働きかけをしていました。驚いたの は、アウトリーチに出かけた時のこと。路上にいる若年者に、コンドームや麻薬で使う針の消毒薬、新しい針を配り、HIV予防啓発の活動をしていたことでし た。こうして路上の若年者との関係性を築く中で、彼らが自発的にセンターに来るようになり、その後の支援・援助も可能にしていました。
 センターでは食事、宿泊先を提供。さらに、セックス、麻薬、アルコール抜きで、若年者どうしが安心してミーティングや講座に参加できる環境をつくってい ました。また高卒資格を取得するための勉強会もありました。こうして家族、地域から排除された若年者の自尊感情の回復を図りながら、社会で生活していくす べを学ぶための基礎を作っていました。
 日本ではどうでしょうか。アメリカのような先進的実践は、HIV予防啓発の分野で部分的にとりくまれつつあるようです。しかし、帰る家のない、ホームレスの若年ゲイを受け入れる体制は今の日本にはありません。
 日本のホームレスの統計は「路上生活者」に限っており、家がなくネットカフェやサウナなどを転々とする人たちはホームレスとして数えられていません。帰 る家のない若年ゲイのほとんどは後者で、その数も分からないのが現状です。しかし、「若者ホームレス」の中には性的マイノリティも多くいるはずです。
 私たちは、ホームレスや貧困の人たちの中に性的マイノリティが一定数いるのではないか、という視点を持つ必要があります。その背景は今まで見てきたとおりです。
 そう考えると、民医連の診療所や病院は、こうした若者と最初に接点を持つ可能性が高いと言えるのではないでしょうか。なぜなら、こうした人たちは保険証 や住所もなく、それでも診てくれる医療機関を必死で探すはずだからです。そこで必要なのは、セクシュアリティへの確かな知識とともに、民医連の持つ「病気 や疾患を社会構造からとらえる視点」ではないでしょうか。
 次回は、性的マイノリティ支援に向けた考えや方法について考えます。


すぎやま・たかし 尼崎医療生活協同組合理事会事務局課長、法人無料低額診療事業事務局担当、社会福祉士。著書に『自分をさがそ。多様なセクシュアリティを生きる』新日本出版社、『「性の学び」と活かし方』日本機関紙出版センターほか

(民医連新聞 第1585号 2014年12月1日)

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