MIN-IRENトピックス

2015年3月3日

福島に寄り添い 全国で「被ばく相談活動」を ―全日本民医連被ばく医療セミナー―

 第六回全日本民医連被ばく医療セミナーが二月一四~一五日に東京で行われ、三二県連から医学生八人を含む一一九人が参加しました。福島第一原発事故から間もなく四年。安倍政権は今年中にも原発再稼働をもくろみますが、被災者の生活はいっこうに改善していません。セミナーでは福島の現状などについて六人が講演。被災者とともに歩む「被ばく相談活動」の提起もありました。(新井健治記者)

 セミナーは福島の実態を共有し支援の機会とする、低線量被ばくの健康影響を被爆者の実相から学ぶ、などが目的。
 福島は東京都の面積の約半分に当たる一〇〇〇平方キロメートルが避難指示区域に指定され、今も誰も住むことができません。県内外の長期避難者は一二万人に及び、震災関連死は一八〇〇人を超えました。
 復興にはほど遠い福島の今を、原発問題住民運動全国連絡センター代表の伊東達也さん(福島・浜通り医療生協理事長)が報告。ジャーナリストの布施祐仁さんが、事故収束を担う原発作業員の苛酷な労働現場をリポートしました。
 全日本民医連被ばく問題委員会副委員長の雪田慎二医師(埼玉協同病院)が、全日本民医連の「被ばく相談活動」を提案。また、原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会事務局長の宮原哲朗弁護士が、原爆症認定制度の問題点について講演しました(別項)。

甲状腺エコー検査の結果

 北海道・勤医協中央病院の中野亮司医師が、被災者の甲状腺エコー検査と健診活動のまとめを報告しました。
 福島県は事故当時一八歳以下の県民(約三六万七〇〇〇人)を対象に、二〇一一年一〇月から県民健康調査を実施、昨年一二月に約二九万七〇〇〇人の甲状腺検査の結果がまとまりました。二次検査が必要なB・C判定二二五一人のうち、八六人に甲状腺がんが見つかり、このほか、がんの疑いが二三人と公表しました。
 民医連は県民健康調査とは別に、浪江町、双葉町の委託で甲状腺検査を実施。各県連で、県外へ避難した福島県民や、県民以外で被ばくの影響を心配する住民ら四八〇〇人を検査しました。
 また、全国各地で無料健診にとりくみ、健康問題だけでなく生活、心理などを多面的にサポート。中野医師は「被災者に寄り添い、不安を和らげる役割を果たしている」と話しました。

低線量被ばくの健康影響

 岡山大学教授で疫学調査が専門の津田敏秀医師が、低線量被ばくの健康影響について解説しました。福島県の県民健康調査の結果を「スクリーニング効果でがんが増えている」とみることへの疑問を呈示。
 ところが、国は国際放射線防護委員会(ICRP)の二〇〇七年勧告を根拠に「一〇〇ミリシーベルト(SV)以下の放射線の健康への影響は科学的に証明されていない」との立場をとっています。
 津田さんは「勧告は“統計的な有意差が証明できない”と述べているだけ。これをもって“一〇〇ミリSV以下なら安全”との認識は間違っている。国は対策を怠ってはいけない」と批判しました。
 チェルノブイリの原発事故(一九八六年)では、八七年から小児の甲状腺がんが増えはじめ、四年後に当たる九〇年以降に爆発的に増えました。
 津田教授は「限られた情報でも、疾病が多発する可能性があれば対策を講じるのが公衆衛生の原則」と強調。事故から四年後を迎える今後、福島でも甲状腺がんの多発の可能性に備え、(1)医療資源の点検と装備の充実(2)事故当時一九歳以上だった県民や福島以外の住民も検査する(3)甲状腺以外のがんやがん以外の疾患も調査して対策を立てるべき、と提案しました。


全人類の課題として 原爆症認定制度の問題点

 弁護士の宮原哲朗さんが、原爆症認定制度の問題点を報告しました。
 原爆被爆者は戦後七〇年の今も、放射線によるさまざまな健康被害に苦しんでいます。ところが国は残留放射線の影響を無視し、爆心地からの距離や障害の種類で被爆者を選別、原爆症の認定申請をことごとく却下してきました。
 二〇〇一年発表の旧認定基準が被爆者の怒りを呼び、原爆症認定集団訴訟(〇三~一一年)が始まりました。民医連は医師団会議を組織し訴訟を支援、原告の九割超が認定されました。
 集団訴訟後、国は被爆者の要求を一定程度受け入れ認定基準を改訂。ところが原発事故以降、新認定基準の運用をねじ曲げ、入市の非がん疾患は一件も認めませんでした。第二次集団訴訟として「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」が一二年に始まり、一一六人の原告が七地裁で提訴しています。
 「国は原爆症の認定基準が原発事故被害に及ぶことを恐れている」と宮原さん。国は医師、科学者三五人連名の意見書を裁判所に提出。これに対し、民医連の医師六人が批判論文を作成、全面的に争います。
 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は、現行の認定制度を廃止し被爆者援護法の改正を求めています。改正内容は全ての被爆者に「被爆者手当」を支給、障害の程度に応じて加算するというものです。
 宮原さんは「被爆者は『この苦しみは誰にも味わわせたくない』との思いで、全人類の課題として運動を続けてきた。核兵器廃絶の大きな流れの中で、認定制度の問題も解決します」と話しました。


当事者意識欠いた国と東電
福島と原発作業員の実態

 伊東達也さんと、布施祐仁さん(日本平和委員会)が、福島と原発作業員の実態を報告しました。

〈原発事故被災者〉突如、賠償金を打ち切り

 国と東京電力は昨年一二月、福島県内の商工業者に対して、原発事故による営業損害賠償金を二〇一六年二月で打ち切ると発表。「加害者責任の放棄だ」との批判が相次いでいます。
 伊東さんは原発事故で休業を余儀なくされた精神科病院(南相馬市、一〇四床)を紹介。院長は病院再開を期し、職員八〇人を解雇せずに賠償金で社会保険料を負担、税金も払っています。「元の場所で再開したいが帰るに帰れない、と院長は言います。移転するにしても一〇億円以上の資金が必要。国や東電は県民の実態を分かっているのか」と怒ります。
 除染で出た放射性廃棄物の中間貯蔵施設建設について、大熊町は昨年一二月、双葉町も今年一月に受け入れを表明。中間貯蔵施設は今後三〇年以上、一六平方キロメートルの広大な土地を占領し福島の復興の大きな妨げになります。
 伊東さんは「まさに苦渋の選択。地権者が『いったん原発を受け入れれば、すべて受け入れることになる』と嘆いたように、本音は反対でも言い出せない。土地を手放すわけで、ますます帰還を希望する人は減る」と指摘しました。

〈原発作業員〉「命かけても使い捨て」

グラフ 今年一月、福島第一原発と第二原発で作業員の死亡事故が相次ぎました。タンクの天板(高さ一〇メートル)から落下して死亡した第一原発の作業員は、工事の元請け企業の災害防止責任者でしたが、安全帯使用や複数作業のルールを破っていました。
 布施さんは事故の背景に「無理な工程から生じる重圧と、多重請負構造による東電の無責任体質がある」と指摘。「ベテラン作業員が減り、七割を未経験者が占めていることも原因」と話しました。
 作業員は東電の下請け、孫請けの非正規雇用がほとんど。被ばく線量が限度に達したベテラン作業員は働けず、生活保障はおろか病気になってもなんの保障もありません。一九七六年以降、作業員のがんに関する労災認定はわずか一一件。ここでも厚労省は「一〇〇ミリシーベルト以下の低線量被ばくの影響は科学的に証明されていない」との立場をとっています。
 事故直後の復旧作業に従事し、多重がんを発症して労災申請中の作業員は、仕事にならないからと線量計を外していました。「廃炉には四〇~五〇年かかり、俺みたいに病気になる人がもっと出てくる。命をかけても使い捨てにされるなら、誰も行かない」と証言。
 布施さんは「生活の保障がないから、無理を承知で作業を続ける。労働、健康、生活問題で総合的に相談を受け、ささえる仕組みが必要。このままでは作業員が集まらず、事故収束もままならない」と強調しました。

*   *

 昨年一一月にはいわき市労連を事務局(Tel〇二四六・二七・三三二二)に「原発・除染労働者のたたかいを支援する会」ができました。共同代表を務める伊東さんは「誰でも参加できる。ぜひ、入会を」と呼びかけました。


何でも話せる安心の窓口
被ばく相談活動のポイント

 雪田慎二医師が、全日本民医連の「被ばく相談活動」を提起しました。県連や法人独自の被災者支援を全国に広げ、継続したとりくみにするのが目的。今後は「相談の手引き」を作成し、五月三〇日に被ばく相談員研修会を開く予定です。

 民医連はこれまで、県外避難者を含め被災者の健診や甲状腺エコー検査にとりくんできました。被ばく相談活動は従来の実践を発展させ、原発作業員の相談にも応じます。原爆被爆者の相談や支援は従来通りとりくみます。
 被災者は家族がバラバラだったり、生活再建の見通しが立たないなど、さまざまな困難や不安の中で暮らしています。「子どもを被ばくさせてしまった」など自責の念を抱えているケースもあります。
 「まずは被災者を受け止め、安心して何でも話せる場を提供しましょう」と雪田医師。相談の背景に生活問題があるケースも多く、被ばくの健康被害だけにとらわれない視点が必要です。民医連の特徴である総合性と多職種の連携を活かし、共同組織や市民団体、行政と協力します。
 また、全日本民医連が二〇一一年に発行した学習パンフ『福島第一原発事故から何を学び、取り組むのか』の改訂版(近日発行)を学習、現地視察や被災者の話を聞くなどして「『相談の感度』を上げてほしい」と強調しました。
 被災者の権利を守る活動を通して、憲法を守り発展させる活動にもつなげます。「被災者が個人として大切にされ、必要とされているとの感覚を持てることが大切」と呼びかけました。
 会場から福島・わたり病院の齋藤紀医師が「被災者に被ばくの科学的知見を伝えても、生活に不安があると納得してもらえないこともあります。生活問題を解消することで、被災者の考えが見えてきます」と発言しました。


被ばく相談活動の目的

(1)被ばくの健康影響の正しい知見を伝える
(2)健康被害の不安を受け止め、安心して相談できる場を提供
(3)健診や受診につなげ、必要に応じて専門機関へ紹介
(4)被災者支援を継続する

相談活動のポイント

(1)見える化 被災者や原発作業員は自ら声をあげられないケースが多い。相談窓口へのアクセスに工夫を
(2)恒常的な窓口の設置 常設でなくても定期的に開催することで相談しやすくなる。「福島を忘れない」とのメッセージにもなる
(3)生活をささえる 不安の背景に生活問題が。「こころのケア」は生活支援とともに提供
(4)総合的な視点で 民医連が大切にしてきた総合的な視点を貫く。医療、生活、労働、子育て、介護など多様な相談に応じる

(民医連新聞 第1591号 2015年3月2日)

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