憲法・平和

2015年1月5日

戦争反対 いのち守る現場から 韓国 「健康権実現のための保健医療団体連合」 政策局長 グリーン病院医師 李・相潤(イ・サンユン)さん 韓国にも大切な憲法九条 両国民が連帯しアジアの平和をつくろう

 今回は国境を越えて、お隣の韓国の医師から見える日本の平和について。また、原発や米軍基地、社会保障改悪、劣化する雇用環境、貧困など、両国民の苦しみとその源は共通しています。韓国「健康権実現のための保健医療団体連合」政策局長のイ・サンユンさんに聞きました。

(新井健治記者)

 昨秋から研究のために半年の予定で日本に滞在しています。渡航前は「河野談話」見直し(※)の動きやヘイトスピーチなど、日本の右傾化が韓国内でも報道されていたので心配していました。
 日清、日露戦争で朝鮮半島は戦場になり、日本の植民地支配も受けました。日本で平和憲法が改悪される動きや集団的自衛権行使容認の閣議決定に、私たちは 敏感にならざるを得ません。「また、日本が侵略して来るのでは」と本気で心配になるのです。
 来日して、不安が和らぎました。少なくない国民が過去の侵略を否定する日本政府に疑問を持ち、ヘイトスピーチのような極端な意見とは無縁と分かりました。
 憲法九条の改悪を許さないと、東京・足立区で行われた学習会に参加しました。さまざまな党派の地方議員や市民ら七〇〇人が駆けつけ、現政権の戦争政策に 反対していました。常に緊張状態の中で暮らしている私たちにとって、「戦争をしない」と宣言した日本の九条は非常に重い存在です。
 知らない人もいるかと思いますが、一九五〇年に始まった朝鮮戦争は終わっていません。あくまで休戦中で、北朝鮮との間でいつ紛争が勃発するか分からな い。韓国には徴兵制があり、私も二〇〇二年から三年間、軍所属の医師になりました。軍隊で“学ぶ”のは階級差別と暴力です。

自殺率・非正規・原発…

 韓国と日本の社会構造は、驚くほど似ています。日本は最近まで自殺者が三万人超でしたが、 韓国の自殺率は世界最悪で人口一〇万人あたり三一・二人。日本の非正規雇用率は三七%ですが、韓国は五五%にもなります。韓国の消費税は一〇%で、法人税 を減税する一方、若者には悪い仕事しかありません。日本政府がすすめる派遣法改悪も心配です。日本の悪い政策が見習われるかもしれません。
 韓国には原発が二三基あり、新たに一三基を造る予定です。私たちは原子力発電所を“核発電所”と呼びます。核兵器を造る工場だと意識づけるためです。パ ク大統領は「日本の原発は危険だが、韓国には地震も津波もなく安心」と豪語しています。米軍基地の問題も似ています。韓国では済州島の新基地計画に、島民 が激しく抵抗しています。

受診できない患者が急増

 権力が戦後、米国の力を背景に国民を支配してきた構造も同じ。両国とも社会保障の公的責任を縮小して市場化をすすめ、格差と貧困が広がっています。韓日の国民が連帯して、平和と生活を守るべきです。
 韓国の医療の市場化は日本よりすすんでいます。混合診療が認められ、公的保険の範囲は医療全体の五五%で、美容整形などの保険外診療が拡大しています。 また、TPPを先取りした米韓FTA協定が二〇一二年に発効したことも影響しています。
 この結果、お金がなくて病院にかかれない患者が急増しています。医療より先に栄養不足や不衛生な環境を改善しないといけない人も。私は「診察室で待って いるのは医師の本分ではない」と考えます。社会運動に力を入れるのは同じ理由からです。

民医連に励まされ

 一人の患者の命を守るために、大勢の医療者が働いています。ところが、戦争は一瞬にして多数の命を奪う。医療者は命を守ることが使命。戦争は絶対に反対です。
 健康権実現のための保健医療団体連合は、進歩的な医師、歯科医師、薬剤師、漢方医と労災の民間団体の集まりですが、歴史は浅い。六〇年の歴史を持つ民医 連に、大いに勇気づけられます。何より見習いたいのは、住民と結びつき地域に根付いていること。
 私は同連合の拠点であるグリーン病院の勤務医ですが、職員から「病院の仕事だけでも大変なのに、なぜ社会運動もするのか」との声も聞きます。民医連も一 人ひとりが大変な思いで、仕事と運動を両立していると思います。日本の平和と健康を守っていることに誇りを持ってください。
 韓国、日本、中国を含む北東アジアの平和を構築するには、憲法九条を守ること。そして、メディアの情報に頼らず、国民同士の生の交流をすすめることで す。私が来日して分かったように、会って話せれば誤解は解け、連帯は可能だと思います。


「白いジャングル」上映会

 韓国の医療営利化を鋭く批判した映画「白いジャングル」の上映会が、一月一六日午後六時から東京・千住介護福祉専門学校で行われる。イ・サンユンさんの講演も。参加無料。問い合わせは同校へ。Tel03(5244)6825

(民医連新聞 第1587号 2015年1月5日)

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