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2015年2月17日

安倍政権社会保障解体戦略を読む (5)介護保険 報酬カットに現場は悲鳴“介護難民”急増の恐れ 発足以来の大幅引き下げ

 先月、「介護報酬二・二七%引き下げ」のニュースがいっせいに流れました。充実を求めていた現場の訴えに背を向け、国は大幅なマイナス改定を決定。介護保険スタートから、まもなく一五年。導入時に国が掲げた「介護の社会化」とは裏腹に、利用者・家族には利用制限と負担増、現場には報酬を引き下げる制度改悪がすすみます。(丸山聡子記者)

 介護保険制度は、この四月から大きな変更が予定されています。「介護報酬二・二七%引き下げ」は、その具体化です。
 介護報酬は、三年ごとに見直されます。二〇〇三年、〇六年のマイナス改定のあと、「これでは現場が立ちゆかない」「介護職員の処遇改善が必要」との世論に押され、〇九年にはプラス改定が勝ちとられるなど、一定の前進もありました。
 しかし今回の改定は、「マイナス二・二七%」とは言うものの、実際には「中重度・認知症ケア」(〇・五六%)、「処遇改善」(一・六五%)の加算を含めたもので、その他の部分は四・四八%のマイナス改定。土台となる基本報酬部分が軒並み引き下げられる内容となりました。総額二二七〇億円の削減です(図1)。
 財務省は当初、「マイナス六%程度」の介護報酬引き下げを提案(昨年一〇月、財政制度等審議会財政制度分科会)。根拠にしたのは、直前に厚生労働省が発表した介護事業経営実態調査結果(二〇一四年度)です。
 調査では、特別養護老人ホームの収支差率は八・七%、訪問介護では七・四%、通所介護は一〇・六%(介護サービス全体の平均収支差率八%)でした。財政審は、「一般中小企業の水準の二~三%弱を大幅に上回る」「特養は巨額の内部留保を保有」として、報酬引き下げを提案したのです。

図1

厚労省のデータに疑問符

 しかし、財務省が根拠にした数字には疑問の声が。東京・すこやか福祉会の菊地雅彦さんは、「厚労省のデータは全数調査ではない。全国老人福祉施設協議会の調査(二〇一三年度)では特養ホームの収支差率は四・三%、東京都福祉保健局の調査でも四・三%という結果で大きな開きがあり、実態を反映しているとは言いがたい」と指摘。
 「人材確保の困難さは深刻で、処遇改善加算がついても報酬全体が引き下げられては、立ちゆかない事業所が出ます。私たちもベッド数の削減まで検討せざるを得ない状態。事業継続には、報酬引き上げこそ必要」と主張します。
 東京都内の特養ホームの半数が職員不足。なかには職員が足りずに、ベッドが空いても新規利用者を受け入れられない施設もあります(昨年一二月現在、東京都社会福祉協議会・東京都高齢者福祉施設協議会の調査)。
 そもそも“内部留保”と呼ばれる資金の多くは、各施設が努力して経費を節減し、将来の建て替えや修繕のために積み立てているもの。以前は施設の建て替え時に補助金が七割出ていましたが、現在は一割以下に抑えられているためです。
 非営利法人は事業撤退の自由もなく、多額の借り入れも禁止され、会計基準も一般企業とは違います。その収支差率を、一般企業の“内部留保”と単純に比較すること自体、無理があります。

9条と25条を破壊

 全日本民医連の林泰則事務局次長は「来年度の国の予算案を見ると、軍事費は二%アップの五兆円、かたや介護費用は一〇兆円ですが二・二七%も削減。国民の暮らしや命にかかわる費用を聖域なくカットしています。この予算案は、昨年成立した医療・介護総合法の具体化であり、安倍政権が、憲法二五条(生存権)と九条(戦争の放棄)を車の両輪として本気で破壊する、と表明したことにほかならない」と批判します。
 四月からは、利用者へのサービス内容も大きく変わります。安倍政権がめざす「自助」「互助」中心の社会保障解体戦略を具体化した「四つの切り捨て」です(図2)。
 国は来年度から、約一七〇万人いる要支援1、2の利用者の訪問介護と通所介護を市町村の総合事業などに移行させる計画です。
 林さんは、「現在の専門職によるケアから非専門職によるボランティアに置き換え、安上がりに済まそう、というのが本質です。そもそも、全体として認定が軽く出るという問題があり、要支援1、2でもパーキンソン病などの難病や認知症、精神疾患の人も多い。そうした利用者を専門職によるケアや栄養管理でささえているのです。これを非専門職のサービスに置き換えるなど、簡単にできることではない」と指摘します。
 実際に厚労省の調査では、初年度の一五年度中に市町村事業への移行ができるのは全国で一一四自治体と全体のわずか七・二%。七割近くの自治体は最終年度の一七年度に移行するとしています。

図2

引き下げ決定に断固抗議

 「介護保険は水面下で医療費の削減を目的として始まりました。今回の改悪は、その狙いを徹底したもの。医療から介護へ、入院から在宅へ、介護サービスからボランティアへと流し、“介護難民”が大量に生まれることは確実です。なかでも、経済的・社会的に困難を抱えた高齢者たちは一気に行き場をなくしてしまうでしょう」と林さん。
 全日本民医連は、「介護報酬二・二七%の引き下げ決定に断固抗議する」との会長声明を発表。「四つの切り捨て」をやめること、介護報酬を引き上げること、引き上げのためにも介護保険財政に対する国庫負担割合を増やすこと―を求めています。


閉鎖した事業所も 地域の介護は崩壊 千葉発

 介護報酬引き下げは、地域で献身的に活動してきた事業所に大きな打撃を与えています。
 千葉県内では、難病患者など困難度の高い利用者をささえていたヘルパーステーションが、昨年一二月に閉鎖しました。「小さな事業所で、もともと経営が厳しいところに“六%引き下げ”のニュースが流れ、続けられないと判断されたようです」。千葉民医連の加藤久美事務局長は言います。
 処遇改善を言いつつ、介護報酬を引き下げる今回の改定に「現場の実態を見ていない」と憤ります。現場は恒常的な人員不足で、特に訪問のヘルパーのなり手がいません。今いるヘルパーも高齢化し、身体介護を担える人が減っています。
 加藤さんは、「職責者が事業所業務の合間に訪問介護に行かないと回らず、現場は疲弊しています。処遇改善加算があっても、実際には人手不足で加算の要件すら満たせず、四%超の引き下げだけが襲ってくることにもなりかねない」と指摘します。

(民医連新聞 第1590号 2015年2月16日)

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