医療・看護

2015年1月19日

安倍政権社会保障解体戦略を読む (3)医療提供体制の見直し 何が問題か? 国保の都道府県単位化 目的は“医療費の削減”

 国は「医療費の適正化(という名の削減)」を掲げ、医療ビジョンの策定や病院の機能評価報告などとセットで、医療提供体制の見直しを都道府県に行わせようとしています。その一つが国保の「都道府県単位化」です。何が問題なのでしょうか。(丸山聡子記者)

 国保の「都道府県単位化」「広域化」は小泉政権(二〇〇一~〇六年)の頃から議論されてき ました。それが大きく転換したのが、二〇一三年八月の「社会保障制度改革国民会議報告書」です。二〇二五年に向けて「医療提供体制の見直し」が打ち出され ました。国保の「都道府県単位化」はその具体化です。これまで宣伝されてきた「小規模な自治体の国保は財政が厳しい、だから広域化してスケールメリットを 高める」のが目的ではなく、「医療費の抑制」のためだと理解する必要があります。
 厚生労働省は昨年八月、「国民健康保険制度の基盤強化に関する国と地方の協議」(国保基盤強化協議会)で「中間整理」をまとめました。早ければ、今月末 から開かれる通常国会に、都道府県単位化などを盛り込んだ法案を提出する見込みです。

「保険料値上げ」と「徴収強化」

 現在、国保は市町村が保険者で、運営主体です。都道府県単位化でどう変わるのか。
 立教大学の芝田英昭教授は、「住民の顔が見える市町村は、住民の負担が増えすぎないように一般財源の繰り入れをしたり、工夫してきました。都道府県単位 化されれば市町村の裁量権はなくなり、保険料徴収などの実務に追われることになります。収納率と保険料率が連動するため、保険料徴収はこれまで以上に強化 され、滞納世帯への差し押さえが増えるでしょう。一方、経済的に困難な人向けの減免制度はますます使いにくくなる恐れがあります」と、警鐘を鳴らします。
 前述の「中間整理」で示されたのは、財政運営は都道府県が行い、市町村は保険料徴収などの実務を行う方式です()。都道府県は医療給付などの見込みを立て、各市町村の「分賦金」を定めます。市町村は被保険者(住民)から保険料を徴収し「分賦金」を都道府県に納めます。
 「分賦金」は一〇〇%完納がルール。たとえば収納率が九〇%なら、不足する一〇%分は保険料に上乗せして捻出することになるため、保険料は値上げされます。
 市町村の医療費が軽くなれば「分賦金」も軽く、都道府県が提示した収納率目標を上回れば保険料率が低くなる仕組み。そのため、市町村は医療費削減や保険料の徴収強化に駆り立てられます。
 昨年一二月の経済財政諮問会議では、日本経団連などが、市町村が医療費を削減すれば“ご褒美”として国庫支出を増額する案まで持ち出し、市町村に「医療費抑制」を競わせようとしています。

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セットで医療費削減

 「国保の都道府県単位化」は、抜本的な医療費削減策の中で重要な柱の一つです。
 小泉政権の社会保障構造改革以降、医療費の抑制が最大の目標とされ、都道府県による医療費管理・抑制の仕組みが構築されてきました。「医療費適正化計 画」の策定を義務づけ、「平均在院日数の短縮」がすすめられました。
 安倍政権はそれを引き継ぎ、「川上の改革」として病床機能分化と地域医療構想の策定をすすめています。すでに昨年一〇月から病床機能報告制度がスター ト。各病院が病床機能を都道府県に報告し、都道府県は地域医療構想を策定、病床削減など医療提供体制見直しをすすめます。「川下の改革」としてすすめてい るのは、病院を出された人たちの受け皿の「地域包括ケアシステム」です。
 安倍政権の社会保障改革のキーワードは「受益と負担の均衡」。「サービスを受ける人(受益者)は、相応の負担をせよ」という考えです。これは社会保障の 理念とは逆行します。同時に、社会保険を「共助=助け合い」の制度に矮小化し、公的制度としての役割を否定しています。

国の責任放棄許さない

 国保加入者の平均所得は八三万円で、健保組合の平均一九八万円の半分以下、無所得の世帯も 全体の二三・七%です。そのうえ国保料(税)は加入者の所得の平均九・九%にのぼり、健保組合の五%と比べて負担が重くなっています。収納率は一二年度で 平均八九%、滞納世帯は全体の二割です。
 全日本民医連は〇五年から、「国保など経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を毎年行っています。一三年の死亡事例は五六事例、うち三二事例は、国保の 短期保険証、資格証明書を含む「無保険状態」でした。「無保険」になった理由では、七八%の人が「高すぎる保険料」を挙げています。
 大きな原因の一つは国保財政に対する国庫負担を減らし続けていることです。一九八四年以降、国保に対する国の責任を後退させ、市町村国保の総収入に占め る国庫支出金の割合は八四年度の五〇%から二〇一〇年度の二五%に半減しました。その結果、一人当たりの国保料(税)は三・九万円から八・九万円へと二倍 以上に()。
 全国知事会は「被保険者の負担は限界に近づいている」「抜本的な財政基盤の強化が必要だ」と主張しています。にもかかわらず、国保財政安定化のための一 七〇〇億円の公費投入は未定(一月一〇日現在)。福田富一栃木県知事は「保険料負担率を協会けんぽ並みに引き下げるには約一兆円が必要」と発言。同会は、 「構造的問題が解決しなければ被保険者にはならない」との立場です。

*   *

 全日本民医連は、「高すぎる国保料(税)」を引き下げるために、国庫負担を増やし、国保料上昇につながる国保都道府県化は中止、市町村国保への財政援助の充実をはかる―などを求めています。国民皆保険の根幹である国民健康保険を、崩壊させてはなりません。

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「徴収強化」先取りも 青森・弘前市

 国保の都道府県単位化を見越したような徴収強化の動きが、各地で始まっています。
 青森・弘前市の健生病院には、昨年四月~五月上旬の一カ月余りで「資格証明書」での受診が一〇人に。それまでは年間で一ケタ~十数人だったのに、異常な伸びです。
 「妻、子、義母の四人暮らし。自営業で国保料は年間約六〇万円。滞納分が分割払いでも払えず資格証明書に。通風の痛みがあっても通院を我慢」(四九歳、 男性)、「四人家族で滞納分を分割で払っていたが払いきれず資格証明書に。両手のしびれがひどく救急搬送」(五四歳、女性)…。資格証明書の発行が受診抑 制につながっているとして、同院は緊急に市と懇談。機械的な発行をやめ、「命が一番」の立場で対応するよう、市に求めています。

資格証明書での受診件数
2011年度
  12年度
  13年度
19件
8件
2件
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14年4~5月
~12月
10件
計17件

 (民医連新聞 第1588号 2015年1月19日)

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