介護・福祉

2014年11月17日

【見解2014.10.17】消費税問題に対する全日本民医連の見解 消費税引き上げを中止し、控除対象外消費税の解消を

2014年10月17日
全日本民主医療機関連合会
会 長 藤末 衛

はじめに

 政府は、社会保障の充実のための消費税だと宣伝している。これは89年の消費税導入時も、 97年の5%増税時も、今回の8%増税にあたっても繰り返されている。野田政権(民主党2012年)の社会保障・税一体改革では、社会保障と消費税増税を リンクさせ今回の増税につなげた。
 しかし、格差と貧困が深刻化する一方で、社会保障制度は改悪され続けてきた。経済的事由による手遅れ死亡事例の調査を全日本民医連が開始して8年になる が、把握されただけでも390人が経済的な理由で十分な医療を受けられずにいのちを落としている。
 消費税は社会保障の充実には使われず、大企業と富裕層への減税に使われているのが実際である。消費税が導入されて四半世紀になるが、消費税収は260兆 円に上る一方で法人3税は240兆円も減少している。今回の8%増税に際しても、医療介護総合確保推進法によって公的医療介護サ―ビスの縮減を断行する一 方で、法人税の恒久減税など「世界一企業が活躍しやすい国」づくりが強引に進められようとしている。

1. 消費税に関する全日本民医連の基本的な立場

 日本国憲法が求める税制のあり方は、能力に応じて負担する応能負担を基本にしている。国民 の権利としての社会保障制度を維持発展させるための税制の改革は、富の再分配が最も重視されなければならない。全日本民医連は、軍事費や公共事業のムダの 削減などと、大企業や富裕層に応分の負担を求め、負担能力に応じた税制にすることなどで社会保障の財源は生まれると考えている。逆累進性の非常に強い消費 税は社会保障財源に最もふさわしくなく、廃止を視野に入れて縮小すべき税制である。

2.社会保険診療等に係る控除対象外消費税を解消しなければならない

 社会保険診療等は社会政策として消費税を課さない(非課税)と規定されている。このため、医療機関等が最終消費者となり控除対象外消費税を負担させられている現実がある。これは消費税の重大な欠陥である。
 控除対象外消費税は、診療報酬等の度重なる改悪と相まって多くの医療機関等の経営体力を奪い続けてきた。この間、設備投資の借入金依存度が高くなってお り、今回の8%増税による控除対象外消費税の負担増は、過去の借入金の返済見通しさえ困難にしている。また、諸物価上昇と相まって、診療機能の縮小や、最 低限の設備投資計画ですら縮小或いは断念せざるを得ない状況が広がりつつある。8%消費税の下で現行制度が続けば、地域医療崩壊が再燃し、地域包括ケア体 制をつくり上げることにも大きな困難が持ち込まれることになる。社会保険診療等に係る控除対象外消費税の解消は、喫緊の課題になっていると考える。

3.消費税増税における喫緊の課題

(1) 来年度予定されている税率10%への引き上げは中止すべきである。
 現在、消費税の10%増税を前提として議論が政府において進められている。しかし、8%増税から数ヶ月だが、国民の可処分所得は減り消費不況が急速に深 刻化する様相を呈している。国民負担増は橋本内閣(1995年)が5%へ引き上げた際の9兆円を上回っており、第一四半期のGDPの低下も同様であった。 消費者物価に賃金の上昇が追い付かず、国民生活へ与える影響は一層深刻さを増している。
 このような状況は、国民に対して受診抑制を強制し、経済的事由による手遅れ死亡事例や自殺者の増加が危惧される事態である。健康には社会的な決定要因が あり健康状態の改善のためには政策的対応が必要である(WHO世界保健機関)というのは国際的なコンセンサスである。上述したような健康悪化を防止するた めには、消費税率の引き上げを中止することがどうしても必要な政策であると考える

(2) 社会保険診療等は非課税を実質化すべきである
 この間、政府は診療報酬等で補填していると説明し、2014年度の診療報酬改定ではこの手法が踏襲された。この診療報酬等で補填する方法では、一部負担 金を含む診療報酬として患者・国民に転化される部分があるため、「社会保険診療等は社会政策として消費税を課さない(非課税)」という規定に反し、非課税 であるとは言えなくなってしまう。
 全日本民医連は、患者・利用者に負担を押しつけることなく、憲法25条の定めに則り、「社会政策として非課税」という趣旨を実質化すべきであると考え る。この原則の上で医療機関等の不当な消費税負担を解消する必要がある。

(3) 控除対象外消費税は解消されるべきである
 医療機関の控除対象外消費税の解消を実現するために喫緊の施策としては、枠組みの大きな変更を伴う提案は必ずしも適切とは思われない。現状では開業医や 小規模な診療所等の多くは、免税事業者或いは簡易課税の適用となっているが、社会保険診療等を課税取引とした場合、納税義務が生じる或いは一般課税の適用 となり、納税事務負担が著しく増加するなど一定の混乱も想像されるからである。
 社会保険診療等を非課税のままとして社会保険診療等に係る仕入税額控除を100%認めることが適切と考える。金融市場で取引される有価証券は、非課税で ありながら課税売上割合の計算上は、売上対価の5%のみを非課税売上高とすることで控除対象外消費税が大幅に軽減される手立てが取られている。喫緊の課題 である社会保険診療等に係る控除対象外消費税について、こういった手立てが取られない道理はない。社会保険診療等については全額控除される施策が必要であ る。

4.おわりに

 超高齢化社会を向かえて必要な医療と介護が確保されることは国民の願いである。これを実現することは国の責務である。医療機関に押し付けられている控除 対象外消費税はこれを危うくしつつある。よって、医療界が一丸となり、国民の理解を得てこの問題の解決に当たることが重要である。全日本民医連はそういっ た観点から本提言を発表し、問題の解決に努力することを表明する。

以上

(PDF版)

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